第92話.顛末
第2部は残り3話となります。
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数日間の休みを経た、従魔作りの翌週のこと。
全属性魔法を習得し、従魔作りにも成功した私は、今日からまたAクラスの教室に戻っていた。苦難の連続ではあったが、なんとか乗りきることができて本当に良かった。
あのあとは、エルヴィスと共になんとか制限時間内に『魔の庭』から出ることができた。先生たちにルビーを見せたところ、見たことのない魔物だと大層驚いていたのだが、古代種だと説明しても理解してもらえるか分からないので黙っておいた。というのもルビーは爆睡していたので、人の言葉を喋るという証明ができなかったのだ。
そんなルビーは、連休中も寝続けていて一度も目を覚まさなかった。体調が悪いというわけではないようだが、気持ち良さそうに爆睡しているので起こしにくい。
疲れていると言っていたし、じっくりと時間をかけて体力を回復している最中なのだろう。キャシーたち侍女がときどき様子を見てくれているので、心配もない。
ちなみによく意味も知らずに名づけの儀を行ってしまった、という旨を報告した私に、ノアは「ほう」とだけ言っていた。こめかみに青筋が浮き出ていたので、あれは怒りの「ほう」なのだと思うが、見えていない振りで乗りきった。ちなみにモンド先生は「あなたって人は……」と卒倒しかけていた。
そして放課後――私はしばらくぶりに、学園長室に呼ばれていた。
「失礼します」
てっきり、花乙女として相応しいかの再チェックがあるかと思っていたのだが……学園長室にはモンド先生だけでなく、ニールたちの姿があった。
もしかして、噴水広場での言い争いの延長戦が始まるのだろうか。身構えていると、モンド先生は開口一番言い放った。
「アンリエッタ・リージャス。この四人については、退学処分とする予定です」
「た、退学ですか?」
呆気に取られる私に構わず、モンド先生は言葉を続ける。
「バシュ伯爵も更迭処分となります。他の三家についても、追って処分を下します」
エーアス魔法学園に通っている時点で、他の三人も階級や立場の違いはあれど貴族の生まれだ。となると、かなり重い処罰になる。
そう感じたのが顔に出ていたのか、モンド先生は厳しい口調で理由を付け加える。
「彼らは当代の花乙女と、花乙女の生家であるリージャス伯爵家を侮辱しました。これを許すわけにはいかない、というのがベアトリクス女王陛下のご判断です」
恐る恐る視線をやると、モンド先生の言葉を大人しく聞く四人の顔は青を通り越して白くなっている。立ったまま死んでしまったかのようだ。
自分たちだけでなく、親兄弟も巻き込んだ事態になったことを悔やんでいるのだろうが、もはや謝罪して済むような状況を通り越している。そのせいで、口を差し挟む気力もないのだろう。
「ただ、女王陛下からはこうも仰せつかっています。『最終的な判断は、アンリエッタ・リージャスに任せる』……と」
「……!」
私は、その言葉に目を見開く。
王城で女王陛下と共に過ごした時間は、短くとも濃厚なものだった。為政者として大きな責任を背負う彼女と向き合い、直接言葉を交わした得がたい機会があったからこそ、その言葉は額面通りに受け取るべきものなのだと分かる。
私に一任してくれた以上、私がどんな選択をしたとしても、女王陛下は反対されない。ただ、その判断を受け入れてくれる。
そう信じられたから、自分の考えを言葉にできた。
「それなら……親御さんも含めて不問に処す、でお願いします」
私が言うなり、ニールたちが口を間抜けに開けたまま固まった。
さすがにモンド先生は彼らのように変顔を披露したりはしなかったが、訝しげに目を細めている。
「……理由を訊ねてもいいかしら」
「確かに、バシュ伯爵令息たちからは手厳しい糾弾を受けました。ですが、彼らの指摘は謂れもない中傷というわけではありません。王国民として、頼りない花乙女を見て現状を憂えるのは当然のことですから」
だからといって誹謗中傷していいというわけじゃないが、そこまで大袈裟なものではない。彼らは名門であるエーアスの生徒らしく、お行儀良く文句を言ってきただけだ。
それに、と私は続ける。
「結果的に私は従魔を得ることができましたが、それは彼らに焚きつけてもらったおかげとも言えます。ですから、咎はありません。むしろ今後も学園で切磋琢磨していけたら、喜ばしいことだと思っています」
私はそう話をまとめる。
しばらく、誰も言葉を発さなかった。こんな伝え方じゃ説得力がなかったかな、と冷や汗をかいていると、モンド先生がゆっくりと息を吐く。
「……そう。あなたがそう決めたのなら、私からは何も言うべきことはありません」
それから、彼女は石像のように硬直したままのニールたちに顔を向ける。
「あなたたち、話はこの通りです。分かったら退室なさい」
「は、はいっ。失礼します」
私のほうを気にしつつも、彼らは学園長室を逃げるように出て行った。
先生と二人で取り残された私は、どぎまぎしてくる。お叱りが待っている、ということはなさそうだけど……と思っていると、モンド先生が唐突に目頭を押さえた。
「……立派になりましたね、アンリエッタ・リージャス」
「モ、モンド先生!?」
ぎょっとしてしまったのは、モンド先生が両目からすごい勢いで涙を流していたからだ。
ハンカチで濡れた目元を拭ったモンド先生は、嗄れ声を震わせる。
「私は知りました。女神に通じる慈悲の心までも、あなたにはすでに備わっています。エーアス魔法学園の教師として、カルナシア王国の国民としても、誇らしく思うわ」
「モンド先生……」
その言葉に、私もじーんとしてしまう。
最初は怖い人だと思っていたけど、モンド先生は涙もろくて、生徒思いな先生でもあった。私を見捨てずに、最後の日までマンツーマン授業をしっかり行ってくれたのも、彼女を含む少数の先生だけだ。途中からあからさまに飽きていて、「ノア・リージャスって家ではどんな感じなんだ?」とか訊ねてくる先生たちもいたし。
「歴代の花乙女に近づけるように、今後はより修練に励むように。アンリエッタさん、今後のあなたの活躍に期待していますよ」
「はい。今後もよろしくお願いします!」
すぐに厳しい顔に戻ったモンド先生に、私は笑顔で返した。
学園長室を辞した私は、軽く伸びをしてから廊下を歩きだす。
ルビーのことも気になるし、そろそろ帰ろうかな。そう思いながら歩きだした直後、背後から呼び止められた。
「アンリエッタ・リージャス。少し話せるか?」
振り返ると、そこには先ほど学園長室で会ったばかりの四人が立っていた。








