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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章40話 北の獣と南の死神と東の最強と




 ーーー南の砂漠地帯。


 北の獣の群れを全て凍結させ、分身が砕け散ったあと。


 氷の玉座は空にして、自身の凍結させる絶対領域を軽々超えてくる死神と対峙していた。


 弱い者は触れることすらできないと言われる『冠冷』エルドーラをここまで活発に動かす敵など、『厄災』と『魔王』くらいかと思っていたが、南の死神も一癖も二癖もある強者であった。


 強いな。


 エルドーラが認める者など、この世界にどれほど居ようか。両の手で収まるーーいや、片手で収まるほどしか居ないだろう。


 下手をすれば、『厄災』以上だな。


 この男がここまで強いのには必ず理由があるが、エルドーラには知る由もない。

 ノートス帝国は基本的に情報がない。それは、身分がはっきりしなくても強ければ採用するという帝国独自の絶対的なルールがあるから。


 わかっていることは一つだけ。


 人間では無いこと。


 ノートス帝国の中でも、何百年と長い間、この南の死神『堕天』エリュシオンは一将の席に座っている。


 稀に見る強者であり、揺るがない席に座す。


 これが、力の半分しか出していない『冠冷』エルドーラの評価であった。


 そう、あくまで半分の力しか出していないエルドーラからの評価なのだ。


 「権能、持ってるだろお前。確かに素のままでも強いけど、使わないと勝てないぞ。」


 分身の力が徐々に戻ってきていることを感じた。勿論、エリュシオンは最初から殺すつもりでこちらに向かってきていたが、彼は魔法をほとんど使用せず、見せてきた力は剣技のみ。


 はっきり言って、概念すら凍結させるエルドーラに物理など通用しない。余程、余程、自分の剣技に磨きがなければ。


 「・・・」


 あくまで沈黙し、エリュシオンはただ剣を振るう。勿論普通はその斬撃を喰らえば一溜りもなく、今この男を王朝に放り込めば、『大将軍』の奮闘あれど壊滅に追い込めるだろう。

 革命軍本部に放り込めば、イロアスたちの勝利などありえない。


 もはや連れてきた軍は凍りつき、立っているのはエリュシオンただ1人であるのに、エルドーラを半分の力とはいえど抑え込んでいる。


 「・・・何を待ってやがる。」


 故にこそ、違和感。

 本気を出せば、自分に血を流させることも出来るだろうこの男が、半分の力しか出せず絶好のチャンスを逃すはずがない。


 エルドーラが攻め手に欠けていることを理解した上で、この場にいる。いや、半分の力しか出せなくとも、エルドーラをここに留めておきたかった。


 何か企んでいることは、エルドーラにも知れた。徐々に戻りつつある彼の全力を、待っていた甲斐があった。


 「・・・戻ったか。」


 「気でも狂ってんのか。お前の目的はここの突破じゃねぇのか。」


 「興味が無い。」


 はっきりと断言するエリュシオンの言葉に、エルドーラは少し耳を疑った。確かにノートス帝国は西の王朝にはあまり関心がなく、東のアナトリカ王国の方が関心が高い。


 それは帝国の皇帝がアナトリカを執拗に狙っているからなのだが、それでも帝国は『厄災』の国。この『魔導王』殺害の絶好の機会を逃すはずがなく、ましてやこの戦いの結末はこれからの戦いに大きく影響を与える。


 千年の間停滞を保っていた世界が、漸く動き出したのに、ここにきて興味が無いの一言で済ませる。


 「それが強者だけを望む帝国の総意か?」


 「否。我が意思のみ。」


 「本気の俺を相手取りたいってか。」


 「滅多にないまたと無い機会。手合わせ、願おう。」


 エルドーラの力が完全に戻る。

 手の力を抜き、首の骨をならして、気だるそうに、それでも一切の油断もなく、静かに精神を落とす。


 「この世界で、本気の俺と対等にやりあえるのなんざ、一人もいねぇよ。」


 傲慢では無い。

 事実である。


 無詠唱、無挙動。

 一切の起こりもなく、攻撃は発動される。突如として現れる無数の氷の剣がエリュシオンを囲み、放たれる。


 まるで銃で撃たれたかのように、その剣が放たれる速度は凄まじく、エリュシオンの持つ大剣では捌ききれないほど、無数で無慈悲に放たれる。


 だが、エリュシオンは微動だにしなかった。


 自殺行為ーーそんな訳もなく、エルドーラはここにきて初めて顔をしかめた。

 何の権能か、それを理解しなければならないと、最強は考える。


 エリュシオンに目掛けて放たれた氷の剣は、全てエリュシオンを避けるように外れた。

 外したなんてことは、この最強には有り得ない。絶対的な自信があるが、結果外れている。


 「こっちはどうだ。」


 ある1つの説を立証するために、エルドーラはやはりほぼ無挙動で発動する。


 「白鯨(はくげい)


 エリュシオンの地面から、大きな口を開けた氷でできた鯨が現れる。エリュシオンは抵抗なく、白鯨はその巨大な口で飲み込む。


 本来、この白鯨に飲まれたが最後、氷漬けで地面に叩きつけられる。

 だが、白鯨が空中で真っ二つに斬られる。今回の敵は、呑むにはあまりに活きが良かったらしい。


 「こっちは喰らうか。」


 しかし、エルドーラはどうせこの攻撃を喰らわないだろうと予測、知りたかったのは、そもそも攻撃が当たるのかどうか。


 「これはどうだ。」


 無詠唱、無挙動。

 氷の弓を生成し、矢を放つ。エリュシオンの頭蓋骨を粉砕する勢いで放たれた矢は、確かにエリュシオンを避けたのだった。


 「飛び道具無効。魔法は有効だが、魔法で作った飛び道具は無効って感じか。殺すには、真正面からって訳ね。」


 それ以外にも違和感は感じている。

 恐らくこの権能は最も何かがある。最強と呼ばれるエルドーラも、適当にやって勝てるーーまぁ、勝てることは勝てるが、より確実な方法を取る。


 「白銀の無世界(シルバー)


 詠唱はするが、相変わらず無挙動で発動する。この攻撃は無詠唱でも、ノートス帝国の兵を全員氷漬けにしたもの。詠唱をすること、かつ対象をエリュシオン1人に絞ることでより威力は増す。


 エリュシオンは再び、遅いと言いながら、大剣を横一閃に振るう。


 寒波を斬り、飛び道具は無効、白鯨の胃の中に入りながらも氷漬けにならない。間合いに入っても氷漬けにならない。


 「・・・少し、解放しようか。時間もない事だし。」


 やや憂いながら、エルドーラは自分の力を1段階上に上げる。


 寒波を退け、エルドーラの絶対領域に侵入し、首もとを断とうと剣を振りかざしたエリュシオン。

 エルドーラがその大剣を掌で受け止めた瞬間、今まで氷漬けにならなかったエリュシオンが初めて、氷像と化したのだった。


 だが、一瞬で氷像にはヒビが入り、エリュシオンは再び自由を取り戻すが、自分の権能の過信からか、何が起こったか理解するのに僅かに時間を割いた。そして、半歩下がるが、エルドーラがその隙を逃すはずもなく、


 「白鯨(はくげい)


 再び地面から巨大な鯨が湧いて出る。先程よりも凶暴性を増しながら、氷の牙を剥き出しにしてエリュシオンに噛み付く。


 「所詮は耐性上昇って所か、状態異常に関しては。」


 白鯨はエリュシオンを飲みこみ、地面に戻る。まるで水に還るかのように、水飛沫が上がるように、氷の破片が舞い散りながら元々白銀の世界を更に白く染めあげる。


 その白銀の世界に、打ち付けられたエリュシオンの氷像は、ヒビが入り肉体に戻る。しかし、運動エネルギーは消えずに、打ち付けられた衝撃が確かにエリュシオンにダメージを与えた。


 ーーように思えた。

 地面から打ち付けられ、自由を取り戻した後、エルドーラは気づけば目の前にいるエリュシオンに驚き、いつもより数コンマではあるが、行動が遅れた。


 「混沌の閃撃(カオス)


 結果、エルドーラは、実に久しぶりの流血をすることになった。

 流血箇所は掌。凍結させることが出来なかったエネルギーが、確かにエリュシオンの大剣を通してエルドーラにダメージを与えた。


 エリュシオンを凍らせるのも一瞬、再び自由を取り戻し、更に加速する大剣が再び振るわれる。


 「なるほど、時間経過にダメージ増加、ダメージの蓄積も関係あるな。」


 自分が流血した理由を、大剣を振りかざす間に一考。そして改善。


 「2段階、上げたぞ。」


 『冠冷』を流血させた事は、この世界で生涯誇っていいことだ。彼の力を2段階も引き上げたこともまた、生涯誇っていい。

 例え彼が『戦争』や『魔導王』、『大将軍』を相手にしても流血させることもできなかっただろう。


 そして、戦ってから一度もその場を動いていない『冠冷』を動かしたのもまた、生涯誇ってもいい。


 寒波で動きが僅かに鈍った剣をかわし、黒い仮面に蹴りを喰らわせる。エリュシオンはそれを腕で防いだが、残念ながら彼の蹴りはただの身体能力から発揮されるものでは無い。


 一瞬凍結させた運動エネルギーを蹴る瞬間に解放する。人よりも数段重い一撃。それをいとも容易くやってのけるのだから、この男は最強なのだ。


 「お前の権能の正体を暴けやしなかったが、まぁもういいだろう。何せ時間が無い。」


 早めに片付けようと思っていたが、強いと認めた相手、さすがだろう。


 「俺から数分奪うことすら、この世界は難しい。」


 力が篭もるのを、エリュシオンは感じた。大きな魔法がくることを察知し、それを躱す、若しくは一刀両断する気でいたが、自分が今立っている場所を考えてしまった。


 「気づいたか。背後は、お前の国だ。」


 「・・・残念だ。」


 無詠唱。しかし、大魔法クラスの力で攻撃する。

 発生したのは巨大な龍の頭。それは、神獣の一体として数えられているが、決してその比ではない程の圧力を感じた。


 「この短時間で俺が殺せなかったという事実だけ、誇ればいい。」


 一切の驕りもなく、その言葉通りの実力を模した破壊的な一撃が、エリュシオンに向かって放たれる。本来、龍の口が漏らす吐息だけで、耐性の低い者、魔力の低いもの、大方ほぼ全ての人間は凍りつき、氷像と化す。


 更には、無詠唱でありながらもその一撃を喰らえば凍りつき、再び肉体を取り戻すことなど余程の魔力量が無ければ不可能だろう。


 「また会う時、その魂を斬る。」


 世界は、彼を殺せる者が今生まれていないことを知っている。それを証拠に、『厄災』と並ぶかそれ以上の実力を誇る『堕天』も、帝国に向かって吹き飛ばされる。

 龍の放った咆哮は、破壊冷光線として帝国に放たれた。地面をえぐりながら、その攻撃が通った道筋は白銀の線として残る。


 遠くで自分の攻撃が弾けることを確認して、エルドーラは直ぐに真逆の方向へと向かう。攻撃用ではなく、移動用として白鯨を生み出し、空をかけて北へと向かうのだ。


 「全く、強者とやり合うのは勘弁願う。世界にバレちまうだろうが。」


 南の砂漠地帯は、白銀の世界としてまた世界の名所として刻まれるだろう。何が起きたのかは見て取れる。

 この日、『堕天』エリュシオンを除く数千単位のノートス帝国の騎士が、氷像と化してこの世界から消えたのだった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「指先1本分、ホントのホントに、ギリギリセーフだな。」


 凍りつき、微動だにしない『魔王』サタナ=クシファが目の前にいる。死をもたらす認識できないはずの顔相を拝みながら、全てをだしきったストラトス=アンドラガシマは突如として現れた男を見上げた。


 『冠冷』エルドーラが、間一髪で再び生きたストラトスと目を合わせる。


 「よく耐えた。後は、俺の仕事だな。」


 南の死神、『堕天』エリュシオンを吹き飛ばし、次は北の邪魔者を排除する。


 「その姿、何世紀ぶりなんだろうな。」


 「この姿が後世に継がれてるという事は、余程の者が伝えたのだろう。死した後だが、その者は歴史に名を刻んだに違いない。」


 「どうだか。誰も彼にも、忘れられているかもな。」



 北の砂漠。


 そこは既にエルドーラの分身体が白銀の世界に変えた。そして、消えぬ青い炎が燃え盛り、まるで神話のような舞台が整っている。


 『魔王』サタナ=クシファvs『冠冷』エルドーラ


 『厄災』vs『使徒』を上回るほどの巨大な戦いが、幕を開けてしまったのであった。




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