第3章6話 会議
イロアスは、救うべきものを定めている。
『魔導王』の業とミューズを、救うべき対象として捉えていた。
しかし、再び彼は迷い続ける。
2代目『魔導王』アラクシア=フィラウティアの記憶を見て、彼は救うべき対象を増やさざるを得なかった。
『戦争』マギアも、救いたいと、そう思ってしまったのだ。
それがイロアスという主人公なのだから。
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ダスカロイが持ってきた2代目『魔導王』アラクシア=フィラウティアの記憶によって、『戦争』の生誕と、『魔導王』が背負う業が明かされた。
今回の学校襲撃によって、結界消失の謎も解き明かされた。
「奪われたのは、『戦争』の片割れか。では今までの戦果の納得がいったな。」
「・・・そういうことか。」
『冠冷』エルドーラと『大将軍』エナリオス=スニオンの両者が、イロアスたちには理解し得ない納得を見せる。
「どういうことですか。」
たまらず、質問を重ねるイロアス。
「『戦争』とは、常々最も弱い『厄災』と呼ばれていた。それに納得がいったという話だ。」
「本来の力が、二等分されていた?」
「そうだ、つまり今回の一件で、『戦争』は完全な力を取り戻した。もはや『使徒』に匹敵する力がない限りは殺すことなどできない。」
それは、西の大国の均衡が崩れることを指す。
つまりーー
「今ここで決着をつけなければ、ディコスのみならず、世界の均衡が崩れる。」
それに呼応するように動き出したノートス帝国。
絶対に決着をつけなければならない戦いの幕がすでに上がっていることを、改めて周知させられたのだ。
そしてーー
「もう2つ奪われたものがあ〜る。」
「・・・今のままでもクソッタレな状況なんだが、何を奪われた?」
「一つはアラクシア様の記憶を取りに禁忌の塔を訪れた際に、判明してしまった。もう一つは、『戦争』との叩きの最中に奪われたものだ。」
全てが沈黙して聞いた。それが、何を指したとしてもいいもののはずがないのだから。
しかし、事態はそれ以上に深刻であった。
「一つは、精霊であり、もう一つは、『厄災の箱』の在処を示す記憶だ。」
それは、この国だけでは収まらないほどの、大事件であった。
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精霊の存在。
それは、精霊が女神テディアの直属の眷属であることと、今はもう世界から姿を消した一族であることが重要である。
光の子という予言の中でしか明かされていない存在と、世界から姿を消した女神の眷属。それを結びつけない方がおかしい。
「セレフィアが言ってたな、精霊を連れている少年がいると。それがお前のことか、イロアス。」
イロアスは、無言でただ頷いた。
「そうか、だが連れているだけでお前には光魔法は使えず、光の子ではないと。ただ精霊を連れているガキというわけか。」
そう、イロアスはなんの力もない、ただの子供だ。
彼の正体が光の子であるのか、それを知り得るのは精霊セアと、『聖女』と『灼熱』だけである。
イロアス自身もそれを知らず、知らされることもない。
だが、少なくとも、精霊セアがその存在を知っているということが何よりも厄介な点であった。
敵はそれを知らなくとも、確実に無関係とは思わない。
光の子の正体がバレるのも時間の問題である。
そしてもう一つ。
「精霊も重大だが、もう一つの方も気になる。『厄災の箱』の在処だと?貴様ら『魔導王』はそれすらも隠匿したのか。」
エナリオスは静かな怒りを発している。
自身の国の危機と、それに呼応するが如く、世界の危機が迫る。それは、例えこの戦いが終わっても、ディコス王朝の危機が続くことに他ならない。
「これに関しては、ボックも初耳だ。だが、『魔導王』の失態には変わりない。すまない。」
「いや、それは置いておけ。どうせ『箱』の在処なんて目星がついているからな。どうせあのスカした魔術師がな。それに精霊も置いておけ。今はこの国が堕ちることが最も回避しなければならないことだ。」
「捨ておけるわけがないだろう。世界の危機に瀕したら、この叩きに勝利したとしても、意味がなくなる。」
「それは中央に任せておけ。どうせ今回の一件には『原罪』が関与している。あれの対処は中央の仕事だ。今俺たちがなすべきことは、中央の助力も得ず、ノートス帝国の侵入を防ぎ、ディコス王朝の陥落を阻止し、『戦争』を討ち取ることだ。」
この大国ディコスが瓦解すれば、それこそ世界の危機に他ならない。全ては、密接に繋がっている。
「俺たちが考えるべきは、ここの勝利だ。それ以外にない。話を進めるぞ。」
革命軍幹部の実態。
今回の襲撃の目的。
ノートス帝国と『原罪』の介入。
それら全てを把握し、そして、作戦会議が始まった。
「先に断っておくが、俺は対革命軍にはほとんど参加できん。」
その衝撃な一言を発したのは、『冠冷』エルドーラであった。
なんの冗談か、世界最強とも称される男がそうはっきりと言ったのだ。
「それは、どういう意味だ?」
「俺は一人でノートス帝国を相手取る。お前たちだけで、革命軍を打開せねばならないと言っている。」
「たった一人でか?」
「そうだ。奴らに割く人数などない。そも、あれはディコスとは何の縁もない国。あれを抑えるのはアナトリカ王国の役目だ。」
「・・・ちなみに、ノートス帝国からどのくらいの軍勢が来てい〜るのかな?」
ダスカロイはエナリオスの方を見る。
この国の騎士がどれだけ優秀かは知らないが、それくらいは当然把握しているだろうと目で訴える。
エルドーラから帝国が侵入してきているという情報を得てから、エナリオスは瞬時に南へ偵察隊を飛ばしていた。
「偵察からの情報では、軍勢は2万だ。そして、率いている将は帝国第1将の『堕天』。」
「2万の軍勢に『堕天』だと・・・!!」
それを聞いて驚くものは、イロアス以外の全員であった。
アストラは少しだけ、驚きよりも落胆が優っていた。
「こっちに割く戦力などない。俺が一人で相手取るから、お前らだけで確実に革命軍を陥せ。」
「こっちに割く戦力がないって・・・いくら君でも一人ではーー」
「セレフィアの頼みだ。俺は革命軍以外の全てを相手取る。」
「なんだと?」
「当たり前だろ。俺を動かせるのはこの世でただ1人ーー『聖女』セレフィアだけだ。そして、俺はセレフィアの頼みの全てを全うする。」
一同が静まり返る。
王女の名前を呼び捨てにしたことではない。
本気で、2万の軍勢を相手取ること、そして『堕天』と戦うことに驚いているのだ。
「ミューズ、『堕天』ってのはーー」
「ノートス帝国には4人の将がいる。その全員が『使徒』と渡り合えるほどの実力を持つらしいんだ。」
ミューズはイロアスから質問が飛んでくることを予測していたようだ。すぐに説明を始めた。
「その中で『堕天』は帝国の皇帝に次ぐ最強格。『灼熱』リオジラと昔互角に渡り合ったと言われてるんだよ。」
「おい、作戦会議を続けるぞ。静かにしろ。」
ミューズの丁寧な解説もあり、今エルドーラが何をしようとしているのか、その異常さがわかってしまった。
だが一切怯むこともせず、『聖女』もエルドーラ西の大国で起こる全てを任せている。
そしてイロアスは思うのだ。
その言動の全てよりも、彼の存在感こそが、イロアスの夢見る『英雄』に近いものがあった。
誰からも最強と認められる男。
全てを救うことができる確かな実力があるのだと、そう思った。
「さて、作戦は単純明快。こちらから攻め込む。」
「俺は行かんぞ。この都市を守る責務がある。」
エナリオスが即座にその作戦に加担しないと決断する。
大国ディコス王朝を守る最強の将。
都市の守護に専念するつもりであった。
「アナトリカ王国の騎士は二分する。イロアス、リア、ミューズ、アウトラは革命軍へ。フェウゴ、カンピアは残れ。」
その後詳細に話を詰めていく。
それは、誰と誰がマッチアップするのかだ。
「アタシは『幻霧』と決着をつけます。」
その話が始まった途端、リアは絶対に譲らぬと相手を指し示した。
そして、リアは『幻霧』が何者なのかを明かさなかった。
「謎に満ちた第6席。今回の学校襲撃の元凶だな。結局何者なのかはわかっていなんだな?ダスカロイ。」
話を振られたダスカロイは、ふとリアの方を見て、そしてゆっくりと話し始めた。
「一切わかっていないね〜。力がある幹部ではない。だが、確実に自由にしてはいけない幹部だね。」
「そうか、勝てるのか?リア=プラグマ。貴様がどこぞのジジイの孫娘かは知らんが、一人一人が勝てなきゃ終なのかを理解しているな?」
「アタシがどこの孫娘かは関係ありません。必ず勝ちます。」
リアの覚悟のこもった目を、イロアスは見た。
『幻霧』の正体が、サンであることを知っている。
ダスカロイは全てを知っている上で、正体を明かさなかった。
バレれば、たとえ戦争に勝っても、サンの居場所はない。
「イロアス、アタシに任せて。お願い。」
「・・・わかってる。」
「イロアスくん、僕も戦う相手を決めたよ。」
ミューズが、リアとの会話の後にそう言った。
「エルドーラ様、僕は『暴獣』ギザとやります。」
「あれはノートスの将ともためを張る。お前にその実力はない。やめておけ。」
「お願いします!僕にやらせてください!」
「ダメだ。お前たちは3人1組で精霊と本を探せ。」
「残りの敵はどうするんですか。」
「ダスカロイ、ストラトス、キノニア、エピス、エナリオス、リアで幹部を撃破してもらう。」
ミューズは悔しそうな顔をして、それでも上官には逆らえず、静かに歯を食いしばった。
アストラも不機嫌そうに、いつ命令に背いても仕方がないかのように、エルドーラを睨み続けていた。
「ちょっと待て、なぜ俺が赴くことになっている。」
エナリオスがメンバーに文句を言う。
先ほど、ディコス王朝の守護をするといった内容は、エルドーラには届いていなかったらしい。
「俺がお前のいうことを聞く義理がどこにある。」
「お前まさか、ディコスの守護をそこの二人に任せるつもりか?」
「いいや、ここの守護を担当するのはヒミアだ。」
ダスカロイを含めた学校関係者、エナリオス、イロアスたち、その全てが再び理解のできない驚嘆を見せた。
もはやこの会議は、先ほどからエルドーラの一人劇場と化していた。
「え?僕ですか〜?」
「そうだ、結界魔法が使えるのならば、この国中を覆う大結界を作れるだろう。」
エルドーラの提案は、再びこのディコスに結界を張ることであった。
「この国は弱い。弱者を守りながらの戦いなど、勝てるものも勝てない。丸ごと結界で囲んでしまってしまえ。」
「いやいや、何でできると思ってるのよ。」
「できるさ。革命軍の不可侵と引き換えに、一定の場所から動けないことを縛りにかけろ。それで結界は維持できるだろう。」
不可侵と不動の縛り。誓約と制約。
それが、広大なディコス王朝の黄金都市を囲う大結界を維持できる条件。
「お前は、必ず幹部を二人は相手どれ、エナリオス。じゃなきゃこの国は滅ぶぞ。」
会議は、エナリオスの承諾を得ないまま閉じられた。
決行は、ヒミアの準備が整い次第。
それは、重症人の治療が終わり次第を意味する。
つまり、戦いの合図はすぐそこまで迫っていた。
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ディコス王朝、黄金都市の中央に聳え立つ黄金の宮殿シボラ。
そこにある展望台に、3人の騎士が集まっていた。
「イロアスくん。」
一人の亜人の騎士は、翡翠色の眼をした騎士に語りかける。
「僕は、この戦いでやるべきことが決まったよ。きっと、リア嬢も決まっている。」
翡翠色の眼をした騎士ーーイロアスは、静かに、亜人の騎士の声を聞いていた。
「君は、まだ迷っているのかい、イロアスくん。」




