番外編3.憧れの従魔 (コミックス1巻発売記念)
「最推し攻略対象」コミックス第1巻発売を記念したSSです!
その日、私はリージャス伯爵邸の中でも、めったに寄りつかない場所――従魔用の専用厩舎にべたっと張りついていた。
専用厩舎といっても、現在ここで過ごしている従魔はたった一羽だけだ。私は金網越しに、枝に止まる従魔の姿を一心不乱に見つめていた。
「やっぱりいいなぁ……《銀翼鷹》……」
目をきらきらさせながら、ノアの従魔であるAランクの魔物を呼ぶ。
かわいらしかったり、かっこよかったり。魅力的な見た目をした魔物は数多いが、その中でも特に《銀翼鷹》は鋭く洗練された外見をしている。日陰にいても光沢を持つ銀の翼は艶やかで、こちらを見つめる目には高い知性が宿っていた。
従魔を作ることができるという設定は、魔法の世界ならではのものだ。私がもともといた世界には、魔物なんていなかったので当然ではあるけど。
というわけで、私が憧れてしまうのも自然の摂理といえるだろう。
「何か食べ物とかあげたら、懐いてくれないかな……」
と呟いてみるものの、《銀翼鷹》は肉食の猛禽類である。主食は弱い魔物や野生動物なので、厩舎にいるときは栄養バランスを考えながら高級なお肉を与えられているし、外に放たれたときにも勝手に獲物を獲ったりしているらしい。お世話係に話を通さないと、私が直接餌やりをするのは難しいだろう。
そんなことを考えていると、背後から冷たい声が背中を叩いた。
「――そこで何をしている」
ぎくっ、と私の肩は強張る。
慌てて振り向くと、こちらにつかつかと歩み寄ってくるノアの姿があった。
クセのない銀の髪を靡かせる美丈夫は、固まったままの私の前まで歩いてくると、平時と変わらず感情を覗かせない瞳で見下ろしてきた。
「今日の鍛錬は終わったのか」
「は、はいっ。終わらせてきました」
もちろん、その確認だけでは済まないだろう。私はこの場所にいる理由をしどろもどろになりながら伝える。
「ごめんなさい。お兄様の《銀翼鷹》があまりにも素敵で、つい厩舎まで見にきてしまったというか……」
待って。もうちょっと物の言い様があったかも?
撤回すべきか悩んでいると、ノアは数秒の沈黙を挟んでから《銀翼鷹》へと目を向ける。
「そうか。お前はまだ従魔を持っていないからな」
「……はい」
私はこくりと頷く。
従魔を作る授業は、二年生の春に行われる。もしも花舞いの儀で魔に堕ちてしまえば、従魔を作る機会が巡ってこないことは――もちろんノアも承知していることだ。
これで会話は終わりかと思いきや、ノアが続けて問いを放つ。
「お前は、どんな従魔と契約したいと思っているんだ」
「そ、そうですね。こう、もふもふっとしてたり、ふわふわ~ってしてたり、撫で心地が良かったりすると嬉しいな、なんて……」
私は身振り手振りを交えて、そう理想の従魔について説明する。
しかしノアはほのかな困惑をにじませて、眉根を寄せるだけだ。
「俺は能力の話をしたつもりだったが」
「……えっ」
言われてみれば、と私は遅れて気づく。効率や機能性を重視するノアのことだ、外見のことなど気にも留めていないだろう。
しかし、と私は思う。魔法士が一度の生涯で契約できる従魔は、たった一匹だけなのだ。見た目の好みだって、当然重視すべき点ではないだろうか。
そんな思いから、つい反駁してしまう。
「でも、外見も重要だと思うんです。《銀翼鷹》だって、お兄様に似ていてかっこいいですし……」
「……何?」
思わず本音を漏らしてしまった私は、あっと口元を両手で覆う。
言わずもがな、『ハナオト』攻略対象のひとりであるノアの容色に恵まれている。私の好みはエルヴィス様一択ではあるが、それはそれとしてやはりノアの容姿には見惚れてしまうことが多い。遠目の場合に限るけど。
……が、そんな率直すぎる感想を本人に伝えたところで、「ありがとう」なんて喜ぶような殊勝な義兄ではない。むしろ、「お前は普段から俺相手にそんなことを考えているのか。そんな暇があるなら瞑想の時間を二倍に増やしてやる」とか言われそうだ。
もう遅いかもしれないけど、ここはひとまず誤魔化しておこう。
「い、いえ! なんでもありません! それで従魔の能力――は、あまり高望みはしません。私自身、ぜんぜん魔法が使えませんし、戦闘力の高い従魔との契約は難しいと思います」
ノアはなぜか沈黙している。私は大慌てで付け足した。
「えっと、でも、リージャス家の恥にならないような従魔と契約したいとは思っておりますので……!」
「そうか」
汗みどろになりながらそれっぽい言葉を添えていると、ノアがぽつりと言う。
それから、私を見下ろすと。
「《銀翼鷹》が気に入ったんなら、好きなだけ見ていけ」
そう言い残すと、さっさと踵を返してしまった。
その場に置いていかれた私は、大きな背中が見えなくなってから盛んに目をしばたたかせる。
「は、はい……?」
小首を傾げた《銀翼鷹》が、喉の奥で「ケケッ?」と不思議そうに鳴いた。
コミックス第1巻がいよいよ発売されました!
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