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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第3章  双生と哀獣の戦場
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第3章3話  依存の果てに




 「さて、これで君に権能が渡ったはずだ。亜人戦争を止めたくば好きにするといい。」


 そして一つの興味が失せたように、先生は僕には目もくれなくなった。

 確かに、たった数年共にしただけだが、その目は僕にはきつく写ってしまった。


 先生がなぜ権能の後継者を探しているのかはわからない。

 だけどそれは都合が良かった。


 もううんざりだったんだ。

 亜人と戦争して、窮屈な生活をするなんて。


 だけどそれよりも、僕は・・・


 「先生、まだ死にませんよね?」


 「・・・?私が死ぬことと君にはもう何の関係もないだろう?何を気にする事がある?」


 「先生が死んだら僕は悲しいですよ。」


 「そうか、それは数年一緒にいたことによる感情に移入かな。もう数年すればその感情も薄れるだろう。」


 「・・・先生は、僕が死んでも悲しくはありませんか?」


 「先ほどから意味のない疑念だな。悲しくなどないだろう。何に悲しめばいいんだい?そんなことより、早く戦争を収めた方がいい。これ以上長引けば君の国は滅ぶだろう。プライドだけが高い愚王のせいでな。」


 先生は、僕に興味がない。


 僕は数年に一度産まれるかどうかの全属性だけど、同じ全属性の先生は僕に興味も示さない。

 もう話は終わったと、そう確信し颯爽と、振り返りもせずに立ち去る先生の後ろ姿だけを見つめて、寂しく、悲しい気持ちになる。


 「先生、僕は都合のいい生徒にすぎなかったのですか?」


 これが、2代目『魔導王』アラクシア=フィラウティアの誕生の瞬間である。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「先生ーー!!」

 「ねぇ先生、これわからないんです。」

 「俺の炎魔法を見てください!」


 「順番に来なさい。僕の体は一つなのだから。」


 くだらない仕事だ。


 僕には教師など向いていない。


 子供の声が騒がしくて仕方がない。

 子供は嫌いだ。


 僕は早く、先生に会いたいのに。


 先生がご隠居なされてからもう何年だろうか。最近は奇妙な巨人族の男と一緒にいるが、なぜあんなのと一緒にいるのか理解できない。

 僕の方が、先生のために・・・


 僕の方が・・・


 どうして・・・


 どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして




 ーーーどうして先生は、僕を見てくれないの?




※※※※※※※※※※※




 「先生が死んだ・・・だと?」


 それは突如舞い込んできた訃報であり、それはーー


 「そうだ。」


 バイオラカスが告げた訃報に、アラクシアは酷く取り乱した。


 「誰がやった、いや、そもそもどうやって先生の結界内に・・・いや、その時先生は外に出ていたのか?一体どうして・・・先生が簡単にやられるとは思えない!!バイオラカス!!説明しろ!!」


 「『運命』がスコレーを殺した。魂の研究をしていたんだ、それはスコレーもわかっていたことだ。」


 「先生がタダでやられるはずがない!!どんな卑怯な手を使われたんだ!!」


 「『運命』は正しく『厄災』だ。中央の調停機関ですらその実態を捉えられない冥界の女主人だ。スコレーといえども真正面から戦って勝てる相手ではない。」


 「嘘だ!!先生が負けるはずがない!!」


 「スコレーが負けたとは言っていない。スコレーは死んだが『運命』は二度とここには入れない。」


 「でも・・・先生が死んでしまっては意味がない!!」


 「魂は禁忌の塔にある。あいたくば行くがいい。『番人』たる俺がそれを許そう。」


 「・・・『番人』だと?」


 「スコレーは俺に言った。その任が、俺の命題の答えを導くものだと。」


 バイオラカスが何を思い、何を考えているのかなんて興味がない。

 そんなことよりも、アラクシアは先生と会いたかった。


 先生の死を前に何もできなかった巨人を置いて、アラクシアは地下へと走る。


 何度も何度も、先生と呟きながら、ただ地下へと走る。


 図書館の秘密通路を抜けた先、禁忌の塔の入り口を彼は走り抜ける。


 「先生!!」


 床のない、図書館のような空間に、浮遊する女性がそこにはいた。


 「先生!!どうして僕を置いて・・・!!」


 「何の用だい?折角魂となったこの身が塔に収まり成功を収めた瞬間だというのに。」


 「何の用って・・・先生が死んだと聞いて!!」


 「・・・?人はいつか死ぬだろう?私はそのためにできる準備はしたつもりだ。バイス然り、君然り、この塔然り。」


 「準備って・・・先生が死ねば僕はどうしたら!!まだ教えて欲しい事がたくさんあるのに!!」


 「私は研究者でね、嫌悪するものが世に二つある。」


 スコレーは静かに話し始めた。それは、アラクシアが今まで聞いたことのないような声のトーンで、低い低い声であった。


 「完璧と、依存だ。」


 それがどういう意味なのかを、アラクシアは理解できなかった。


 「完璧は、ただつまらない。それ以上がないということだ。研究者としては次から次へと尽きぬ疑問があった方が喜ばしい。」


 「先生、何の話を・・・」


 「依存は、最も嫌悪するものだ。それは何もかもを委ねるということ。生命の美徳である思考を奪う劣悪な行い。私はそれを嫌悪する。」


 「・・・先生?」


 「君はそれだ。私に依存している思考なき木偶にすぎない。君にはとことん興味が失せた。早く出て行きたまえ。」


 アラクシアは声も出ずに、その場に突っ立った。それを不快に思ったスコレーは、無理やり彼を外に追い出した。


 敬愛する先生からの拒絶。それは想像を絶するより苦く、堕ちていくのには充分な出来事だった。




※※※※※※※※※※※




 数日、数週間、アラクシア=フィラウティアが表に出ることはなかった。


 敬愛する先生からの拒絶。


 それはアラクシアを抜け殻にするには十分すぎるものであった。

 あれ以降、アラクシアは塔に入ることが禁じられた。


 何度等の入り口に近づいても、塔はその扉を開かなかった。

 スコレーが何かしらの制限をかけたのかわからないが、禁忌の塔はアラクシアを敵と認識したのだ。


 「先生・・・」


 先生に会いたい。


 ただ、それだけすら叶わぬ後継者。


 だが、スコレーは一つ思い違いをした。


 アラクシアの妄執はとどまるところを知らないということである。


 「僕に亜人戦争を止める力をくれた。あの人こそがこの国の希望なんだ。僕じゃない、先生こそがーー」


 その妄執の果てに、彼もまた魂の研究を始める。

 そのために、その知識を持つものが必要だった。


 スコレーには会えない。

 はるか東にいる『賢王』もその道に詳しいと聞くが、それよりも近くにいる。




 「あなたがトレース=マギア=ボラデルカか?」


 黄金宮殿に、ただ一人自由な出入りを許された研究者がいる。

 スコレーにその知識を授け、その出身は『賢王』の血筋にあたる。


 「いかにも、君の先生の、共犯者というべきかな?」




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