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【書籍②発売】最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!【コミカライズ連載スタート】  作者: 榛名丼
第2部

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第75話.ロキのアドバイス?


 昼休み、私は食堂に行ってテイクアウトをした。今日は天気がいいので、外で食べたら気持ちがいいだろう。


 前にエルヴィスやイーゼラと食事をしたテーブルの傍まで歩いてくると、頭上を振り仰いで呼びかける。


「ロキ、いる?」

「んー。どうしたの? アンリエッタ」


 当たり前のように返事をしたロキが、近くの椅子にぐでんと伸びている。

 ぜんぜん思った場所とは違ったが、最近はロキが傍にいるのにも驚かなくなってきた。寝ているとき以外は、基本的に私を監視しているらしいのだ。


 しかし私を見張っているのはロキだけではない。先ほどまで頭の上を旋回していた《銀翼鷹》が舞い降りてきたかと思えば、テーブルの傍の木の枝に優雅に止まる。それを見てロキが「あー」と思いだしたように口を開く。


「アンリエッタ。こいつ、すごく動きが速いんだよ。短剣を投げつけてもあっさり避けるし」

「な、投げないでね」

「避けたところを《黒霧犬》に襲わせたのに、翼で風を起こして霧を払われたし」

「従魔をけしかけるのもダメだから!」


《銀翼鷹》が軽くいなしてくれて助かった。そうでなければ、せっかく止めたノアとロキの戦いが再び火蓋を落としていたことだろう。

 ロキの隣に腰かけた私は、買ってきたサンドイッチの片方を手渡す。


「温かいうちに食べてね」


 無言で包みを受け取ったロキが、くんくんと犬のように匂いを嗅ぐ。


「これ、なに?」

「食べ物よ。怪しいものじゃないから、開けてみて」


 言いながら、私は自分の分の包みを開く。今日はサーモンとアボガドのサンドイッチだ。食堂で提供されるサンドイッチは、たっぷりと具が入っていてとってもおいしいのである。

「いただきます」と唱えてからパンにかぶりついていると、間もなく横から声が飛んできた。


「アンリエッタ。なにこれ、おいしいんだけど」


 もぐもぐと頬張りながら発される声は、常より明らかに弾んでいる。ロキは両手にしっかりと包みを持って、サンドイッチを咀嚼していた。

 微笑ましく思いながら、私は教えてあげる。


「それは、クロックムッシュっていうの。ハムとチーズ、それに学園のは目玉焼きをパンに挟んでておいしいのよね」

「クロックムッシュ……クロックムッシュ」


 いつもは無気力そうな目がきらきらと輝き、頬は溶けてしまいそうなほど緩んでいる。そういう無邪気な顔をしていると、まるで幼い子どものようだ。


『ハナオト』でも、カレンがロキに買ってきたクロックムッシュを分けてあげる場面があった。それから、この食べ物はロキの大好物になる。奇しくもノアと似たような展開だ。


「これ、アンリエッタが作ったの?」

「ううん。食堂のコックさんが作ってくれたの。そんなに気に入ったなら、また買ってきてあげるから……口に物を入れているときは、喋らないようにね」

「ん!」


 こくこくこく、とロキは首を縦に振っていた。

 食事を終えて人心地ついたところで、私は話題を振る。


「ロキって、四月二日から一度も学園の外に出てないのよね?」


 四月二日というのは、花舞いの儀の翌日。私が学園長室に呼びだされた日のことだ。


「うん。ここに張られてる結界って、入るときと出るときに発動してるからね。無駄に出入りするよりは、学園内で過ごすほうが誰かに見つかる可能性は低いから」


 ロキは指を舐めながら、なんでもないように答えてみせた。


 前にラインハルトが熱く語っていた通り、エーアス魔法学園には巨大な結界が張られている。もしも許可を得ていない者の魔力を感知した場合、あちこちにこっそり配置された警備用ゴーレムが動きだし、騎士たちと協力して不法侵入者を鎮圧する……という優れ物なのだが、ロキはこの結界すら容易に潜り抜けてしまうのだ。


 訊いてみたところ、ゲームでも語られていた通り、ロキは常に携帯食料を持ち歩いており、お風呂や手洗いは職員用のものを利用しているらしい。そんな生活、ふつうなら数日と持たないだろうが――。


「敷地内にいる間は隠蔽魔法を使ってるから、アンリエッタ以外には見つかる心配もないけど。なるべく教師の近くは避けてるし」


 そう。学園内には多くの生徒や教師がいるのに、彼らに一度も見つからないまま侵入生活を続けていられる……そんな芸当を可能にするのがロキの闇魔法であり、潤沢な魔力量だ。


 あのノアすらも騙せているのは、どちらかというと相性の問題だろう。基本四属性を得意とするノアは、ロキの闇魔法とは相性が悪い。光魔法に優れていないと、隠れるロキを看破することはできないはずだ。


「それって、この間みたいに眠ってるときも?」


 クロックムッシュ効果なのか、ロキは普段よりしっかりと頷く。


「おれって生まれつき魔力が多いから、いつでも眠くなっちゃうらしいんだけど……でも、寝てたら奪われるからさ。寝ながらでも魔法を使いたいなと思ったら、できるようになった」


 ロキが言っているのは魔力過多症と呼ばれる特殊体質のことで、彼の眠気の直接的原因でもある。

 魔力が常人よりもずっと多いが、そのせいで常に強烈な眠気を感じており、所構わず寝てしまうらしい。本人はぽやぽやした性格なので、あまり気にしてはいないようだけど……眠りながらも魔法を発動させるという荒技は、スラム街という過酷な環境で生きるために編みだされたものだ。


 ゲームでも、ロキがカレンにこんなふうに語る場面がある。


『この体質のせいで、小さい頃は苦労したんだ。スラム街では、弱者は奪われるのが常だから。寝ている間に、せっかく盗んできた食料や金目のものを奪われることが何度もあった。だから、おれは生き残るために対策を練った。眠気は、もうどうしようもない。だったら、寝ていても問題ない術を身につけなければいけないんだ、って』


 眠っている間も、自分と自分の周りのものを不可視の闇で覆う。そうすれば誰にも見つけられず、誰にも奪われない。先ほども本人が拙い言葉で語っていたように、そうやってロキはなんとか生き抜いてきたのだ。


 彼の過去を思うと居たたまれない気持ちになるが、そんなロキの体質について私は考えていることがあった。

 思ったのだ。魔力が強いために暫定・花乙女と呼ばれてきたアンリエッタと、生まれつき魔力を持て余しているロキって、ちょっとだけ似ているのではないかと。


 ゲーム内では、ロキの体質について深い掘り下げはなかったけど……ロキは他の人と、魔力の使い方が根本的に違う可能性がある。だとすれば、未だ魔法のひとつも使えない私の現状を打開するようなアドバイスが、彼から得られるかもしれないのだ。


「ねぇロキ。眠りながら魔法を使うっていうのは、どうやればできるの?」

「んー?」


 期待感に満ちた目を向けると、木の枝で毛繕いをする《銀翼鷹》をぼんやり見ながらロキが言う。


「どうやる、っていうか……そうやる、ってだけだけど?」


 私はスンッ、と真顔になった。


「そうやる、っていうのは?」


 こっちを見たロキは、不思議そうにしている。


「だから、ふわっとして、ぼわっとしてから、しゅってしたら、ぱってなるでしょ?」


 ……あっ、これ、天才肌タイプの説明になっていない説明だ!


 私は理解不能の効果音を吐きだすロキからアドバイスを得るのを、即座に諦めたのだった。



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