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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章34話 幕下ろす影




 亜人差別をなくしたい。


 そのためには、亜人である自分自身が『英雄』となることである。

 誰からも認められれば、きっとその声にみんなが傾けてくれる。亜人という理由だけで無視されてきた言葉を、きっと聞いてくれるはず。


 だから、ミューズはイロアスと同じ道を歩むことにした。誰もを救い、誰にでも手を差し伸べる亜人に。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 半年前、学校に来たばかりの時、地面に押さえつけられた男がそこにはいた。恐らく激闘の末であろう。その姿は地に塗れ、傷つき倒れている。


 あの時のことを何かいうつもりはないし、あの時の対応についても何もいうつもりはない。

 多少のいざこざはあるし、良い感情にはなれない。


 だが、決めたのだ。『英雄』になると。


 救うしかあるまい。それが、亜人差別をなくすための道なのだから。


 「テメェ、何のつもりだァ?」


 だが、障壁はあまりに大きい。だって、目の前に敵対しているのは人間ではなく、亜人なのだから。


 「もちろん、助けに。」


 「・・・あァ、そうかァ。テメェは亜人の面汚しだな。」


 「僕から言わせれば、君のほうが面汚しだ。そんなんだから亜人は差別され軽蔑される。もっといえば、狼人族はさらに侮蔑を受けることになる。」


 「何言ってんだテメェ。生まれてすぐに殺しにかかるような人間に、何がどうやって助け合おうだなんて気になるんだァ?」


 「誰かが苦味を一重に受けなければならない。復讐は何も生まない。誰かが耐え忍ばねば終わらない。」


 「ふざけんじゃねェ!!」


 目の前の狼人が吠える。その咆哮が耳にのこる。だが、彼はミューズに手を上げなかった。


 「今ここで決めやがれェ。俺様的にはすぐにテメェを殺してェとこだが、革命軍の方針上そうもいかねェ。ボスの意見は絶対だ。だから決めろ。テメェはどっちの味方だ。」


 亜人ミューズ=ロダ。


 この国に来て、壮絶な差別を目にした亜人。その時から想像をしていた。


 きっと、王朝は亜人を侮蔑し、革命軍は亜人を助けているのだと。

 黒い装束を纏った者たちを先ほどからずっと相手にしてきた。その時、彼らは戸惑っていた。


 亜人がこんな場所にいるはずがないのに、と。


 彼らはボクを殺せなかった。殺す気などなかった。きっと、今目の前の狼人族が言っていた通りなのだろう。

 それが確信させた。


 革命軍が亜人を庇護している。


 だから、敵か味方かを問いている。そして、その答えはもう動じることはなかった。


 「熊人族ミューズ=ロダは、君の敵だ。ボクは、イロアスくんの味方だからね。彼が君たちのボスと対峙している以上ボクは君の敵だ。」


 「じゃあ、死ねや!!」



 『暴獣』ギザVS亜人ミューズ




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「『魔導王』!!」


 「報告したま〜え!」


 「図書館の攻防は、敵が一人地下3階に向かって、1人は恐らくあそこに・・・」


 「味方は!?」


 「リアとサンが交戦中、セイレンはアストラに運ばれて地下3階に合流。その後敵と交戦中。ストラトス先生はあの場所に向かって、バイス先生は多分・・・」


 水の波動が、微動だにしないバイスを捉える。ぴくりとも反応しないそれが、結果を報告しているようなものであった。


 「・・・わかった。上での戦闘音が鳴り止んだ。それはどうなってる。」


 「名前の知らない生徒とギュムズ先生が撤退中です。敵と戦ってるのはミューズです。そのさらに上は依然交戦中です。」


 上で一度なりやんだ戦闘音が再びなり始める。


 正直、上での戦闘が今最もダスカロイに負担を負わせている。

 飛び散る瓦礫の全てを空中に浮かせて留めているのだから。その瓦礫の破片が一つでも地に落ちようものなら、王朝は混乱に陥る。


 いや、もう陥っているのかもしれないが、さらなる混乱を落とす。

 『魔導王』が敗北してしまったのだという、世紀の大混乱に。


 「・・・『戦争』マギア、君の狙いが不明瞭だ。」


 命を最大限狙われるダスカロイは、突如として疑問を投げる。


 「君は時間がないと言った。もちろん殺意は感じるし、実際何度か危ない目に遭った。だが、真に力を解放しないのはなぜだ?」


 「いい観察眼と褒めておこうか。だが、貴様の報告に興味深いものがあった。敵の一人の行方を明言しなかったな。それはこの混戦中において利のない報告だ。それ即ち、知る人ぞ知る秘密があることを指す。」


 「・・・地下へ向かう理由はそれか。生徒を人質に取るものかと思ったが・・・」


 「人質なぞいらん。王朝の民は全員殺すのだからな。さて、向かったのはリンピアだな。ではそろそろだ。」


 『戦争』マギアの魔力の解放。それは即ち、本気を出すということ。真に殺しにくるという決意の表れ。


 「ミスター・イロアス。報告はもうしなくていい。生き残ることだけを考えなさい。」


 その宣言は、目の前の相手に集中しなくてはいけないという忠告であり、その瞬間から、水魔法による波の展開を目の前の空間に絞った。


 イロアスも、リア同様効能に授業のほとんどを費やした。だが、イロアスはリアとは違い効能の幅を広げることは叶わなかった。その理由は不確かだが、イロアスはその時から使える効能に全てを費やした。


 それは波動。波の効能。

 その波は人を把握できる。反応の位置の上下でフロアを認識していたに過ぎず、サンのように地形の詳細すら把握することはできない。


 だが人を把握する能力においてはサンの上をいく。その自信に満ちた波がイロアスにこう伝える。


 「規格外すぎるだろ・・・」


 それはいつか見た『魔王』と並ぶほどの圧倒的な魔力。


 「本当に、つくづく自分が嫌にな〜るよ。」


 その言葉の真意をイロアスは見抜けずにいたが、その言葉を聞いた時、『戦争』は高らかに笑った。


 「つくづく貴様は道化だな。」


 「道化で済ませてくれるのかい。」


 これ以上の問答は無用と言わんばかりに、マギアは仕掛ける。先ほどとは比べ物にならない威力の魔法が襲う。マギアの影が伸び、空間に顕現して鞭のように二人を襲った。


 「闇魔法の類であり、影を実体化させる魔法。それも、明らかに質量も体積もおかしい。」


 その答えを、イロアスは恐らく知り得た。イロアスの水魔法の効能はここでも知り得ることができた。


 マギアの足元に、莫大な魔力を感じる。それは、地中深く伸びているようにも思える。

 それを瞬時にダスカロイに伝える。言葉にはならなくても、感じたものをそのまま声に出した。


 「影を空間として捉えている・・・?いや、違う。まさか、次元として捉えているのか。」


 「魔法はイメージの世界だ。影は次元の中で伸び続けているというイメージを魔法に昇華することで、影を空間に持ち出せる。」


 次元の中で伸び続けているということは、それはつまり、


 「無尽蔵に増大する影ということか〜い。全属性のボックが言うのも何だけど、規格外だね。」


 無尽蔵・無限大に広がる影が、天から押しつぶすように展開された。


 「これはまずいね。」

 「規格外すぎだろっ!!」


 ダスカロイとイロアスの両者とも、迅速に左右に動く。各自魔法で影を穿ちながら、すぐに再生する上の影から逃げる。

 質量はあるが、脆い。だが、再生能力が高い。


 分析をしながら、ダスカロイは影から逃れる。


 「脆いならば打つ手はある。」


 同時に、イロアスも分析を完了した。そして不思議に思う。そんな脆い影で自分を守るわけがない。

 一番最初のマギアの魔法を思い出す。


 「・・・!!『魔導王』!!」


 一瞬だけ姿を見てしまった。魔法を放とうとするダスカロイを。

 瞬時に声をかける。その声が耳に届いた瞬間、ダスカロイは掲げた手を下ろし、こちらを見た。


 「呑まれる!!」


 イロアスは簡潔にそう伝えた。それだけでダスカロイは把握し、魔法の発動を見送る。

 マギアの最初の魔法である伏魔殿(ふくまでん)は、ダスカロイの魔法を呑み込んだ。つまりさっきのは脆いのではなく、呑み込まなかっただけに過ぎないということ。


 魔法を無闇に放つのは愚策。特に、ダスカロイは。


 「よい観察眼だが、貴様はそろそろ場違いだ。」


 マギアの冷たい視線がイロアスを刺す。それは予想できたことだ。

 向こうの任務が完了していない以上、ダスカロイをまだ殺す必要はない。ならば、イロアスを早々に殺せば良い。


 そして逆説的にそれは、ダスカロイを殺せないということである。


 ーーそれは否だ。なぜなら、その任務とやらの重要性を知らないからである。もしも任務が捨ておける程度のものであるならば、マギアは早々に任務を打ち切り、『冠冷』がくる前にダスカロイを殺しにかかるだろう。


 そしてダスカロイは、敵が地下の秘密を知っているということからずっと疑問に思っていた。


 「ーー誰の差金だ。」


 地下の秘密を知るものはいない。それが『魔導王』としての知識を全て継いだダスカロイの確信である。だが、目の前の『戦争』はそれを知っている。


 記憶を見せてもらった際、初代であるスコレーが『運命』と戦い死に至ったことは知っている。だが、『運命』が動くには遅すぎる。

 あの時から千年もたっているのだ。今更動くのはなぜなのか。その考えが、差金が誰かを謎に包んでいた。


 「察しがいいな。スピード勝負になるように周囲をうまくそそのかせばすれば焦るだろう。地下の秘密を知るものは教師ですらいない。ならば、この混戦になるのは必然だ。だが実際は我々は任務によって貴様を殺すにはまだ早い。スピード勝負になっているのは我々革命軍だけだ。」


 「誰かはいうつもりはないということだな。」


 「もちろんだ。さて、話は終わりだ。では死にゆけ、そこの人間。」


 『戦争』の魔力が、イロアスに向けられる。それが、死を感じさせる。半年前に対面した『魔王』以来の死を感じ取る。

 影が伸び、銃や剣となってイロアスに放射される。


 ーーその瞬間。


 「これでも撃つのかしら。」


 影の武器はピタリと動きを止め、マギアの表情も緩やかになる。まるで待っていたかのように。


 「ーーー言った通りになったか。」


 「気になる言い方ね。誰の言った通りになったのかしら。」


 「ここに精霊が必ず現れると言われたが、半信半疑だった。」


 イロアスの前に、浮遊する小さな小さな精霊セアは、厳かに、静かに『戦争』マギアを睨む。

 セアにとって、ここにいるのは誰にも予想がつかないことであると思っていた。


 なぜなら先の入団試験にて、『魔王』を見事に騙し、精霊セアはアナトリカ王国が独自に契約している精霊であることを仄めかした。

 だが、なぜかここにいるだろうという予測が立ってしまっている。それは作戦の失敗を意味する。


 確かめなければならない。作戦は失敗したのか、それともそうではないのか。


 「でも、あなたは私を無視できない。」


 「・・・確かにそうだが、何も全部が全部奴に協力する必要もない。」


 「光の子唯一の手がかりを『厄災』が放っておくのかしら?あの女神がそれを許すとでも?」


 「もちろん、他の『厄災』は躍起になって貴様を探すだろう。だが、俺は別だ。その妄執に囚われてなどいない。」


 この会話の意味の多くをイロアスは理解し得なかった。だが、世界を知る、『使徒』の役割を知る二人にとっては、そのマギアの言葉の不可解さに驚愕した。


 「それに、奴らは確信がないだけで予想は立っている。だが、結局は殺すのだ。光の子の肉体さえあればいいそうだぞ?」


 それ即ち、『厄災』は全てを殺し尽くす。生命全てを殺し尽くす。そこに光の子の区別などなく、ただ肉体さえあればいい。


 セアの見立ては大きく外れた。


 『厄災』は光の子を生きて捕らえたいとばかり思っていた。だからむやみやたらとアナトリカ王国の民を殺すわけがないと思っていた。


 「・・・甘かったってわけね。」


 イロアスの死に目が見えた時、咄嗟に姿を現しイロアスの死を回避したつもりだった。姿を晒すことで、アナトリカ王国の民を本当に殺しても良いのかという脅しであった。


 だが実際は違った。


 『戦争』は妄執に囚われていないといった。それ即ち、精霊にも光の子にも興味がないということである。


 「そういうことか・・・!!」


 何かに気づくダスカロイと、姿を晒したことがデメリットにしかならなかったセア。再び認識阻害を展開し姿を隠そうとする。

 だが、時は遅かった。


 影が精霊を捕える。


 「逃がさんよ。貴様の捕縛も任務だからな。」


 「『魔導王』!!」


 セアが捕まったと同時に、声を荒げる。もちろん自分も動き出していたが、その掛け声よりも早くダスカロイは動き出していた。


 「遅い。」


 精霊セアは、ダスカロイの影に呑まれた。


 呑まれる瞬間のセアの表情はーーー助けを求めていた。


 「『魔導王』・・・腹括ってください。」


 「もちろんさ。彼女を奪われることは世界の敗北を意味する可能性すらある。今代の『魔導王』に選ばれた以上、それを見過ごすことはできない。」


 「抑止の執念は見事だ。だが道化よな。その執念は危機になって初めて働く衝動だが、ずっと持っていた衝動は抑え続けているのだからなぁ。」


 「どうやら、とことんボックのことが嫌いらしいな。」


 「貴様だけではない。初代から貴様に至る全ての『魔導王』という道化が、心底憎い。故に、滅びの時はきた。」


 その言葉のすぐ後に、大爆発が聞こえた。


 それは、上の階で巻き起こるミューズとギザからでもなく、そのさらに上でもなく、地下深くから聞こえる爆発音。


 「任務は果たされた。もはやここにいる意味はない。」


 目の前の『厄災』は、真にその力を発揮する。振るわれる暴威に、ダスカロイとイロアスは見上げることしかできなかった。


 マギアの影が、瓦礫とかした建物の影が、ゆらめく照明が作る影が、集合する。

 それは巨大な塊となって、膨大な魔力を込められ浮遊する。


 「さぁ、クライマックスだ。」


 初めてイロアスはこの感情を抱き、震える。


 その脅威は、絶望であった。




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