第3章27話 夢幻の霧の中でも
『魔導王』、イロアス、リアが革命軍本部に突入した後、イロアスの縛りによる定義拡大の感知魔法により、見事サンとリディアを見つけ出した。
そして、約束通りリアはサンと相手取ることになった。
国を裏切った売国奴を誅すためでは無い。
彼女を、アナトリカ王国騎士団に連れ戻すために、真正面から戦うことを選んだのだ。
一昔前のリアなら、そんなことは有り得なかった。何よりも国を重んじ、亜人も敵と認識し、強さを求め、戦いから逃げることを恥とした。
だが、イロアスとの出会いが全てを変えた。
自分をそこまでに創り上げた母ーーミテラ=メーテールとの邂逅を果たし、誰かを信じることを良しとした。
誰かを許すことを、良しとしたのだ。
「サン、あなたを連れ戻す。」
静かに、それでも厳かに、リアは宣言する。
「甘い・・・サンは、みんなと同じように生きれる人じゃない・・・」
革命軍幹部第6席『幻霧』サン。
既に何十、何百、何千何万と人を殺し、王朝を落とそうとする革命軍の幹部。
「サンは逆賊・・・でも、主君は間違ってない・・・!!」
「確かに、間違っているのは王朝の方かもしれないわね。でもね、それは人を殺していい理由にはならない。」
「バカは死ななきゃ治らない・・・クズは死なないと理解しない・・・」
「ディコス王朝を落とす意味を理解してるの!?世界の均衡が崩れ落ちるのよ!!」
「サンには関係ない・・・ただ、主君に着いていく・・・」
「・・・ねぇ、『戦争』の目的は何。」
戦いの最中、想いをぶつけ合うその時間に、初めて沈黙が訪れた。
「そう・・・知らないのね。」
「・・・!!うるさい・・・!!知らなくても、ついて行く・・・それが、サンにできる唯一の恩返し・・・!!」
『戦争』マギアは、唯一無二の存在である妹を救出し、力も全て取り戻した。そして、今ディコス王朝を復讐心で崩そうとしてる。
復讐心・・・果たして、本当だろうか。
「主君の考えを理解できなくてもいい・・・サンは、ただあの人について行く・・・あの人がいる場所が、サンのいる場所・・・!!」
リアは、沈黙で返した。
サンは、きっと間違っていないと、そう思ってしまったから。
間違っているのは、世界の方だ。
「サン・・・アタシは、それでもあなたを止めなければならない。王国のためじゃない、世界のためじゃない。ただ、1人の友達として、アタシはあなたを救う。」
「サンは・・・救いなんて求めてない。」
「なら、勝手に救うわよ!!アンタの考えなんて知らない!!アタシは、自分勝手に、アンタを救ってみせるわ!!」
イロアスとは違う、ミューズとも違う。
リア=プラグマだけのこれからの道。自分勝手に、何もかもを救ってみせる。
だって、サンは、あんなに苦しそうなんだから。
「アンタのその霧のかかった心を燃やすわ。剥き出しにして、叩きのめして、泣きじゃくって、それでーーー」
初めてアンタは、アタシを見てくれる。
「構えなさい。」
面と向かって、黙って立って話すのは終わり。
次に必要なのは、本気で互いの鬱憤を晴らすこと。本気でぶつかって、本気のアンタを負かせて、認めさせる。
「これがアタシとアンタの、最後の戦いよ。」
イロアスですら止めることなど出来やしない。世界最強の『冠冷』でさえ、止めようと思わない。
それほどの感情に滾る戦いがーー
大火力の爆発音と共に始まった。
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リア=プラグマの属性は炎。この世界で最も火力に長けた騎士プラグマ家に生まれ落つ。
効能は、現代成長段階であるが、炎にまつわる全ての効能に適応がある。
つまり、修行次第ではあらゆる効能を会得し、全ての戦場に『朱姫』ありと、知らしめる事が出来るほどの存在である。
対して、『幻霧』サンの属性は水。この世界で最も水を操るのに長けた騎士スニオン家とは無関係である。
効能は、初めて人を殺した5歳で覚醒した。それは全てを狂わす霧、何もかもを捉えることができない霧、全てにモヤをかける霧。
それによって、既に戦場全てにおいて『幻霧』がいると知らしめるほどの存在となった。
この二人の大きな差は、そんな存在になったか、なっていないかである。
つまり、圧倒的な経験値の差がある。
「朧雲龍」
サンの生み出した霧が押し寄せ、それは龍の形を成してリアを襲う。
地面を削り取りながら龍の形をした霧は迫り、その巨大な口を開ける。何もかもを飲み込み、その全てを朧に包む。
そこにそれがいたことを、削り取るかのように。
「樹海暗雲」
同時発動された霧の森は、リアの逃げ場を全て奪う。その一室が全て、霧に包まれリアを殺す為だけに、その存在を消したいがために動いている。
これでお終い。『朱姫』の演劇はこれにて終わり。
「それは、あなたの夢の中のお話よ。」
音もなく抜かれた2つの剣ーー自分の最も大切な家族の名を刻んだ剣と、『灼熱』から与えられた名剣。
自身にも美しい鎧を纏い、剣にも見事な朱色の炎を宿す。
「爆発、温感、溶解、纏、電熱ーーありとあらゆる炎の効能を会得し、それでもアタシは一つの答えに辿り着く。」
2本の剣が、美しい弧を描きそれはやがて華を形作る。
「焼尽桜花」
花弁が舞い、一つの道を作る。
余りの美しさに、サンは剣を振り下ろされたことに目が向かなかった。
霧で造られた龍が、真っ二つとなって地に沈む。霧という、いつでも再生するーーというより、斬られるということなど有り得ないのだが、再び霧が1つになることはなかった。
「再生しない・・・」
「それが、アタシの求めた効能。何もかもに炎を刻み、消えない炎の蓮華を咲かす永遠の効能。」
それは忘れぬように。
それは誰にもわかるように。
「刻んであげるわ。アンタが、アタシの友達だってことを。」
リア=プラグマが何よりも欲した効能。
永遠に刻まれる、美しい炎。
プラグマ家として生きることを心に刻み、いつか成る『灼熱』に向けて。
朧の龍に、消えぬ炎が花畑を生み出し続ける。やがて炎の華に呑まれ、龍は消える。
周囲を囲んでいた霧の森も、焼かれ燃やされ、木々は焼落ち裸となる。
「・・・いつ完成したの。」
「たった今、心から求めて。」
永遠の炎で、友を救う。
夢幻の霧に包まれた霞の如き友を見つけ出すための永遠の灯火。
しかし、永遠や恒久といった不確かな意味を持つ効能は、本来成し得ることはできない。
この場合の永遠とは、リアの意識がある限り。
「アタシがアンタを見ている限り、炎は永遠に咲き続ける。」
「なら、サンを二度と見れないようにするだけ・・・」
「そう言って、霧の中にすぐに閉じ篭る。だけど、アンタとは同じ屋根の下で過ごしたもの、例えそれが任務のためであれ、アンタはアタシと言葉を交わした。」
「・・・それだけで、サンに付きまとうの。」
「そうよ。それだけで、アンタを救おうと思ってるの。」
変な話だ。
何年も共に過ごした訳では無いし、腹を割るような話をした覚えもない。
だけど、イロアスもそうだった。
出会って何時間かもわからないほどの短い時を過ごしただけで、自分を救ってくれた。自分の心の霧を晴らしてくれた。
「アンタの霧を全て燃やし尽くして、心に刻んでやるわよ。リア=プラグマという友達がアンタには居るんだってことをね。」
学校での戦闘の延長戦。
リア=プラグマとサンの、これからを決める戦いは、終わりへと向かう。




