はじまりの出会い
「はぁ、はぁ、全っぜん建物なんてないじゃないかぁぁぁー!!」
あぁ疲れた。もう30分近く歩いてるのに木と太陽以外何も見えない。審判め…厄介なとこに落としやがって…。身長4センチ縮んでしまえ。
――1時間半後――
「あっ!何だあれ!?」
高い木々の隙間から高いビルが沢山並んで見える。すごい。あれ東京並じゃないか?もう少し歩いたら道路に出そうだな。よしっ頑張れ俺...!
「おぉ!やっ…やっ、やったぁぁ!!」
2時間近く歩いてやっと道路に出た…!こんなに喜びを感じたのは仕事帰りに野良猫が懐いてくれた時以来だ…!クロ太郎元気にしてるかな...
「よしっ。あとはこの道路に沿って歩いていけば、街に行けるはず!」
ていうか、服装は死んだ時のまんまなんだ。流石にスーツは動きにくいな…。寝る場所とか食べ物とかどうしようか。お金もないしな……
「…親切な人に出逢えることを祈ろう。」
やっと森を抜けた。建物が沢山見える。
「まずは寝る場所を確保しなきゃだな。とりあえず今見えてるあのビル街を目指すか。」
「異能者の魔法で作った林檎はいかがー?」
「一般人では手に入らないB級魔石はいかがですかー?」
「身を守るためにも!こちらのC級ナイフはいかがー?これであなたもヒーローに!」
凄いな。ここは繁華街か?元いた世界ではないようなものばかり売っている。魔石?B級?C級?一体なんだ?
「あっ!そこのお兄さん!美味しい美味しいお酒、飲んで行きませんか?」
後ろを振り向くと30代くらいの男が、ビールのイラストが描いてある看板を手に声をかけてきた。
さっ酒…飲みたい…!けどお金がないんだよな。
「ごめんなさい。俺お金持ってないんです。」
男は少し考え、何かひらめいたかのような顔をして言った。
「そうなのか?…まぁいい、今日は金はいいから!飯も出してやるから話し相手になってくれよ。」
「いいんですか?」
なにか企んでるのか?警戒しながらも、男について行った。
「ここが俺の店だ。」
よくあるような居酒屋だ。お酒って全世界共通なのか?思えば、ここに来てから大きな蟻以外で前の世界と違うところってあまりないな。言語も一緒だし。
「さっ、入れ入れ。」
「あっ、はい。」
「適当にどこでも座ってくれ。何がいい?」
「じゃあ生ひとつ。」
「はいよー!そうだ、お前名前は?」
「ヤマトです。」
「ヤマト?変わった名前だな。俺はダウビンだ。」
ダウビン…。この世界の人の名前はカタカナの名前なのか?
「ダウビンさん、素敵な名前ですね。」
「お前、さっき金ないって言ってたけど寝るとこはあるのか?」
「いえ、いろいろあって…。それにここへ来たのはついさっきなので、お金も家もないんです。」
「そうなのか。もしよかったら家に泊まってくか?お客さん用の部屋が一部屋あるんだ。」
「いいんですか?!俺本当にお金ないですよ?」
「金はいらねぇって言ったろ?その代わりと言っちゃなんだが…」
「何ですか?」
ダウビンさんはニヤリと口角を上げて何かを企んでいるような顔をした。
「なっなんですかその顔は…。」
「ヤマト、お前異能は使えないな?」
そういえば審判は俺に異能が発動するって言ってたけど、まだ何もないな。タイミングがあるのかな?
「はい。それが何か?」
「実は俺の甥が異能者なんだ。その甥とはまだ1度も会ったことがないんだが、明日甥が開くパーティーに招待されたんだ。」
「パーティーを開く?そんなに偉い人なんですか?」
「俺の甥は異能者の中でも強い力を持っている。だから社会的地位の高いとこにいるんだ。」
「なるほど。ダウビンさんがパーティーだなんてなんだかおかしな話ですね。」
「だろ?俺はパーティー、ましてや異能者ばかりの集まりなんて柄じゃない!そこで!お前にそのパーティーに参加してきてほしいんだ。」
ダウビンさんは椅子から立ち上がり、俺の方へぐっと顔を寄せた。
「…はい?」
「身内は皆招待されているんだ。俺だけ欠席だと、なんだか悪いだろ?でも俺は行きたくないし、店もあるしで行けないからお前が代わりに行ってきてほしいんだ。」
「なっ何言ってるんですか!俺が行ったところで貴方が欠席というのにはかわりないのに、なんの意味もないでしょう!」
「俺は忙しいから代理できたとでも言えばむこうもわかってくれるだろ?」
「そんな…パーティーなんて、俺無理ですよ…!」
「食事、それに今日は泊めてやるんだぞ?このままは出ていったところで行くとこなんてあるのか?」
「うっ…!ダウビンさん、貴方最初からそのつもりで…」
「はっはっは!タダ飯食えて泊めてやるなんてむしのいい話あるもんか!」
ダウビンさんは口を大きく開けて笑っていた。くそっこんな面倒なことになるなら野宿する方がましだった…