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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章25話 エピス=ピュロン




 伝説とは、何年、何十、何百何千と年を重ねて伝えられる物語。


 物語を伝える媒体が、文字や歌であれば、正しく伝わるのかもしれない。それに脚色しようと考えるものも少ないのだから。


 だが、人から人へと、繰り返し紡がれる物語にはどこか歪みが生じる可能性が高い。


 何せ、人だ。


 人は見たいように見て、聞きたいように聞く。

 やりたいことをやって、好きなように生きていく。


 人から人へと紡がれる伝説は、信憑性に欠ける。


 それは、因縁も同じでは無いだろうか。


 「なぁ、もしお前の正しい信念が歪曲されるなら、血すらも支配できないお前の志が歪められるなら、必ず俺が正そう。」


 慣れない手つきで、1人机に向かいながら文字を連ねる男は、悔しさを噛み締めながら、涙を流して遺す。


 「すまない、すまないマウソロス。」


 1000年前、天を浮遊するとある学校から、そんな言葉が漏れたことなど、誰も知るよしなどなかった。

 受け継がれていく意志を除いて。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 砂漠に眠る植物に、永続的に水を与え続ける。

 水は根・茎・葉を通して埒外の成長を見せる。


 「墓で踊るのが『墓守』の役目か?」


 巨大な植物に襲われ続け、雷を纏って逃げるしかない。

 自身の土魔法によって、砂に足を取られることはないが、エピスの元まで辿り着くことができない。


 「わたちのとこに来なくていいのか?」


 エピスの煽りに、怒り心頭になるが、実際ハリカルは近づけなどしなかった。

 千年もの間砂漠に沈められた植物が、なぜこんなに大量にあるのか。それを考えると、答えはたった一つ。


 千年間、ピュロン家によって絶えず水を与え続けられていた。


 「どこまでワシらの邪魔をすれば気が済むのだ!!何年も何十年も何百年も!!」


 「邪魔立てはちとらんさ。ワシらはずっとな。」


 「貴様の今していることも、邪魔立てに他ならぬわ!!」


 「いいや、わたちは一切の邪魔をちておらん。逆にどうじゃそっちは。貴様は復讐のために、元々持っていた信念を捨ててしまったな。」


 「我らはずっと同じ信念を掲げている!!」


 「いいや、マウソロスの信念は、戦争なんぞ望んじゃいない。」


 「貴様が知ったような口を聞くな!!」


 「・・・今日を持って、因縁の終わりとする。」


 「もちろんだ、貴様はワシが殺す。」




 そうじゃろう、この因縁は、わたちの死をもって完結する。

 それが、継がれてきた先祖の願いなのだから。




 千年前、ピュロンはマウソロスに一切手がでなかった。それは、砂漠という大地で戦ってしまったから。

 そこは不毛の大地、そんな中、植物のない場所で土魔法の使い手と戦ってしまったのならばそうなるのは必然。


 だが今は違う。

 代々、砂漠の下に植物を育ててきた。


 「砂漠の上でなら自分が有利と思っているお前は負ける。」


 うねる植物が魔獣のようにハリカルに襲いかかる。

 だが、もう何度繰り返した光景か、もう、だんだんとハリカルを捉えきれなくなっていく。


 「この疾走は、リンピアの技じゃ。」


 ハリカルは思う。この世代が、最強なのだと。

 この幹部が、今この時が最強なのだと。だから、自分にできることはなんでもやった。この因縁を終わらせることができるのなら。


 空振り続ける攻撃に、ピュロンは表情を変えない。

 砂漠を雷の魔法で疾走し、常に土魔法でピュロンを捕捉し続ける。そして遂にーー


 「ワシの魔法で、ヘソでも隠せ。」


 砂漠に本来ありえぬほどの黒雲が到来し、大きな大きな雷の猛獣が降りてくる。


 「千年前、実在したとされる何もかもを破壊する神獣ーー『ファフニール』。その身姿を、黒雷として顕現せよ。」


 黒雲から、雷が龍の形を模して現る。


 「 因縁は遥か彼方から それは複雑に絡み合い、歪み、黒に染まり、命を刈り取る 世界を半壊させた神の血を引く獣が 再び大地と衝突する 」


 「ほっほっほ、これはこれはーー」




 ーーーやっと、死ねそうか。




 「じゃが、ただでは死なぬ。それだけは、先祖の願いでも聞けぬな。」


 ハリカルも思っている通り、エピスもまた、この時代で決着をつけようと思っている。自分だけ、先祖の願いの通りただで死ぬことなどできない。


 それは、あまりにも、彼が報われない。


 自分と同じ、千年にわたる因縁をもつもの。


 「数奇なものじゃな。」


 エピスは、笑った。

 この、誰にもわからない因縁は、今ここで不可思議な決着をつける。


 天から降りてくる魔法は、ゆっくりと顔を出し、大地を睨みつけ雷の咆哮を放ち、雄叫びを上げる。

 まるで本当に生きているかのように、その雷の龍は大地を目指して天を駆ける。


 「はっはっは、死ね!!エピス=ピュロン!!」


 油断ーー因縁の成就を目前にして、戦場で最も愚かな行為。


 「ただでは死なぬと言ったはずじゃよ。」


 ハリカルの足が、つるに囚われる。

 ずっと土魔法で感知していて、ピュロンの罠についぞハマることはなかったハリカルは、最後の最後に罠にハマった。


 いや、罠にハマったというよりかは、エピスの狂気じみた行動の理解ができなかった。


 これを防がなければ死ぬかもしれないのに、一切死ぬことを恐れずに、ギリギリまで自分を殺そうと奮闘する。

 足を掴まれ、ついぞ体中につるを巻かれ一切の身動きがとれなくなる。


 「すまんな、これで許しておくれ、校長や。」


 ーーーボキッボキッ


 「グワァァァァ!!貴様!!」


 四肢の骨全てを折られ、ハリカルは砂に顔をつける。立ち上がりたくても立ち上がれなく、顔を上げたくても上げれない。


 「最後の瞬間を見れなくて残念じゃったのう。」


 「クソ!!死ね!!エピス=ピュロン!!」


 雷の龍は、すでに真上に訪れていた。砂漠に立つ一人の老人と、横たわる一人の老人。

 決着はつき、因縁に決着がつく。


 「 墜雷麒麟(チニサケブシンジュウ) 」


 唱えられる大魔法の正体ーーそれは、巨大な雷が大地を震わし、あらゆるものを切り裂き黒炭へと変える。


 その大魔法がエピスに衝突する寸前、ハリカルが確かに聞こえた言葉ーー


 「すまない、マウソロスーーちみの墓場にこれを捧げる。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 マギア・・・君は、私の子孫をどうするつもりなのかと、ふと考えたことがある。

 その時私は、初めて君に手を貸すことに後悔するだろう。


 君は、この国を滅ぼしたいのか、それとも、すでに違う使命に取り憑かれているのか、それともーー


 ーー『厄災』は、人のことをどう思っているのか、それを知らなくてはならない。


 君はもしかしたら、狂気的な考えで、この世界をーー


 救おうとしているのかもしれないのだから。


 だからこそ、君は、私の子孫に復讐心を植え付けることに罪の意識をとらわれない。

 当たり前のように、この世界を救うことに尽力させるだろう。


 『戦争』という名前は、君の過去からでは名付けられない。

 君は、見てしまったからこそ、目覚めてしまった。


 君の目的は、国を滅ぼすことーーその武力を戦争と呼び、君はその最たるものとして名付けられた。

 世界から、いや、女神から、『戦争』と。



 「ピュロン・・・彼は間違っている。思想は正しく、その過去も同情に値する。だが、彼はやり方を間違っている。世界はそのような心では救えない。だから、頼むぞ。」


 「・・・それが、最後に私に会いにきた理由か?」


 「そうだ、ピュロン、あとは頼む。」




 思想は歪曲され、マウソロスの血族は復讐に囚われる。

 それを救いたいと思うのは、私の罪を許してほしいからだ。


 マウソロス、お前は私を、許してくれるだろうか。


 ・・・子孫に頼もうか。

 彼の墓に、どうかーー





※※※※※※※※※※※※




 ハリカル=マウソロスは、目をさます。

 雷が一帯を包み、砂という地面に流れることはなく、あたりに焦げがついている。


 黒炭と化したまま、立ち尽くす人の形がそこにはあった。


 「ははは・・・やったぞ!!これで!!これで因縁にーー」


 高笑いをするハリカルの前に、一つの植物が現れる。


 「まだ生きてーー」


 だが、そこにはすでにしゃべることも許されない黒炭があるだけであった。

 何が起きているのか、ハリカル=マウソロスにはわかるはずもなかった。


 これは、子孫代々に受け継がれてきた縛り。

 ピュロン家の終滅を持ってして初めて、それは姿を表す。


 砂が揺れ、そこに現れたのはーー


 「墓・・・一体誰の・・・」


 植物に持ち上げられ、現れた墓跡にはこう刻まれていた。


 『 マウソロス ピュロン ここに眠る 』


 気づいてしまった。

 ハリカル=マウソロスは、気づいてしまった。


 ここが、どこなのかを。


 ここは・・・砂漠なんかじゃなかったのかと。

 ここはーー


 「おぉ、先祖よ。すでにあなたたちはーー」


 砂の大地に、植物が湧き出る。

 それは、ここら一体すべてを包み込むように、美しい植物が急速に成長し、それは美しい花を咲かせる。


 ここは砂漠などではない。

 代々この砂漠に、固有の名前がつかなかったのは当然であった。


 何せここは、何よりも美しい霊園であるのだから。


 「嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ・・・嘘だぁぁぁぁぁ!!」


 すでに、因縁に決着はついた。


 エピス=ピュロンは、子をなさなかった。

 何せ彼は、自分で終わることを予感したのだから。


 ピュロン家の終滅によって、因縁は潰えた。

 歪曲され、違えたまま戻らない因縁に、一人の老人が、泣き叫ぶ。


 不毛の大地などではない。


 たった二人の墓跡を、まるで祝福するかのように、そこには美しい花畑が広がっている。

 もう、争う必要などないと、そう言っているかのように。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「・・・花の魔力がすごいな。あれは、精神に直接語りかける魔法がかけられている。」


 砂丘の後ろから感じる巨大な魔力に、ひたすら感心する。

 あれはまるで、長い月日をかけなければ到底成し得ない。


 「何百という長い月日をかけた縛り。その効能は凄まじいだろう。」


 きっと、何代にもわたってかけられた洗脳を解くほどに濃い魔法。


 「それも、たった一つのためにか・・・」


 花の香りがこちらにきても、我々には何の影響もないことを見て、またも感心する。


 「これで、お前の気持ちも豊かになってくれればいいんだけどな、『魔王』。」


 「それは無理さぁ、だって生まれながらにこれなんだからぁ。」




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