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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第1章  光が落ちた王国
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第1章6話  王都にて懐古す




 あの日のことは鮮明に覚えている。命の危機を感じたあの日。死という概念を目の当たりにしたあの日。その眼を俺は忘れない。


 あの紺碧の眼を。






 「君は『魔王』と会ったことがあるのかい?」


 『魔王』と同じ紺碧の眼をしたエナの優しい言葉に対して、イロアスは睨みと敵意を持った口調で返す。


 「覚えてないのか・・・!!」


 二人の門兵は師団長に無礼を働くイロアスに対し、異常者だとか精神魔法をかけられているだとか好き放題言い放つ。小さな精霊セアは心配してオロオロし、エナは無礼な威勢のいいイロアスを見て大笑いしている。


 確かにこの王都に堂々と『魔王』がいるわけがない。しかしイロアスは感じ取ってしまった。これは決して誤認ではない。あの紺碧の眼を見た瞬間、確かに『魔王』の気配を感じ取ったのだ。


 今はその気配も抑えているから、きっと誰も気づいていないだけだ。



 ーーここで仕留めなくては。



 「へぇ、これはなかなか。」


 イロアスは両手から炎を出し、やがてその炎は武器の形状へと姿を変えた。明らかな敵意が込められた凶器へと。無作法に最大威力を放った7年前のあの日に比べ、格段な成長を遂げている。


 「ロア!こんな街中で魔法使っちゃダメ!」


 セアのその言葉で少し冷静さを取り戻す。ここは王都で王城の前。否が応でも人目につき、誰かに誤爆でもしたら取り返しがつかない。


 そう瞬時に判断できたのも、英雄を本気で心目指すイロアスの成長だろう。彼は使おうとした魔法をやめる。だがしかし、逃すわけにもいかない。魔法の代わりに、身体能力で圧倒する他ないと判断する。


 だが、相手が悪かった。


 「あら、やめちゃうんだ。つまんないの。まぁそれ以上暴れるようなら力づくで押さえつけないとね?少年?」


 その威圧に一瞬固まってしまった。明らかな実力差を感じてしまう。それもまた、7年の成長なのだろう。魔法も使えずに強さの基準を推し量れなかったあの時とはわけが違う。己の実力を的確に理解している。


 しかし、その一瞬の戸惑いをエナは見過ごさなかった。


 「なるほど、君は僕の眼をしっかり見ている。それがかの『魔王』と間違ってしまった理由だね。」


 「間違いだと・・・?」


 「僕はエナ=アソオス。アナトリカ王国騎士団第2師団団長だよ。確かにかの『魔王』と僕は同じ眼をしてるけど、残念ながら人違いだよ。」


 「騎士団・・・師団長だと?」


 「だって『魔王』の姿を君は知らないでしょ?」


 そう。あの事件の時、セアから聞いた。『魔王』は認識阻害によって顔を記憶されることを防いでいる。俺は紺碧の眼しか覚えておらず、顔は記憶にはない。


 「『魔王』と接点はないのかと言われれば違うけど、君に言う必要もないだろ?」


 そういうと、エナと名乗る紺碧の眼の男は少年の方へ駆け寄り、肩を叩く。


 「まぁ間違いは誰にでもあるさ!さぁ、君は城になんの用だったかな?」


 「・・・セレフィアさんに会いに来たんだ。」


 「あぁ、確かにその方はこの城にいるね。でも流石に会わせるわけにはいかないかな、君にはまだ城に入る資格がないからね。」


 「どうやったら会える。」


 「君が騎士団に入り、功績を残せば会えるさ。そして望むならば、僕を『魔王』として裁く事もできるかもね。」


 そう笑って、エナは俺に手を差し伸べる。


 俺はその手を借りずに立ち上がる。危ないと離れていたセアが再び俺の元に戻る。


 そしてそのまま立ち去ろうとしたその瞬間、再びエナからあいつの気配を感じた。


 ここで同じことを繰り返したら何も解決しない。そう思い、エナを睨みながらさっさとその場を立ち去る。


 そんなイロアスの後ろ姿に呑気に手を振りながら、エナはふとつぶやく。


 「精霊が何でここにいるんだろう。あの子は何者だ?」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「本当に『魔王』じゃなかったと思うか、セア。」


 「間違いなく別人ね。もしここにいるならリスクが高すぎる。そうまでして再びロアに近づくとは思えないし、向こうにメリットがないわ。ここは『七人の使徒』が2人もいるのよ?」


 「でもなんか、嫌な気配がしたんだよな・・・絶対。」


 「それよりもロア、もう一人探してるんでしょ?」


 「そうだった、ミテラ叔母さんに頼まれてる人がいるんだ。」


 ミテラ叔母さんからもらった手紙と女性用の剣。手紙にはこの剣をある人に渡してほしいと書かれていた。その人の名前は、


 「リア=プラグマ。」


 「プラグマ?プラグマ家といえば『七つの使徒』が一翼『灼熱』の家系よ?そんな名家にミテラ叔母さんは関わりあるの?」


 「そんなに有名人なら家なんてすぐにわかりそうだね。渡さないといけないから家に行かないといけないんだよなぁ。一旦宿に戻ってクルーダ叔母さんに聞いてみよう。」


 そう決めて、来た道とは別の道を通って宿に向かう。さっきエナから早く立ち去ろうとして、道を間違えたのだ。でもこっちの道のほうがいい匂いがするんだよなぁ。


 しかし違う道を通っているとはいえ、さっきと打って変わってどんどん人気がなくなっていく。いい匂いがするのに。


 そんな道の途中に、いい匂いの酒場があったので入ることにした。情報収集といったら酒場だって孤児院で習ったから、一石二鳥だ。


 「ごめんください。」


 そこは昼間なのに何人かの客が行儀悪く酒を飲んでいた。あのいい匂いはこの店の匂いじゃないらしい。失敗した。


 それに「閑古鳥」並にボロボロの酒場。イロアスは早く用事を済ませようと、カウンターにいるマスターの元へまっすぐ向かった。


 やる気のないマスターで、黄緑の髪に細身のチャラそうな男。極めつけは店員でありながら椅子に座って酒を飲んでいる。


 「マスター、聞きたいことがあるんだけど、」


 「ここは子どもが一人で来るとこじゃないっすよ?どうしやした?道に迷いやした?」


 「情報収集だよ、リア=プラグマって子知ってる?」


 「あぁ、()()()()お客さんっすか。でも明らかにバカそうな質問っすねぇ・・・まぁいいか。少年や、プラグマの名前を聞いて知らない人はいないっすよ?。」


 「それくらいは知ってるさ。ただどこにいて、どんな子なのかなって。」


 「その子は『灼熱』の孫娘っすね。分家じゃなくて本家の正式な『灼熱』の跡取りっす。この国の超重要人物っす。知ってます?『灼熱』リオジラ=プラグマ。『七人の使徒』の一翼にして、アナトリカ王国騎士団総隊長の。そのおじさんの孫っす。」


 マスターはこちらの顔を覗き、俺の肩を叩いて笑いながら、


 「少年、そんなご令嬢と何かやましいことでもあるんすか?」


 この酔っ払いは・・・。本当に酒は人をダメにするみたいだ。閑古鳥のアゲラダといい、筋肉くんといい。


 「どこに行ったら会える?」


 「あら、本当にやましいことがあるんすね。」


 「ないって…ちょっと渡し物があるんだ。」


 「プラグマ家はこの王都の東側にありますっす。どでけぇ屋敷だから、すぐわかるっすよ。それか、確か孫娘は今年で17歳っすから、騎士団の入団試験に来るっすよ。見た目はそうっすね・・・プラグマ家の噂通りっすね。」


 「プラグマ家の噂?」


 「そうっす。血塗られた一族。まぁ、見たらわかるっすよ。」


 「まぁよくわかんないけど、ありがとうマスター、助かったよ。」


 思わぬ収穫にスキップしながら出てこうとするイロアスの前に、昼間から飲んだくれてる行儀の悪い酔っ払いが道を塞いだ。


 しかし、腰には剣、見る目は酔っていたとは思えぬほどまっすぐ。この男たちは間違いなく闘い慣れていると思わせるほどの立ち振る舞い。


 酔っぱらっていたのは演技だったのか。


 そこに最大限警戒するべきであるが、それがどうでも良くなるほどの、最も警戒すべきであろうほどの威圧が背後からする。


 「どこにいくんすか?少年。」


 「どこって・・・帰るんだよ。」


 「そうっすか、代金も支払わないで帰ろうなんてずいぶん無作法っすね?」


 「・・・なんの代金だい?マスター。」


 「もちろん、情報代っす。ユーロ金貨3枚ってとこっすかね。」


 この世界の通貨はユーロとセンティモの2種類である。ユーロは金貨。センティモは略してセントと言い、こちらは銅貨。100セントで1ユーロである。基本的に経済に多く出回っているのはセントであり、ユーロを使うのは家を買ったりする時などの大きなものだけである。

 一般的に、どこかのレストランで外食した際、どんなに高くても一人当たり10セントで済む。つまり、3ユーロとは法外な値段であり、こんな孤児院上がりの子どもが持っているわけがない。


 「3ユーロだって!そんな大金持ってるわけないだろ!」


 「甘えちゃダメっすよ、少年。世の中ただなんてものはないんす。俺たちは王国一の情報屋なんすから、情報にはそれに見合う対価を。」


 さっきまでの飲んだくれとは思えない威圧を感じる。マスターの眼を見るだけで冷や汗をかく。このマスターはさっきのエナと同じくらいの威圧を放っている。


 ・・・この感覚、さっきエナと会ったせいか。


 身に覚えがある。この威圧、チャラそうな話し方。


 セアにも覚えがあるみたいだ。


 「ロア、あいつ・・・」


 「わかってる・・・」


 そして一歩、たった一歩後ろに下がった。ただ、それだけだった。

 だが目の前の世界は、ただそれだけとやらを許す世界ではなかった。


 情報屋を名乗る男はイロアスの目の前に急に現れ、身体を押さえつけにかかってくる。イロアスはただの反射神経で押さえつけようとする腕を振り払う。

 先ほどのエナとは打って変わって、相手は本気で捕らえにきている。


 ここは人目の少ない通りだった。今度は、魔法を使ってもいいよな。


 「炎槍(えんそう)


 両手の炎を変形させ、何本もの炎の槍にして自分の身体の周りに浮遊させておく。一本だけマスター相手になげ、残りで背後の飲んだくれたちの牽制に使う。


 「店の中で暴れて欲しくないんすよ。」


 「ロア!!躱して!!」


 そう言って魔力を練ったマスターの気配が消えた。イロアスは目の前のマスターを見失い、セアの言葉にさらに戸惑ってしまった。そうして鈍くなった彼が次に見た光景は、木目であった。


 一瞬のうちに床に押さえつけられてしまった。


 「俺は子どもが大嫌いなんすよ、本当に油断ならない。金がないなら、臓器でもなんでも売り飛ばすしかないっすよ?」


 首と腕を木の床に押さえつけられ、身動きが取れない。全く見えなかった、この男の動きだしが。そして抗えない力で首を絞められる。


 死を感じる。この男からわずかながら殺気を感じる。


 この殺気、威圧、喋り方。違う雰囲気を感じるが、似ている。



 ーーミストフォロウ



 その考えにたどり着いた時、イロアスは全身に炎を纏い、焼き払いにかかる。瞬時に手を離し距離をとる相手に、鋭い牙を持つ獣の形にした炎が襲う。


 「炎獅子の牙(ししのはがみ)


 ・・・確実に敵を捉えたとは言えないなんとも言えない感覚。まだいる。


 「今年の騎士団候補生はバケモノ揃いっすね。プラグマ家にロダ家、裏切りの家系、各貴族の坊ちゃんたち、それに君。その年でここまでやるなんて嫌になるっす。」


 攻撃した場所から当たり前のように無傷で現れるその男に問いかける。


 「お前、ミストフォロウか。」


 「・・・何でその名前を知っている?」


 その言葉と共に、互いに魔力を解放し睨み合うその瞬間、ある声と共に2人は動きを止めた。


 「そこまでぞ、()()()()。」


 聞き覚えのある図太い声。後ろを振り向くとそこには雄々しい2本の角を生やした男が立っていた。


 「その兄ちゃんは、うちの預かりもんぞな、ここまで言えばわかるぞな?」


 その言葉と共に、道を塞いでいたゴロつきはアゲラダを通す。そして殺気だっていた酒場のマスターも、腕を静かに下ろす。


 俺は力強く頭を撫でられ、落ち着けとなだめられているのを感じた。


 「兄ちゃん、無事ぞか!よかったよかった!」


 俺の頭を撫でる牛人族のアゲラダが大きな声で笑う。


 「『閑古鳥』のお客さんだったんすね、すいませんね旦那。」


 「あんま子どもをいじめるなんて感心せんぞ、スキアー。」


 スキアー?こいつはミストフォロウじゃないのか?


 「この国の中枢の人間の情報を聞いてきたもんすから、こっちだって警戒しやすよ。」


 「中枢?兄ちゃん、何聞いたんぞ。」


 「リア=プラグマの情報をよこせと言われたもんで、情報だけ先に渡してからの対応を見ようと思ったんですが、逃げようとしたっすから。」


 「プラグマ家の情報ぞか、そりゃすまんかったぞな。今回は見逃してくれんか?」


 「はぁ、こちらも少しばかりやんちゃでしたかね。今回はお代は結構っすけど、少年、次から気をつけるんすよ?中枢の人間の情報を聞く人間は碌な奴がいないっすからね。」


 俺はいまだに警戒していて、そんな話耳に入ってこなかった。そんな様子を見てアゲラダは俺を抱えて店を出る。


 「邪魔したぞな!」


 「ちょい待った、旦那。」


 スキアーと呼ばれるその男がアゲラダを呼び止める。


 「少年、俺を二度とミストフォロウと呼ぶな。」


 どういうことだ?確かに少し雰囲気が違うのは認めるけど、こいつから感じる魔力は似ているどころの騒ぎじゃない。


 しかしそれを聞いたアゲラダが俺を下ろすことなく、まっすぐ『閑古鳥』に帰った。何度も下ろしてくれと頼んだが、笑って聞き流された。






 『閑古鳥』についた瞬間に、さっきまで笑っていたアゲラダが真面目な顔で語りかけた。


 「兄ちゃん、ミストフォロウと何の関係があるぞな。」


 俺はアゲラダの真面目な表情に対して緊張感を覚えた。その時に感じた。アゲラダは俺よりも遥かな実力者だ。この質問に丁寧に答えなければいけない。


 「ミストフォロウは『魔王』と一緒に俺の孤児院を襲ったことがあるんだ。その時俺は対面したから、何となくスキアーから同じ威圧を感じて・・・」


 「・・・なるほどぞな。ミストフォロウは全国でS級の指名手配ぞ。『単眼の死角』っちゅう闇ギルドの首領にして、スキアーの双子の兄ぞ。スキアーはミストフォロウと魔力が同じせいで何度も手錠をかけられていて、兄を自分の手で捕まえたいんぞ。」


 「そうなのか・・・」


 それが本当なら少し申し訳ない気持ちになった。スキアーはミストフォロウが指名手配されてから実に15年もの間情報屋を営んでいるらしい。


 スキアーの一件の反省と共に、イロアスは今日1日を振り返った。


 強くなった気でいた。しかし実際には師団長相手に威圧された際に一瞬だが足を止め、スキアーに一度押さえつけられ、目の前のアゲラダもおそらくは俺より遥かな実力者。


 上には上がいることを騎士団試験前に知ってしまった。


 だけど、


 「今日一日、俺より強いやつばっかりに会ってきた。だけど、知っといてよかった。」


 こんなんじゃ、『英雄』には程遠い。自分はまだまだだ。孤児院の外に出て、世界の広さを実感している。絶対に騎士団に合格して、強くなろう。


 そう決意し、これから先の自分を想像して、思わず笑ってしまった。


 「笑うか、兄ちゃん。さすがはワイの見込んだ男ぞ!兄ちゃんはまだこれからぞな!」


 アゲラダは大声で笑いながら俺を担ぐ。


 「よっしゃ!特別やぞ!明日ワイがプラグマ家についてったるぞな!」


 「本当!ありがとう、アゲラダ!」


 「てことで今日はもう外出るのはやめときぞな。」


 「え?これから少し鍛錬しようと思ったのに。」


 「・・・そうか、なら案内したるぞ、ついてくるぞな。」


 そうやって案内された先は閑古鳥地下だった。セアは鍛錬すると言ったら、疲れた俺のために部屋で待っててくれるらしい。


 閑古鳥の酒場のキッチンからつながる階段を降りた先、大きな鉄扉がイロアスを出迎えた。ただの酒場つきの宿屋にこんな場所があるなんて。そう思わせるような巨大な鉄扉。


 「鍛錬はここでするといいぞな。」


 アゲラダが開いたその鉄扉の奥には、大きな鍛錬場があった。対人用の魔法人形や、動く的、そしてさまざまな武器が揃っている。


 そこに見覚えのあるやつが一人。熊の耳に筋肉隆々の逞しい背中が見えた。そして汗を流しながら彼は振り返って綺麗な笑顔で俺を迎えた。


 「君は!イロアス君だね!ようこそ、ロダ家の鍛錬場へ!」


 そこには、こんなに豊富に揃っている鍛錬道具を全て無視して筋トレをしている少年ーーミューズ=ロダが汗を流してイロアスを迎えていた。




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