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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章17話 隣人




 「ならば、君は一切の影響を受けないのだな。」


 ヒミアの念入りな確認があり、カンピアは結界の外に出る。

 毒霧でうまく見えないが、地面の感覚を通してフェウゴの居場所を見つける。


 「来たぞ!!フェウゴ!!」


 一度は蹴っ飛ばしてまで、結界の中に押しやったのに、彼はまたここに来る。

 来て欲しいとは、思っていなかった。それでも、彼は来てしまった。


 どうして来たんだと、そう怒ってやりたかった。

 でも、それでも、フェウゴに怒ることなんてできやしない。


 言動が矛盾しているかもしれない。

 酷いことかもしれない。

 それでも、ただ嬉しかった。ここに来てくれたことが。


 「土の審判(ジャッジマン)!!」

 「炎の巨人拳(ジャイアント)!!」


 土と炎の拳が殴り合う。

 だがその魔力量はロドスのほうが断然上であり、カンピアの土魔法は砕け散る。


 「蟒蛇咬傷(ヴァイパー・バイト)


 しかし、その土魔法の背後から、無数の毒蛇がロドスめがけて噛みつこうと放たれる。

 ロドスは平然とそれを受け、フェウゴめがけて殴りかかる。


 「させぬ!!」


 カンピアがすぐさま土魔法で壁を作るが、やや威力を和らげるだけで無駄になってしまう。


 「あ、ありがとう。」


 しかし、その一瞬生まれた時間差と、和らげられた威力が、フェウゴにわずかながらの自由を与えた。


 「蟒蛇(ヴァイパー)


 全身の顕現はできなくとも、少なくとも蛇の頭だけは顕現させることができた。

 そして、それが再び噛みつく。


 「そんなもの、どうてことないわ!!」


 時間をかければ、無限に毒を喰らえる。

 熱消毒さえすれば、フェウゴの毒は何もかもが効かない。

 フェウゴの魔法を真正面から喰らいながら、ロドスは炎を纏った拳を振りかざす。


 巨人の拳に、人間如きがガードをしたところで意味はない。

 『番人』の拳が一撃必殺であったように、ロドスも例外ではない。


 結界まで吹き飛ばされ、倒れ込む。

 血反吐を吐き、腕は震える。ガードをしたはずなのに、その上からとてつもないダメージが入る。


 早く立たないと・・・


 「カ、カンピアが・・・」


 よろよろしながらも、まだダメージがありながらも、フェウゴは立つ。

 ただ一人の友のために。


 自らが生まれながらに課された縛りを存分に使う。

 目の前で友が死ぬくらいならばーー


 「黒不浄(インピュリティ)、し、集結しろ、舞い散る毒よ。」


 毒は再び混ざり合う。

 フェウゴを吹き飛ばした瞬間にカンピアに殴りかかっていたロドスに、集中的に毒を舞い散らせる。

 あたりの毒霧は晴れ、ロドスの周いにだけ分散される。


 そしてついに、ロドスの口から血が流れる。


 「ふ、もうこの勝負は長くはないな!!毒の小僧よ!!」


 先ほどから小賢しい土魔法を使ってくるやつなど、目にもつかない。

 やはり最初から1対1であったのだ。


 「黒不浄の汚泥インピュリティ・スラッジ


 猛毒の泥の波が、室内を満たす。

 フェウゴの加護を受けていないものになど、息をする間もないだろう。

 熱を帯びてもなお、ロドスの呼吸は苦しくなる一方であり、徐々に体の自由が奪われつつある。


 短期決戦に切り替える他はなく、ロドスは自身の出せる最大の熱量にする。


 こんな高揚感はいつぶりだろうか。

 きっと、あの『番人』が死んだからかもしれない。見た瞬間から恐ろしくなってしまったあの巨人が死んだ瞬間を見れたからだろうか。


 生前、父が話していた、使命を持った巨人がいると聞かされていた。

 きっと、あの『番人』のことだろう。弱者を痛めつけ、痛ぶり殺す。その快感を教えてくれた父唯一の恐怖が消えたことにより、その子でありその業を受け継いだ巨人もまた、一切のしがらみから解放されていた。


 『虐像』ロドスもまた、『強者たれ』という巨人族共通の鋼の掟を遵守しない異例の巨人である。

 世界でそれを確認できているのは、バイオラカスとロドスのみである。


 彼の父は、中央で小人を十数人殺して海に飛び込み逃げた巨人である。

 『強者たれ』という掟に沿えば、普通は強者とのみ戦うことを好む。しかし、ロドスの父は弱者を痛ぶることにより、自信が強者であるという曲がった掟を持っていた。


 ロドスは、単なる遺伝ではないにしろ、確実にそれを受け継いだ。


 そんなロドスが、自分をしに至らしめる魔法を使う小僧との戦いで、胸を高鳴らせるなど、いつもではあり得ない。

 しかし、事実そうなってしまっていることが、彼自身でも驚きであった。


 「貴様は弱者ではない。だが、この胸の高鳴りは種族によるものだ。今日ここで、貴様を殺し、再び巨人族として戻るのも悪くはない。」


 「・・・」


 「だが、主君を持った以上、確実に背後のものたちは殺す。そして、その殺し方は今までのやり方に沿うだろう。貴様だけが、今ここで我を止められる。」


 しばらくの沈黙、それを破るのはーー


 「 せ、世界に癒しがあるならば お、同じくして呪いもある 」

 「 世界には熱がある!! 熱を求め、熱を愛し、熱に生きる 」


 「全く同時の長文詠唱・・・!でもこれはーー」


 「・・・二人とも、大魔法の詠唱なのである。フェウゴもやつもーー」


 臨天魔法は使えない。

 魔力の流れ的にも、確かにあらゆる魔力を集中させているが、臨天魔法特有の爆発的集中ではない。

 だが、この大魔法の衝突は、この戦いの勝敗を大きく分けるだろう。


 「 そ、其は罪過を追い そ、其は祝福を受ける 」

 「 その身は空を舞う星の如く ただお前の元に堕ちる!! 」


 「みんな衝撃に備えて!!」


 ヒミアの掛け声と共に、結界内のものたちもまた屈みだす。

 結界の外にいるカンピアも、土でドームを作り身を固める。


 「毒は愛を侍る(ヴェノム・エンブレス)

 「熱望隕石(ねつのぞきみるほし)


 猛毒の巨大な手が、フェウゴの背から現れる。

 まるで紫の巨大な翼が生えているかのように、それは緩やかに開花するかのように開く。


 対して、ロドスの体は全身が炎で覆われる。それは今までの戦いと同じようであったが、ある一点において全く異なる。

 足から噴出する強大な爆発が、まるで星が落ちるかの如き推進力を生んだ。


 巨人という巨大な体だからこそ、まるで陰性のように錯覚した。

 その突進を、紫の手が優しく包む。


 フェウゴのこの大魔法は、願望であり、罪である。

 自分が殺した母の手で抱かれたい。そう願って生み出された魔法。この魔法は、あらゆるものの力を減衰させる効能を持ち、あらゆるものを衰弱死させる。


 それは、ありとあらゆる人間にもたらされる。


 しかし、相手が悪かった。

 相手は巨人であった。


 はなから、そんな温もりなども求めたことはない。

 そのような感性はありやしない。




 「フェ、フェウゴ・・・」


 土塊から這い出たカンピアは目に見えた景色は、首元を掴まれ、無様に宙に浮くフェウゴであった。


 「我の、勝ちだ。」


 目からも、耳からも、口からも、流血し、普通は立っているのがやっとのあり得ない状態で、『虐像』ロドスはフェウゴを掴んで立っていた。


 「フェウゴを放すのである!!」


 怒りに身を任せ、巨人に哀れにも立ち向かう彼は、炎の拳で殴られ鎮められる。


 「無様だ。」


 腕と足をぴくぴくと振るわせながら、ゆっくりと立ち上がるカンピアを待って、ロドスはそう言い放った。


 「涙を流し、震える手を懸命に握り直したところで、弱者には何もできはしない。このロドスが、それを教えてやろう。」


 意識を失っているフェウゴを投げ飛ばし、カンピアの元にゆっくりと歩み始める。


 そんなロドスに、カンピアは恐怖した。

 それは、確かな恐怖であった。


 もはや、声も震えて、叫ぶこともできやしない。

 だが、目の前の敵を倒すことを、諦めることなどできなかった。


 「貴様は、弱者であるが、その強がりは死ぬまで消えないだろう。我が痛ぶったところで変わりはしないか。つまらんな、死んでいけ。」


 もう一度、強く拳を握る。


 ーーーその刹那の一瞬、ロドスがたった一人の強者を倒し慢心した瞬間。


 背後から飛んでくる土魔法に、ロドスは吹き飛ばされた。


 結界の外に、弱者は立っていた。

 もう2度と、目の前で人が倒れるのを見ないように。

 また、何もできないで、足手纏いになるのを拒むように。


 カケ=ドューレは、そこに立っていた。




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