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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章18話 弱者たれ




 最悪の景色だった。


あの日見た彼の背中は、何よりも輝き、何よりも大きかった。それでも、彼は敗北した。


他ならぬ、この弱者である自らのせいで。


ギュムズ=ナシオンという彼の中の英雄は、弱者を守って砕け散った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




小さな背中だった。


魔法学校との戦い以降、すぐさま父に会いに行き、その後すぐに地下へと追いやられた。

何でも、凄腕の結界魔法を使える人が守ってくれるそうだ。


黄金都市中の貴族もこぞって集まった。とは言っても、彼らは王命により事情もたいした知らぬ間に集められただけであった。


結界が崩壊したのも、単なる事故に過ぎなく、明日になればすぐにまた結界ができると勘違いしている者もいた。


そんなはずが無い。

確かにこのディコス王朝は滅亡の縁にある。


守られてる彼らはディコス王朝の民であり、守っているのは異質者達の巣窟である魔法学校フィラウティアの教師と、他国の同年代の騎士。


「情けない・・・」


ふと、そう呟いてしまうほど、カケの心は黄金には染まっていなかった。

いや、ギュムズ=ナシオンが目の前で倒れたせいなのかもしれない。


結界の最奥に、ベットが3つ並んでいる。

1つは副校長、1つは同級生、そして最後の1つに、自分を助けてくれた人がいる。


『我輩の背中だけを見よ!!そこに勝利はある!!』


その言葉を思い出した時、何かが結界にぶつかる音がした。

毒を使うフェウゴとかいうやつが、血を吐いて倒れている。


なんて小さな背中なんだろうか。


さっきもそう思ったのを思い出す。


我々に、富は民のためにあると説いた生意気なやつも、結界を出る時に背を向けた。


その小さな背中を見て、自分は何を思っているのだろうか。


また、同じ過ちをするのか、カケ=ドューレよ。


強く、強く拳を握りしめ、彼は結界の中で雄叫びをあげる。


「うおおおおおおおお!!」


あまりに唐突な出来事に、誰もが唖然としただろう。

宰相の息子は、恐怖で気が狂ってしまったと、そう思った人もいるだろう。


違う、気が狂っているのは、気が狂っていたのは我々の方だ。


「戦うぞ。」


そう、一言発した。

今ならまだ間に合うと、そう願って彼は誰よりも前に出るのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




思わぬ方向からの、思わぬ攻撃。

ロドスはまたしても、敵の数を把握出来ていなかった。


いや、そうでは無い。

先程までは絶対に2対1であった。


何が起きたのかと、後ろを振り返る。


「なんだ、たかだか1匹の弱者が増えただけか。」


「カンピア=ミルメクス!!立ち上がれ!!」


勇敢にも立ち向かった弱者は、弱者に向かって吠えるのだ。

自分を奮い立たせた弱者は、まだ終わってはいけないのだと、まだ戦えると、そう鼓舞する。


「もうよいわ!!強者である毒の小僧はすでにこの有様。弱者がいくら群れようが、貴様らに勝利などないわ!!」


「おい、俺様がいつ、1人だと言った。」


目が毒で霞んで見えなかったのか、同じくして目が涙に覆われて見えなかったのか。


結界の外に出てきたのは、何もカケ1人ではなかった。


「いくぞぉぉぉ!!あの勇敢な弱者に続け!!」


結界の外には、多くの貴族の子供たちが出てきた。カケ=ドューレの雄叫びに、戦う覚悟に、魅了された彼らは同じくして外に歩みを進めたのだ。


だが、それはカケ=ドューレのカリスマ性では無い。カンピア=ミルメクスという1人の弱者が生み出した力である。


彼らは毒の庇護を受けていない。フェウゴの縛りの範疇は所詮はカンピア1人のみ。

故に、結界の外に出てきた彼らに残されている手段など、遠距離攻撃の物量押ししかない。


吠えるロドスに、同じく吠える弱者の群れ。

ロドスは、前に進めなくなっていた。


 「物量で攻めるか、だがこの程度なんてことはない!」


 「魔力が枯れるまで、撃ち続けろぉぉ!!」


 その雄叫びは、結界の中まで通りーー


 最奥のベッドが一つ、動く。




※※※※※※※※※※※




 寝覚めは悪い。

 体の節々が痛い。頭がいたい。視力も完全な回復ではない。


 特にお腹の部分が痛く、全快には程遠い。


 それでも、彼女は立ち上がった。


 「剣は・・・」


 まず先に、自分の武器を確保する。

 いつでも、戦えるように。


 耳を澄ます。

 自分を目覚めさせたのは、この叫びかと納得する。


 この国が、襲われている。


 守らなくてはならない。父に代わって、今ここで立ち上がらなくてはならない。


 目の前の、()()()()が、彼女を見て歓喜する。

 彼女がいれば百人力だと。


 どうでもいい。


 「先生、状況は?」


 「・・・!!あなた、怪我は!?」




 あらゆる子どもたちが、必死になって巨人を撃つ。

 それは炎・水・土・雷・風。あらゆる元素の猛攻に、忍び耐え、一歩づつ前進する。


 「足らぬ足らぬ足らぬ!!我はそんなものでは止まらぬわ!!」


 毒の沼に浸かり、真正面から攻撃を受けてもなお巨人の歩みは止まらない。


 「フェウゴ!!大丈夫であるか!!」


 カンピアは彼らに少しの間任せて、親友の元へ急いだ。


 「カ、カンピア・・・は、早くあの巨人を止めないと・・・」


 立ち上がりたいのに、足がふらつく。

 血を流しすぎた。もはや、フェウゴにできることなどなかった。


 「あと一手、欲しい・・・!!」


 そして、その願いは届く。

 弱さを知りながら、勇敢に立ち向かった彼の願いは届くのだ。


 「よくやったわ。」


 フェウゴとカンピアの側に、彼女は立っていた。


 「・・・あなたの毒、水魔法で応用を効かせているわね?」


 「え・・・は、はい。」


 「そう、それが聞きたかったの。」


 『天姫』セイレン=スニオンが、そこにいた。

 ディコス王朝の天才が、そこに立っていた。


 「・・・あなたの最後の一手になってあげる。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 セイレン=スニオンは、魔法学校では大きな活躍を見せれたわけではない。

 きっと、強いのかはたまた弱いのか、はっきりとわかるものはいないだろう。


 だが、ディコス王朝のものは口を揃えていうだろう。


 『大将軍』の娘は、次期最強になるだろう。


 「・・・か、彼女は強い。」


 かの巨人をここまで追い詰めたフェウゴ=ヴァサニスが、そう断じた。


 「あ、あの人はリア様に匹敵する。」


 彼女を倒したのは、紛れもない革命軍幹部である。

 それも、かなり上位の実力者。


 彼女の本領を見れる日はまだ来ないが、今も十分な力を発揮するだろう。

 それも、カンピアの足りない最後の一手を担うほどに。


 フェウゴとカンピアを置いて、セイレンは疾く走る。

 それも毒の沼の中にいる巨人目掛けて。


 「それはダメなのである!!フェウゴの毒にーー」


 そう声をかける前に、彼女は毒の沼へと入っていった。

 だが、眼を疑うような光景が目の前で起きていた。


 「ど、毒の上を走っているのである・・・」


 彼女が先ほど確認したことは、水魔法であるかどうか。


 「水の上なら、走れるでしょ。」


 水魔法を使っているなら当たり前だと豪語するが、決してそういうわけではないということをここで断じておく。


 毒の沼を走り、巨人目掛けて剣を抜く。


 「貴様は・・・!!あの時いた強者か!!」


 「遅い。」


 セイレンを鷲掴みにしようとする腕をかわし、何度も何度も体を切り刻む。

 本調子ではないとはいえ、巨人にセイレンをつかむ技術はない。身をかわし、何度も何度も何度も切り刻む。


 「我に近寄るな!!」


 再び熱をあげる。だが、もうセイレンが近寄ることはなかった。


 「あんたの負けね。あんたは彼に負けたのよ。」


 セイレンがちらりとフェウゴを見る。

 その瞬間、ロドスは自分の体に起きている現象に気づいた。

 セイレンによって歩みを止めたロドスは、時間をかけすぎたのだ。


 「ボ、ボクの毒は愛を侍る(ヴェノム・エンブレス)は、と、特殊な毒なんだ。」


 徐々に徐々に、ロドスを纏う熱は無くなっていく。


 「あ、あの毒は、ま、魔法に対する耐性をとことん下げる。そ、それは自分のも他人のも。」


 この魔法は、フェウゴの願いの魔法。母の温もりを求めた願いの魔法。

 あの時、魔法が使えなくなっていたらと、願わずにはいられない魔法。


 「ど、毒は周り切った。そして魔法の耐性がなくなった彼はもうーー」


 地面からの毒、空気中を漂う毒、真正面からの無数の弾丸。


 「ならばもはや、勝負は決まったのであるな。」


 「そ、そうだ。か、彼は弱者に負けるんだ。」


 自分の異変に気付いた時には、もう遅かった。

 自らの体を実験体にするようなやつが、毒に気づくことなどできやしなかった。

 もしセイレンが来なかったのならば、彼は結界に辿り着き、要であるヒミアを殺せたであろう。それほど、時間との戦いであったのだ。


 真正面から、無数にあらゆる魔法を打ち込まれる。

 その叫びを誰もが聞いた。それでも、弱者は手を弱めることはなかった。


 「さようなら、ディコスの敵よ。」


 巨人は堕ちる。

 この戦いは、弱者の勝利である。




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