第3章42話 『大将軍』
黄金都市。
そこで行われていたのは、天からの狙撃と地上から昇る雨の攻防。
幾度となく繰り返される果てしない戦いは、徐々に徐々に場所を城へと移り変えようとしていた。
「当たらないなぁ本当に、腹立たしい。」
空中からの超高速の狙撃。
まるで隕石が如き威力。
『彗星』と呼ばれるほどの高い威力と速さを持つバビロンは、革命軍の中でもトップで厄介な相手である。
現状を見れば分かるとおり、このディコスで最強と謳われる『大将軍』エナリオス=スニオンが数十分相手にしても、致命的なダメージが与えられないほどに。
だが、それはバビロンも同じであった。
現在、エナリオスは無傷である。
「あいつを足止めするのに僕が一番適しているとは言えど、無傷はちょっと心にくるよねぇ。」
空中に浮遊しているバビロンが、少しため息をこぼす。
だが、それでも撃ち続ける。
そんな地上にいる中で、上空を一切見ずにバビロンの狙撃を避け続けるエナリオスもまた、腹立たしく思っていた。
現在城の中で何が起こっているのか、それだけを知りたいが、上の厄介鳥がそれをさせない。
城への最短ルートは悉く潰され、とてつもない大回りをさせられている。
「・・・託すしかないか。不甲斐ないな。」
ここで断言しておくが、決してバビロンは弱くなく、相対しているエナリオスはディコス王朝最強である。
バビロンの実力はアナトリカ王国で騎士団になっていたら、副団長・団長には上り詰めれる実力を持つ。
そして、バビロンの狙撃は直撃すればあらゆる騎士だろうとも致命傷になりかねないだろう。
そんな狙撃が幾度となくエナリオスの脳天目掛けて、正確に、かなりの速度と威力で放たれる。
「『彗星』か。いい異名だ。」
エナリオスも納得の実力。
「だが、そろそろーー」
「・・・そろそろ足止めは無理かなぁ。ということでーー」
「「殺しに行くか。」」
そうして、天井の狙撃音は鳴り止み、エナリオスは城へと辿り着く。
未だ影が取り囲う宮殿へと。
※※※※※※※※※※※
大量の影が風の結界を突破しようと奮闘する。
それは『戦争』がこの黄金都市に放った影の分身体。それが宮殿を囲い、それをキノニアが防ぎ続けている。
宮殿の頂上、息切れをしながら風魔法を展開し続けるキノニアの姿が見える。
長文詠唱をもって展開した風雅の社が、もうすぐ破られる寸前であった。
「 風はあらゆるものを阻み、風はあらゆるものを切り裂くーーー 」
何度も何度も、詠唱を繰り返し、風の結界は何度も修復されている。だが、影の分身は数で勝負している。影であるが故の無限の体力がキノニアを苦しめていた。
「なんでこんなに、無限に湧いて出てくるのよ!!」
この結界内を蠢く影たち。その親玉は今、自分の立ちの親玉と戦っているはず。それなのに、こちらにまで影の魔法を割く余裕がある。
「何の冗談よ・・・ダスカロイ、あんた本当に大丈夫なんでしょうね。」
もう何度目だろうか。
この風魔法を放つにも、きっちり詠唱しないと直ぐに瓦解してしまう。強さもあり、この王朝の腑抜けた騎士だけではすぐにでも突破されてしまう。
そんな力を持った影武者たちは、建物の影から無限に湧き出てくる。もはやこの王朝から影をなくそうというほど、どんな小さな影からも湧き出て止まらない。
何十分も、たった一人で宮殿を守っているキノニアは、既に限界であった。
学校で戦場に出ていない者の中で、ギオーサ副校長の次に強く、センスで言えばギュムズを凌ぐ。
頭脳明晰で実力もある、オカマだが、学校の誰もが認める裏の実力者。
そのキノニアの、風魔法が破られる瞬間が来てしまった。
「嘘でしょ・・・」
天を滑空する大きな鳥、バビロンが放つ天からの狙撃。それは、意図せずともありとあらゆる建物を破壊し、新たな影を作り出す。
「『戦争』はこれも狙ってた・・・」
バビロンの役目は足止め。ありとあらゆる準備が整うまでの時間稼ぎであり、王朝最強であるエナリオスの動きを止めること。
さもなければ、『暴獣』や『虐像』が自由に動くことも出来なかっただろう。
王朝内で最大の障害と言っていい『大将軍』の動きを数十分足止めできることが出来るのは、革命軍の中でもバビロンをおいて他にない。
だが、それでもーーー
たった一人で現状を変えられる男が、たった今宮殿に到着した。
「 それは遥か昔の話 全ての魂は流れ此処に辿り着く 其の門は水の都にあり 」
全力で疾走しながらディコス最強の『大将軍』は詠唱を奏でる。
移動しながらの長文詠唱には、多くの労力を割くことになる。それを成し得るものは一握りの強者であり、尚且つ、エナリオスはその間にも影を攻撃し続けている。
「嘘だろ・・・?」
天から覗き見ていたバビロンも、今まで仕留められなかったことが当たり前かのように感じた。
こんな怪物を、どうやって仕留められるのか。
そんな折、バビロンは宮殿の頂点にいる術者を見つけてしまった。
何よりも、あれを落とせば主君の影は侵入できる。
「脳天カチ割れろ。」
天井から『彗星』の如き一撃が放たれる瞬間、同時に宮殿内からも同じような攻撃が放たれる。
「なんだ!?」
天から全てを把握しているはずの『彗星』バビロンですら、何が起きたのか把握するまでに時間がかかった。
だが、それが友の一撃であることを理解する。
「・・・ギザか!!」
『暴獣』ギザの巨狼の咆哮。彼が持つ大魔法の一撃を何度も目にしているバビロンだからこそ把握できる。
それに呼応するように、やはりバビロンは魔法を放つ。
なんとしてでも、今此処で決め切る必要が出てきたのだ。
ギザがすぐそこまで迫っている。すぐそこの、玉座まで迫っている。
まもなく、この黄金都市内での全ての戦いが決着する。
それは誰もが予感したことであった。
「彗星の弾丸」
「 彼の門は其が守ろう 番人が持つ槍は全てを流し赤に染まる 」
巨大な天からの狙撃弾を前に、キノニアは自分を守ることを諦めた。
最後の1秒まで、風魔法を展開し続ける。
そうすればーー
「飛瀑天」
暴れ狂う影を何体も潰し周り、まとめて天に投げる。
まるで水が天に昇る龍が如く、バビロンの放った魔法にぶつかる。
そして、そのまま彗星の弾丸に打ち勝ち、結界ギリギリで弾け飛ぶ。
「・・・遅いわよ。あんたこの国最強って言われてんだからシャキッとしなさい。」
「黙れ、俺も為すべきことは為した。」
結界ギリギリまで昇ったエナリオスの魔法は雲海を呼ぶ。
黄金都市中から、水分という水分が天に昇っていく。
「何が起きている・・・!」
「ここに蔓延る全ての影が、『戦争』の手からすでに離れているとすれば脅威だ。」
それはあり得た話。
一体いつから、この影たちは『戦争』が操っていると決めつけてしまったのだろうか。
「『戦争』を倒しても、この影たちが消える保証はなく、この影たちが生み出され続かないという保証はどこにもない。」
雨が降る。
この結界内に、本来ならば結界に阻まれて降るはずのない雨が。
この雨はエナリオスの魔法。
天からの慈雨のように、それは優しく地に落ちる。
そして、この黄金都市に蔓延る全ての影は、姿を表す。
「時間は経っている。ダスカロイがこのようなことをさせるまでやつに余裕を持たせるとは思えん。」
強者ゆえに、強者を理解する。
この影たちはすでに全自動で動いている。ダスカロイが『戦争』に影の分体を維持できなくさせるほどに追い込むことを待つ必要などなかったのだ。
「それにしても湧いてきたものだ・・・全て殺してやる。あの鳥含めてな。」
時間もないことを把握している。
「天と地、その両方から挟まれている貴様の命はない。」
黄金都市内に、あり得ないほどの魔力が満ちる。
何者の、この空間で生きれはしないだろう。
「長文詠唱すら不要だ。死んでいけ、海王篠突」
手に持つ三叉槍を地面に突き刺す。その動作が、これから始まる虐殺の始まりの合図と同時に、何が起こるかを示唆していた。
天から、激雨が降る。
激雨という言葉で済ませていいのか、果たしてわからない。
一粒一粒が細かな槍のように、都市内に蔓延る全ての影と、厄介な鳥を撃ち抜く。
影の一体一体は間違いなく強い。キノニアが何度も詠唱しなければ風の結界を維持できなほどに、攻撃力は高かった。
だが、まるで水に濡れた絵の具のように、影は散っていく。
そしてーー
「・・・堕ちたな。」
エナリオスは、決して平等に雨を降らせたわけではない。
確実に、あらゆるものを仕留めるために、魔力を帯びている全てに雨を浴びせた。
その実、最も天から近かった『彗星』はーー
「この都市を脅かす害鳥よ。この都市は、俺の許可がなければ飛ぶことすら許されないことを知れ。」
『彗星』は地に落ちる。その姿は隕石のようではなく、ただ天に近づきすぎた愚かな鳥のように、自然と落下していくだけであった。
「雲海は周囲の水を集めたに過ぎない。俺の魔法由来とは言え、もはやあれは天然の雲海となった。雨は振り続ける。影もまた、二度と天の下など歩けないと知れ。」
都市に蔓延る影は消え落ち、天を舞う鳥も堕ちた。
影の分体という、『戦争』が都市に施した策もまとめて消し去った。
これは、ディコス王朝最強と言われる『大将軍』エナリオス=スニオンの完全勝利である。




