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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章36話 閉じ込められていた少女




 1000年前、女神テディアは、同じ女神であり世界を滅ぼそうとする女神ヘレンに対抗する力として7人の選ばし使徒に、権能を与えた。


 『魔導王』と後に称したスコレー=フィラウティアには、『知識の保管』の権能を与えた。


 その権能は代々『魔導王』を象徴するものとして受け継がれていった。だが、その真の力を発揮する者は2代目のアラクシア=フィラウティア以降現れなかった。なぜなら、知識はあってもそれを成し得る魔力量と属性が伴わなかったからだ。


 しかし、その杞憂も、900年ぶりにこの世界に生まれ落ちた全属性の適正を持つ天才によって無くなった。2代目以降、ようやく『知識の保管』はその真の力を発揮するのだった。


 だが、ある者は憂う。

 その権能は万能などでは無いことを。他の権能がどれほど理不尽なまでの力を有しているかを。


 「済まないね、ダスカロイ。この権能は、ただ私の知識欲を満たすためだけのものだ。」




 膨れ上がる魔力に、稀代の天才ダスカロイ=フィラウティアは初めて、『厄災』を知った。


 こんなことがあっていいのかと、そう考えざるを得ない程の、圧倒的魔力量。


 「『厄災』の権能はそのどれもが理不尽であり、そのどれもが容易く世界を殺すものだ。かの女神が世界を滅ぼすために与えた力。」


 膨らみ、それは留まることを知らない。

 与えたはずのダメージは、みるみる回復し、何事も無かったかのように全てが再生する。


 光の鎖で押さえつけていた影は再び動き出し、光の柱は闇に呑まれていく。


 権能の解放ーーただそれだけで、現状の何もかもをひっくり返した、ひっくり返ってしまった。


 「一切の不純物のない、この戦争への確かな想い。貴様らは随分と幹部を屠ったようだ。」


 「それはどういうーー」


 「リディア、サン、リンピア、ロドス、ハリカル。7人いた幹部を5人落とされた。だが、まだ亜人が2人残っている。」


 「その言い方、君の権能は周囲に影響されるようだ〜ね。」


 「このカラクリ、解かなければ戦争は終わらない。世界の国境は無くなり、1つの荒廃した大地のみが現れる。」


 「わからないな、君は世界を滅ぼすためにこの戦争をしているのかい。」


 「俺は『厄災』だ。理由など、それで充分だ。それを理解し得ないということが、貴様らが何も知らないことを露呈する。」


 「君は、『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカだ。王朝を滅ぼす、それに足る理由を持つ『厄災』。」


 「違う。俺は、世界の敵であり、世界そのものだ。王朝を滅ぼすことは、ただの個人的な恨み節で、滅ぼそうとしたものがたまたま国そのものだった。故に俺は『戦争』。国を滅ぼす事が出来るのは、いつだって『戦争』だろう?」


 ようやく、彼が何者か掴めそうな気がした。

 このよくわからない質疑応答のやり取りが、ダスカロイというおよそ『使徒』として働かなかった空白を埋めようとしてくれている。


 『厄災』とは何か、それを知らなければ、権能の何かを見出すことなど出来ない。そう、確信してしまった。


 「まずいね、これは。」


 「漸く気づいたか。もはや詰んでいる盤面は、貴様ら『魔導王』の怠慢だ。勝てない勝負に勝とうとしている癖して、その勝てない理由が自らの業であることを知り得ないから、俺は貴様を道化と呼ぶのだ。この覆せない程の盤面こそが、貴様らの業とやらだ。」




※※※※※※※※※※




 「初めまして、イロアス。私はアルテミア=ボラデルカ。もう1人の『戦争』よ。」


 イロアスは沈黙した。いや、沈黙してしまった。

 わかっていた、わかっていたからこそ、沈黙したのだ。


 結晶の中に閉じ込められ、無限の魔力を生み出し続け、この亜人と人とを分かつ結界を維持し続けてきた。自分の意志とは関係なく。


 そんな悲劇の子から、こんなにもにこやかな笑顔が見れている。

 自分が目の前にいたのに救えなかった少女から、こんなにまばゆい笑顔が見れている。


 だから、黙ってしまった。


 「・・・?はじめましてじゃなかったかな?」


 「いや、はじめまして。イロアスだ。」


 そのぎこちなさを無視して、目の前のもう1人の『戦争』は話を続ける。


 「会いたかったよ、精霊さんがあなたのことばかり話すから。」


 「そうだ!セア、よく無事でいてくれた!」


 「遅い!!」


 ほっぺたに蹴りをくらいながら、目先の幸福に1度手を伸ばす。学校で攫われてしまったセアとの再会。これで、目的の1つを達成した。


 「セア、何か書物みたいなものを見なかったか。」


 「見たわよ。でもそれは、恐らく北に持ってかれたわ。あれは何だったの?」


 「『厄災の箱』の在処を示すかもしれない、スコレーの記憶だ。」


 「・・・そう、あの子は本当にーー。」


 「あの子?」


 「なんでもないわ、とんでもないものが敵に送られたわね。」


 「ねぇ、そろそろいいかな?」


 少し目を離したすきに、リディアに頭を撫でられて膝枕をしてもらっている、威厳のない『戦争』が話しかける。


 「確かに『厄災の箱』が彼らの手に渡るのは防ぎたいと思うけど、今はそれよりもお兄ちゃんを止めることの方が優先なんじゃない?」


 「・・・あんたなら、止めれると?」


 「んーん、止めるのはイロアスだよ。イロアスにしか止められないの方が正確かな。」


 「どういう意味だ。」


 「『魔導王』にできることは、お兄ちゃんと渡り合うことだけ。でもね、無限の再生力と溢れ出る魔力がある限り、勝利は無い。」


 「それが『戦争』の権能か。」


 「そう、代償を支払うことによるものだけどね。でも、今のお兄ちゃんからすれば、子守唄くらいの代償だけどね。」


 「代償ってなんだ。」


 ずっと笑ってたアルテミアが、初めて目の奥で悲しさを表に出した。


 「屍人の怨念が、絶えずお兄ちゃんの精神を汚染し続ける。」


 「・・・は?」


 「『戦争』だもん、屍人は必然。その怨念の全てを背負うことと引き換えに、戦場にある信念を魔力と再生力に変換する。」


 「なんだよ、『戦争』だもんって・・・」


 「救いたいと、今思ったでしょ。」


 確かに、思った。ずっと思っていたが、その気持ちがさらに強まった。人の怨念を一重に受けるなんて間違っている。それは、分かちあうものだとそう思っているからこそ。


 「すごいね、精霊さん。本当に『厄災』にも平等に救いたいと思えるなんて。」


 セアは、凄いでしょと言わんばかりの笑顔を見せたが、少し悲しそうな眼をしていた。

 なんでかはわからないが、とても悲しそうな瞳をしていた。


 「『魔導王』は確かに自分の業と決別した。でも、そんな彼も止めることはできない。ずっと学校という殻に閉じこもっていた彼には、『厄災』を知る術なんて無かったんだから。」


 「なぁ、『厄災』ってなんなんだ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「『戦争』が漸く権能を解放したなぁ。これで終わりだねぇ。」


 氷の大地となってしまった北の砂漠。突如として咲いた無数の花の香りだけが流れる大地。


 決して溶けない氷の上で、赤く赤く、炎は燃えてーー


 「もう、喋れなくなっちゃったかなぁ?・・・あれ、名前なんだっけぇ?」


 ーー燃え尽きて、赤く染まるのは、『炎鬼』の血溜まりだけだった。




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