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【書籍②発売】最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!【コミカライズ連載スタート】  作者: 榛名丼
第2部

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第63話.隠し攻略対象の登場


 ああ……そういえば、そんな設定があったかも。


 私はうっすらしている記憶を辿る。それは、ラインハルトルートの最終章となるイベント。年に一度の闘技大会に向けて、優勝候補の一角であるラインハルトは熱く闘志を燃やす。


 というのも、彼にとっては三年連続の優勝が懸かっている大会だからだ。その偉業を達成した卒業生はノア含む数名しかおらず、ラインハルトは入学前から三年連続優勝を夢見ていた。


 そして闘技大会直前、彼はカレンに告げる――。



「俺が、この大会で優勝できたら……お前に伝えたいことがある」



 王族暗殺を目論むドロメダ教徒という不穏分子が紛れ込む中、ラインハルトは見事優勝。カレンには王族に伝わるという古代の指輪を渡してプロポーズし、エピローグでは為政者となったラインハルトと、彼を妻として支えるカレンの姿が描かれる。


 ちなみに乙女ゲームあるあるだが、『ハナオト』では花乙女としての能力や攻略対象の好感度が一定のラインに到達していない場合、シナリオが分岐してバッドエンドに突入してしまう。


 ラインハルトルートの場合、彼は大会予選であっさり敗退。カレンに想いを告げることもなく、行方をくらます……というバッドエンドに行き着いてしまう。王族が軽々と行方不明になるなと言いたいが、それくらいショックだったということだろう。あのあとは一か月くらいでちゃんと帰ってきたのかな。


「上級生も含めて、学園中の猛者という猛者が集う大会ですもの。わたくしが優勝を狙うのは厳しいのですが……それでもマニ伯爵家の人間として、やる前から諦めるわけにはいきません」


 燃えるイーゼラだが、そんな彼女に以前のような危なっかしさはない。真っ当な努力によって高見を目指すという、芯のある強さが感じられた。


「そうなんだ。大変そうだけど、がんばってね」


 心からの言葉を伝えると、イーゼラは目を瞬かせる。


「あら。あなたは参加しませんの?」

「いや、絶対に参加したくないよね……」


 イーゼラも語っていた通り、闘技大会はラインハルトを始めとする実力者揃いの大会だ。試合も男女混合で行われるので、組み合わせが発表されたあとに棄権する生徒も多い。


 そんなガチの大会に、軽い気持ちで出場するつもりはまったくない。痛いの嫌いだし。骨折とかしたら、たぶん泣くし。


 そういえば、カレンも闘技大会には出場してなかったんだよね。花乙女に万一のことがあっちゃいけないってことで、先生から出場禁止を言い渡されていたはずだ。

 邪推かもしれないが、あれはやっぱり、出場しちゃうとカレンがラインハルトに勝っちゃうからなのかな……。ヒロインに負けて失踪する攻略対象って、ちょっとおもしろいけど。


「そこの二人。話してばかりいないで、授業に集中しろ」

「す、すみませんっ」


 会話に興じていると、遠くからノアに注意された。私とイーゼラは慌てて頭を下げる。

 気がつけば、私たち以外の生徒は懸命に素振りをやっていた。呆れ顔のノアが近づいてくると、短く指示を出す。


「二人とも、構え」


 私がぽけっとしていると、木剣を握ったイーゼラは中段に構えてみせた。姿勢がきれいなのもプラスに働いてか、なんだかサマになっている。フェンシングとかやってそう。


「イーゼラ・マニ。筋がいいな」

「ありがとうございます!」


 褒められたイーゼラが、姿勢を崩さないまま顔を明るくする。羨ましい。私はほとんど褒められたことないのに。


 というかノア、さらっとイーゼラの名前を呼んでたけど、もしかしてすでに全生徒の名前を覚えていたりするんだろうか。何せ超人なので、彼ならそんな芸当ができたとしてもおかしくはないが。


「アンリエッタ・リージャス」

「は、はいっ」


 私のほうも、慌てて中段に構えようとする。


「違う」


 教わった通りにしたつもりが、小さく嘆息したノアが後ろに立つ。


「腰が引けているぞ。いったん手を開いてみろ、握り方はこう……」


 ノアが私の手や腕を誘導し、腰の向きを調整する。それに従いつつも、私は狼狽していた。


 こ、これ、くっつきすぎなのでは……?


 魔力を流し込むときと同じだ。ノアは単に必要があるから触っているだけなんだけど、こちらとしては顔と体格のいい義兄にこうも密着されてしまうと、どうしても意識してしまう。


「そうだ。両足は軽く開いて、構え。――振り下ろしてみろ」


 少し離れたノアに言われ、私は身体を動かす。


「せいっ! ――って、あっ!」


 そして大ポカをやらかした。ひどく緊張していたせいで、手からすっぽ抜けた木剣が宙を飛んでいってしまったのだ。

 顔を青くする私に、ノアが小さくため息をつく。一部始終を見ていたイーゼラも声をかけてきた。


「アンリエッタ、大丈夫ですの?」

「う、うん。探してくる!」


 私は恥ずかしさを押し殺して、木剣の飛んでいった軌跡を追って走りだす。

 すぐに見つかるものかと思いきや、訓練場を出ても木剣はなかなか見つからない。


 あれ、どこ行った?


「ええと、確かこのあたりに……?」


 木々が密集したスペースに入りながら、行方不明になった木剣を必死に探し回る。戻るのが遅くなったら、いつまでも遊んでいるなと注意されてしまうだろう。

 どこだ~どこだ~と地面を凝視していると、ふいに頭上から無気力そうな声がした。


「これ、おれを狙ったの?」


 ……へっ?

 驚いて顔を上げると、目の前の木から人が下りてくる。


「ひゃっ」


 身を竦める私の前で、その青年はほとんど音もなく芝の上に着地してみせた。ゆっくりと立ち上がる彼の顔を見て、私はぎょっとする。


「ロ、ロキ!?」


 私が放り投げた木剣を片手で回転させながら見返してくるのは、ロキ――『ハナオト』の隠れ攻略対象だった。




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