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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章26話 繋ぐ氷と激情の炎




 砂丘の向こうで、一つの因縁に決着がついた。

 それは、この国の中でも一部しか知らない因縁ではあるが、大きな大きな、何百年にもわたった因縁であった。


 だが、それをものともせずに、ただ戦いに集中している男がいる。


 背後をチラチラ見て余所見をしていても平気な隣の男とは違い、ただ目の前に集中する。

 砂漠に咲き誇る花など、この男の目には入らない。


 彼の眼には、1つの脅威しか入れない。


 青い炎で、辺り一面を焼き尽くす。

 魔獣は灰すら残さず、その火力によって塵になり空に舞う。だか、その長たる王は、微動だにせず炎を払い除ける。


 「うーん、魔獣達が中々進まないから様子を見に来たんだけどぉ、そりゃ進まないよねぇ。君がいるんだもん。」


 君というのは、脅威と向き合ってる男の事ではない。

 ストラトス=アンドラガシマという、ただ1人で真剣に『魔王』と向き合っている男のことを指していない。


 「んー?俺はまだこれっぽっちも何もしちゃいない。力は温存しておかないとな。」


 「君は居るだけで脅威だぁ。そこにいるだけで、誰もが君をどうすればいいのかを考えざるを得ない。『原罪』ちゃんですら君を脅威として認識しているぅ。千年間世界を脅かす『厄災』の頂点が、たった数十年生きているだけの男を認めているぅ。」


 「そりゃ光栄だな。」


 「中央は『原罪』ちゃんが引き付けてるからぁ、俺はこっち任されちゃってぇ。」


 「来ると思ってたよ、そのために集めてたんだろ?この量の魔獣を。」


 ストラトスは、自分が入る隙もない会話を聞いていた。事が大きすぎて驚嘆はしたが、確かに辻褄があった。


 西の大国ディコス王朝は、魔獣による襲撃を殆ど聞いたことがない。


 『戦争』が魔獣を手懐けていると話が上がっていたが、そうでは無い。


 あの時の力の半分ほどしか出せない『戦争』を支えていた存在があったのだ。


 「中央と戦いながら、右にも左にもちょっかいかけやがって。てめぇは1回痛い目見ないとなぁ。」


 「その半分の力でかいぃ?いくら君でも無理じゃいかなぁ?」


 「痛い目見せんのは俺じゃねぇ。こいつだ。」


 そう言って、エルドーラはストラトスを指差す。

 現状、必死に戦っているだけの彼を。もう余裕などないほど、魔獣たちを砂丘の奥にやらないようにと、奮闘している彼を指さした。


 「彼がかいぃ?彼に俺を止められるとは思わないけどなぁ。」


 「そんなこと言ってるから、てめぇはいつも目的を完遂できねぇんだよ。」


 先程までついぞ動くことをしなかったエルドーラが、ようやくその重い腰を上げた。

 『魔王』も向き合っているだけであったが、遂に力を練り始める。


 だが、エルドーラはそもそも『魔王』と戦う気などなかった。


 「ストラトス=アンドラガシマーー悲劇の業を背負う『魔導王』を支えた右腕よ。お前はここで、その命全てを燃やせ。それが、この大乱闘の鍵を握る。」


 ストラトスには、こう聞こえた。


 後は任せると。


 「俺がなんのために動かなかったと思ってる。余計な体力を使わないためだ。」


 魔獣の群れの、最後尾が見えた。

 それを待っていた。


 「・・・何をする気だぁ。」


 力が練られていく。

 本来の力量には遠く及ばないが、辺り一面を凍り尽くすには十分すぎる量の力を。


 「なぁ、『魔王』。お前のその弱点を1つ教えてやろうか?」


 「・・・まさかぁ」


 「お前の魔力と再生力は、魔獣から吸い上げてるもんだろ?だからお前は戦う時、魔獣を傍に置きたがるのさ。」


 永久凍土スクピディアにおいて、『灼熱』が『魔王』に力で押し負けた理由。それは、永遠と思えるほどの耐久力と、魔力。


 彼は、スクピディア全土の魔獣を従えることにます徹した。それが、自分が勝つための筋道だからである。


 「ただ倒すだけじゃダメなのさ。だから、ストラトス、お前があいつを相手取るんだよ。」


 練られた力は、『魔王』ではなく、その場にいた全ての魔獣に向けられる。

 『冠冷』からすれば、倒すのは容易く、本来の力の1割程度で全てを倒し尽くせるだろう。だが、大切なのは倒すことでは無い。


 「お前との繋がりすら、凍結させるほどの力がなきゃな。だろ?『魔王』サタナ=クシファ。」


 ーー瞬間、エルドーラから放たれる力は、ストラトスと『魔王』を除いた全てを凍結させる。そう、文字通り、何もかもを凍らせて。


 概念すらも凍らせて、その場にいた全魔獣は残らず氷の中に閉じ込められる。


 そして、『魔王』の顔相から、ようやく笑顔が消えたのだ。


 「無限の再生力も、無限の魔力も無い。辺り一面の魔獣は全て凍結した。」


 「・・・だが、お前もここには居られなくなるぅ。」


 エルドーラの体に亀裂が入る。

 体の色素は落ちていき、段々と他の魔獣たちと同じように透明な氷へと変貌する。


 「おい、そこまで魔力を使うほどじゃないだろ!お前ならもっとーー」


 「概念を凍らせたんだ、当たり前だろう。この分身体の身には余る力だ。体の崩壊は必至。」


 魔獣を凍らせるだけでは無い。魔獣に繋がれた目に見えない魂の繋がり。それを断ち切ったのだ。凍結することによって。


 「少しの間任せる。『炎鬼』、存分に気張れ。お前の炎でも溶けない氷だ。」


 エルドーラの氷像はそれを最後に砕け散る。

 分体には余るほどの力の行使。


 そして、砂丘にはたった二人の男。1人は『炎鬼』、もう1人は顔を記憶できない『魔王』。


 「・・・君は誰かなぁ。」


 「炎を見れば嫌でも思い出すような、鬼としてお前の記憶に焼印を付けてやろう。」



 革命軍本部より北方の砂丘

 『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマvs『魔王』サタナ=クシファ




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 砂丘で青い炎が燃え盛る。

 激情に煽られ、焔は延々と高く高く燃え上がる。


 そして、時同じく、鮮烈な赤に染まる炎が燃え盛る戦場があった。


 それも確かに激情である。

 今は、何もかも全てを捨ておいてでも、目の前の彼女のためにーーー


 かつて、こんなに誰かを想ったことなどあるだろうか。明らかに身近な付き合い。それでも、彼女の心には深く深く、刺さってしまった。


 「あんたが何処に隠れていても見つけだす。」


 目の前の霧の中に、必ずいる彼女を想って高らかに宣言するのだ。過酷な人生を生き、過酷な道のりを歩き、その齢では経験する必要のないことまで経験してきた悲劇の彼女に、強く宣言する。


 「アタシは、あなたを見捨てない。その霧の中にいても、全てを蒸発させてあんたを引きずり出す。」


 それが、唯一の友ーーイロアスとの約束。


 『朱姫』リア=プラグマの、確かな決意だった。




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