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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章15話 君の隣に




 アナトリカ王国十大貴族の一つーーミルメクス家。

 それは商人の家系であり、決して武の家系ではない。だが、その存在は千年も前から存在しており、千年前の戦いの際もその存在を大きく示した。


 彼らは必要な時だけ必要なものを確実に調達する。

 その商才のみで財をなし、十第貴族にまで認められるに至った。


 しかし、商才のみであった。

 彼らミルメクス家には武の才能はなかった。


 どれだけ時が経とうとも、決して彼らに武の才が目覚めることはなかった。

 だがそれでも良かった。むしろ武などどうでも良かった。


 自分たちが富を永遠に得られるのなら、何を犠牲にしても良かったのだ。


 しかし、現ミルメクス家の一人息子はそうではない。

 カンピア=ミルメクスは確かな商才がある。それは入団試験で何人もまとめ上げた才能が何よりの証明である。口が達者であることが商人にとってどれだけ必要なものか。


 だが例に倣い彼にも武の才能はなかった。

 そして、それは今でも決して必要な才能とは思っていない。


 カンピアが求む才能はただ一つ。


 隣にいる友を守る力があればいい。

 フェウゴ=ヴァサニスを守るただ一つの力があればいい。


 だから、彼は商人の家系でありながら、戦うのだ。入団試験で奇跡的に拾われても、今もたとえ全ての骨が砕け散ろうとも、彼は立ち上がる。


 「フェウゴ!!私の後ろにいるのである!今こいつを、ここで倒すのである!」


 彼は吠える。無限に放たれる土魔法の弾丸が、徐々に徐々に強固さを増す。

 弾丸はやがてロドスの元まで届く。


 「むう、鬱陶しい。」


 ロドスはさらに熱を上げる。巨体を燃やし、熱を纏う。

 宮殿地下の床から蒸気が発せられるほどの熱量に、カンピアの息はすぐに上がってしまう。吐息は明らかに増え、汗も流し続け滝のように溢れる。


 それでも彼が攻撃の手を緩めることはなかった。しかし、弾丸はもうロドスに届くことはない。


 「貴様は芸がない。」


 ロドスから発せられる無情な言葉。

 それもそうであろう。ロドスは千年を生きる巨人族である。


 「長く生きてきたが、貴様には芸がない。バカのひとつ覚えのように土塊を飛ばすしか脳がないのか。それで、千年もの間いきたこのロドスを相手に、生きて帰れると思っているのか!!この弱者が!!」


 怒りを露わにしているわけではない。彼は、誰よりも大きく吠えることにより、目の前の弱者の戦意を挫くことが目的なだけである。悦に浸っているだけである。


 巨大な体から出る巨大な咆哮に、恐怖し涙し、ぐちゃぐちゃになる顔面と精神を、ただ見たいが為。

 だからロドスは、咆哮の後に、あまりにも気持ちの悪い顔を浮かべた。


 しかし、相対するカンピアの顔は、ロドスの創造のものではなかった。


 「ふ。愚か者であるな。」


 「・・・は?」


 「貴様は愚か者であると、そう言ったのである。」


 「貴様、なぜ恐怖しない。弱者のくせに、何を思い上がっている。」


 「私は、自分が弱者であることなど知っているのである。だが、弱者は常に強者に勝つことを想定しているわけではないのである。」


 「何を言っている?」


 「私が無作為にばら撒いていた土魔法は、熱に弱くすぐに泥化した。しかし、その泥は蒸発したわけじゃないのである。」


 突如として、ロドスの歩みが止まる。足が、全く上がらなくなる。

 足元の床が、突如として沼と化す。


 「今である!フェウゴ!」


 カンピアの背後から、死の香りを放つ少年が飛び出す。

 全てを溶解し、全ての生命を死に至らしめる魔法を持つ少年が、ロドスと相対する。


 あぁ、まさかここにきて毒魔法を使いたいと思うなんて。

 自分のこの魔法が、生まれて初めて役に立つ。


 「(スコーピオン)


 フェウゴの尾骶骨部分から、まるで本物のように毒の尻尾が生える。その尾が、真っ直ぐにロドスに向かって伸びる。

 先端は針のように鋭く、躱そうともがくロドスに容赦なく迫る。


 泥によって足が不自由であるが、ロドスはさらに熱をあげる。

 地面がまるで沸騰しているかのように気泡が沸く。あまりの熱量に泥はさらなる泥化とでも言おうか、溶けてなくなってしまいそうなほど、熱を帯びて液体となる。


 その勢いのまま、ロドスは見事に脱出を果たし、一撃でも喰らってしまってはまずいと全身が危険信号を出しているフェウゴの攻撃を避ける。


 「やはり、貴様は殺しておかねばなぁ!!」


 命の危険を感じ、ロドスの標的はフェウゴに向けられた。

 その瞬間、目の前が少しだけぼやける。


 「ボ、ボクの毒は液体だよ。」


 ロドスはバカではない。だが、自分が泥から脱出するためにはあの手段を取るしかなかった。

 液体は、熱によって気化する。


 「猛毒の霧か。」


 「す、吸い続ければ死ぬよ。」


 この猛毒は、その場にいる全てを侵す。

 だから、フェウゴは瞬間的にカンピアを結界内に吹き飛ばした。


 カンピアには、あとでちゃんと謝ろう。

 せっかく勇気を出して君は立ち向かったけど、これ以上戦うと君は死んでしまうから。


 最後は、一人がいい。


 結界の中まで蹴り飛ばされたカンピアは、すぐに立ち上がりフェウゴの元に向かおうとする。

 だが、結界はもう、カンピアを出してはくれなかった。


 「ヒミア先生!!早く私を出すのである!!」


 ヒミアは、一人の教師ではなく、一人の魔術師として、カンピアに警告する。

 それは、警告をしたくてするのではない。彼の気持ちも、もちろんわかっている。


 しかしーー


 「彼の毒魔法は危険すぎる。あれは、敵も味方も区別なく殺す猛毒だ。君を外に出すわけにはいかないよ。」


 それでも、カンピアは、彼に手を伸ばさずに入れなかった。

 知っているとも、誰よりもフェウゴの毒を。恐らく、世界中の誰よりも、フェウゴの家族よりも知っている。


 そして、フェウゴのトラウマでさえも知っている。

 だからこそ、彼は学校で戦いで結界の外にはでなかった。フェウゴが再び自分の魔法で人を殺さないように。


 でも今は違う。

 死なないで、彼の隣に立ちたいと、そう願っている。


 アストラに言われて、目が覚めた。

 世界の誰も、フェウゴの隣に居なくたっていい。

 カンピア=ミルメクスという、自分さえ隣にいれば。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 生まれた時から、一人だった。

 生まれた時から、誰も触れてもくれなかった。


 いや、たった一人だけ、触れてくれた。


 でも、自分の毒が、何もかも溶かしていった。


 だから家族は自分を突き放す。

 父も、兄も。




 その日は、アナトリカ王国の十大貴族のパーティが開かれる日であった。

 とても素晴らしい記念の日であったと今でも覚えている。

 自分はまだ、10歳であった。


 兄ーーゲイル=ヴァサニスが、アリシダ大監獄の看守長に任命された日であった。

 なんという、めでたい日であろうか。ヴァサニス家にとっては、これほど嬉しい日はない。


 父であるヘイルダム=ヴァサニスがその地位を譲り、兄を看守長にした。

 ヴァサニス家を盛大に祝うその記念パーティに、もちろんながら弟のフェウゴも連れて行かれた。


 「お前は大人しくしていろ。」


 家族に言われた言葉はそれだけであった。

 兄を祝おうにも、フェウゴにそれをすることはできない。


 そして何よりも、兄であるゲイルはフェウゴに見向きもしない。


 せっかくの自分の家系のパーティでも、フェウゴは隅っこで丸くなっていた。

 貴賓は、端っこにいるフェウゴを見て口々に言うのだ。


 「あれが・・・」

 「あの方を・・・」

 「気品のある素晴らしい方だったのに・・・」


 あぁ、耳がいたい。

 こんなことなら、来なければよかった。


 うずくまって、目を地面に向ける。

 みんな知っている、自分が人殺しのーーいや、母親殺しの子供だってことを。


 誰も話しかけてはこない。家族でさえもーー


 「君は何をしているのである?」


 誰かが近くにいるような気がするけど、気のせいだろう。


 「おーい、聞いている?なぜ無視するのである?」


 誰かが近くで口論でもしているのかな。


 「こっちを見るのである!」


 誰かが、自分の体に触れた。

 毒しか纏わぬ、自分の体に。


 「やっとこっちを向いたのであるな。」


 そこには、自分と同じくらいの少年が立っていた。


 「え・・・」


 「フェウゴ=ヴァサニスだな!私と友達になるのである!」


 自分を非難する声しか、耳に入らなかった。

 自分に対して、冷たい言葉と視線しかなかった。


 「と、友達?」


 「そう、友達になるのである!」


 あまりにも急で、土足で自分の心の中に入ってくる。

 それが嘘であってもいいと、そう思うほどに、フェウゴは嬉しかったのだ。


 それが、カンピア=ミルメクスとの初めての出会いであった。



 

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