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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章8話  入団試験




 今日はイロアスがレフォー孤児院を出て10日目。


 つまり、騎士団の入団試験当日である。


 「行くわよ!ロア!」


 「さぁ行こうか、イロアス君!」


 「頑張ってよ!!」

 「頑張ってね!」

 「しっかりやってこいぞな!」


 みんなの応援の声を聞き、俺はより一層緊張感を増した。今日この日をどれだけ待ち侘びたことか。


 『英雄』への道。その一歩目を絶対に挫くわけにはいかない。


 腰に一本の剣を差した。それはミテラ叔母さんから預かった大切な剣。スタフと彫られた剣。

 その剣を指でなぞり、俺は気合を入れた。


 「ミテラとの契約はここまでだよ。試験の合格発表はその場で行われる。落ちてここに帰ってきてもあんたの居場所はレフォー孤児院だ。即刻帰ってもらうよ。」


 クルーダ叔母さんのこの現実を叩きつける言葉が、逆にイロアスに再び気合を入れた。


 「合格したら、満面の笑みで帰ってきますよ、クルーダ叔母さん。」


 「さっさといきな。」


 そう宣言して、俺とセアとミューズは閑古鳥を後にした。






 「母ちゃん、今年の試験は・・・」

 

 「あぁ。本当に最悪な試験官だよあいつは・・・生きて帰ってくるんだよ、バカども。」


 アゲラダとクルーダの、不可思議な会話は3人には聞こえなかった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「まずは適性検査を受けるんだ。そして番号札をもらう。これがいつもの流れなんだ。」


 「適性検査?」


 「魔力の属性と量を正確に測るんだ。魔道具の水晶に手をかざして、光の明るさと色で測定する。光が明るいほど魔力量は大きくて、属性は色は見ればわかるよ。イロアス君は炎属性だから、赤色かな。」


 魔力を測る。あまりいい気はしない。


 イロアスは元々魔力が全くない少年だった。命懸けの戦いから持って帰った戦果が魔力。あの時何もなかったら、きっと彼はこの適性検査すら通り抜けれなかったんだろう。


 それにしても・・・


 「こんなに試験候補生がいるんだな。」


 そうやって、イロアスは長蛇の列を眺めていた。


 「この中で何人受かるのかは試験要項にも明記されないんだ。試験官が認めた者にのみその場で合格が言い渡される。」


 「じゃあ0人もあり得るってことか?」


 「うん。ただ近年『厄災』の動きが活発になってきている。騎士団は人手不足だ。今年度0人なんてことはないと思うけど・・・どうだろう、試験官次第だね。」


 「試験内容もわかんないもんなぁ。」


 「試験官によって変わってしまうからね。基本的に試験官は師団長クラスが担当するんだ。過去には試験官に挑戦するっていう試験で、総隊長を指名して合格を勝ち取った人もいるらしいよ。」


 列に並びながら2人は試験について話して時間を潰した。そしてようやくイロアスとミューズの番が来た。


 俺とミューズは予め用意しておいた受験票を受付に渡す。


 「ようこそ、それでは魔力適性検査を始めます。まずはロダ家のミューズ様、この水晶に手をかざしてください。魔力は込めなくて結構です。水晶が身体を検査し魔力量と属性を測ります。」


 受付のお姉さんが丁寧に説明してくれる。この人は亜人差別をしないのか、名家だから丁重に扱っているのか、どっちなんだろうかとか考えてしまっていた。


 あの生意気なお嬢様とあった時から、そんなことばかり考えてしまう。いや、今は試験に集中しよう。


 ミューズが手をかざすところを見る。すると水晶は青色に大きく光り始めた。


 「素晴らしい魔力量です。属性は水ですね。ではこちらの番号石を胸につけてください。それではお次、レフォー孤児院よりイロアス様、どうぞ。」


 俺も水晶に手をかざす。俺はミューズの言う通り綺麗な赤色に輝くんだろうなと思っていた。すると水晶は思いもよらぬ光を発した。


 それは黒の光。透明な水晶を埋め尽くす漆黒の光。


 それは有り得ない矛盾だ。黒とはあらゆる光を吸収する色。黒色の光など()()()()()。しかし目の前にあるのだ、説明がつかないのだ。


 「なんで・・・」

 「そんなはずは・・・」


 「これは・・・無属性・・・でもそんなはずは・・・」


 みんな驚嘆するほかなかった。周囲の受験生も騒ぎ始めるほどの混乱。セアですら驚愕する。

 驚きのあまりに固まってしまったミューズが、声をあげる。


 「そんなはずはない!だって彼は炎魔法が使える!僕と鍛錬していたんだ!赤色に光るはずだ!」


 ミューズの必死な弁明に呼応して、イロアスは受付の女性に炎魔法を見せた。その輝かしい赤色の炎を。


 「確かに炎魔法ですね・・・では水晶の故障・・・?とはいえ、魔法は確認できました。ではこちらの番号石を胸につけて前へお進みください。失礼しました。」


 なぜ、あの水晶は・・・。俺はそれについて深く考えていた。俺は炎魔法を使える。あの日、俺の魔力は発現したはずだ。だがあの水晶は、漆黒を示した。


 「イロアス君、きっと水晶の故障だよ。だって君は炎魔法を現に使えている。それに、黒色の水晶が光るなんて本来あり得ないんだ。」


 「なぁミューズ、黒色って・・・」


 「古来ただ一人のみ観測された色だね。漆黒の水晶は、無属性を意味する。つまり、どの属性にも当てはまらず、魔力がないことを示す色。ただあれはあり得ないんだ、黒色が光るなんて。だって光るってことは、魔力があるということなんだから。」


 「ただ俺は元々魔力がなかったんだ・・・」


 「でも現にイロアスくんは炎魔法が使えるんだ、気にする必要はないよ!」


 確かに、今は考えても仕方ない。あれは水晶の故障だということにしよう。今はそう、試験に集中しなければならない。


 困惑した受付のお姉さんから案内された先は、大きな広場であった。ゆうに孤児院が丸々入るほどの大きさ。そんな広場に、何百人も乗れそうな大きな飛行船がある。一体何が行われるんだろうか、そう考えたらワクワクしてきた。


 あの長蛇の列が全て適性検査を終えるまでのしばらくを待った後、飛行船から白いコートを羽織った2人の男が出てきた。一人は高身長で鉄製のマスクをしている男。そして、もう一人は、


 「ーーエナ=アソオス。」


 不穏な笑みを浮かべた紺碧の眼をした男ーーエナ=アソオスは、何か魔道具を持って広場に向かって話し始めた。


 「あーあー、マイクテスト、マイクテスト。さてさて、ようこそアナトリカ王国騎士団入団試験へ。僕は第2師団団長エナ=アソオス、こっちは副師団長のオル=パントミモス。よろしくね。」


 始まった。ついに始まった。


 だが最悪だ、よりにもよってあいつが試験官だなんて。いまだに『魔王』の線を疑っている男が出てくるなんて。


 「毎年試験官は変わるんだけど、今年は僕が担当するよ。実は初めての試験官なんだけどよろしくね。じゃあ早速だけど、君たちにはこれから試験会場に移動してもらうよ。いきなり試験会場に集めなかったのにはちゃんと理由があるんだ。これから行き先を先に発表する、その場所の名前を聞いても試験に臨むものだけが飛行船に乗るといい。」


 周囲が騒ぎ始めた。それはそうだ。場所の名前を聞いて怖かったら帰ってもいいよと煽られているんだ。ここにそんな生半可な覚悟を持った奴がいるわけない。


 「場所は『永久凍土スクピディア』。かつて『厄災』が一翼『孤独』が暴れ、封鎖された島。」


 その島の名前を聞いただけで、周囲は怒りを含んだ罵声をエナに浴びせた。


 「ありえない!」

 「嘘だろ・・・あそこは指定禁止区域だぞ!」

 「いかれてんのか!」


 周囲の声を聞いてなんかやばいらしいということは分かったけど、俺はその島を知らない。


 「なぁミューズ、俺よく知らないんだけど、そんなヤバい島なの?」


 「当たり前だよ!騎士団ですら許可なく立ち入ることはできない島だよ!『孤独』の魔力の残り香から生まれた魔獣が島中にいる・・・アナトリカ王国内で最も危険な場所だ!」


 「そんな場所が試験場なのか、てことは・・・」


 「あぁ、島内に入ったら死人が出るよ。」


 ミューズはエナの方を向いて、睨み始めた。ありえないと言いたげな表情で。


 「セア、本当にあいつは『魔王』じゃないのか!?」


 「この場に出てきたことで益々その線は薄くなったわ。『魔王』だったらこの場で堂々と出るわけがない。そんなことよりロア、どうする気でいるの。」


 「もちろん俺は行く。『英雄』になるために。」


 俺は少しも悩まなかった。今ここで進むしかない、後退などあり得ないのだから。


 「うるさいなぁみんな。嫌なら帰ればいいじゃないか。」


 その一言が、試験性の逆鱗に触れた。確かに彼らは生半可な気持ちで今日の試験を望んでいるわけではない。しかし、彼らもまた、エナの怒りに触れた。


 「本当にウルセェなぁ、お前らは。」


 その言葉が聞こえた瞬間、あんなに騒がしかった広場は一斉に静かになった。それほどまでの威圧をエナが放ったのだ。俺やミューズですら思わず一歩引いてしまった。これが、師団長クラスか。


 「毎年の試験は、その年の試験官が内容を決める。今年は僕がルールだ。許可もちゃんともらってる、結構苦労したんだよ?ただ僕は強制はしない。スクピディアでは僕たちがいたとしても命の保証はない。命が惜しいなら今すぐ帰れ。以上。決断のために少し時間を取ろうかな、5分あげるよ。」


 その5分間という短い時間は沈黙で終わらなかった。次々に文句を言いながら試験生が広場から出ていく。


 「ロア・・・」


 「セア、俺に『願い』を託したなら、俺の背中だけを見ててくれ。」


 7年前、セアが俺に伝えてくれた両親からの『願い』。



 『世界を救って』



 俺は『英雄』になる。そのためには後退などありえないのだから。






 5分が過ぎた。残ったのは、最初の半分以下だろう。ミューズも決断したようだ、地獄に行くことに。


 「思った以上に残ったね。まぁそれだけ今年は優秀ってことかな。ちなみにだけど、今帰った彼らは来年からの受験資格をとり上げることになっている。」


 「は?」

 「え?」


 俺とミューズは思わずそう発してしまった。広場も困惑しているのを感じる。


 「当然だよ。君たちはこれから騎士となり、『厄災』と戦っていくことになる。そこは常に死地であり、命欲しさに帰っていい場所ではない。騎士候補生だからといって今この時を逃げていい理由にはならない。ここで逃げる奴に、果たして誰が命をかけて戦うことを期待できる?誰がそいつに命を預けることができる?」


 その言葉を黙って聞いていた。セアもミューズも、周囲の残った受験生も。広場一帯が静かになった。


 「まぁそういう話が表向きだよ。でも僕から言わせれば少し違う。」


 表向き?十分真っ当な理由に聞こえた。『魔王』であることへの疑いを少し晴らすくらい真っ当な意見だった。


 「強くなきゃ生きてる意味なくない?」


 やっぱりこいつは『魔王』かもしれない。そう思った。もはや同一人物じゃなくていい。こいつはほんとに性格が捻じ曲がってるんだと思った。ある意味『魔王』だ。


 「さて、みんな飛行船に乗り込むといい。時間がもったいないから早く行こうか。」


 エナの言葉と共に残った試験生は次々と飛行線に乗り込んだ。


 そこで出会う。試験場で会うことを、ある意味楽しみしていた人物。一際目立つ真紅の髪を靡かせて、悠々と歩くそのお嬢様は、こちらに真紅の眼を見せた。


 「あら、臆病者。残ったのね。」


 「残ったってことは、俺が臆病者じゃないってことでいいか?」


 「さぁ、ことの重大さがわからなくて残ってしまった間抜けな臆病者かもしれないわよ?」


 そうやって不敵に笑い合い、生意気なお嬢様は飛行船に乗り込んだ。あの時場にいなかったセアが俺に尋ねる。


 「あなた随分嫌われたのね、何したの?」


 「・・・向こうがしてきたんだよ。」


 何も知らないセアと他愛の無い会話をしながら乗り込もうとした時、誰かが俺の肩を叩いた。


 「イロアス様、お久しぶりでございます。」


 「あんたは、プラグマ家の執事のおじいさん!こんなとこまでついてくるんだね名家の執事は。」


 「気をつけてくださいませ。どうかあの子をよろしくお願いします。」


 俺は当たり障りのない返事をして、飛行船に乗り込んだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「ここに何の用?やっぱり心配?」


 紺碧の眼をした少年は、黒い服をしたモノクル(半眼鏡)をした執事相手に語りかける。


 「まぁそうですね、くれぐれもお願いしますよ。」


 その一言だけ語って、執事は姿を消した。火の粉を残して。


 「はぁ、そういうのはオルに言ってよ。あぁ、オル、結局何人残った?」


 「101人でござる。」


 「まぁなかなかの結果なのかな。二桁まで落とそうとしたんだけどな、ギリギリ届かなかったなぁ。」


 「非常に優秀なのか、はたまた己の力量をわきまえない愚か者なのか、どちらなのかはすぐにわかるでござる。」


 「じゃあ、行こうか。・・・なーんか今年の試験は、一波乱ありそうだね。」




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