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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章19話 獣同士




 『虐像』ロドスが討たれる前、もう一人場内に侵入を果たした獣がいる。


 彼こそがエナリオス=スニオンの猛攻を突破し、キノニア=ディマルの風魔法を突破し、遂には侵入を果たした。

 だが、彼はすんなりと侵入できたわけではない。


 「しつけェんだよ!!」


 「君は僕が必ず止める!!」


 熊と狼の一対一。

 だがその実は怪獣大決戦とでも言おうか。


 既に宮殿の4分の1は破壊。重力で押し潰され、天井と床は一体化している。

 破壊され尽くすかのように、狼は闇魔法を展開し続ける。


 「重力球(グラビティ・ボール)!!」


 何個も重力場が形成され、何個も重力の球体が作られる。それらを走り回る熊にぶつけようと投げ続ける。


 だが熊は水魔法で感知し、それらをギリギリで避け続ける。

 あまりにもギリギリ。一歩間違えれば感じたこともないほどの重圧に潰されて死ぬだろう。


 「ありえないほど波が揺れている。触れるだけでも持ってかれるな。」


 だが決して反撃の余地がないわけではない。

 ギュムズと違い、ミューズの感知能力はずば抜けているため、隙をかいくぐる力においては群を抜いている。


 「水砲(ブルー・ストレート)!」


 だが、野生の勘は相手にも存在する。

 この拳が何かとは違うのを肌で感じ取っていた。


 「テメェ、鬱陶しいんだよ。主君の・・・俺様の邪魔をするんじゃねェよ!!」


 「君を止める!!僕にはその義務がある。」


 「テメェは亜人じゃねェ!!亜人なら、俺様たちを止めるはずがねェんだ!!」


 「亜人だからこそ、君を止めなければならない。亜人がこれ以上世界で差別されないように、世界でも一つの種族として認められるように。そのために、僕は君の血で濡れた拳を、腕を折ってでも下さなければならない。」


 「ーーー」


 「君を止める。何がなんでもだ。」


 『暴獣』ギザは、握り続けた拳を緩めた。

 彼は、目の前の敵を、認めた。


 「テメェが、亜人を想っているのはわかった。だが、それは所詮この国を見てこなかった亜人の意見にすぎねェ。」


 『暴獣』と呼ばれているこの男は、決してバカで他者の話を聞かないわけではない。

 相手の話を理解し、その上で何もかもを否定し破壊する。


 「テメェの言う通り引き下がることは絶対にありえねェ。絶対にだ。」


 「・・・君は、ここの貴族がどこに集まっているのかわかっている。その上で、この宮殿の上を目指している。」


 「ーーー」


 「君は、王を殺すつもりだな。」


 「ーーそうだ。この国は滅ぶべきだ。傲慢で、痛みを知らず、他者を思いやることもできねェ。自分が何よりも偉いと信じて疑いもしねェ。」


 「この国は滅ぶわけにはいかない。世界の均衡が崩れてしまう、悪い方向に。」


 「テメェと俺の価値観は違ェよ。他国の貴族と、ディコス生まれで世界の嫌われ者の狼人族じゃあ生きてきた環境が違いすぎる。一生を賭けてもその価値観がすり合わされることはねェ。」


 それは、わかっている。

 『暴獣』ギザはミューズ=ロダを調べていた。彼は自分がアナトリカ王国の貴族であることを知っていた。それほどまで彼は亜人について調べている。


 「君は君なりに亜人を想っている。」


 「だから、テメェは俺の前に立つな。」


 「いいや、僕だけだ。僕だけが君を止められる。この世界でただ一人!!僕だけが!!」


 今までで、一番の魔力を発揮した。

 アナトリカ王国の十大貴族の一人であるミューズは元々の潜在能力は高い。その魔力はアストラ、フェウゴに匹敵するかそれ以上である。


 「心しろよなァ。今から本格的な殺し合いだ。そして勝者こそが、この国の亜人の未来を決める。」


 二人は、睨み合う。

 そして、天井から一つの瓦礫が落ちーー


 ドンーー


 音と同時に、2体の獣が拳を振るう。

 拳は重なり合い、鈍い音だけが響く。だが、魔力のぶつかり合いによって生まれる衝撃波が、瓦礫まみれの部屋に響き渡る。


 単純な殴り合いならば、ミューズの方が強い。

 元々筋肉ばかであるが故に、筋力はミューズの方が上である。さらに、ロダ家相伝の技である『波』で次の動きを瞬間的に予測することができる。


 故に、ミューズの拳は格上のギザに届きうるのだ。


 単純な殴り合いに限っての話である。


 ミューズの拳は確かにいくらか届いている。しかし、圧倒的にギザの拳の方が強く届く。


 「くっっ!!」


 自分の方が近接戦は有利であるはずなのに。相手の動きは読めているはずなのに。

 手数も力も上なのに、届かない。


 そして、その原因はわかっている。

 殴られた瞬間と、殴る瞬間に察知した。


 ギザの拳は、殴る瞬間に重力が追加される。元々の筋力に、重力で加速された拳は重く受け止めにくい。

 さらに、自分が殴られる瞬間、反発する重力場をミューズに生み出し拳を減速させている。


 「テメェと俺様じャあ、生きてきた環境がちげェって言ったはずだ。」


 重く早い一撃を右頬の受け、吹き飛ばされる。

 何発も受けて、ここまで耐え抜いた方が褒められるべきものだろう。


 「小さな頃から殺し合いをしてみろや。生きるために、何をするべきかわかるーー相手を殺すために、何をすればいいのか嫌でも考える。」


 吹き飛ばされ、血反吐を吐き、こちらを睨むミューズを見てはっきりと告げる。


 「テメェは『戦争』を知らねェ。俺様は『平和』を知らねェ。わかるだろ、俺様たちは同じ亜人を想っていたとしても、分かり合えることはない。」


 息を荒くし、ギザを睨み、歯を食いしばる。

 それでも、ミューズはーー


 「僕は、この世全ての亜人を救ってみせる!!」


 「この国を滅ぼして、俺様は亜人を救う。そしてーー『暴獣』として、世界の誰もが逆らえない存在になる。」


 「この国を正して、僕は亜人を救う。そしてーー『英雄』になって、世界に亜人を認めさせてやる!!」


 『戦争』に生まれた狼と、『平和』に生まれた熊の価値観は違う。例えその目的が同じであろうとも、その終着点は決して一つになれない。

 どちらかが、一人になるまではーー




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 この世界に存在する4つの大国。


 南の大国ーーノートス帝国では、亜人差別はないが、その実は武力としてしか見ていないからである。帝国では弱者に興味はなく差別すらもない。もはや、いないものとして扱われる。

 戦えない亜人も人間も、等しくその価値を失う。


 東の大国ーーアナトリカ王国では、国を治める女王が亜人差別撤廃を掲げている。しかし、女王はその誰にも愛されており、差別を恐れ帝国に流れ、アナトリカに敵対する亜人を国民が嫌っている。

 亜人差別は陰ながら行われ続けている。


 北の大国ーー魔宗教国ヴォリオスでは、そもそも人間などゼロに等しい。異常気象に常に囚われている北の大陸では魔獣が主な種族である。亜人差別などない。

 だが、決して生きることはできないだろう、敵対しされ殺されるのがオチである。


 西の大国ーーディコス王朝では、千年前の世界大戦の頃から、魔獣に対する恐怖心を植え付けられている国である。さらに、他ならぬ使徒である『魔導王』によって亜人は都市外へと追いやられた。

 この王朝こそが、最も亜人差別を可視化できる場所である。


 亜人が、人権を持って生きているのは、アナトリカ王国のロダ家の保護下にあるか、ノートス帝国で強者へとなるか、はたまたディコス王朝で革命軍に入るかの三択であろう。


 亜人は、この世界で生きるには苦しい種族には違いない。


 故に、亜人同士は手を取り合うことができるのだと、そう思っていた。


 そう思っていたんだ・・・


 だが、今は互いに拳を握り、殴り合う。

 もはや手を取り合うことなど出来はしない。


 重力によって思ったように上手く殴れない上に、避けにくい。

 だが、ミューズはそれを力づくで突破した。


 重力ーー?そんなもの、関係ない。

 筋肉で、常識を越える。


 「ーーっ!!」


 唐突に、右頬を思いっきり殴られたギザは驚きを隠せなかった。

 自分の重力を、ただの筋肉で乗り越えられるとはーー


 「こッの!!くそばか力がァァァ!!」


 重力場をいくつも生み出し、球体としてミューズに投げる。

 当たれば骨は砕けひしゃげるだろう。


 ロダ家相伝の波の感知によって、それらをかすることなくかわし、再びギザに近づく。

 ただの筋肉と、重力魔法を駆使した殴り合いが再開すると、そう思った瞬間ーー


 これは経験の差である。

 ミューズ=ロダは、悪くない。


 「テメェの感知能力は厄介だ。だがこれならどうだ?」


 ミューズの波は、イロアスほど広範囲に及ばない。

 だが、戦闘における正確性はミューズの方が上だ。相手の微細な動き一つで何をしてくるのかがわかる。


 筋肉の動き、それに合わせたカウンター。近接戦等においてミューズは正確に攻撃を返すことができる。


 故に、彼はその波に頼りすぎた。


 殴り合いをするかと、そう決めつけた彼の油断。

 ミューズが殴ろうとする瞬間、ギザは微動だにしなかった。


 「星堕空間(コスモ・グラビティ)


 詠唱と同時に、ミューズは自分の重力が何倍にも膨れ上がり、その場で膝をつき、立ち上がれなくなった。

 敵を目の前にして、立ち上がることすらできなくなりーー


 「じャあな。」


 周囲の瓦礫が、全てミューズに向かって引き寄せられる。


 押しつぶされて、ぐしゃぐしゃになる。

 だが、そんな簡単な結末は誰も望んでいない。


 水魔法を全開にし、自分の周りに展開する。

 瓦礫は水で威力を弱められるが、段々とミューズに迫る。


 同じ水場にいながら、ギザは微動だにしなかった。

 ただ、死にゆく同族を見ていた。


 ミューズの水魔法の判断は正しい。瓦礫は水圧によってミューズに届くことはない。

 普通の重力であれば。


 「瓦礫はテメェに届く。」


 重力魔法によって、ギザの周囲には一切の水がない。水がその場だけ避けているように。


 「この魔法は、俺様が動かないことを縛りにかけている。その代わり、テメェの周辺が今星の中心だ。」


 ある一定距離までのあたり一体の中心を、その者にする。

 全てのものがそこに集まり、その者自体も重力で押しつぶす。


 「どれだけ時間が経とうとも、俺様がここにいる限りはテメェに全てのモノが届く。」


 「だがそれはお前がそこにいる限りだろ?」


 雷鳴が轟く。

 それは新たな人物の参戦。


 雷が、微動だにしなかったギザへ届く。

 ミューズを無視して、重力が捉えられない速度で雷はギザへと打ち付けられた。


 一瞬でその場を回避した狼の感覚は流石であるが、あまりに暴力的なその雷に、苛立ちを覚える。


 「・・・お前がここに来るとはね。」


 「あの時はお前が情けなく思っていたが、今はあらゆる覚悟が決まったみたいだな、ミューズ=ロダ。」


 ミューズと喧嘩し、共闘はあり得ないと思っていた。そんな彼がきてくれた。

 アストラ=プロドシアの参戦である。




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