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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章9話  影武者




 最初に接敵したのは、『大将軍』エナリオス=スニオンと亜人ミューズ。

 ミューズはエナリオスを突破した『暴獣』ギザと相対した。


 そして、エナリオスは二人の相手を取ることになっていた。


 空高く舞う『彗星』バビロンと、『戦争』マギア。

 後者の正体が本体でないことは既に見抜いている。故にエナリオスは二人を相手取ることにしたのだ。


 「ここは貴様らがいていい場所ではない。」


 「貴様はそれほどの強さを持ち得ながら、なぜこの王朝に味方する。」


 エナリオスは、無言であった。

 その理由は、彼自身しか知らず、この王朝の王ですら彼が真摯に支えてくれている理由を知らない。


 だが、今この状況では、そんなことは小事であった。


 エナリオスは、答えることなくただ魔力を高める。

 王朝に足を踏み入れた敵を、駆逐するだけ。


 「深海を知っているか。」


 「何?」


 「中央大陸を取り囲むように、この世界には海がある。」


 「・・・」


 「その海の遥か底は深海と呼ばれ、何も動けず、やがて人は水の重さに耐えきれずに、肺は破裂し体はひしゃげる。」


 「何が言いたい。」


 三叉槍を天にかがげ、海の如き水を生み出す。

 それは球状になり、あらゆるものを飲み込み始める。


 「その深海は、光が通らない暗黒の海。もはや影すらも存在しないと、そう言っている。」


 液体であるとは思えないほど、エナリオスは自由自在にそれを操る。

 空の鳥を、地上の影を、呑み込まんと液体は黄金都市を暴れ回る。


 「まるで生き物だな。」

 「おいおい、鳥に水は御法度だろ。」


 影である『戦争』の分体は地面の影を潜り逃げ回る。

 空を舞う『彗星』バビロンは優雅に逃げ回る。


 エナリオスは液体を細密に操作し、二人を追いかけ回す。

 だがふと疑問に思うのだ。


 なぜ攻撃してこないのか。

 ただ液体が追いかけているだけで、なぜ反撃をしてこないのか。


 「・・・何を考えている?この程度の小手調べで。」


 革命軍の実力者たる二人が逃げ、攻撃をしないのには理由があった。


 「・・・お前はなんだ?何をしている?」


 見逃していた。

 影に何度も潜るところを。


 いや、潜らせてしまっていたことを。


 「本体ならば、近くにいるだけで影を支配できるが、分体だとそうもいかないものでな。」


 その言葉に、最悪の思考を巡らせる。

 ふざけていたわけでも、遊んでいたわけでもない。


 分体の影からしたら、エナリオスの水魔法に捕まった時点で消滅は免れなかったのだから。

 光が存在しなければ、影もまた存在し得ない。


 ただ闇があるだけ。


 その脅威を避けながら、影のマギアは密かに仕込んでいたのだ。


 「相手がお前でよかった。お前はまだ、力を取り戻した俺の実力を知らない。」


 長年、自分よりも弱い『戦争』を見てきた。

 時代とともに受け継がれる彼の弱さを知っていた。


 エナリオスは、『戦争』の強さを知らなかった。


 「影の軍隊(ブラック・アーミー)


 エナリオスは、黄金都市中の地面の感覚を波のように把握する。

 だが、黄金都市しか把握できず、それは限定的なものであった。


 この国の異常を把握するために設けた縛り。

 そして、その波は危険を察知することはなかった。


 自身が騎士となり、初めての危険信号を、受信してしまった。


 「さらばだエナリオス。」


 目の前の影を、水魔法で掴み、深海に引き摺り込む。

 笑いながら、影は沈んだ。


 「・・・やられた。」


 すぐに城へ戻ろうとするエナリオスの上空から、形のない攻撃が飛んでくる。

 空気の弾のような何かが。


 「君を自由にさせないようにするのが、僕の役目なのさ。悪く思わないでくれよ?」


 エナリオスは、静かに、確かに、怒りを募らせるのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 黄金都市は、黒に染まっていく。


 建物に繋がっている影は、切り離されたかのように消え去って、自立し行動している。

 全て同じ形を模って。


 一体目の分身は、エナリオスの海に沈んだ。


 だが、一体目はよくやってくれた。

 結界の破壊に大半の力を使い、影に意思を残した。それだけで十分だ。


 あとは俺たちでなんとかしようか。


 そうして、何十体もの『戦争』マギアが生まれ落ちた。

 黄金都市の四方から、城に向かって進む『戦争』がいる。




 その黒き集団を見て、一国の主人は震えて待つ。

 城の窓から、絶望的な状況を覗き見る。


 強気の姿勢はもはやない。

 絶対的な結界も、もはやない。一体どうやって破ったのか、理解もできない。


 『魔導王』の結界で、黄金都市に侵入者がないことだけが、強気に出らていた理由だった。

 結界が崩壊したと聞いても、ここにはこられないと思っていた。


 『魔導王』、『大将軍』、『冠冷』。三者がいてここが崩れるわけがないと、そう思っていた。

 だが、現状はこの有様。


 『魔導王』と『冠冷』は都市から出ていくし、『大将軍』は突破されてしまっている。


 もはや、希望はない。


 再び窓を覗き、すぐそこまで迫っている影を見る。

 だが、不思議と進行は止まっていた。


 「この国は結界の歴史。差別の歴史。そして魂の歴史。あなた方が被害者であることは認めましょう。だけど、それ以上進むのは認めないわよ。」


 風が影を切り刻み、囲い、城への道を封鎖する。

 誰も通さず、影は事細かく切り刻まれる。


 キノニア=ディマルの得意技である。


 「奪われたものを、奪い返す。それだけだ。」


 「そう、本当に戦争ってものはどうしようもないものね。」


 「俺たちを生んだのは、他でもない貴様らだ。」


 「そうかもしれないわね。」


 「・・・?貴様ら、もしかして何も知らないのか?」


 「・・・?あなたが魂の実験体にされていたことはーー」


 「そうか、知らないのか。貴様らが千年もの間我ら『厄災』に勝てぬ理由がわかった。今回も勝てぬだろうよ、その理由知らぬ限りな。」


 『厄災』とは何か。

 それを知るのはーー




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「教主様や、依頼のブツやで。譲渡するわ。」


 魔物蔓延るこの城で、一人の男だけが優雅に玉座に寛いでいる。

 他の全てが緊迫し、彼の前では口を開くことも恐れ多い。


 妙な口調の男もまた、彼の前ではわちゃわちゃと口を開くこともできない。

 圧倒的な圧に、圧倒的な力。


 『原罪』は笑う。

 ゴールが見えてきたと。


 「教主様や、一つ報告です。『戦争』は『精霊』を渡さへんかったで。」


 「だろうな。」


 「だろうなって、どうするんすか?」


 「もう向かわせている。」




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