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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章39話 ストラトス=アンドラガシマ




 青い炎。


 それは、この世界で最も火力を強めた際に炎が出す色。通常の炎魔法では出すことが出来ない、特殊な才能を持つ者が発せるもの。


 この世界に存在する炎魔法の使い手の中で、青い炎を出せる者は1割もいない。それ程稀有な存在であり、かの『灼熱』ですら一目置く存在である。


 ただ、『灼熱』は更に特殊な炎魔法を有しているため、彼の右に出る者はいないが、それでも青い炎はどれだけ防御力を誇ったとしても焼き切ることが出来る唯一の存在だろう。


 それは『魔王』の肉体にも確かな焼き傷を与えるほどだ。

 しかし、高火力というだけで彼の身体を傷つけることなど不可能。この青い炎には特殊な力がある。


 女神曰く、冥界の炎は青色だとか。


 確かに現状、『魔王』は近くにいる数千体の魔獣との繋がりを断ち切られている。それは『冠冷』という規格外の男だけが成し得た魔法であり、通常は有り得ないということだけは念頭に置かせてもらうが、『魔王』の魔力、再生力のパイプは今削られている。


 それも、西の大国が有する砂漠地帯という魔獣が生存しにくい環境のせいで、近くに魔獣が居ないことは更に『魔王』にとっては不利である。


 しかし、これは世に知られてない情報だが、『魔王』は亜人でもパイプを繋げられる。つまり、彼の相手は人間でなければならなく、近くに魔獣や亜人の居ない環境でなければ倒すことは不可能である。


 その倒す前提となる環境が、偶然ーーいや、努力的に叶ったのだ。


 青い炎という稀有な魔法は『魔王』を傷つけ、近くに魔獣は居ない。


 「今が、絶好の機会だ。」


 青い炎は、収束し1つの剣を作り出す。

 それはバーナーに近く、ビームサーベルのように、激しい音を発する。


 煙を発することはなく、常に放出し続けているはずの炎は揺れることなく剣の形を保っている。


 1歩踏み込んだ先は、『魔王』の懐。

 瞬歩という技術であり、ギュムズ=ナシオンの雷の歩き方を真似て作った技法。


 たった1歩で踏み込まれる懐に、『魔王』サタナ=クシファは全身に悪寒を感じ取った。


 確かに先程から悪寒を感じ取ってはいたが、遥かに命に危険を感じる。流血を火傷で塞ぎ、フラフラだったはずのこの男から、何か危険なものを感じとっている。


 さっきも手で受け止めたから大丈夫だろうと、そう思っていた思考を切り替えた。

 闇魔法でしっかりと分厚い壁を作り侵入を防ぐ。


 「・・・何を感じとった。」


 この目の前の男は、やはりボロボロだ。

 しかし、後ずさったのは自分だったことに驚嘆した。言葉も発さず、そのカラクリだけを見抜く。


 権能だ。


 「人間の分際で鬼を名乗るとはねぇって思ってたけどぉ、お前はその資格があるようだねぇ。何の権能かは大体想像つくよぉ。」


 「権能なんて知らん。ダスカロイが勝手に与えたか、そんなものは我輩に興味は無い。」


 「俺の目で測るに、お前は命のやり取りの中で本領を発揮するぅ。血を流せば流すほど、信念を通さなければならないほど、戦わなければならないほど、その力は増幅するぅ。」


 「そうか、どうりで先刻よりも身体がよく動く訳だ。」


 自分の不可思議な動力源の謎は解けた。最初からどうでも良くはあったが。


 兎にも角にも、自分はまだ動けて、この化け物を少しでもこの場に留めておける。

 それだけで充分だ。


 「急がなければ、最強が来てしまうぞ。」


 「幾らあの化け物が来ると言っても、まだ何十分か先の話だよぉ。帝国を侮りすぎだねぇ。」


 そこも別に期待はしていない。

 だが、やつは来る。それまでの箸つなぎと言ってしまえばなんだが、全力を尽くす必要がある。


 勿論頼りにしている。奴が来る前提で自分は今から全力を尽くすのだ。自分に残っている何もかもを振り絞ってでも、この『魔王』を止めなければならない。


 王朝の未来はどうでもいいが、たった一人の友のために。


 「ダスカロイの邪魔だけはさせない。」


 無二の友の邪魔だけはーー、変わろうと必死にもがく、道化と自分を嘲笑う男が、初めて見せた本気の邪魔だけはーー、


 生まれてきたことを、今日まで後悔し続けた男の、明日を守るためにーー


 今、『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマは命を燃やすのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 幼き日のストラトスに、友は居ない。

 家族も、親戚も、なにかに優しくするという感性に欠けて、家で会話も特にない。


 立派な騎士の家系で、立派な炎魔法の家系。

 そんな中、青い炎という稀有な効能を得て生まれたストラトスは、優しさよりも期待を与えられた。


 しかし、現状維持しかやることの無い王朝の中で、何を期待されたのかは、ストラトスには関心がなかった。その重荷に潰されそうになってーーなんて、くだらない精神面の弱い話などあるわけが無い。


 ストラトス=アンドラガシマは、ただひたすらに、己の強さだけを求めた。


 友の存在は、その強さには必要なかった。不要なものとして切り捨てた。


 それが、優しさなんて家系にない男の、行き着いた答えであった。


 だからこそ、彼の目は腹立たしかった。

 自分は望まれて生まれたわけじゃないと、そうはっきりと断言した男の目には、一切の哀しさも無い。


 ふざけるな。


 哀しさが無いのはいい。

 それ以前の問題だった。


 「貴様、生きることすら諦めているな。その強さがありながら!!」


 初めて怒号を飛ばした。

 人に関心もなく、友もいない。誰かに強く感情をぶつけることなどしてこなかったからこそ、自分でもこんなに声を荒らげるのかと不思議に思った。


 それほどまでに、腹立たしかったのだ。


 「なんだその目は、その目をやめろ!!」


 「いや、君が急に怒鳴るから。」


 「そうじゃない!その生きる気力を無くしたような目をやめろ!」


 「あらら、そんな目をしたつもりは無かったんだけどね。よく人からは美しい7色の眼だとーー」


 「我輩は!!」


 ダスカロイの言葉を遮り、その瞳を見つめた。


 「そんな生きることを諦めている男に負けているのか!!」


 ーー本音を吐いた。

 この男が何かを隠して生きているのは知っている。だが、そんなことは自分には関係ない。


 「目の前の我輩を見ろ!!貴様は、我輩以上に人を見ていない!!」


 胸ぐらを掴み、真っ直ぐ、その7色の瞳に自分を写しながら、思いを吐き散らした。


 「そうか、ボックはそんな顔を・・・まるで道化のようだね。」


 「貴様ーー」


 「ありがとう、ストラトス。」


 胸ぐらを掴む自分の手に、そっと手を添えて、何故か彼は感謝を述べた。その意味を理解することは、きっと彼が隠している何かを知るまで出来ないだろう。


 「ねぇストラトス。ボックの隣にいるつもりはあるか〜な?」


 「なんだその喋り方は。」


 「この道化を、ボックがいつか自分で殺す日が来るまで、君は隣にいてくれるか〜な?」


 「貴様が殺せなかったら、我輩が殺してやる。そんな奴が我輩の上にいることなど、許さん。」


 「・・・そうか。では、改めて自己紹介をしようか〜な。」


 「なんだ、改めてというのは。」


 「初めまして、ストラトス=アンドラガシマ。ボックの名前はダスカロイ、ダスカロイ=フィラウティア。今代の『魔導王』さ。」


 「もはや驚きもしないし、関係ないな。貴様を殺せるのは、我輩だ。例え貴様が『魔導王』に既に選ばれていたとしてもだ。」


 「そうとも。是非この道化を、ボックが殺せなかったら頼む。」


 奴の隣にいる事が、強さである。

 『魔導王』を殺せる強さを持つことを意味する。


 ストラトス=アンドラガシマは強さを求めた。生きる強さ、守る強さ、誰かを殺す強さ。


 決断を自らに迫った時に、見守る強さ。それを成し得なかった時に、殺してやる強さ。


 「我輩が殺してやる。だから、我輩が殺すまで貴様は生きなければならない。その、生まれたことを後悔する瞳を貴様自身の手で殺すまで。でなければ、我輩の上に立つことなど許しはしない。」


 「生殺与奪を握られるなんて、居心地悪い〜ね。」


 「我輩は貴様が嫌いだ。」


 「でも、隣にいてくれるならそれをボックは友と呼ぶ。君はどうかな?」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 今日まで、何を隠して生きてきたのかを知った。自分はずっと隣に居続けたが、それでも、生きてきたことを後悔するだけの理由を知った。


 『魔導王』としての苦悩を、道化と成り果てた理由を。


 あの時、沈黙で返してしまったが、はっきりと、今はーー


 「青鎧武者(あおおに)


 青い炎が、鎧を作り出す。

 触れるだけで何もかもが焼け落ちるほどの熱量を帯びて。


 それでも溶けないこの氷を見てますます規格外だとは思うが、その鎧の熱量は簡単に水を蒸発させ、炭すらも焼け落とす。


 触れたらアウト。


 ストラトスの攻撃を躱す他ないサタナは、この目の前の鬼を少し侮った。


 本物の鬼をもちろん知っているからこそ、侮っていた。


 「この鬼気迫る感覚、久しぶりだねぇ。」


 サタナは侮りはしたが、すぐに軌道は修正された。

 闇魔法で巧みに青い炎に触れることなくいなす。確実に斬られないように。


 今斬られたら、修復に時間がかかりすぎる。


 「青の斬刀(せいりゅうとう)


 無数の青い炎で型どられた刀が、宙を浮遊しながら1人に狙いを定める。

 サタナは闇で自分を覆い全ての刀を防ぎ切るが、その刀は全て爆発する。


 闇を貫通し、大火力の爆発を直に受け、更に後退。火傷跡は体中に浴びながらも、遅くはあるが再生する。


 「見えるぞ、その動線が。」


 後退した先に、爆煙のその向こう側に、1人の鬼が待っていた。


 「青龍翼撃(よくげき)


 横一閃に薙ぎ払われた鬼の刀は、確実に『魔王』の首を撥ねた筈だった。


 「調子に乗るなよぉ。」


 右腕1本を犠牲にして、傷口が燃えカスになりながらも、致命傷を避けたのだった。そして、ストラトスは勘違いをしていたことに、漸く気づいた。


 『魔王』サタナ=クシファは、闇魔法のみを使っていた。それは、ただ好んで使っていただけであった。


 今目の前にあるのは、確かに、炎魔法であり、水魔法であり、土魔法であった。


 犠牲にした右腕は橙色の炎を纏い延焼を防ぎ、身体は水魔法を纏って熱さから身を守り、首には結界が張られる。


 「貴様、一体何個の属性を持っている。」


 「鎖国しているから、俺の情報が入らないんだよぉ。図に乗った罰だぁ。」


 『魔王』の背中から、翼が生える。それは龍のようであり、眼は動向が開きまるで獲物を狙わんとする獣。ゆっくりと見せた牙は鋭く尖り、全ての捕食者の王であらんと、その姿を見せる。

 更に、切り落とした筈の右腕が再びくっつき再生する。


 『冠冷』が繋がりを断ち切った筈ではあるが、『魔王』サタナのそもそもの魔獣としての力を見誤った。


 ダスカロイが知らずに与えた権能は、確かに命のやり取りの中でストラトスを極限まで成長させるものであり、現状ストラトスは人生で最も強い時である。


 確かに友として互いを認めた結果、この土壇場にして付与されたもの。


 その結果、ストラトスは普段よりも目の前の相手の力量を正確に推し量れてしまった。


 「・・・化け物め。」


 強く在らんとしたストラトス、だが、世界は広い。


 「俺の魔法は、人の命を奪う魔法であり、それを糧とする魔法ぅ。お前はただの餌だぁ。」


 今度はサタナが1歩踏み込む。それだけで、ストラトスの懐に入り込み、ただ腕を振り回した。


 風魔法で腕の振りは強化され、先端は炎魔法で爪の鋭さを増し、大地への踏み込みには土魔法で強く踏み込めるように応用されている。人体の急所を正確に突くために水魔法で常に補足され続ける。


 炎の鎧を着てなければ死んでいた。特に、青い炎で相手の炎魔法を上回っているからこそ生きている奇跡。


 もう一歩サタナは踏み込む。極限まで集中されたストラトスの感覚が、ようやく追いつく。刀を的確な場所に置く。


 金属音が鳴り響き、サタナの獣のような攻撃を防ぐ。だが、先程よりも速く、サタナは腕を振り回す。青い炎でなければ、防ぐことなどできはしない。それ程までにサタナの爪先に集めた炎魔法の密度は濃く、喰らえば骨を溶かされる。


 相手が同じ四肢を持っているならば、まだギリギリ拮抗できた。だが、残念ながら獣の王には翼があった。


 本物の翼撃を刀で防ぎきれずに吹き飛ばされる。勿論翼撃にも炎魔法が組み込まれており、更に追加で雷魔法も組み込まれていた。


 鎧が砕け散る。雷魔法のせいで身体に電撃が走り、肉が裂ける。


 権能を持ってしても、『魔王』との差に呆れる。


 「流石は、女神が造りし3体の神造人間の1人・・・強いな。」


 「スコレーの入れ知恵だなぁ。」


 「我輩の炎魔法など、ほとんど通じなかった。だが、貴様を殺す手段は残っている。」


 「臨天魔法だなぁ?その詠唱を待ってやるほど、俺は馬鹿じゃないぃ。」


 「貴様こそ愚か者だ。我輩が貴様と戦うと決めた瞬間から、決めては臨天魔法以外にない。ならば、これまでの戦いは全てそのためにある。」


 突如として、『魔王』サタナの身体がどこからともなく現れた黒い腕の形をした触手に縛られる。


 「これは冥界のぉ・・・!!」


 「縛り魔法は、これだから嫌いだ。青い炎の真価を発揮するまで時間と体力がもたん。」


 「青い炎ーーーそうかぁ、お前は水の都の出身者かぁ!!」


 「そんなとこ、知るわけがない。我輩の出身は魔法学校フィラウティア。友が守る砦の鬼だ。」


 「再生した腕の中、紋章は青く刻まれた。冥界の腕が貴様を縛り、我輩には時間が与えられる。」


 紋章の場所の公開ーーそれもまた、1種の縛り。場所を公開することによって、この魔法は解かれる可能性がある。


 しかし、その縛りのお陰で、冥界の腕は更に強くサタナを巻き付ける。


 時間は一瞬でも稼げればいいのだ。


 「臨天魔法。」


 サタナは闇魔法を展開し、最大範囲で兎に角攻撃を続ける。その攻撃は直に喰らってしまうが、血を流しながらもストラトスは詠唱を唱える。


 「 冥府の魂は青い炎で身を包む 其は守り手 其は魂の衣を操る者 青い炎は生者を拒む 祝福は無い 有るのは唯、命を燃やす灯火だけ 」


 「ふざけるなぁ!!この俺に臨天魔法を、こんな餓鬼がぁ!!」


 「 鬼の鈴音鳴る祭壇(コドン・ヴォモス) 」




※※※※※※※※※※※




 臨天魔法は、結界で囲み、その必中効果を活かすのが当然。

 生徒にもそう教えるし、事実それが最も強い戦法である。


 だが、ストラトスの臨天魔法は違う。


 同じ戦場を駈ける者として、『戦車』ギュムズ=ナシオンも違う。


 彼らは、戦場で一撃で何処まで敵を粉砕できるかに賭けている。


 故に、このような臨天魔法になるのは必然だった。だが、対象が1人だったら。戦場でそんな場面はなかった。たった1人に臨天魔法を使うなど馬鹿げている、すぐにリスクが起き、死に至るのが必然。


 しかし今は違う。ストラトスは、ここで全てを賭けている。だからこそ、普段の臨天魔法に、一味加えたのだ。


 地中から、更に無数の冥府の腕を顕現させる。青い炎を扱っているストラトスだが、それが何なのかいまいちよくわかっていない。しかし、今は考えることをやめた。


 兎に角扱えるし、それが何を掴もうとしているのかも分かっている。


 人の体の中には、青い炎がある。

 これが見えているのは、恐らく世界でストラトスただ1人なのかもしれないので何を言っているのかも皆は理解できないだろう。しかし、ストラトスはその青い炎に吸い寄せられる冥府の腕を利用出来る。


 目の前の『魔王』は巧妙に人体内の青い炎を隠していたので、無理やり青い炎の刻印を斬った腕につけて、冥府の腕を利用した。これをやる為に、随分と時間をかけたものだ。


 冥府の腕を使うためには縛りが必要。

 それは、自分の中にもある青い炎を握らせること。


 寿命を削ると言い換えてもいい。だがそれをしなければ、結界で囲まない自分の臨天魔法を『魔王』サタナ=クシファに当てることなど出来やしないと判断したのだ。


 「 鬼の鈴音鳴る祭壇(コドン・ヴォモス) 」


 無数の黒い冥府の腕に捕まれ、宙に浮かび続けるサタナ。神造人間であるが故に、魂を腕に掴まれることは無いが、動けないのもまた事実。


 魂ある者を掴み続けるその腕を振りほどくのには、近くに配置するべき魔獣の数を見誤ったのだ。


 「見紛うことなかれ。これが、『炎鬼』だ。」


 ストラトスの背後に現れる巨大な青い炎で出来た鬼。片腕に持つは、鈴の付いた大刀。


 「戦場を二つに割くほどの一振、たった1人に向けることなど想定していないが、どうなるかは見なくてもわかる。」


 鈴の音が、北の砂漠に鳴り響く。

 冥府の腕に押さえつけられ、声も出せないサタナは、ここ数百年で初めて自分の命が脅かされる感覚がした。


 巨大な『炎鬼』が、鈴の音と共に振り下ろした刀は、頭上から確実に『魔王』を捉えたのであった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 北の砂漠という名の氷の大地に、燃え続ける青い炎。その中で、一人の男が雄叫びをあげる。


 臨天魔法という必中効果を存分に発揮し、自らの寿命を削りながら『魔王』を捉え、血反吐を吐きながら漸く手にした勝利。


 普段冷徹な男も、雄叫びを上げるには充分すぎる戦果だった。




 ーーー相手が、悪かった。




 背後から感じた気配に、咄嗟に横っ飛びでかわしたのは素晴らしい。それで、致命傷は避けたのだから。


 「なぜ・・・!!」


 青い炎に巻かれて、燃え続ける氷の大地より、『魔王』は来る。

 その身は数百年ぶりに癒えぬ傷をもって、だけどそれもすぐに再生しつつ、まっすぐ立っていた。


 「余が権能を全土まで解放したのなど、実に数百年ぶり。貴様の成した事はそれほどまでの偉業だ。」


 普段ののろけた話し方とは全く違う。一人称も変わり、姿もまた大人びて成長している。


 「どうやって・・・回避したのだ・・・」


 「あれは元より冥界に巣食う神獣の腕。全ての魔獣の王たる余があれに囚われることなど本来有り得ぬ。」


 「我輩の一撃を喰らった筈だ・・・!!」


 「貴様の一撃はこの世界の強者に届き得る。誇れ、貴様は強い。相手が悪かったのだ。」


 癒えぬ傷ーーそんな、大層な傷口は、既に再生し修復された。あまりに理不尽で、救えない。


 「余の姿、魂となっても忘れるな。」


 サタナは腕を振り下ろす。

 それにどれだけの魔力が篭っているか、肌で感じる。唯の手刀で、死に至る。


 目を逸らさなかった。


 ストラトス=アンドラガシマは、強さを求めた。生きる強さ、守る強さ、誰かを殺す強さ。


 決断を自らに迫った時に、見守る強さ。それを成し得なかった時に、殺してやる強さ。


 そして、死の瞬間でも、生きる為に抗う強さ。友のために、約束のために生きることを諦めない強さ。


 目を逸らさずに、僅かに体を捻り回避する体勢を作ったからこそ、この結果が生まれた。


 「指先1本分、ホントのホントに、ギリギリセーフだな。」


 凍りつき、微動だにしない『魔王』サタナ=クシファが目の前にいる。死をもたらす認識できないはずの顔相を拝みながら、もう1人、突如として現れた男を見上げた。


 男は戻ってきたのだ。


 『冠冷』エルドーラが、間一髪で再び生きたストラトスと目を合わせる。


 「よく耐えた。後は、俺の仕事だな。」




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