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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章35話 リンピア=ゼス




 壁の向こう。


 隠された階段をくだり、暗闇を進む。

 灯は自らの雷だけであり、先は暗い。


 だが、進んだ先に遂に辿り着く。


 900年もの間、誰にもその存在を秘匿され続けた禁忌に、辿り着く。


 その巨大な扉を開けた先にはーーー




 「スコレー=フィラウティア・・・『厄災の箱』についての書物はどこにあるんかな?」


 床もなく、天井もない。まさに塔と呼ばれるに値する空間。

 そこに佇む女性に、そう話しかけた。


 見たこともない女性だが、その名前だけは現代にも轟く。


 「それは物騒な話だね。本当に招かれざる客人というのは態度が悪い。せっかくいい気分だったのに。」


 初代『魔導王』スコレー=フィラウティアは、そう口を開いた。珍しく、不機嫌そうに。




※※※※※※※※※※※




 「今宵の任務について説明する。」


 革命軍本部にて、君主は今回の作戦について会議を行った。

 会議室に集まったのは幹部のみであるが、そこにリディアとサンの姿はない。


 リディアは滅多に本部には現れない。いつしかの忠誠心の低い名の知らない部下によって、副司令官の存在が顕になってしまってから、副司令官の職についたものはここには滅多に来なくなった。


 サンは現在アナトリカ王国に潜入中である。主君曰くアナトリカに興味はないが、留学制度をとっているのは現在アナトリカだけであり、潜入には好都合だ。


 ディコス王朝から魔法学校からの潜入は何度か試みているが、それは元々結界内に入ることを許されている副司令官の家系が為せることであり、リディアも潜入したがついぞ主君の大切な人を見つけることは叶わなかった。


 だがサンならできる。その主君の采配に間違いはない。


 「サンは必ず見つけ出す。サンの探知能力は類を見ない才能を持つ。そして、結界が解かれたのならば、俺たちはすぐに突入する。日時は留学が始まってから半年後の成績開示のタイミングだ。」


 サンにかかる責務は大きいが、必ずやり遂げるだろう。それをするだけの実力があるのだから。


 「突入するのはバビロンを除く全員だ。バビロンは王朝の結界が破壊された際にエナリオスの相手をしろ。」


 「僕にできることなんて足止めくらいですけどいいんですか?」


 黄緑のロン毛に、背中から鳥の羽の生えた男が疑念を投じる。それにマギアはさらに説明を加える。


 「内部でリディアが細工をする。恐らくエナリオスは結界崩壊時は外の暴動を抑えるべく外に出るが、ゆくゆくはそちらの対応をするだろう。それまでの足止めでいい。」


 「それなら余裕かな。」


 「その後は亜人含む外にいる全てを本部に連れてこい。」


 バビロンは頷き、余裕と呟く。その後、マギアは突入組についての説明を始める。


 「我々の突入後の任務は俺の片割れの回収と、『魔導王』の抹殺だ。」


 遂にきたのだ。この時が。やっとこの王朝を壊せる時が来る。


 「王朝と学校の結界が壊れたら、学校にかけられている浮遊魔法も消える。その魔法が消えれば学校は王朝に直撃する。」


 それを持って、王朝は崩壊する。だが、


 「そんな簡単にはいかねェだろ?」


 「その通りだ。『魔導王』がすぐに浮遊魔法をかけるだろう。奴を殺せば済む話だが、そう簡単にはいかない。」


 「ちょっと時間はかかるけど、力を取り戻した後の主君ならいけるんとちゃうの?」


 「そうだが、少し厄介なとこがある。」


 「厄介?『大将軍』と『魔導王』の他に規格外がいるん?」


 「厄介な点は二つだ。一つは規格外の戦力という点でアナトリカ王国から留学生を迎えに『冠冷』がくる。」


 「それなら結構の時期をずらしたらええんちゃう?」


 「それは無理だ。サンと連絡は取れない。奴が迎えに来るのは想定外だが、策はある。」


 「なんですの?」


 「奴らが足止めをするそうだ。それとは別件ですでに『冠冷』は中央に呼び出されている。奴らがなんとかするだろうが、期待はしすぎない方がいい。」


 「そうね。ちなみにもう一点は?」


 「奴らからの頼み事だ。」


 「頼み事?なんやそれ?」


 「学校の地下に存在する禁忌の塔から『厄災の箱』についての書物を奪うこと、だそうだ。」


 初めて聞く名だった。禁忌の塔ーーそれが何かリンピアにはわからなかった。それはそうだった。900年もの間戦い続けている主君ですらそれを知らなかったのだから。


 「この任務を断ることはできない。力なき俺がこの現代まで生きているのは奴らの支援あってこそだ。借りを返さねばならない。」


 「その任務が済むまでは『魔導王』殺したらあかんのちゃう?」


 「そうだ、だが奴は必死に学校を浮遊させなければならない。それをネタにスピード勝負だと思わせればいい。あともう一つ頼み事を受けたが、それは俺がやるから気にするな。」


 「その塔とやらはサンに見つけてもらうん?」


 「そうだ。塔についてはすでにサンは知っている。この頼み事は潜入する前からのものだからな。」


 「ほなサンに任せちゃおうかな。」


 「いや、スピード勝負だ。リンピアもサンに同行しろ。他は教師陣を殺せ。」


 そして作戦会議は終わった。リンピアはその任務を任された。重大な任務だ、失敗は許されない。


 だからーーー


 「あるんやろ?『厄災の箱』についての書物が。」


 血を吹き出そうが、すでに感覚のない足を引きずろうが、関係ない。偉大な主君のためならばーー




※※※※※※※※※※※




 「誰から聞いたのか知らないけど、ここにそんな書物はない。」


 その言葉に嘘はなかった。スコレーはこの塔の中にある全ての書物を把握している。『厄災の箱』に関する書物などない。


 もしあるとするならば、それは女神への不敬である。


 世界中がその『厄災の箱』の存在を必死に探している。それは『使徒』も『厄災』もである。誰もがその存在を探している。千年前から一切行方が知れないのだ。


 だがリンピアにはそんなの関係なかった。


 「主君はあると断言したんや。ないなんてあり得ない。」


 絶対的な主君への忠誠が、その答えを否とした。


 「あぁ、そういう感じか。その妄信を私は軽蔑するよ。くだらない信仰だ。」


 「言葉を介す暇なんてありやしやせん。さっさとどこにあるかいいな。」


 「はぁ、せっかくいい気分だったのに、不愉快だ。」


 スコレーは手をリンピアに向ける。その瞬間、膨大な情報という攻撃によりリンピアは頭をかかえる。


 「権能は未だ未知な部分が多い。魂といってもできることはあるんだよ、小娘。」


 知らない知識が次から次へと流れ込む。

 本来ならば、その瞬間に耐性の無い人間は数秒の間動かなくなる。さらに耐性の無いものは廃人となる可能性も秘めている。


 「なん・・・で・・権能を使える・・・!!」


 頭が割れそうなほどの頭痛に苛まれながら、疑念を投じる。その問いにスコレーは笑う。


 「私の生きた千年の情報を与え続けてるんだ。もちろんくだらない情景だけを永遠と流し続けてるんだけどね。風景を流し続ける映像だと思ってくれ。それにしてもバカな女だ。情報を流し続けているのにさらに情報を求めるなんてね。」


 悶え苦しむリンピアを横目に、もはや興味を失ったかのように悠々と読書を始めた。


 そのスコレーに腹を立てながらも、何もできない。頭がいたい。

 足の痛みももはや感じず、体の疲れもない。ただ情報の波に飲まれてしまった頭が痛い。


 もう長くはない。


 「もう・・・いい・・・主君、ごめんなぁ・・・」


 その言葉にすら耳を傾けないスコレーだったが、本来鳴り響くはずのない雷鳴と痺れるような感覚に襲われる。

 興味の失せた小娘に、再び目をむける。


 「・・・電気信号の改変。」


 「御名答や。さすがは『魔導王』。知識は人一倍やなぁ。」


 脳に情報が送られる時、中枢神経を介して電気信号が送られる。スコレーの権能は情報を直接脳内に送り込むことができ、それによる膨大な情報量のせいでリンピアは頭痛に苛まれた。


 だが彼女は雷魔法を用いて、その電気信号を操り、スコレーの情報を遮断した。


 「実在する電気信号とはいえ、その分類はおよそ概念に当たる。実際に電気信号をキャッチすることなど不可能だからだ。そんな概念に提唱をかける魔法には膨大な魔力が必要だ。君にそれをする魔力はない。どうやった?」


 「考えてみれなええんちゃう?天才さん?」


 塔に床の概念などないが、リンピアは立ち上がり、雷を纏い走り始める。塔の中の本を見ながら疾く走る。


 「それで何が見えるんだい?この膨大な図書の中から探し出せるかな?」


 「ないとは言わないんやなぁ。まぁそれもそうか、正確には『厄災の箱』について書かれた本ではなく、『厄災の箱』を目撃した()()()()()()()()()()が欲しいんやから。」


 「・・・『運命』だな。そうか、遂に徒党を組んで動き出したか。原初たる『厄災』共め。」


 リンピアは最速でこの塔中をぐるぐると回りながら図書を眺める。決して本の中など開かずに、側面に書かれている題目だけを見て判断する。


 その光景を眺め、スコレーは異常だとする。


 感じるはずのない磁気を全身に浴びながら、異常なほどの魔力と中身を見ることなく不正解の本を弾く、視神経から脳への伝達能力を疑う。


 弱化しているとはいえ、魂に結びついた権能をいなすほどの電気信号という概念への干渉。


 「本来ならばあり得ない。瞬時に見ただけで脳へと情報を到達させ完結し、不要な情報を忘却へと流す。その一連の事象はそんな瞬時にできることではない。」


 だが目の前にはそれを為す女がいる。

 ・・・どうやら限界のようだが。


 血反吐を吐き、目からは血涙を流し、もう長くはない。


 「そうか、その様子でやっと確信したよ。君は命を縛りに賭けたのか。」


 もう、どこにも帰るつもりはないその覚悟と、その妄信の果てに彼女は、死を決断した。


 「主君・・・すまんわぁ・・・」


 何度も何度も、主君に謝りながら。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 革命軍幹部には、『戦争』マギアが個人的に認めたもののみが成り上がれる。


 多くは亜人、奴隷上がりの人間、古くから縁のあるものが主である。


 だが、リンピア=ゼスはそのどれにも当てはまらない。

 彼女は、平穏を自らの手で捨てた、ただ子を愛する女であった。




 ゼス家は、ディコス王朝内で平凡と言わざるを得ない貴族である。


 ナシオン家のような騎士の家系でもなければ、エフェソス家のような上位貴族でもない。

 ただ結界内にいるだけの、王の取り巻きをした先祖の成果をしゃぶっているだけの家系である。


 その家系の血を引く母と、最底辺の貴族であった父と結婚し、リンピア=ゼスは生まれ落ちた。


 そして、彼女が齢5の時には、すでに両親は他界した。父は戦死、母はーー首吊りであった。


 父は騎士になり、結界の外に出るような、いわば異常者のような扱いだった。


 しかし、家族の誰も父を笑わなかった。逆であった、みんなが父を愛していた。

 不遜な態度で街を歩く彼らよりも、誰にでも優しく、人の芯を見るような父の眼が好きだった。


 そんなある日、父の訃報が届けられた。


 亜人の子供を助けたそうだ。その亜人を殺し遊ぶ上位貴族の流れ弾に当たったそうだ。


 一体何がいけなかったのだろうか。

 どうせ流れ弾なんて嘘だ。目についた不遜な愚か者を殺したのだ。


 その事実を、風の噂で聞いた。


 愚か者のゼス家は、その日から上位貴族の嫌がらせによって没落した。


 母は、上位貴族の嫌がらせから自分体を守るために奮闘し、その末に自殺した。

 父が負った負債は、上位貴族の嫌がらせによって何倍にも膨れ上がり、没落が決定したのだ。


 没落は、耐えられなかったのか。母も結局は貴族の端くれだった。

 それもそうだ、母は、()()()()()()()()()のを知っていたから。


 両親が死に、没落も決定し、上位貴族にも目をつけられ、結界の外への放流が決まった。


 5歳でも、それが何を意味するのかを理解した。

 だから、追い出されるくらいなら自分の足で出て行ってやった。没落は決まり、2度と結界に入れなかった。


 下町で生活し、10年の月日が流れた。

 父が助けた亜人の子供と共に、生活した。外に出た日、偶然出会ったのだ。父と同じ髪色で気づいてくれたらしい。


 リンピアは、そんな父を誇らしく思い、幾度も亜人の子供を助けた。


 奴隷売買人に見つからないように、貴族に目をつけられないように、ひっそりと暮らした。


 貴族の血だからか、魔法には才能があった。戦場に出ては雷魔法で駆け回り、子供を何人も助けた。

 いつしか大所帯となり、リンピアはその大所帯のお姉さんになった。


 だが、大所帯であるが故に、見つかってしまった。


 「こんなところに大勢の亜人がいるじゃねぇかよ。」


 亜人でも人間でも、奴隷は貴族の間で高く売れるらしい。半分はノートス帝国にも流れ、その商売は繁盛している。

 見つかれば終わり、それが周知の事実。


 逃げる間もなく、何人も捕まっていく。


 捕まるたびに耳にのこる子供の悲鳴が、リンピアの記憶に刻まれる。


 そして自分も捕まるときに、こぼれ落ちる。


 「誰か・・・助けて・・・」


 父も、母も、亜人も、この国は誰も助けてくれない。

 子供すらも、助けてはくれない。


 この国が、嫌いだ。


 「何をしている。」


 誰かの声がした。


 奴隷商人の悲鳴と命乞いと、眼には鮮やかな血の色が見える。

 そして、黒い装束を見に纏い、優雅にたつその男に目を奪われた。


 誰も助けてくれないこの国で、彼は全てを助けてくれる。


 それが妄信の始まりであり、命をかけるに足る理由である。


 「あんたにはわからんやろなぁ。泣く子に手を伸ばしてくれる人がおらん国に、彼は一人でも手を伸ばす。」


 信ずる心は必ず報われると、誰かが言った。その妄信の果てに、リンピア=ゼスはーー、


 「見つけたわぁ。」


 千年前のスコレーの記憶の図書に手を伸ばした。




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