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【9/15②発売】最推し攻略対象がいるのに、チュートリアルで死にたくありません!【コミカライズ決定】  作者: 榛名丼


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第15話.密着


「ふ、ぬぬ、ぬぬぬっ……」


 喉の奥で唸りながら、杖に意識を集中する。

 動け。そう心の中で念じてみても、まったくペンを動かせる気がしない。

 そんな私の様子を観察していたノアが、厳格な口調で言うには。


「緊張しすぎだ。魔力がほとんど発現していない」

「は、はい」

「それと杖はただの媒介に過ぎない。魔力とペンを繋ぐために、橋を渡しているようなものだ。まずは自分の全身を流れる魔力から感じ取れ」


 彼なりの、そしておそらく的確なアドバイスなのだろうが、私にはうまく呑み込めない。

 言うは易く行うは難し、というやつだ。もっと授業を真面目に受けていたら、違っていたのだろうけど……。


「魔法による事象の改変は、少なからず世界を歪めてしまう。だから世界への影響力を抑えるために、相応の形に整える必要がある」


 ――まだ月花暦が制定されていなかった時代。


 魔法というのは、神々だけが行使できる特別な力だったのだという。しかし一部の神は地上を生きる人間を愛し、自らの持つ奇跡の力を分け与えることにした。

 カルナシアの人々に魔力を与えたのは、その中で最も強い力を持つとされる女神エンルーナ。カルナシアで生まれる人間は、必ずエンルーナの恩恵である魔力を授かれるようになった。彼女が創立に関わったとされるエーアス魔法学園にも、講堂や噴水広場などそこかしこに高そうな女神像が置かれている。


 世界中の人々はそれぞれの神に教えを請いながら、協力して魔法の仕組みを少しずつ解き明かしていった。そうして魔法は体系化され、六つの魔法属性へと分類されていったのだ。

 人々は魔法を使う際に、まず特定の魔法元素に呼びかけを行うようになった。その先に続く詠唱の内容をあらかじめ限定することで、世界への影響力と術者の負担を最小限に抑えられるようになったのだ。

 それは世界の歪みを望まない神々としても、喜ばしいことだったらしい。


 しかし魔法による文化や生活の発展もあり、カルナシアの人口は爆発的に増え続けた。ひとりずつに自身の魔力を分け与えたことで、エンルーナは力を使いすぎてしまい……しばらくの間、眠りにつくことになる。


 別れを惜しむ人々に向けて、エンルーナは別れ際にこう言い残したという。


『我が眠る代わりに、カルナシアには我の魔法を継ぐ少女が生まれる。百年に一度の春の季節、我は少女――花乙女に、祝福の花弁を降らせよう……』


 最初に花乙女に選ばれたのは、エーアス魔法学園に入学したばかりの少女だったという。

 といっても、悠久を生きる神様の感覚だからだろうか。伝承によれば、九十年とか、百三年とか、ちょこちょこ誤差がありつつ今まで数人の花乙女が誕生してきたようだ。


 こういった伝承は魔法歴史学のみならず、一般的な歴史学にも関連している。カルナシア王国の成立とエンルーナは、切っても切り離せない関係にあるからだ。

 カルナシア以外の国々でも似たような伝承があるそうだが、花乙女のような特別な存在は他国では確認されていないらしい。やっぱりエンルーナは特別な女神ってことなんだろう。

 ストーリーで読んだときには「ふぅん、そうなんだ」と思っただけのゲームの設定だ。カレンはチュートリアルでも難なく魔法を使いこなしていたので、魔法の仕組みとか使い方とかについて悩む場面も少なかった。

 でもそれは、カレンが女神によって選ばれた花乙女だったからこそで――素養だけはある、と言われ続けた暫定・花乙女のアンリエッタとは、まったく置かれた立場が違っている。


 考え込むあまり動けなくなった私を一瞥し、ノアが息を吐いて立ち上がった。

 呆れて部屋を出ていくのかと思いきや、なぜか私のすぐ隣に腰を下ろす。困惑しながら横を見ると、ノアは机のほうを向いている。


「俺の魔力を、少しだけお前の中に流す。そうすれば、自分の体内を巡る魔力を感じられるはずだ」

「はぁ」


 よく意味が分からず、私は生返事を返す。

 なんて呑気にしていられたのは、そこまでだった。

 気がつけば、ノアがぴったりと身体を寄せて私に密着していた。しかも、私を背後から抱きしめるように片方の腕を首に回してくる。


 え? 絞め殺そうとしてます? 急に?


「お兄様。ええと、あの、これは……?」


 がたがた震えていると、苦々しげにノアが言う。


「致し方ないだろう。他人に魔力を流すには、こうするしかない」


 な、なるほど。そういうことね。首の骨がボキッといっちゃうかと思ったよ。

 それにしてもノアは渋い顔つきである。そりゃあ嫌っているアンリエッタに近づいて、しかも自分から触れているのだから、ノアのほうが精神的負担が大きいのだろう。


 といってもこの人、なんだかんだ面倒見がいいよね。忙しいのに時間を見つけては私の指導に当たってくれるし。相変わらず顔は怖いけど。


「どうだ。感じるか」

「え、っと……そう、ですね」


 私は思考を中断すると、両目を閉じる。

 集中してみて、数秒で気づいた。ノアが触れている箇所を通して、私の中へと冷たい何かが注がれている感覚がある。

 ちょっと勢いが強すぎて、ぴくっと両肩が跳ねたのにノアは気づいたようだった。


「調整する。これくらいなら、いけるか」

「ん。まだ、ちょっと。もう少しゆっくり……」


 ノアの魔力は怖いくらい研ぎ澄まされている。未熟な私には、ぴりぴりして痛いくらいだ。小さく身を捩ってそう言えば、また少しだけ勢いが弱められる。

 その直後だった。


「わっ……!」


 思わず声が漏れたのは、今まで堰き止められていた何かが、急に音を立てて動き始めたような感覚があったからだ。

 どくどくと脈打ちながら、身体の隅々まで巡りだすもの。


 これが、私の……アンリエッタの魔力なの!?




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