第3章23話 歪曲され、違えたまま戻らない因縁に
息切れが激しくなる。
歩く度に、痛みが増す。血が止まらない。命からがらあの場から逃げれたがーーー
ここまでか。
片腕のない男は、大結界の前で倒れ込む。
周囲には、獣の肉体の1部を持つものたちがヒソヒソと話しながらその男を眺める。
畜生に見られながら、1人の友を失って、死んでいく。
ーーーお前とならできると思ったんだ。
そう思い残し、死んでいく。
彼岸が見えるその間際、結界から1人出てくる。
「・・・誰だ・・」
「結界の外から気配がしたんだが、どうやら君は目撃者のようだね。」
目撃者。やはりそうかーーあれは、国を追われた逆賊か。村に害をなす獣であったか。
「あの少年をなんとしてでも捕まえたい。もう一度実験しなければならないんだ。あの人に会うために。協力してはくれないだろうか。」
実験、あの人。
国を追われた理由に一癖も二癖もありそうだったが、ピュロンはそれを無視した。
今命があるのならと。
息を切らしながら、脳を揺らして頷く。
その手を取ることは、マウソロスと敵対するということ。
「では決まりだ。君も訳ありそうだし、上に来たまえ。あぁ、上というのは物理的に上という意味だからね。」
自分を助けてくれるならば何だっていいと思いながらも、彼は心中では別のことを想った。
さよなら友よ。私は自分の血からは逃れられなかったよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
雷鳴が轟く。
植物を焼き焦がすよりも、断裂を優先し、植物は斬られ斬られ、やがてその雷はエピスまでーー
「ぬるいわ。」
展開されるは、唯の水魔法。
植物の申し子であるエピスが使うような魔法とは思えないほど、ただ渦を作り出した魔法。
だが、それは正確に雷を吸収した。
「ここは砂漠では無い。墓場だ。」
エピスの背後からは、巨大な巨大な植物。
砂漠の大地に埋もれて成長を止められていた植物が水を与えられ、巨大に成長していく。
「マウソロスの墓場だ。かつてのピュロン家が名付けたこの砂漠の名前じゃよ。」
巨大なツルはまるでハエを叩くかのように、ハリカルを潰そうとする。
「貴様はどれだけの植物をこの地に埋めていたのだ!!」
「そんなもん、先祖にきけや。」
巨大なツルに雷を何度も何度も撃ち込む。しかし、あまりの水分量にその雷は大地に流される。
無駄な攻撃であるとわかった瞬間に、瞬時にその場を離れる。
「さて、仕事をしようか。因縁の決着はその後でも良かろう。」
その言葉の真意を、怒りに身を包まれたハリカルが理解することは出来なかった。一体何をするつもりなのか、それすらもどうでも良くなるほどの怒り。
因縁を汚されたことへの怒り。
「貴様ぁぁぁぁぁぁ!!!」
「緑の巨人」
恐らく、そこら中に埋められた植物全てに、水が与えられた。
砂漠から次々と湧いてでる植物は、大きな1本の大樹となって砂漠の大地に根を張る。
「さぁ、根を張れ根を張れ。引っ張りだせ。」
砂漠の大地が揺れる。
大地震が起きたのかと思われるほど、大きく大きく揺れる。
「何をした・・・いや、これは!!」
「ただの墓荒らちじゃ。守ってみせろ、『墓守』ハリカル=マウソロス。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
革命軍本部は、かつて村があった場所に作られた。
『戦争』が初めてその役目を自覚した日、マウソロスという協力者を得られた日、ここは大きな墓となった。
ピュロンによって砂に沈められた村の墓。
マウソロスは、自身の土魔法によってその村を土台に地下にアジトを作った。
それが、革命軍本部である。
故に、『墓守』。
かつての村の墓を何代にもわたり守ってきた。誰の目からも隠し、何人たりともの侵入を防ぎ続けた。
力の半分を失っていた『戦争』が、どうして1000年も討伐されなかったのか、それはこの『墓守』マウソロスの力があったから。
その墓が、脅かされる。
やはり、そんな悪行をなせるのはーー
「ピュロンめが!!貴様はどこまでも!!この村をなんとも思ってはいないのか!!」
「思っているわけないじゃろ。1000年も前の話、わたちには関係ない。」
植物が砂漠に根を張る。
太陽は真上から、水はエピスから。光合成をエピスによって無限に繰り返し、成長はとどまることを知らない。
深く深く深く深く深く深くーーー
根は、本部中に行き渡る。
本部の中で行われている3つの巨大な戦いは、これをもって場所を変える。
何が起きているのかは知らない。
知る気もない。
それが、マウソロスとピュロンの仕業ということだけを理解し、3つの戦いに参加している者たちは、目の前の相手から目を離すことは無かった。
「ほーれ、出てこんかい。」
植物の力は強大だ。
アスファルトにも根を張り、そこに花を咲かし、種を撒く。水と光さえあれば、逞しく育ちきる。
ピュロンによって操作された植物は、その力を最大限発揮する。
地に埋もれた墓を、地上まで引っ張り上げることなど造作もない。
砂漠の大地に、突如現れる巨大な構造物。
1000年もの間、地に埋もれた巨大な墓が、今初めてその姿をさらした。
「・・・全部は無理じゃったか。」
目の前で、墓を守ろうと土魔法を展開し続ける『墓守』ハリカルに僅かながらの賞賛を。
地下5階は表舞台に出すことはできなかった。
そこだけは、邪魔させない。
主君がいる。
彼の邪魔だけはさせない。
「1000年だ。我らの因縁も、主君の成し遂げたい国滅ぼしも。ようやくこの時をもって終わる。」
「因縁に縛られるな、ばかめ。わたちたちには関係の無い話じゃ。」
「ここまできて!!それだけは無いわ!!先祖代々、この思いだけは継がれてきた。」
「ピュロン家ですら、その思いだけは継いできた。しかし、わたちの代で全てを終わらせる。」
もういいだろう。
この言葉は2人から発せられた。
だが、その意味は違う。
全てを精算しようとする過去を見る意志と、これから先を見続ける未来の意志。
分かり合えることなど無い。彼らもまた、どちらかが死なねば分からぬのだから。




