第3章35話 道化の業
イロアスの臨天魔法は未完成ではあるが、結局その仕組みは変わらない。
使用したその後、魔力回路はオーバーヒートを起こし、魔法が数分使えなくなる。
その縛りに対しての対価が、必中なのである。
イロアスは、そこに更なる縛りを設けた。
「あんたが俺に救いを求めること。それが出来なきゃ俺は1日魔法が使えなくなる。」
さらに死に直結させることによって、魔力を無理やり動かす。
それが、イロアスの編み出した臨天魔法後に魔法が使える仕組み。
「イカれてるわね、そんなの。」
「皆が助けを求めてる。それが心の内だけでしまい込んでいようが、助けて欲しい瞬間は必ずある。俺はそれを見逃したくない。」
「君は、心の内をどこまで見透かしてるのかな。」
「何も見えてないから、その人の言葉で聞きたいんじゃねぇか。」
「・・・君の力を貸して。私はこの権能で成しえなきゃならないことがある。君がいれば、きっと実現する。」
「決めたのか、もう、揺らがないのな。」
「揺らいでたわけじゃない。私は主君に尽くす一族よ。あれが『厄災』なのか、はたまた『主君』なのか、それが全て。」
「それは間違いよ、リディア。」
どこからか声が聞こえた。
初めて聞いた声、だけど、知っている。
水魔法は今は使っていなかったが、その後聞こえた声に、もう1人の確信を持つ。
「ロアーーー!!!」
囚われていたはずの精霊セアが、漸くイロアスの元に戻る。そして、突入時点で捉えていた2人の波を、よく思い出す。
「あんたは、もう一人の『厄災』。」
「初めまして、イロアス。私はアルテミア=ボラデルカ。もう1人の『戦争』よ。」
本人に自覚は無い。
しかし、漸く停滞した世界が動き出す歯車の音が鳴った。
『厄災』と『光の子』が、初めてまともに会話を重ねるときが来たのだった。
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地下5階ーーいや、もはやこの表現は正しくない。
エピス=ピュロンによって地下から無理やり外に出された革命軍本部に、地下は1階分しかない。
エピスが引きずり出すことが出来なかった、いや、ハリカル=マウソロスが守り抜いた最深部、そこでこの世界の停滞を動かす最初の戦いが始まっていた。
もはや革命軍本部内で戦闘はここしかない。
革命軍本部を守ろうと散りばめられた僅かな亜人の戦闘員は、イロアス、リア、『魔導王』によって簡単に殲滅。
門を守っていた第4席『墓守』は過去の因縁に涙を流し天に許しを乞い、
第6席『幻霧』はリアによってその霧を晴らし、
副司令官はイロアスの中に英雄を見た。
「全ての戦場に決着が着いたようだ〜ね。」
僅かに苦い顔をするが、それすらも些事に過ぎないとばかり、不敵に笑う。
「何処で決着が幾つ着こうが、この戦いの勝者が全てを手にする。他は全て前座に過ぎない。この俺がいる限り、『戦争』は終わらない。」
「君は勘違いをしている。全ての戦いの決着こそが、この『戦争』の鍵を握るの〜さ。無駄な戦いなどあるはずがない。」
影が空間を埋めつくし、7色の光がそれを照らす。
ありとあらゆる事象が起きかねないこの空間には、世界に選ばれし2人の猛者が集う。
『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアと、『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカ。
『厄災』と『使徒』の、巨大な戦いが1000年の時を以て初めて開戦したのだ。
7色の魔法の玉が、ダスカロイの周りを展開する。
世界に選ばれたと言っても過言では無い、全属性の使い手。
弱点となる属性はなく、凡そ全ての効能すら可能とするまさに魔導の王。
あらゆる魔法がマギアに向かって放たれる。
即興で、魔法を組みあわせて新しい魔法を作り出す。
対するは『戦争』マギア。
世界を意味する7色の魔法は、たった1色の黒に呑まれる。
影が、何もかもを呑み尽くして、全てを黒に染める。
「厄介だな・・・どうしたもんか〜ね。」
マギアの黒い影は、影という存在の捉え方がよく反映されている。
影とは、どこまでなのか。
表面上にだけ現れている、云わば2次元の存在であるのか普通であろう。
しかし、影の下に、無限に続く空間があったとしたらーー
それを知る術は誰ももたないのであったらーー
影は無限の領域を持つ。
何もかもを呑み込み、そのキャパシティは誰も知る術がない。マギアですら、どこまで呑み込めるのか理解していない。
影の定義を書き換え、広げる。
「今のところ、光すらも呑み込んでしまっているが・・・光が弱点であることは明確。」
7色の魔法の展開を続けていたが、それらしい弱点は見つからなかった。であれば、本質的な弱点を突くのみ。
「あまり得意じゃないが、この『魔導王』という2つ名は伊達じゃないよ。」
全ての属性を使えるということが、『魔導王』の権能をどれだけ引き出せるのか。
この世全ての魔法を習得したと言われる初代『魔導王』スコレー=フィラウティア。その全ての知識は代々『魔導王』に受け継がれていく。
「権能解放ーー知識の書よ、具現せよ。願い込める書物」
100を超える本が再びダスカロイの周囲に現れる。強欲によって満たされた知識が、書物として具現化する。
「光魔法、妖精の宴」
無数の光が部屋を満たす。
無造作に動き続け、影は一定の形を保てなくなる。
「鬱陶しいな。呑め、黒より深き海」
「それは1度見た。」
数冊の本がマギアによって生み出された巨大な影に向かう。既に先んじて放たれた光魔法によって、学校の時ほど形を保っていないが、徐々に光を蝕んでいる。
だが、本から放たられる新たな光魔法がそれをかき消す。
「4聖柱」
「聖なる伊吹」
「聖鎖」
突如として4本の光の柱が現れ、発光する。影はそれぞれの柱と2人の背後にのみ現れ、他の海のような影は消えてなくなる。しかし、光あれば影はある。
消滅させることは出来やしない。
そのための、2つ目と3つ目の魔法。
光の属性をもつ霧が部屋中を満たす。
「そして、黒は縛られる。数個の影程度だったら、ボックでも抑えつけられるかな。」
柱は光を発し続け、部屋は聖なるエネルギーに満たされ、数少ない影は鎖によって縛られる。
「さて、君は影魔法だけを使い続けているようだが、本来の力を出してくれないかな。」
「・・・」
「与えられているはずだ、君たち『厄災』には、権能が。」
「全力を引き出させて、何が望みだ、道化。」
「全ては、『魔導王』の業のため。」
「大きく出たな、道化。『厄災』を生み出しておいて、1000年もの間静観し、今になって邪魔立てをするか。『魔導王』の行いは全てが矛盾する。そして貴様はこれまでに無い飛びっきりの矛盾を抱えた道化よ。」
「君たちを救いたいと願いながら、君たちを滅ぼす。もちろん、自分の道化っぷりには嫌になってるさ〜ね。」
「道化如きの業ーー何も救えぬ。」
「道化には、道化なりに貫き通す業があるのさ。自分の心を壊してでも、成し得なければならない責務がある。『魔導王』という名の道化の業に、今日決着をつける。そのために、君には全力で挑んでもらわなければ、この業は煮えたぎって終わってしまう。」
「・・・道化、後悔するなよ。」
「してたまるものか、これ以上。」
マギアに、大きな力が宿る。いや、元々持っていた力を、ようやく解放する。
聖なる鎖で抑えていたはずのマギアの影が、鎖を引きちぎって歪み始める。
そして、真っ直ぐ道化を見つめて、ある宣言をするのだ。
「権能、『果てぬ想い、朽ちぬ呪い』」




