ワールドトリップ(2)
「俺の異能ってそんなに凄いんですか?」
『俺は世界へ介入してはいけないから詳しく言うことはできない。だがお前は世界を変えることができる。』
「うーん。仮にその世界へ行くとして、俺はその世界で生まれ変わる、つまりまた赤ん坊からってことですか?」
『生まれ変わるわけではない。ここ、冥界には全ての世界の根源である原初空間がある。そこから例の世界へ送ることができる。』
「じゃあこの体のまま、記憶もそのまま行けるってことですね。」
『だが、お前は今死んで身体がない、魂のみの状態だ。だから世界に介入し、肉体が生成されるまで眠ってもらう。眠っている間は睡眠を取っているのと変わりないから目が覚めた時には今まで通りの人間になっているだろう。』
「なるほど。転移に近いですね。」
『そうだな。で、どうだ?お前にとっても悪くない話だろう?』
「え?」
『もしこの話を受けなければお前は死んだまま、地獄を彷徨うことになるかもしれない。』
「天国には行けないんですか?」
『勿論だ。天国か地獄か、決めるのは俺だからな。』
そうだった、こいつは行き先を決める"審判”って言ってたもんな。
「…脅しってことか。最初っから俺に選択肢なんてないじゃないですか。」
『そういうことになるな。』
審判はニヤリと笑みを浮かべた。こいつ、それなら最初っから地獄か転移か選べって言えよ。回りくどい奴め。
「…わかりました。その話、受けます。というより、受けるしかないですね。」
『交渉成立だな。休んでる暇などない、早速その世界へ送ろう。』
「えっもうですか?」
『あぁ。なんだ?他に聞きたいことでもあるのか?』
「いえ、別に。」
『ついてこい。』
コツ…コツ…コツ…
随分歩いたが、どこまで行くんだ?長い廊下だな。それとこいつ…思ったより身長高いな。
ピタッ
「いたっ」
急に止まるなよ。
『ついたぞ。』
見上げると、首が痛くなるくらい大きな扉があった。
ギ…ギギギギ…
扉が開くと同時に隙間から真っ白な光が差し込んでくる。
「眩しいっ…」
『さぁ、中へ入れ。次に目が覚めた時にはお前は別の世界の住民だ。』
「審判さんとはここでお別れですか?」
『そうだな。俺はこの先へ進めない。また会えるのを楽しみにしている。』
「またって、俺もう死なないので当分会えませんね。」
『はっ生意気言うな。』
審判はクスッと笑った。その時、何故か少し悲しそうな顔をしていたような気がした。
「短い間でしたがありがとうございました。ではまた。」
『...もう...死ぬなよ』
「え?」
審判は何か言っていたような気がするがよく聞こえなかった。俺は振り返らずに光の中へ飛び込んだ。面倒事に巻き込まれなきゃいいけど…。
―――なんだ?なんだかくすぐったい。
「うっ…うぅん」
目を開けると太陽の光が目に入った。
「眩しい…。ここは?もう違う世界に来れたのか?…ん?」
ふと手のひらに視線を向けると、見たことの無い花が咲いていた。こんなの元いた世界で見たことないな。てことは…審判が言ってた世界に来たってことか。
周りを見渡すと、木々ばかりで、建物ひとつなかった。
「ここは...森の中?とにかく歩くか。」
なんだか長い旅が始まりそうだな。