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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章33話 進化し続ける鬼才




 1人となってしまった水槽の中で、泳ぐことすらせず悠々と1つの足場に立ち尽くす者がいる。


 戦闘に集中していない訳では無いし、相手を侮っている訳でも無い。寧ろ、相手はこれまで以上に厄介であるとさえ思っている。


 英雄ならんとする願望を持つ少年。その意志は既に確立され、揺らぐことは無いだろう。


 それは既に、この戦いが始まる前に確かめた。


 「『魔導王』は、彼に救われた。」


 彼らの背負う業は知っていた。他ならぬ被害者である主君からの教えと、自分の血筋の記憶から。


 堕ちたままの『魔導王』であったならば、この戦いは戦いにならなかっただろう。あれの存在はでかく、主君を止めることが出来る唯一でもある。


 特に、今代の『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアは特別だ。最早生まれることは無いだろうとまで言われた全属性の使い手であり、この業を断ち切った器の持ち主。


 そんなあなたが、今は憎い。

 あの時の『魔導王』が貴方であったならばと、そう思って仕方がない。


 それと同じくらい理不尽な怒りを、イロアスという少年に充てる。


 あの時あの瞬間、君がいたならばと思って仕方ない。


 「君ならーー」


 そう、自分でも知らない間に呟いた小言に、思わず口を噤んだ。


 ーーそれはだめだよ、リディア。

 それは、主君への否定だ。


 俯き、瞳を閉じ、思考の沼に自我を落とす。

 何度も溺れ、何度も這い上がり、分からぬままここまで来た。犠牲は何人もあった、その上でいまここに立つ。


 「私は、負けられないし、負けてはいけない。」


 「残念ながら、俺もだ。」


 部屋に満たされた水が消えていく。

 1人の少年の掌に、凝縮されて小さな球体となる。


 「あんたにもさぞ重い信念があるだろう。だけど、それを全部壊してでも止める。」


 「口だけではなく、やってみせてちょうだい。」


 大剣に再び力を入れる。

 握られたその握力が、この戦いの迷いがないことを物語る。全ては、結果に任せよう。


 大剣という重さを利用して、凡人ではかわせぬほどの太刀が空を切る。

 恐るべきはその権能ーー常人には理解できない世界の理の外にある異能。


 大きく息を吸って、イロアスは全速力で駆け巡る。

 また斬られるだろう空間から逃れるために。


 駆け回りながら掌に凝縮させたままの水をリディア目掛けて撃ち抜く。だが、既に斬られている空間によって、その魔法は弾かれる。


 一度形を持った空間の中に閉じ込もったら、なにも通らなくなってしまうのか。


 ・・・引っかかる。


 無敵の絶対防御の謎をとかなければ勝利は無い。

 その解の端切れは見えても、引っかかるだけ。


 一体何を斬ったのか。


 元来、イロアスは戦闘において難しく考えるような男ではない。だが、彼はこの学校に来て革新的に変わった。




※※※※※※※※※※




 「何だそれは、イロアス。」


 「何だって、何が?」


 「その考え無しの愚行はなんだと言っている。」


 それは炎魔法の授業中に、ストラトス教授から指導を受けていたときのこと。


 「威力を高めようとしてーー」


 「それで。」


 「威力の高い炎魔法と言えば爆発だろ?」


 とにかく体育館を爆破させて、大火力の魔法について開発していたとき、ストラトスはイロアスを見て告げる。


 「たしかに、威力の高い効能と言えば爆発だ。広範囲におよび、爆発によって生じる炎、熱波、それらは敵に大きくダメージを与えるだろう。」


 「じゃあいいじゃないですか。」


 「その魔法の発動に、何秒かかっている。発動はそんなバレバレでいいのか、フェイントはできるのか、応用は効くのか、効能を組み合わせることは出来るのか、水魔法の入る余地は。」


 「いや・・・まだそこまで考えてないけど・・・」


 「だから愚行と言っている。あらゆる物事を思考しろ。常に強敵をイメージしろ。その魔法で勝てるのか、はたまた大事な人を守れるのか。」


 ストラトス=アンドラガシマという、戦場を幾度も経験する1人の教師からの熱烈な指導。

 多くの人の死を目の当たりにし、たった一人の友人を何とかしようと模索する男の指導は、誰よりも響くことだろう。


 イロアスは、人をよく見ている。ストラトスのような何を考えているのか悟られないようにしている人にさえ、その心の奥底を見抜くような眼を持っている。


 だからこそ、イロアスは思考する。そんな男が熱を持って指導したのだ。


 それは、正しいことに決まっているし、これから先に必ず求められる能力。


 そして、イメージする敵は常に、あの男。顔も出てこないが、2度邂逅した強敵の中の強敵。


 ーーー『魔王』サタナ=クシファ。




※※※※※※※※※※※




 思考しろ。


 その魔法の効能、範囲、属性、目的、縛り。その権能の範囲、制限。


 幾度となく魔法を弾くその空間は、決して形を与えただけじゃ成り立たない。


 空間というものの何の機能を斬ったのか。無形の機能を斬ったと思い込んでいたが、それは不正解。


 「そろそろ、追い詰めようかな。」


 リディアは、正解を待ってくれない。思考の完結を待ってはくれない。


 大剣を自分の前だけ振り下ろし、また何かを斬る。

 息は吸える、酸素では無い。


 だが、リディアが1歩を踏み出すだけで、数メートルあったイロアスとの距離が縮まる。目の前には急に現れたリディアと、死の予感。


 思考は停止。リディアのもう片手から放たれた光の矢を超至近距離で回避ーー


 無数の矢がイロアスを襲い、何本も掠りながらなんとか回避する。超人的な身体能力あってこその回避。


 ならばと、リディアは再び剣を振るう。その瞬間、光の矢は速度を増すのだ。


 咄嗟に展開した水魔法で流れを外に促したが、その速度では僅かな影響しかもたらせず、


 「やっと、君の限界が見えてきたね。」


 光の矢が、イロアスの左肩を撃ち抜いたのだった。まるで脱力したかのように左腕に力が入らない。ぶらんぶらんと役に立たなくなる。


 こんな好機はない。リディアは再び大剣を振い、その後光の矢を装填する。


 無数の矢が、本来有り得ぬ速度でイロアスに放たれる。初めに見た時よりも数倍ーーいや、数十倍の速度でイロアスに到達する。


 無数の矢で体を串刺しにされるーーそれは、死の予感。


 「跳ね除けてこその英雄だろ。」


 右の拳には炎の魔法。その効能は、


 「リア、お前の得意分野借りるぜ。」


 革命軍本部を揺らすほどの大爆発。範囲は自分を含むその部屋全て。


 咄嗟に斬った空間によって、リディアは辛うじて守られるがーー


 「これ、防いでみろよ。」


 爆風から本来有り得ぬ速度でリディアの元まで到達したイロアスは、光の矢を全て吹き飛ばして、再び右拳に炎魔法を宿し、思いっきり殴る。


 斬られて攻撃が届かないはずの空間は、拳によってあっさりと破られた。


 鳩尾を炎魔法を宿した拳で殴られ、後方に吹き飛ばされる。血反吐を吐きながら、イロアスを睨む。


 「とんでもない才能ね、普通物理で来ないでしょ。」


 「斬ったのは空間じゃなくて次元だろ。見えない壁が生まれただけかと思ってたけど、俺の魔法はまるでどこかに飛ばされたかのように、斬られた空間に触れた瞬間に弾けた。普通は後方に流されたりするのに、どこかへ行ってしまったかのように弾け飛んだ。」


 違和感は、最初に水で満たした時。

 空間の無形の機能を斬ったのであれば、そこには有形が存在し、水は避けるように流れ落ちる。


 だけど、避けているように見えていただけ。


 「次元が違うんだ。そこには歪みが生じる。水で埋めつくした空間に、水が全く流れない次元を作り出しただけ。そして、対象は限れている。」


 「・・・例え対象が限られているとはわかっていても、拳で殴りにくるなんて狂気の沙汰よ。腕が吹き飛ぶかもしれないっていうのに。」


 「吹き飛ぶわけないだろ。その権能は対象を絞ることでしか斬れない。」


 「よくそこまで見抜けたものね。侮ってたつもりなんて無かったけど、ここまでとはね。」


 「相手するのは俺で3人目だろ。あんたは、権能を見せびらかせすぎた。舐めるなよ、あんたが相手してきたのは、王朝のトップクラスの魔法使いだぞ。」


 人との繋がりが、イロアスをここまで成長させた。ここまで戦うことが出来ている。


 「それを、断ち切るのが私の権能よ。その繋がり全てを斬る。」


 「俺が負けるってことはそういう事だ。だけど、負けないよ。そんな本気じゃない言葉で、俺を倒せると思うな。」


 本当にこの子は、どこまで見ているのか。

 心の内をさらけ出される感覚ーーー


 「君は英雄になれるよ。でも、それは今日じゃない。」


 「今日も明日も英雄になるさ。今日は、あんたの英雄になる。」




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