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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章10話 アナトリカ王国騎士団副長




 ディコス王朝から真南に進んだ大地。

 そこは砂漠地帯であり、誰もすまない大地。


 そこでディコス王朝とノートス帝国が、この千年でたった数度だけ戦争を起こした。


 だがそれは、昔の『大将軍』の異名を継ぐ男と、中央の助力もあって防ぎ続けてきた。

 数年前からノートス帝国の動きは活発化している。


 そして、今日、ノートス帝国がこの大地に足を踏み入れた。

 率いる将は『堕天』の名で知られるノートス帝国の第1将軍である。彼は黒の仮面をし、その素顔は誰にも明かされていない。何歳なのかもわからない。


 だが、歴戦の猛者であり、彼は歴史も熟知している。


 だが、相手はディコス王朝でもなく、軍隊ですらなかった。


 たった一人であったのだ。


 攻略は簡単だと、ノートス帝国の侵略者たちはバカにした。

 それが、『冠冷』だとは知らずに。


 砂漠地帯での戦闘を、帝国は想定していた。


 それが誤りであった。


 すでにここは、氷河地帯である。

 あたりに砂はなく、ただ氷があるだけ。

 氷像が目立つ戦場と化していた。


 そして、いつからそこに、玉座があったのだろうか。


 「おい、退屈だぞ、『堕天』。」


 エルドーラの二つ名は、数十年前世界が勝手にそう呼び始めた。

 冠位の魔術師と、彼はそう世界から認められた。


 エルドーラほど、玉座が似合う男はいないと、世界はそう思っている。


 「おい、この程度でいいのか?俺が同じ魔法を使えば、きっとお前以外は全滅だろうよ。」


 エルドーラは先程から、有象無象の一切を見ていない。

 自分の足元にすら及ばない騎士など見てはいない。


 きっと、ノートス帝国の騎士の中にはイロアスやリア、もしかすればギュムズのような強者もいるだろう。

 だが、それすらもエルドーラの足元にも及ばない。


 それほどの実力者である。

 そんな彼が、ただ一人を見ている。


 『堕天』エリュシオン。帝国をまとめる4人の将の一位の座を得ている。

 武器は大剣一本。杖のように両手で地面に刺している。


 「お前が出なきゃ話にならんぞ。」


 「・・・まさか、汝が来るとは思わなんだ。」


 「『大将軍』でも来るかと?」


 「北の話と違うな。だから奴らは信用ならぬ。」


 「はぁ、会話はいいか。じゃあ、凍結しろ貴様ら。」


 手を横に、線を描くように左から右へ流す。

 ただそれだけで、冷気の波が起こり、大地が凍る。


 氷像の死体を乗り越え、氷で模った玉座に座す『冠冷』に向かっていった帝国の侵略者は、乗り越えたはずの氷像になっていく。


 冷波は一瞬でエリュシオンの元まで辿り着く。


 「遅い。」


 剣から鞘を抜き、冷波を横一閃に切り裂く。

 その勢いのまま、大剣を持ったエリュシオンがエルドーラの元へたった一歩の踏み込みで辿り着き、首を刎ねるーー


 ーーーはずだった。


 嫌な気配だったと、ただそれだけでエリュシオンは近づくのをやめた。


 「そんな薄着で、俺の側に寄れるとでも?」


 そう言った直後、今度は逆にエルドーラは首元に嫌な気配を感じた。

 氷で何十にも壁を張った。


 一瞬にして何枚もの壁が砕け散る。

 が、しかし、その大剣は決して首に届くことはなかった。


 「適応が早いな。」


 適度に喋るエルドーラと違い、無口なエリュシオンが黙々と剣を振るう。

 だがそれのどれもが、届かない。


 エルドーラの周囲は冷気で覆われている。

 それは彼自身に近づくほどに強くなり、一瞬で全てが凍りつく。


 そして何より恐ろしいのは、それは物体には限らないこと。


 「汝、概念に干渉しているな。」


 物体が持つエネルギーの凍結。

 それが、エルドーラが干渉している概念である。


 「ありとあらゆるものの凍結。それが俺の魔法の効能だ。」


 縛りによる効能の向上でもない。

 ただの圧倒的な力による理不尽な才能。


 彼に届きうる攻撃ができるのは、限られた強者のみ。


 そして、生憎であるが、『堕天』は限られた強者である。


 薙ぎ払った大剣は、何かを纏いエルドーラの顔面の真横まで迫る。

 力を上げなければ、久しく血を流すことになったであろう。


 大剣は、冷たく頬に触れた。


 「俺の前に震えずに立つことができ、大剣を頬の横まで薙ぎ払える。お前の実力はどうやら『厄災』『使徒』に並ぶらしいな。エナリオスが来ていたら死んでいたな。」


 「汝の実力は知れた。この勝負はすでに勝敗がついている。」


 「おいおい、力の半分も出してないのに、何をほざいている?」


 『堕天』は黒い仮面の下で、それすらも知っていると、囁いた。


 「汝、半分程しか力が出せないのだろう。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ディコス王朝の北にも砂漠地帯が広がっている。

 そもそも、ディコス王朝は砂漠地帯の中心のオアシスを原点に作られた巨大都市である。


 東西南北の全てが砂漠地帯であり、鉱物の原産地として栄えている。


 だが現状、南の砂漠は氷の大地と化し、北は魔獣の生息地帯と化している。

 南は『冠冷』のせいだが、北は紛れもなく『厄災』の仕業である。


 そんな大地に、煙に巻かれ、誰も観測できない場所があった。


 発見したのはこの西の大国に住まうものではない。


 「熱源探知(サーモグラフィ)


 砂漠には厄介な霧が発生していたが、その原因はわかっていた。

 革命軍幹部第6席『幻霧』サンの霧の魔法である。


 「見つけた。」


 長年誰も発見できていない革命軍本部。

 その実、隠し続けてきたのは別の男であったからだ。


 「アジトは、地下にあるわ。」


 同じく革命軍幹部第4席『墓守』ハリカル=マウソロス。

 雷と土の魔法を扱う爺。


 地面にアジトを隠し、その存在を霧が隠匿。

 だが、能力は学校での戦いで知られた。見つけるのに時間はかからなかった。


 そして、それは向こうも百も承知であった。


 「誰かが、砂塵の中に立っている。」


 リアの熱源探知(サーモグラフィ)に、誰かが引っ掛かる。


 その男は、恐らく入り口であろう大岩の前に立っていた。


 「あれはわたちの相手じゃな。校長、下ろちてくれんかの。」


 「エピス先生、頼んだよ。ボックたちはアジトに侵入する。」


 ゆっくりと全員を下降させ、エピスだけが前に出る。

 足元の砂のサラサラと流れ落ちる音だけが聞こえる。


 「わたちと君は、随分長い付き合いじゃな。」


 「随分どころではない。遠い遥か昔から、貴様らピュロン家と我らマウソロス家は因縁がある。」


 「緑を生み出す家系と、緑を奪う家系。わたちらは争う運命にある。」


 睨み合う年寄りが二人。

 その因縁は遥か遠い過去からの因縁。


 「どちらが、緑を奪う家系か!!何が『翠老』か!!貴様だけは必ず殺す!!」


 「早く行きなされ、校長たちや。わたちがやつを止めておこう。」


 「おい、何を寝ぼけたことを言っておる。ワシは『墓守』。この大地を護る者じゃ、一人たりとも通さんわい。」


 この老人が、全員分を相手するわけがないと、誰もがそう思った。

 瞬間、この霧が隠していたものがアジトではないことを悟った。


 魔獣の遠吠えが聞こえる。

 足音が聞こえる。その足音が、大地を震わせる。


 「なんという数なんだ・・・この量は・・・」


 ダスカロイは一人で空中に上昇し、その全体像を図る。


 「なんという数だ・・・これはスタンピードか!!」


 明らかに統率された動き、その全てに、ある人物の姿が思い浮かばれる。

 イロアス、リアは、心当たりがある。


 「『魔王』がいるのか!!」


 全ての魔獣が、こちらに一斉に向かっている。

 何に目をくれることもなく、ただこちらに。


 「まずいな・・・はめられた。」


 「さぁ、エピス=ピュロン。貴様はワシと殺し合う時間じゃぞ?」


 『翠老』は、魔獣の掃討には向かえない。

 それを誰もが悟り、誰もアジトに侵入することく、立ち尽くす。

 一体、どうすれば良いものなのかと。


 「ダスカロイ、我輩が行く。」


 ただ一人を除き。


 「貴様らはアジトに入れ。ここで立ち尽くす時間がどこにある。」


 「だがストラトス!あの数はーー」


 「ダスカロイ、貴様にはやらねばならないことがあるだろう!!」


 初めて、ストラトスは怒鳴った。

 大きな声をあげて、怒りを露わにした。


 ずっとずっと、溜めていた怒りを。


 「貴様は、少しは我輩を頼ったらどうなんだ。」


 そして溢れる、同僚としてではない。

 友としての想いを。


 「時間がない、早く行け。我輩があれを止める。『炎鬼』と呼ばれる所以を見せてくれよう。」


 ストラトスは、ただ一人で魔獣の群れの方へと向かう。

 その背中に、何を想うのか、ダスカロイはただ一言告げる。


 「ボックは、君に一番信頼を置いている。」


 知っている。

 そんなことは。


 そして、ストラトスはただ一人で魔獣の群れへと向かう。

 その数実に5万体。西の大陸の北方の魔獣の全てが、こちらに向かっている。


 「これはきついな。だが、全てを燃やし尽くせばーー」


 「おい、何一人で死のうとしている。」


 一人で向かったはずのストラトスに話しかける声がする。

 それは、黄金都市からこちらに向かった誰の声でもない。


 「なぜお前がここにいる・・・『冠冷』・・・」


 「なぜって、言っただろう。革命軍以外の全てを任されていると。当然こっちもだ。」


 「お前は確かに南に向かったはずじゃあーー」


 「分体で力は半々だ。全く、南は『堕天』、北は『魔王』。過労死させるつもりか俺を。」


 「いくら貴様でも半分の力で勝てる相手ではないだろう。」


 「そうだな、お前の尽力にかかっている。『魔王』の相手はお前がするんだ、『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマ。『魔道王』の腹心としての役割を果たしてみせろ。」


 南のノートス帝国の軍勢に、北の魔獣の大群。

 この二者を同時に相手取ることができるのは、この男だけであろう。


 「俺はアナトリカ王国騎士団副長にして、王女セレフィアのただ一人の忠臣。セレフィアの命令の全てを遂行する。」


 『冠冷』エルドーラーー全てが規格外な男の参戦によって、このディコス王朝での戦いは、戦いとして成立している。

 それこそが、彼が、最強と呼ばれる所以である。

 



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