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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章28話 霧が真紅に染るまで(1)




 この土壇場にて、新たな効能を会得したリア=プラグマ。


 戦場での経験は自分が上、魔法の扱いも自分が上、冷酷になれるのも、自分の方が上である。


 そのはずなのに、進化し続ける目の前の敵に、苦戦を強いられている。


 「人を殺したこともないくせに・・・」


 戦場に立つ覚悟が違う。

 そう思っているし、事実そうだと思っている。それでも、自分が生み出した霧は尽く凌駕され、燃やされ美しい華となる。


 「人を殺したら強くなれるのかしら。」


 「覚悟が違う・・・!!」


 「そんな覚悟、要らないわよ!!」


 そんな覚悟ーーーうるさい、サンの覚悟はそんなもんじゃない。

 人に計られていい程のちんけな覚悟じゃない。


 「人を殺しただけ、覚悟が強まるはずがない。そんなもので、人は強くなれない。」


 その言葉は、リアが強く伝えたその想いは、サンのこれまでを否定する。


 齢5つにして、その手を赤く染め上げたサンの、今までの人生と、今を生きる気力と、これからの覚悟を否定するのだ。

 魔法を覚えて喜んでいる年端のいかない子供たちを横目に、サンは霧を赤く染め上げた。


 「サンの・・・何がわかるっていうの・・・!!」


 今まで誰も聞いたことの無いような、甲高い大きな声で叫ぶ。


 今を形づくるのは、過去である。

 今を否定することは、過去を否定すること。


 それを知っていてなお、彼女は想いを伝える。


 「何もわかるわけないじゃない!!アンタは、ずっと主君主君って・・・アタシは、アンタの話が聞きたいのよ!!」


 サンの、心が痛む音がした。

 それが何かを、サンは知らない。なぜなら、与えられたことなどないのだから。


 与えられたとしても、それを知る術を持たないのだから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「おい、名抜け。さっさと働んか!!」


 物心ついた時から、怒鳴り声と共に自分は道具であることを理解した。

 肉体は労働のため、声は不快にさせないために押し殺す。常に他者へ気を配り、機嫌が悪い時はストレスを発散するための道具となる。


 身体は痣だらけ。心は無。


 それが、彼女の生きてきた環境であった。結界の中の帰属全ての道具。親は会ったこともなく、友達もいない。


 生まれた時から決められた道具としての道を歩むだけの奴隷。


 彼女がこの国を憎むなんて、あまりに一瞬の出来事だった。


 「おい名抜け!!何をボサっとしとるのだ!!」


 鞭を打たれる。もはや背中は血で染みる。だが、彼女は声一つあげることはなかった。悲鳴が不快であることを知っているから。

 痛がる素振りも見せてはいけない。暴れるのが不快であると知っているから。


 感情を表に出してはいけない。それが不快であることを知っているから。


 わずか5つの年を重ねただけの子供が、それを理解することがどれだけ悲惨なことだろうか。

 だが、彼女は何も思わない。それが、普通なことだとそう理解してしまったから。


 「おい名抜け!!はやく飯を持ってこい!!」

 「名抜け!!儂の前に石がある、どかせ。つまづいて転んだらどうする!」

 「名抜け!!ーーーーー」


 名抜けーーーあれ、自分の名前はなんだっけ?




※※※※※※※※※※※※




 「名抜け、出かけるぞ。」


 念入りに服装に気を遣い、アクセサリーは歩く度に音が鳴るほど身につける。

 自分が名のある貴族であるということを他の貴族に知らしめるために、金1品に身に纏う。


 どこへ行くかは知らされてない。知る必要などない、知る権利などない、人としての権利など欲してはならない。


 金色に身を包む自分の主と違い、自らは布切れ1枚。外ほ少し冷えているが、何の文句も言ってはいけない。


 馬車が迎えにきて、主とそこに乗り込む。

 行き先の分からぬまま、揺られ揺られ辿り着いた場所は、この都市の中心ーーシボラ大宮殿であった。


 その宮殿を拝むことさえ、奴隷の間では罪深いと言われている。奴隷の仲間さえいない彼女は勿論そんなことを知らないが、彼女がこれを見るのは初めてだった。


 この黄金都市の中で、一際輝くこの宮殿は、何よりも嫌いだった。


 この国を象徴しているかのように、黄金に覆われたこの宮殿が、何よりも気持ち悪いとそう思ってならなかった。


 「名抜け、この宮殿に足を踏み入れる奴隷など中々おらん。感謝するがいい。」


 一体何をしに来たのか、さっぱりわからない。

 だが、ここが自分のような奴隷が訪れていい場所では無いことは見て取れた。


 「今日ここで、偉大な事が発表される。そのためにお前を連れてきたのだ。」


 この王朝にとって偉大なことーーそれは即ち、自分たちにとっては最悪なことだというのは理解した。


 自分の心とは裏腹に、満面の笑みを浮かべて宮殿を歩く主人は、いつもより気分の良い足音を立てる。

 その音が、どうせろくな事にもならないことを物語っていた。


 宮殿のある一室は、広大なパーティ会場となっている。そこには、都市内の上級貴族が集結していた。

 その最奥には、4人の偉人が立っていた。


 1人は姑息そうな顔をした男で、もう1人は死んだ魚の目をしたような騎士、1人は美しい女性で、最後の一人は明らかな黄金に身を包んだ、王。


 「よく集まった。」


 黄金の王は、ザワつく会場をたった一言で静止させた。少女から見た王は、威厳もなく、威圧もない。ただの傲慢となった裸の王様に見えた。

 しかし、周囲を黙らせたのは、その隣に立っている明らかな威厳を持つ騎士だった。


 その威圧は嫌だ。


 少女は、少しだけ萎縮した。見られないようにしないといけないと、無意識に意識を薄めた。


 「ドューレ、説明を。」


 「仰せのままに、王よ。」


 説明を任された姑息な男は、説明の義務を隣の女性に放棄した。どうやら、このドューレとかいう男の部下らしい。


 「皆様、本日はお集まり頂きありがとうございます。それでは、今回の作戦を発表させていただきます。大変長く続くこの無意味な戦いをようやく終わらせる時です。」


 歓声が上がる。


 ・・・うるさい。


 「彼ら革命軍は、都市外の亜人や奴隷を頻繁に攫っています。その目的は戦力の増強です。最も弱い『厄災』と言われる『戦争』だけの力では、このディコス王朝を落とすことは出来ない。故に彼らは戦力を常に欲している。」


 「そこで、もっと上質な餌を用意いたします。現状外にあるのは老いた奴隷や結界に阻まれる亜人が主です。その年齢層は高い。」


 少女は理解した。

 自分がどうしてこの場に連れてこられたのかを。


 「ここに集まってもらった若年層の奴隷を撒き餌に使います。監視をつけて都市外に放つことで、革命軍は必ず目をつけるでしょう。」


 「名誉な事だ。この王朝の役に立てるのだぞ、名抜け。」


 だけど、この場所から逃れられるのならーー

 例えそれが、生の終わりであったとしても。


 名抜けの少女は、解放を願うのだった。




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