第3章2話 開戦準備
「予定通り、双子だ。」
その言葉をよく覚えている。生まれて初めて耳にした言葉。母体から生まれ落ち、初めて耳にした言葉。
今となっては、その言葉に違和感を覚える。
生まれ落ちたことを愛でるわけでもなく、淡々と放つ「予定通り」という冷たい言葉が、耳に残って仕方がない。
そして、千年の時の中で私はわかってしまった。
私たちの生は、計画の中で望まれた愛でられることのないものなのだと。
だって、私たちを初めて抱いたのは、父でも母でもなかったのだから。
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「・・・」
一人の少女をただ見守る女性がそこにはいた。
体に包帯を巻き、自身も安静に休まねばならないはずなのに、そんなことを意に介さず女性はただ、ベッドに横たわる少女を見守る。
どんな夢を見ているのだろうか、彼女は未だ目を覚まさない。
「よく頑張ったわね・・・」
見守る女性は、眠る少女の頭を撫でる。
少女が眠る静けさの漂う部屋に、ノック音がなる。
「リディア姉様・・・主君が呼んでる・・・」
リディアはわかったと返事をし、再び眠る少女の頭を撫でる。
そして、静かに部屋を出た。
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「どう?姫様の様子は。」
眠る少女の部屋から出たリディアとサンに、羽の生えた男が話しかける。
「眠っているわ。でも、直に目を覚ますでしょうね。」
「そりゃよかった。それで、僕が頑張ってる間の話を聞かせて欲しいな。」
「主君のとこで話すわ。」
そう言って、三人は静かに歩く。
向かう先は、主君が座して待つ王の間である。
辿り着き、門をあけ、黒装束が伏して並ぶその間を悠々と歩く。
「主君、ご報告します。」
その先で待つ、主君『戦争』マギアに膝をついて頭を下げる。
「待つが良い。」
マギアはリディアの発言を止め、瞳を閉じる。
「革命軍よ、祈れ。」
その言葉だけで、何に祈るかも聞かないで、彼の目の前にいるすべての黒装束が手をあわせる。
幹部も瞳を閉じ、想いを込める。
マギアは、黄金のゴブレットに酒を酌み、天に掲げる。
「リンピアに・・・」
革命軍の全てが、天に祈る。
その様子を、黒き影の檻の中で静かに見届ける精霊がいた。
世界の敵が、たった一人の仲間のために天に祈りを捧げる。その光景を、異常だとは思わなかった。
「ほなもうええやろ?報告聞こか〜。」
異常なほどの静けさを台無しにする何者かが、ズカズカと主君に頭を下げることなくその間に入る。
聞き覚えのない声に、幹部は攻撃の体勢をとるが、
「やめろ。」
主君の一声で動きを止める。
「怖いわぁ。殺気だってると顔にシワがよっちゃうで?夜が怖くて眠れなくなっちゃったんかな?もうここまで来たら亡者の呪詛なんて子守唄みたいなものかと思っとったけどねぇ。」
人を煽るような話し方と、ゆらゆらと歩くその態度に、幹部は苛立ちを覚える。
檻の中の精霊も、その不気味さに
「さぁて、俺っちに報告せぇな。『原罪』様が与えた任務はどうなっとん?」
「クレイブ・・・確かに貴様ら教国には世話になった。だが、俺の仲間へ送る祈りを邪魔するのは許せるものではないぞ。」
大地が震える。怒りを込めた魔力が革命軍のアジトを震わす。
「どーどー!すまんて、俺っちには祈るなんて概念ないんや。すまんなぁ。」
「教国だろ?貴様らにも祈りはあるはずだ。」
「俺っちは変わりもんやからなぁ。誰かに祈るなんて真似せぇへんもん。祈る神が今おらへんからな。それにしても、えらい強うなったやんか。お望みの物は手に入ったんやなぁ。」
マギアは解放した魔力を弱める。震えた大地は落ち着きを取り戻す。
「貴様らの望ものはここにある。」
影の中から、一冊の本が現れる。それはリンピアが必死に手に入れた一冊の本。
「中には初代『魔導王』スコレー=フィラウティアの終戦間際の記憶が書かれている。その中に確かに書いてあったぞ。『厄災の箱』の在処が。」
「おおきに・・・それで、もう一つの頼み事はどうなったん?」
マギアは無言で隣を指差す。影の檻の中、優雅に漂う精霊を。
「ほんまに、おおきにやでぇ。これで祈る神にも会えそうやん。」
檻に手を伸ばし、中の精霊を掴もうとするその瞬間、影はより強固に檻を守る。
危うく、影はクレイブと呼ばれている男を串刺しにしかける。
「・・・なんのつもりや?」
「我々の任務はまだ終わっていない。これは我々が勝利した暁に貴様らにくれてやろう。」
「それは良かないなぁ。弱い弱いヌシを900年も守ってきたのは誰やと思っとん?」
「ここまで来たんだ、最後まで約束は守ってもらう。北と南、その両者からの協力なくしてこの戦争は勝てないからな。」
「ヌシが弱いことを盾にしてくんなやなぁ?マギア。」
「どうせ貴様は檻から精霊を出せんだろう。何せ、『不盗』だろう?貴様の与えられている罰は。」
「・・・その本はもらっていくぞ?」
「精霊が欲しくば、北と南の準備を早く終わらせろ。それが、開戦の狼煙になるのだからな。」
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そこは黄金の宮殿の中の一室。大きなテーブルがあり、それを何人もの精鋭が囲む。
「さて、愚王との謁見は終わった。ごねる意味がわからんかったが、所詮プライドだけの男だ。放っておくぞ。」
他国からの使者とは思えないほど異国の王をバカにする男ーー『冠冷』エルドーラは淡々と話を進める。
「前言を撤回しろ『冠冷』。王も歴史上ない初めての事態で困惑なさっているのだ。」
「だからこそプライドなど捨てるべきだ。そも、俺たちの助力なしでは勝てないという計算もできぬ愚王だろう。プライドだけで国が守れるものか。貴様もそれがわかっているはずだ、エナリオス。」
余程ディコスの王が嫌いなのか、悪口だけはスラスラと出てくる。
自身の王に対する無礼に、エナリオスは三叉槍を握りしめる。
「・・・お前ほどの聡い男が、なぜこの国に仕えているのかわからんな。」
「この国に生まれたのだ。この国を守る義務がある。」
睨み合う二人、魔力がひしひしと会議室を震えさせる。
その間に割って入れる男はその場においては一人しかいなかった。
「落ち着きな〜よ、二人とも。まずは会議でしょう。」
「もちろんだ、時間がないからな。まず話の前に学校中の奴らをこの宮殿に入れように伝令を出せ、ダスカロイ。」
「待て、その許可は王より降りていない。」
「知らん。だが、貴様らの国の貴族のガキが死ぬだけだ。いいのか?」
その言葉に対し、エナリオスは静かに部下を呼びつけ、王に許可をとりに行かせた。
それを黙って見過ごし、エルドーラは話を続ける。
「学校に現れた幹部は6人。『暴獣』ギザ、『紫電』リンピア、『虐像』ロドス、『墓守』ハリカル。そして謎めいた6席目の幹部『幻霧』と副司令官リディア。」
「我輩から一つ、『紫電』リンピアは我輩の友バイオラカスが討ち取った。」
『炎鬼』ストラトスが手をあげ、バイオラカスの勇姿を報告する。
「もう一つ、報告があります。『紫電』リンピアは地下で何かを探していた。そして恐らく、それを見つけた。」
ストラトスが見た光景を、きっと彼はうまく説明できない。
ストラトスは目線をダスカロイに向ける。
「そうか、色々と説明しなければならないね。」
「その前に、結界が崩壊した後、ディコス王朝はどうなった。」
状況の把握をエルドーラは優先する。
それを説明できる人はこの場においてはエナリオスのみであった。
「結界崩壊後、亜人の暴動が起きた。俺はそれの鎮圧に向かったが、その先に『彗星』がいた。」
この王国内に入るまでに、ダスカロイが幹部の説明だけはしてくれた。
幹部の総数は6人であり、その上に副司令官リディアと総司令官『戦争』マギアがいる。
そして唯一学校に現れなかった幹部がいる。
『彗星』バビロンーー鳥人族であり幹部の第2席を与えられている男。
「『彗星』と対峙している最中、貴族領で爆発が起きた。先ほど副司令官の名前が上がったが、エフェソス家が起こした暴動であり、そちらを優先した。」
「そして亜人を全て連れられたってわけか。敵方は戦力の増強ができたというわけだな。」
「暴動を起こしたエフェソス家は全て処刑済みだ。王国を守るものとして、王宮に近い敵を殺すのは普通だ。」
これで王国内部にいる敵は全て討ち取ったといってもいい。
これで、学校に襲撃が起きた際に、王都で何があったのかを把握することはできた。
「さて、そろそろいいか〜な。」
「あぁ、じゃあ話してもらおうか。ずっと聞きたかったんだ『魔導王』。」
「わかっている〜さ、話さなくてはいけないことくらい。」
「では聞かせてもらおう、『戦争』マギアについて。」
この場にいるすべての人間が気になっていたことがある。
それはこの国の歴史と深く関わっている『七つの厄災』の話。
彼が誕生したその話を。
ダスカロイは、手のひらを天に向ける。瞬間、その手の上には本が現れ、その本はひとりでに開かれる。
「これは地下深く、初代『魔導王』スコレー=フィラウティアの魂眠る禁忌の塔から持ってきたもの。歴代の『魔導王』が胸に刻み、その生涯をかけて背負わなければならない罪業。」
ページは勢いよく捲られ、会議室に光が宿る。
そして、ついに明かされるのだ。
『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアの背負う業と、『戦争』マギアの誕生の秘話が。




