世界最強(2)
「あの方が世界トップの異能者、ハユンさんだ。」
クラウンさんは会場へ入ってきたハユンを見ながらそう俺に教えてくれた。
「あの人が...」
もっと年寄りかと思ってたけど、思ったより若いな。あの人はどんな異能が使えるんだ?
「ヤマトさん、私は他の方にも挨拶に行かなければなのでこれで失礼します。楽しんでいってくださいね。」
「はい。それではまた。」
やっぱりクラウンさんは忙しいよな。どうやってハユンについて探りを入れるか...
あ、そういえばこの世界にスマホはないのか?死んでから荷物は何も持ってなかったしな。スマホさえあればなんでも調べられるのに。帰ったらダウビンさんに聞いてみよう。
ハユンがいた方へ視線を向けると、そこにハユンの姿はなかった。あれ?どこへ行ったんだ?
「こんにちは」
びっくりして後ろを振り向くと、そこには男がいた。
「ハ、ハユン...さん...!?」
なんとハユンが向こうから話しかけてきたのだ。
「初めまして、ヤマトくん。」
「え?」
初対面なのに何故俺のことを知ってるんだ?
「どうして俺の名前を知っているんですか?」
「さっきクラウンと話していたのが聞こえたんだ。君は代理で来たんだろう?」
盗み聞きしてたのか?それよりあの距離で聞こえるなんて、地獄耳だな。
「はい。今日は代理で来ました。」
「そうか。そういえばまだ名乗っていなかったな。私は…」
「ハユンさんですよね。」
「ははっその通りだ。知ってくれていて嬉しいよ。」
逆に知らない人なんているのか?俺以外で。笑っているけど、なんだか胡散臭い感じだな。
「あの、ハユンさんってどんな異能を使えるんですか?」
俺が質問した瞬間に、会場内の人々はピタッと動きを止め、俺に注目した。
なんだ?俺変なこと言った?もしかして異能を聞くのって他人に住所聞くようなもんだったり...?
「えっ!あっ、その、間違えました!き、昨日何食べたのって聞いたんです!噛んじゃいました!」
やばいやばい何だこの雰囲気。絶対誤魔化せてない...異能聞くことってそんなまずいことなのか!?個人情報!?
「ヤマトくん...一旦外に出ようか?」
「え...っと、はい...」
ハユンの言う通り、会場から出て少し歩いた場所にある部屋に入った。会場よりは小さいがそれでもなかなか広い部屋だった。
「ここは私がこの会場へ来た時のための休憩室なんだ。誰も来ないからゆっくりしてくれ。」
個人のために休憩室まであるなんて、なんて贅沢なんだ。
「お気遣いありがとうございます。」
ハユンの正面に座り、姿勢を正した。ものすごく気まづい、気まづすぎる。何を言ったらいいんだ。
「ヤマトくん、そんなに気を張らないでくれ。君はこのパーティーが開かれた本当の理由を知らなかったんだろう?」
本当の理由...?異能者同士の顔合わせみたいなもんじゃないのか?
「本当の理由ってなんですか?」
「実は最近、異能者の間で『人の異能を奪う異能を持つ者がいる』と噂があるんだ。」
「人の異能を奪う?」
「相手の顔を見ながらその人に異能を聞くと、その人の異能を自分のものにできるんだ。」
なんだそれ。そんなのあったら無敵じゃないか。あ...そうか、会場の人たちは俺がその異能を奪う異能者だと思ったのか。
「だから俺は注目されてたんですね。」
「そういうことだろう。その異能を奪う異能者は今日この会場に潜んでいるため、そいつを暴き出すという目的も密かにあるんだ。」
なるほど、それは皆注目するわけだ。しかしどうしたものか、このままでは沢山の異能者に警戒されたままになってしまう。
「だが安心してくれ。私が何とか誤解を解いておくよ。」
「そんなことできるんですか?俺が本当に異能を奪う異能者かもしれないのに...」
「何を言っている。私の異能は奪われていない。それが一番の証拠じゃないか。」
そうだ、俺がこの人に異能を聞いた場面は皆見ていたはずだ!これは最大のチャンスかもしれない。
「そうでしたね。お手間おかけして申し訳ありません。」
「気にする事はない。」
「ところでハユンさん。」
回りくどいことはせずに直接聞くのが一番手っ取り早いよな。
「貴方の異能を教えてもらえませんか?」