第3章20話 昨日の敵は今日の友
魔法学校入学初日。
彼らは絶縁した。
裏切り者の自分の姉を殺すためならば、何をも利用し、何をも殺す。
アストラ=プロドシアにはその覚悟がある。
だから、大層立派な目標を掲げても、誰も殺す覚悟もないミューズが嫌いになった。
昔は誰も信用せず、自分一人で成し遂げてやるという強い覚悟があったのに。
腑抜けてしまった。
リア=プラグマですらそうだ。裏切ったあのサンは昔のリア=プラグマなら殺していただろう。
もはや、そんな人を殺す覚悟を持った人間はいなくなった。
自分だけが、その覚悟を持っている。
そして、それらを腑抜けさせた張本人は、イロアスとかいう孤児院出身の愚者だ。
だが、あれは恐ろしかった。
何せーーーーーーーーーなのだから。
自分では決して気づいていないだろう。だが、アストラはそれを笑わない。
騎士団で最も狂っている、狂人だ。人を殺す覚悟もないだろう。
しかし、この狂人には確かな覚悟がある。何があっても誰かを救い続けるという狂気の願望を叶えようとする覚悟が。
そして、その狂気的な覚悟がミューズ=ロダにも宿った。
亜人差別撤廃というあり得ない夢を描き、狂気的な願望を持った。
『英雄願望』は、狂気の沙汰だ。
だが、その覚悟が、アストラが人を信じる上で最も大切なことだった。
「お前の覚悟は見た。俺とは違うが、その狂気的な願望を持つに足る覚悟だ。」
ミューズ=ロダは、知っている。
それが狂気であることを。何せ、イロアスの最初の言葉を聞いた時は、狂気であると思ったのだから。
それでも、彼はイロアスを信じた。心の底から何よりも彼の願いを信じた。
「僕の『英雄願望』を狂気的とはよく言ってくれる。君には、目の前の『暴獣』の方が気にいるんじゃないかな。」
「・・・確かに、覚悟としてはオレァあっちよりだ。だけどなぁ、あの『魔女』は『厄災』についた。ならオレァはどう足掻いたってあいつとは相いれねぇよ。」
この二人が共闘を果たすことなど、きっとイロアスもリアも想像していないだろう。
だが、今この場において、アストラほど頼りになる男もいないだろう。
何せ相手は、革命軍幹部第1席の獣なのだから。
「おい、この戦いは亜人の未来を決めうる戦いだぞ。わかってんのかこの意味が。」
「あぁ?しらねぇよ。オレァ敵を殺しにきただけだ。」
「さぁ、ラウンド2だ、『暴獣』ギザ。」
2対1。ただし、相手は革命軍幹部最強。
「お前は殺す。なんたって、世界の裏切り者だろう?狼人族はよう。オレァ裏切りには敏感なんだよ。」
体に雷を纏う。
それは学校で対戦したギュムズを彷彿とさせるが、実力はーー
そう一瞬思考に落とした瞬間、アストラの拳が飛んでくる。
ミューズが苦労して当てた一撃を、アストラは容易く当ててみせた。
吹き飛ばされかけるギザは、その速さに驚く。
威力はギュムズ、ミューズに及ばない。しかし、速さという一点においては間違いなく上回る。
「オレァの雷の効能は速度だ。何よりも速く、何よりも鋭く。雷魔法を使うあらゆる騎士・魔法使いでもオレァの速さをこえるやつはいねぇ。」
ギザは、珍しく無言であった。
全身に纏った雷が、速さだけを追求してギザの懐へ入り込む。
何度も何度も、蹴りやパンチをギザへと与える。何度か防がれはしたが、その速さに慣れるにはまだ時間が掛かるようであった。
リンピアを思い出させる。
あの死んでしまった『紫電』を。
「速さは中々なものだが、軽いなァ。」
そして、獣の眼は次第に慣れてくる。
一切の隙を見逃さないほどに。
ミューズにやった、重力場の発生によって殴る箇所をずらし始める。
「ッッッ!!」
だがそれがなぜか効かなかった。
確かに重力場は発生している。だがなぜ・・・
「っは!オレァの目はあらゆる魔法を磁場で見る。確かに普段の効能は速さだが、目はちげぇよ!!」
効能の二種混合。それはできるものは少ない。とてつもないセンスが必要である。もちろん効能の切り替えは皆できるようになるだろうが、この同時使用はなかなか難しい。
実際、アストラも学校で修行をするまでできなかったほどに。
「磁場かァ、なるほどな。テメェは磁力で殴りたい箇所と自分の手足を繋げてんな?」
一瞬で見抜かれる攻撃の謎。
やはり、圧倒的なまでの経験の差と魔力感知。
「重力槍」
両手に生み出した重力場を二つぶつけ合うことにより、行き場をなくしたエネルギーがまるで槍のように二人に放たれる。
それを雷の如き速度でかわすアストラと、予めかわしていたミューズ。
それをよく観察する獣の眼。
そして攻撃を合間を縫って反撃に出ようとする二人に対し、再びギザは魔法を発動する。
「星堕空間」
先ほどもみせた魔法の再発動。
それはさっきも見たと言わんばかりに、二人は迅速に対処する。
動かないことが縛りである。
先ほど、ギザはそう語った。その言葉通りなら、ギザが動けば魔法はキャンセルされる。
アストラもミューズの動きに連動した。
ミューズが積極的に行動する理由は、先ほど同じ技を喰らっていたから。
ミューズがギザに詰め寄るならば、それが正解の道。
「それが経験だ。」
ギザは冷静に、呆れるように魔法を解き、近づいた二人に別な魔法をかける。
「無重力」
近づくこと。それがこの魔法の発動条件。
条件をつけた魔法は、その効果を倍増させる。踏ん張れば動ける、バフが掛かれば動ける。そんなものすらも、地に落とす。
空中に漂い、体の自由が効かない二人の耳に、最悪の呪詛。
「 其は狐狼の民ならず 其は史を圧する狼也 神獣の血よ その万有を寄せる権能をもってして誅せよ 」
それはギザの大魔法。ギュムズに臨天魔法を使わせたほどの魔法。
星の中心に向かわずに、ギザの好きな方向に多重力を掛ける。
「巨狼の咆哮」
この戦いにおいて、彼はまるで赤子を扱うが如く戦う。
ミューズとの戦いで、少し熱くなっていただけ。
「圧倒的感知能力と、圧倒的速度・・・悪りィが、どちらも得意分野だ。」
どちらも、重力の前では等しく無力。
圧倒的な重力場において、光すらも呑み込まれる。感知しても、圧倒的な重力の前ではかわすどころか引き寄せられる。
ギザの魔法は、無重力で漂う二人に直撃し、城を突き抜ける。
高く高く打ち上げられた大魔法は、もはや戦いが終結したかのようであった。
城は今にも崩れ落ちそうである。
その城の中、玉座から頑なに離れなかった二人の男がいた。
一人は震えながらも玉座にて座していた。
こんなことになるはずじゃなかったと、そう震えていた。
もう一人も同じである。
こんなことになるはずではと、泣き崩れていた。
「無様だな。」
殺してやりたいと、どれだけ願っただろうか。
まさかこんな小物とは思いもしなかった。
自分の主君は、力が完全に戻っていなくとも、あれほど前線に出て奮い立っていたのに。
「ーーー亜人を痛ぶり、陥れ、害獣として扱ってきたクズが、自分の命欲しさに涙を流す。」
もはや見たくもない。
「・・・死ね。クズども。」
今までにないほどの殺意で、『暴獣』は重力を練る。
もはや、触れた全てを削り取るかのような重力。
それが放たれるその刹那ーー
「まだだ、ギザァァァァァァ!!!」
城の天井まで吹き飛ばされた彼らが、血反吐を吐きながら戻ってくる。
余程の重傷、おそらく骨も何箇所は折れているかもしれない。だが、戻らなければならない。
ギザの殺意に一切怯むこともなく、ミューズ=ロダは前に立つ。
殺意を込めた重力球が、震える玉座に放たれることは無くなった。
「・・・よく生きてやがったな。」
「もちろん、まぁ、アストラのおかげだけどね。」
震える王と宰相の前に、アストラは立っていた。
もし重力球が放たれたとしてもいいように。
「・・・雷魔法で磁場を作り出しか。」
磁石の反発と同じ。ミューズとアストラが同じ極を持てば、反発し合う。
だが、ギザのあの魔法を抜け出すのには相当な魔力量が必要であった。
アストラは現在確かに戦える状態ではあるが、魔力量はかなり少ない。
ギザと対等に叩けることはできないだろう。
故に彼は守りに徹している。
この戦いで、王を失ったとあらば、事態は深刻である。たとえ勝利しても、それは世界の均衡を崩しかねない。
たとえ、こんなクズでも。
「おぉ、助けに来たか!だが遅かったではーー」
「黙れ、お前らは黙って見てろ。」
アストラに見つめる先はーー
「テメェじゃ俺には勝てねェ。」
「いいや、勝って見せるさ。」
「王を守りながらか?俺様を相手に?」
「アストラがいる。それに、君は僕の手の内を全部見たわけじゃないだろ?」
「・・・確かにそうだ。だが、それはテメェも同じだろ?」
「僕の全てを持って、君を止める。」
戦いのラウンドは、玉座の間へと移行する。




