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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章38話  青き炎の薪




 「君がストラトス=アンドラガシマかな?」


 人の目を見ない我輩が、唯一目を合わせた男。

 その男の目は、美しく七色に移り変わる、不思議な瞳を持っていた。


 「・・・無視しないでくれよ。」


 「なんだ。我輩は見ての通り勉学に励んでいる最中だ。」


 そう言って、読んでいた本に再び目を向ける。

 確かに珍しく人と目を合わせたが、今はそんなことどうでもよかった。


 確かな心底の苛立ちを抑えるのに必死だった。


 「ボックは君に興味があるんだけどなぁ。」


 無視して本に目を向ける。雑音は聞き流し、勉学にはげむ。


 「勝手に自己紹介をしよう。ボックの名前はダスカロイ、ダスカロイ=ドレイペ。よろしくね。」


 「・・・ダスカロイだと。」


 その名前を聞いた瞬間に、もう一度目を合わせた。


 「やっと、興味を出してくれたかな?」


 魔法学校フィラウティアの学科試験。そこで、ストラトスは2位だった。


 1位は、彼だった。

 それが、初めてダスカロイと出会った瞬間であり、まだダスカロイが『魔導王』になる前のお話である。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 数分闘って、わかったことがある。

 何の権能か理解できないが、彼は今無敵だ。


 当たったはずの攻撃はすぐに治癒され、大技を連発している。魔力も回復し続けている。


 戦うだけ無駄なのだ。


 それなのに、自分の流血は止まらないし、魔力も回復しない。権能が無かったら戦うすべもないだろう。


 「みんな頑張ってくれたのに〜ね。ボックがこのざまとはね。」


 「そうだ、お前が俺を抑えれなくて、この戦争は敗北する。」


 「だけど、わかったことがある。君は数分前から、焦ってるね?」


 余裕を持って自分を相手していた数分前とは違い、何故か今焦っている。理由は分からないが、彼が焦っている原因は理解した。


 「どうやら、ミス・プラグマとミスター・イロアスが何か企んでるようだね。」


 水魔法の感知をしながら、ダスカロイはニヤリと笑った。

 既に革命軍本部を脱出し、王朝に向かっている彼らには何か作戦があるのだと理解した。ここに来ても何も出来ないと判断した上で、何故か同行しているもう1人の『戦争』が鍵だと理解した。


 「君の動きが単調になってきたよ。数分前よりかわしやすいね。」


 「アルテミア、何のつもりだ。何をしている。」


 「君の妹は、どうやらこの戦いには反対みたいだね。」


 「黙れ。」


 地雷を踏んでしまったと言わざるを得ないが、今はイロアス達に目を向けさせない方が重要だと認識。この煽りは悪くないが、とことん自分が道化と言わざるを得ない。


 なんたって、彼の妹は自分たちが閉じ込めたのだから。それを煽りに使うなんて、馬鹿げている。


 「ストラトスが居れば怒ってくれるんだろう〜ね。」


 道化に似た喋り方も辞めない。この現状の自分を怒ってくれる。


 「ストラトス=アンドラガシマか。奴はすぐに死ぬ。」


 「・・・聞き捨てならないね。どういう意味だい。」


 「間もなく、北に決着がつく。そして魔獣の群れは南下し、砂漠を走っている奴らは皆殺しだ。」


 「ストラトスをなめないでくれ。」


 「相手が悪い、かの『魔王』を止めるすべなど、人間には無い。」


 「なめないでくれと、言っている。ストラトス=アンドラガシマは、『魔導王』の炎魔法の知識全てを使っても、勝てないと断言する、最高の炎魔法の使い手だ。」


 「『魔王』には通用しない。闇は全てを飲み込む。」


 「ボックの、友を侮るなよ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 アンドラガシマ家は、騎士の家系である。ナシオン家よりも遥かな貴族であり、その実力は水魔法を使うスニオン家と肩を並べる。


 彼らは、1番では無い。そこはスニオン家には勝てない。


 彼らは常に2番手だった。


 「2位・・・」


 学科試験の結果が出た時は、また2位かと、愕然とした。アンドラガシマは呪われているのかと思った程であった。


 スニオン家には長い歴史の中でも特に才がある男が生まれたと聞いた。だが、負けじとアンドラガシマ家でも類稀なる才能を持った男が生まれた。


 ストラトスは、後に王朝最強の『大将軍』となるエナリオス=スニオンと拮抗するほどの才能を持って生まれたのだ。


 「1位が何の用だ。煽りに来たのか。」


 悪態をついたのは、1位でヘラヘラしているこの男が許せなかったからだ。どこか抜けているような気配を纏いながらも、強者はその歪さに気づく。


 大した地位のないある家系から、七色の属性を持つ稀代の天才が生まれたと聞いたことがあった。


 王朝から這い出た3人の才能ありし者。同時に現れたことは、世界が望んだのだと言われるほど珍しいものであった。


 エナリオスという男は魔法学校には通わないことを選択したが、ストラトスともう1人の天才は魔法学校を選んだ。


 同じ世代に生まれた2人の才ある者が、邂逅したのだ。


 「凄い勉強量だね。ボックにはできないや。」


 「煽りのようだな。貴様は1位だろう。」


 「その順位で呼ぶのやめないかい?ボックにも名前があるんだけどね。」


 その指摘は、自分が順位を気にしているように聞こえて不快だった。図星だったかもしれない、それでも、それを1位に言われることが腹立たしかった。


 一族の才ある者として、ここに送り出された。恥ずかしい真似など出来ない。


 「それにしても、今年はレベルが高いそうだよ。交流として来ているアナトリカ王国にも天才が居るって話だよ。確か名前はシロギーー」


 「興味が無い。」


 それからストラトスはダスカロイを無視した。

 でも、ダスカロイの方はストラトスを気に入ったのか、積極的に話しかけ続けた。


 ストラトスが無視し続ける中、実技の訓練があった。

 そこで、ストラトスは知ってしまった。


 「そうか、お前が全属性の・・・」


 稀代の天才が、エナリオスと共に自分の上にいる。アンドラガシマ家として、それは恥であった。


 「ボックは確かに全属性の才能があるみたいだが、君のような個を極めた者には勝てない。」


 「励ましなど要らん。貴様はつくづくーー」


 「励ましじゃないよ。」


 その日初めて、ヘラヘラと笑っていない彼を見た。


 「君は、ボックを殺せる。」


 その言葉を本気で口にしている。そこにストラトスは驚いた。なんの躊躇いもなく、自分を殺せるなど、普通は言うものでは無い。


 「・・・お前、何のつもりだ。」


 「言葉の通りだよ。ボックを殺せるのは君とエナリオスだけだよ。でも、殺されるなら君がいいな。」


 「さっきから、何故自分が死ぬ前提なんだ。」


 「ボックは、望まれて生まれたわけじゃないからね。」


 そんな事を言っていても、ダスカロイの眼は哀しさなどなかった。それが、この上なく腹が立って仕方なかった。




 走馬灯ーーーでは無い。

 少し昔を思い出しただけ。


 流血が酷い。目の前が霞む。


 「腹立たしい。」


 ジュワァァァーーー


 肉がやける音が氷の大地に響き渡る。嫌な音だが、それは必要なこと。


 倒れる訳にはいかないから、必要なこと。


 「そこまでするぅ?もう充分頑張ったよ、人間にしてはぁ。」


 「ここを通すわけにはいかない。ダスカロイがまだ戦っている。」


 「さっさと殺しにいかないと、もう1人の『戦争』が邪魔なんだよなぁ。どけてぇ?」


 「退くわけがないだろう。部外者が、我輩の友の邪魔をするな。」


 そう、我輩はーーーあの日から、ダスカロイを友として認めたのだ。

 友を救うと、奔走したのだ。


 今もそうだ、ストラトス=アンドラガシマは、1位でなくていい。1位を支えれば構わない。


 青い炎が、天を差す。

 真っ直ぐに、天高く燃え上がるその美しい炎は、かの『魔導王』が褒めたたえた、唯一無二の個。


 「何度も見たよぉ。ただの火力が高いだけの効能だぁ。確かにその効能を持つものは遥かに少ないが、決して俺に届くものじゃないぃ。」


 「お前は強い。恐らく『戦争』よりも強いが、この西の大国ではお前の力を存分に発揮できないようだな。」


 「はぁ?何を言ってーー」


 「『冠冷』が凍結させた魔獣と貴様の繋がり。そして、西の大国特有の砂漠地帯は魔獣が住める大地では無い。」


 『魔王』が黙る。


 「貴様、無限の魔力パイプが無くなっただろ。そして、再生力も落ちているな。我輩が付けた火傷傷がまだ治りきっていない。つまり、我輩の高火力は貴様にとって最悪の相性だ。」


 青い炎が、ストラトスを包む。

 背後から感じるダスカロイの期待。それに応えるために、奔走する。


 道化が得たただ1人の友が、命を懸けて奔走するのだった。




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