第3章21話 砂漠の墓場
ディコス王朝の北方に位置する大砂漠。
ここまで広い砂漠であるが、この場所には名前がない。
〇〇砂漠なんて呼び名があればいいのだが、そのように呼ばれることは、千年間一度もなかった。
何せここはーーー
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「こうちて真面に言葉を交わすのは実に何年ぶりじゃろうか。」
「知ったことでは無いわ、この外道め。」
他愛ない雑談の始まりは、明確な敵意と殺意によって終わった。
もはや一切の言葉を交わすことなどないと、はっきりとそう告げられた。
一般的にはもはや老後を楽しむだけの二人の老人は、決してそんな楽などできやしない人生を送っていた。
「まさかこの年で殺し合いをすることになろうとはな。」
「儂からすれば、待ちに待った瞬間じゃ。ようやく、ようやく、このマウソロスの地で因縁に決着が着く。」
「おかちな事を言う。ここは忘れられた砂漠じゃと言うのに。」
「黙れ黙れ黙れ黙れ!!貴様らが!!この地を忘れさせようと砂漠に埋めたのだ!!」
「わたちはそんな因縁に生きてはおらん。千年前の因縁を現代に持ち込むな。」
『翠老』エピス=ピュロンの言葉は、嘘だ。
「ーーーだが、老い先短いこの命でそこに決着が着くのなら喜んで殺ち合おうか。」
彼の不気味な笑顔は、この地で何が起きたかを物語ることは無い。因縁には思っていない、しかし、そのしがらみから解放されたいと、真に願う顔。
ようやく、役目を果たすことが出来る顔をしていた。
「わたちの代で、全てが終わる予感がした。彼の校長が来た時から、その予感がした。」
「『暴獣』、『彗星』、『紫電』、『幻霧』。入れ替わりの激しい幹部の中で、儂が待ちに待った個の力を持つものたち。因縁が終わる予感がした。」
互いにこの瞬間が、生きているうちに必ず来るとそう思っていた。
墓場の侵入者など、どうでも良い。そこには主君がいるから。そんなことよりも、今目の前にいる因縁にケリを。
「雷の白糸」
「翠翠舞踏」
雨雲1つない砂漠の大地に、雷が落ちることなどない。もし落ちたとしたら、それは『墓守』ハリカル=マウソロスの怒りだと。
一つ一つの雷が、鋭い槍のように上から落ちる。その全てが心の臓を目掛けて。
だが、因縁はそう簡単には決着はつかない。
誰がこの砂漠を生み出したと思っているのだろうか。
延々と続く砂漠に、緑が湧き出る。
それは長く押さえつけられたかのように、成長速度を増し、雷の一つ一つを受け止める。
『翠老』エピスの原理不明の植物を操る魔法。
その原理を知るものはいない。故に彼は恐れられるーーーはずであった。
革命軍に、彼を恐れるものはいない。勿論純粋な強さという面に置いては革命軍も一目を置いていた。だが、彼を相手取るのが『墓守』である限り、エピスに自由になる術などなかった。
因縁ははるか昔から。
それは『戦争』が生まれた時から。
「植物が成長する上で最も重要なものは、水じゃ。貴様はそれを操っているに過ぎない。」
長く長く、ピュロン家とマウソロス家は戦ってきた。その多くは砂漠化の戦いであったが、対峙する時もある。
「貴様の魔法の原理は、儂の先祖が既に明かしている。」
雷鳴が轟く。
植物を焼き焦がすよりも、断裂を優先し、植物は斬られ斬られ、やがてその雷はエピスまでーー
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ーーー千年前。
それは世界戦争の終結後、王都に結界がはられる前。
当時のディコス王朝は、ほとんどが王家の連なる家系しか無かった。
それは当然であろう。外には魔獣が彷徨き、外から来る人間もいない。
王都の中で子孫を繁栄し続けるしか無かったのだ。
世界を巻き込む戦争が終わり、魔獣の数は減り、ディコス王朝の周囲は住みやすい土地へと変化していった。
外に興味を持つ王家の人間も少なくない。
マウソロス家とピュロン家は、そんな数少ない王家であった。
2つの家系は、王朝を離れ、王都から離れた北の砂漠に村を作った。
前途多難ではあったが、彼らは成し遂げた。
マウソロス家の土魔法と、ピュロン家の水魔法によって。
村へ進行する砂漠化は、土魔法によってはねられ、ピュロン家の水魔法によって緑化が進んだ。
やがてその村には、外から来るものが往来し、在住するものも増えた。
その村は、大きな発展こそなかったが、生きるのに困らないほどの生活基盤を手に入れたのだった。
王朝もこの村を認め、発展を許した。出て行きはしたが、王家に連なるもの達が成したこと、無下にするにもいなかったのか。兎にも角にも、この村は認められた。
だが、選択の時が来る、
村が発展して100年以上の時が過ぎ、その時は訪れた。
「ごめんください。」
知らない声がした。女性の知らない声。
この村のほとんどを把握しているピュロン家とマウソロス家は、何事かと思い声の方に向かう。
「どうかしましたか。」
「助けてください!坊ちゃんを、どうか助けて!!」
そこには、ボロボロな1人の女性と、眠った少年が抱かれていた。
訳ありだ。
一目見て、ピュロン家の長とマウソロス家の長はそう思った。
理解した。彼らを助けるか否か、それが村の命運を決めるかもしれないと。
彼らが来たのが、2つの家系の運命を大きく分けた。因縁の始まりは、ここからだったのだ。
ピュロン家の長は、首を横に振りこちらを見た。
それもそうだ。2人の髪色は、王都では有り得ぬ髪色をしていた。
今の黄金都市に、金髪以外はいない。
あるとすれば、結界の外にはじき出された者たち。訳アリのものたち。
だが、マウソロス家は首を横には振らなかった。
「こちらへ。」
簡潔にただ一言。
喜びの表情に満ちた女性と少年は、嬉々として村に入った。
そして、ピュロン家は思うのだ。
この村を、守らなければ。




