第3章22話 マウソロスの村
村に助けてを求めてきた女性と少年は、村に滞在することになった。
女性は何やら用があるといい、必ず王都に戻らねばならないと語った。
二人の名前を尋ねたが、名前は教えてはくれなかった。
やはり訳ありのようだ。
だが、二人は決して村に害をなすことはしなかった。
「いい村ですね。王都の外にこんな場所があったなんて。」
「不思議なことを言いますね。ここを目指してきたのではないのですか?」
「いいえ、砂漠をただ歩いていただけですよ。」
「・・・では、運がいいですね。」
「あなたは何者ですか?」
「どういう意味ですかな?」
「あなたの髪が金髪なものですから。元々は王都の人間でしょう?」
「はっはっは。私の身分を語ってもいいですが、あなたも話してもらわなければね。」
「ーーーあなたには話してもいいかもしれないですね。でも、この村をもう少し見てからにします。きっとこの村は、あなたの考えの及ばないものがある。」
「・・・よく見てらっしゃる。この村には、私がなし得たいことがまだできていない。」
マウソロスは、哀しい顔で村を見つめる。
この村はマウソロス家だけのものではない。それが、自分の叶えたい願いを叶えられていない。
「もしも、あなたの願いが私の想像通りなら、あなたは信頼できます。」
「あなたは、やはりよく見てらっしゃる・・・信頼してくれるのはありがたいですが、あなたの素性を知らない限りは我々はあなたを信頼はできませんよ。」
「では勝手に信頼して、お願いがあります。」
「・・・聞くだけ聞きましょう。」
「あなたに匿ってもらっている少年を、頼みます。私は王都に行かなければならないのです。」
「・・・」
マウソロスは沈黙した。
彼女はきっと、この村に害をもたらすかもしれない。そう思ってしまったからだ。
王都に戻るという決意は、何かの戦いの覚悟に見えた。
マウソロスもまた、彼女をよく見ていた。
村長としての決断は簡単だった。
きっと、同じ村長のピュロン家なら即座に村から追い出しただろう。
だが、マウソロスは違った。
「期日は?」
「・・・やっぱり、あなたには信頼を寄せれる。」
3日間。
そう期日を決め、少年を残して女性は王都へと旅立った。何をするかも、何者かもわからぬまま。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「そのガキを預かったのか!!」
村の中心の会議室。
そこには、二人の男が向かい合って座っていた。一人は怒鳴り、一人は黙して座す。
「この村に危険が迫るのかもしれないんだぞ!!」
確かにその可能性を孕んでいるのは事実。そんなことは、マウソロスもわかっていた。
それでも、彼は放って置けなかった。
「聞いているのか!!」
「もちろん聞いている。確かにこの村に危険が及ぶ可能性があるのは理解している。だが、ここでこんな小さな少年を見捨ておくような村にはしたくないのでな。」
「俺とお前の理想だぞ!!ここは!!」
理想ーーそれには、まだ遠い。
「ここには不純物がないものにしたいんだよ!!俺とお前の理想じゃなかったのか!!」
「・・・初めてお前と外に出たいという話をした時、確かにお前は不純物のない世界を望んでいたな。」
「お前もそうだったはずだ!!」
「不純物の意味が、違うということに最近ようやく気づいたのだよ。」
「なんだと・・・お前も、あの王都の自分達の至上主義が嫌で外に出たかったんじゃないのか!!」
「・・・お前の今の様子は、その至上主義そのものだ。この村の中で、ディコス王朝を作り出してるに過ぎない。」
「なんだと・・・」
「あの少年は保護する。だがお前の言っていることも理解している。あの少年を保護するのは三日間だ。」
「・・・」
ピュロンは、こちらを睨んだまま、黙って出ていってしまった。
マウソロスも、少し時間が経ってから会議室を出る。
その後、村を一望できる場所まで足を運び、村をただ見つめる。
「最初はただの興味だったんだよ。俺もお前もーーーいつからかな、お前の理想についていけなくなったのは。」
ーーーこの村には、亜人がいない。
これもまた、ピュロンにとっての不純物。
「俺は、亜人も住める村にしたかったんだよ。」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
少年が消えた。
やや深傷を負っていたのに、自分が見落とすほどの速度で動けるはずがない。常に捕捉し続けていたのに。
この村にかけてある土魔法は、この村で地に足をつけている全てのものを捕捉する。
「・・・」
あぁ、なんとも哀しい話だ。
この魔法がかけられていることを知っているのはーー
「そこまでだ。」
犯人は、やはり知っている人だった。
「その少年をどこに連れていくつもりだ。」
「・・・」
「その少年が何者かも知らないのに、どこに連れて行くつもりだ。」
「邪魔をするな。」
場所は砂漠。目の前には王都の結界が見える。
こんな場所で、戦いたくなどなかった。
「俺たちには、本当に戦う理由があるのか。」
「この少年を、追わないというのなら戦う理由はない。」
それは、戦う意味があるということだよ、ピュロン。
やはり、お前は王家だよ。
ピュロンに話し合いの精神などなかった。
砂漠から緑が湧き出る。しかし、それは悪手であった。
砂漠の中で、マウソロスに挑むなど無意味。緑は砂に絡められ身動きがとれなくなる。
だが、ピュロンの作戦は違った。こんな場所で、真正面から挑む気などなかったのだ。
「なんのつもりだ。」
ピュロンは、亜人の街中を目指している。
マウソロスが、手を出せない状況に持ち込もうとしている。
「・・・やはりお前は、わかっていたのだな。」
マウソロスは、亜人とも共に暮らせる世の中を目指していたのだ。
王都の理不尽な差別から、守ってあげられるように。王都からの侮蔑の対象の全てから守ってあげられる村にしたかった。
「それだけが、この忌まわしい王族の血を使える全てだったのにな。」
道は分かたれた。
マウソロスは、一切の容赦をしなかった。
武と魔法の才能は、ピュロンが何よりも知っていた。この砂漠の地で、マウソロスに勝てるわけが無いと。
だから子供を人質に、亜人の住処を人質にとったのだ。
これで対等。
確かに、何度も何度も砂漠から攻撃を受けた。自分の植物など、一切の攻撃手段にもならないほど、マウソロスは完封して見せた。
だが、そのどれもが決定打に欠けた。
そして、ようやく、亜人の住処まであと一歩という所でーーー
目覚めてしまった。
今思えば、これが始まりだったのかもしれない。
「おい、誰だ貴様は。」
ピュロンの腕の中で抱かれていたし少年が、目を覚ました。
肉体は不思議と全快しており、そして、おぞましい魔力を宿していた。
「・・・え?」
彼に見とれていた。その瞬間であった。ピュロンの片腕が弾け飛んだ。
血飛沫を上げ、その赤に染った雨を浴びた少年が、砂漠の地に足をつけた。
「夢を見ていた。」
それは、国を追われた悲劇の少年。王朝の英雄の道具として生まれた少年。
歪んだ国に生まれ落ちた愛を知らない少年。
唯1人の、血を分けた兄弟を奪われた少年。
「そこのお前、マリエラは何処だ。」
「マリエラーーーそうか、彼女はそんな名前だったのか。」
マウソロスは、自分を睨む少年に笑いかけた。
「彼女は王朝に戻った。やらねばならない事があると言って。」
「・・・そうか。」
その言葉を聞いて、少年はこちらを睨むのをやめた。明確な殺意は、一方のみに向けられた。
そして、ピュロンはようやく口に出す。
自分のおぞましい考えを。
「俺は、やり直すんだ・・・」
「何を言っている、お前はもう・・・」
「俺だけの村を作るんだ。」
その言葉は、マウソロスを深く深く傷つける。そして、最悪のシナリオが浮かんでしまった。
その考えに至った瞬間、マウソロスは目の前の少年もピュロンも置いて逆方向に走り出す。
ピュロンが自分に大きな魔法を使えなかったのはーーー
「そんなばかな・・・」
村は、砂漠に呑まれていた。
村を離れて僅か1時間程度。
「緑化の解除・・・お前は、ここまでするのか。」
飲み込まれた村は、その鱗片を残さず地に埋まろうとする。砂漠が、あらゆるものを呑み込もうとする。
ピュロンは、緑化を解除し、堰き止めていた全ての砂を植物を使って村に流し込んだ。
土魔法など要らない。彼は元々、頭が良かった。何をどういじれば、砂が村を呑み込んでくれるのか理解していた。そんな場所を緑化で堰き止めていたのだ。
崩壊した村のあった場所を、涙ながらに呆然と立ち尽くしながら眺めた。
自分のしようとしたことは、そんなに間違っていたのだろうか。
血は、自分たちに流れるこの血はどうしてそんなにも罪深いのか。
「おい、お前。」
背後から声がした。
少年が、自分を助けた少年が背後に立っている。この少年のせいで・・・そんなことを、少し思ってしまう。
「お前の怒りを、俺に貸せ。」
なんて傲慢な立ち振る舞いだろうか。
「この国を滅ぼすまででいい。俺にその怒りを貸してくれ。今の俺には助力が必要だ。」
「・・・この国を滅ぼすか。少年、君ならこの恨めしい血を滅ぼせるのか。」
「無論だ。俺を誰だと思っている。」
「君は、君は何者なんだ。」
「『七つの厄災』が一翼、『戦争』アーロン=マギア=ボラデルカ。マギアと呼ぶがいい。」
その瞬間、マウソロスは理解した。
この少年はーーー
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「マウソロスとピュロンの因縁に、ケリが着く。『戦争』の誕生と共に歩んできた我がマウソロス家の悲願が叶う。」
何よりも、願っていた。
何よりも、受け継がれてきた。
『墓守』の2つ名を受け継いできた。
因縁が終わるその瞬間は、すぐそこまで来ていた。




