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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章33話 その背中は偉大であった




 隠れて自分が出る時を見極めていた。


 とてもじゃないが、今出ても何もできない。

 早くどうにかしろよ、ギュムズ先生。




 おぉ!さすがは『戦車』ギュムズ先生!ついに追い詰めたみたいだ!


 俺様なら今のあいつに勝てそうだ。

 ここで俺様の最強魔法を浴びせてやろうか!!


 「土弾(ソイル・バレット)!!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 白熱する激闘。


 それは、『戦車』も『暴獣』もやや愉悦に浸りながら戦うほどであった。

 そこに差される水。


 それは、不愉快以外の言葉はなかった。


 「おい、『戦車』。俺様の言いたいことはわかるよなァ。」


 言葉に重みを感じる。その危険性を、ギュムズは十分に理解していた。


 「逃げろ!!カケ=ドューレ!!」


 今、やっとの思いで懐に入ったのに、その有利性を捨ててでもギュムズはカケの元へと走った。

 もちろん、ギュムズも少し笑みが溢れるほどにこの戦いを熱く想っていた。


 だが彼は教師であった。


 「水差してんじゃねぇぞ小物がァ!!」


 カケに目掛けて放たれる横向きの重力が空気も押し出し、襲いかかる。

 大きく吹かれる風を感じて、その威力の格差を知る。


 言葉にも出ない脅威に、カケは立ち尽くすだけだった。


 重力に押しつぶされ、元々崩壊していた教室は、壁を抜けて吹き飛ばされる。


 「せっかくの楽しい時間の邪魔しやがってあの小物がァ。・・・これで終いかよォ。」


 久しくなかった楽しい戦闘。戦場で何度かやりあった『大将軍』や『炎鬼』以来の高揚感があった。無論まだまだ足りないが、よくやっている方だ。


 だが、その終わり方はあまりに情けない。


 「捨ておきゃ俺様にもっとダメージを与えられたのになァ。ここでの勝敗がどれだけ今デケェかわかってねェのか?」


 革命軍幹部最強を誇る獣が、もし自由になってしまったのならば、それは敗北が濃厚になる。

 実際、すでにこの学校を浮かせているという点と、飛び散った瓦礫すらも浮かせている『魔導王』の魔力には限界が来始めている。


 「・・・終わらせるか。下の様子も気になるしなァ。あの鳥が『大将軍』を上手く捌けなきゃ意味ねぇからな。」


 その場から立ち去ろうとするギザに、高らかに声をかける男がまだそこにはいた。


 「どこに行くというのかね!!狼人!!」


 果てしない空すら見えるほど、崩壊しきった壁の瓦礫から、血だらけになりながらも、一人の弱者を抱えて立ち上がる男がそこにはいた。


 その男の再登場に、『暴獣』は胸を高鳴らせる。だが、ボスの大望の邪魔をするわけにもいかない。


 「言っとくが、俺様はその足手纏いを狙い続けるぜェ。テメェが教師だっていう信念があるのはわかった。だからこそ俺様はそいつから狙う。」


 「もちろんだとも。我輩はそれを卑怯だとも思わない。その上で我輩が勝つと高らかに宣言させてもらおう!!生徒の前だ!!カッコはつけさせてもらおうじゃないか!!」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ーーーギュムズ=ナシオンは、ディコス王朝の武官の家系である。


 結界内で育ち、将来は王朝の騎士に名を連ねるはずであった。

 いや、実際には名を連ねていた。魔法学校を卒業し、22歳で戦場に出て、何人もの革命軍を殺してきた。


 騎士には2種類あり、結界内から魔法で遠距離攻撃を放つ部隊と、結界の外に出て実際に戦う部隊である。もちろん後者の方が命の危険は高く、その分勲章を授与されくらいが上がるのも早い。


 だが貴族の多くは前者であり、正直武勲など欲してもいない。武勲などもらわなくとも、裕福で完璧な暮らしをしているという事実があるのだ。

 後者は、それほど地位の高くない家系が仕方がなくやるのだ。


 そして、やることがないから騎士になって敵を殺すゲームをしているのが前者である。

 高笑いしながら、得点などと言って魔法を乱雑に放つ。決して入れない不可侵の結界に守られながら、安全圏で笑う。


 そして時たま、彼らは革命軍以外の亜人も狙うのだ。


 それをギュムズは少しだけ、不快に思っていた。


 差別はいい。それはこの王朝の歴史がそうさせているし、実際自分も魔獣上がりの亜人は怖い。


 だが、ギュムズは命として捉えていた。平等な命だ。戦場に出てもいない腑抜けが、常に命の危機に晒している彼らを笑う資格はあるのだろうか。


 だからギュムズは戦場に出る方を選んだ。


 そんな彼を、他の貴族は変わり者だと言った。

 騎士団では団長である『大将軍』エナリオス=スニオンだけが、何も言わなかった。


 そしてもう一人、『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマもまた、彼を変わり者だとバカにしなかった。


 時折、学校から降りてくる教師であるらしく、年もそんなには離れていない。そんな彼は、ギュムズの元まできて話しかけてくれた。


 「君の噂は聞いている。自ら外に志願した変わり者らしいな。」


 「それはどうも、我輩は有名人みたいだな。」


 「君の力をぜひ借りたい。」


 「・・・?噂通りの我輩は、変わり者だが?」


 「何をもって変わり者というのかはわかる。それならば、我々は皆変わり者だな。」


 「確かに、こんな王朝で教師をやろうとするなんて変わり者だ。もはや貴族には要らぬ技術にすぎない。ただの通過儀礼のようなものとして風化した伝統だ。」


 「君の価値観を求めている。その彼らから決して目を逸らさないその瞳を持つものの助けが必要なのだ。」


 「誰を助けるんだ?まさか亜人か?」


 「そうだな、結果的には彼らも助かることになるだろうが、助けたいのは別な人だ。」


 「一体誰のことだ?」


 「ーー『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアだ。」




※※※※※※※※※※※




 「君がストラトスの推す騎士だ〜ね。」


 目の前の人物は、あの『魔導王』と呼ばれるには箔が足りないように見受けられた。

 同時に、ストラトスが助けたいという理由もわかった気がした。


 その道化ぶりに、きっとストラトスはーーー


 「我輩を採用してくれるのか。」


 「ストラトスを疑ったことは一度もない。実は彼とは、同級生で〜ね。彼が君を推すならそれを信じるのさ。ただ、一つ約束だ。君はたった今から騎士ではなく教師となる。生徒の未来を指し示すのが教師だ。どんな理由があれ、生徒を蔑ろにするものをボックは許さない。」


 「もちろんだとも。どんな生徒も平等な命だと我輩は心得ている。」


 「そしてもう一つ。君に個人的な頼みをしたい。」


 「なんですかな?」


 「ストラトスと共に定期的に戦場に出てほしい。お願いできるか〜な?」


 「・・・了解した、校長!!」


 そうして、ギュムズ=ナシオンは教師となった。

 騎士として、革命軍の命を狩るものから、子どもの世話係となったのだ。


 だが、彼は教師として何か自分の信念を子どもに伝えることはしなかった。

 それは、生徒の九割は生まれた時から亜人を忌み嫌い、差別し、命を辱める教育をしてきたからだ。今更、言葉だけでは何も変わらないことを知っていた。


 だから、行動で見せることにした。


 戦場にたびたび出ては、革命軍を倒し、騎士の遊びで命を落とす亜人を救っていた。感謝はされたことはない。彼らもまた、そんな心の余裕などないのだから。


 やはり多くの貴族からは変わり者だと馬鹿にされた。

 だが、幾人かの生徒や騎士から、かっこいいと言われるようになった。


 亜人を救ったことに関しては相も変わらず何も変化はないが、その戦いぶりを讃えられた。


 そしていつからか、ギュムズ=ナシオンは『戦車』と呼ばれるようになった。


 言葉ではなく、行動で示す。それが何よりも心にくる行為であると実感した何よりの日であった。


 だから彼は、常に亜人を助け、革命軍と戦い、生徒には背中だけを見せてきた。

 その口は語らず、信念は心に。


 生徒もまた、その背中を見続けた。


 そして、時は現在まで進む。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 カケ=ドューレは、自分が場違いの人間であることを自覚した。それは、血だらけになってしまった『戦車』を見てしまったからだ。

 自分が来なければ、こうはならなかったかもしれない。そう思って仕方がなかった。


 「言っとくが、俺様はその足手纏いを狙い続けるぜェ。テメェが教師だっていう信念があるのはわかった。だからこそ俺様はそいつから狙う。」


 亜人にそう言われた。亜人如きが見下すなと言いたいが、それを言える度胸はすでになかった。


 魅せられた実力の差に、怯えるしかなかった。


 その怯える自分に覆い被さるように、立ち上がり、吠える男がいる。それは、子どもの憧れであり、猛き『戦車』の異名を持つ。


 ギュムズ=ナシオンという大きな男の背中しか、カケ=ドューレは見えはしなかった。


 その背中だけを見ていればいいと、そう語っているようでもあった。


 「もちろんだとも。我輩はそれを卑怯だとも思わない。その上で我輩が勝つと高らかに宣言させてもらおう!!生徒の前だ!!カッコはつけさせてもらおうじゃないか!!」


 血だらけで、魔力の残量も少ない。それでも、ただ行動で示すことしかできない不器用な男。


 だが、その背中だけを見ろ。それがその男の全てである。


 「カケ=ドューレ!!」


 急に名前を呼ばれてビビるカケは、ギュムズを血だらけにした罪悪感から、まっすぐは彼の目を見れずとも、恐る恐る顔を上げた。


 「そこにいたまえ!!そして我輩の背中だけを見よ!!そこに勝利はある!!」


 ボロボロになった上着を脱ぎ捨て、その背筋を光らせながら彼は雷を纏う。


 「雷馬疾走(サンダーホース)!!もう一度走るぞ我が愛馬よ!!」


 「おい小物、ちゃんと見てろや。テメェらの英雄が死ぬところをな。重力球(グラビティ・ボール)。」


 両手に空間が歪むほどの重力場が生成される。触れれば吸い込まれ、肉体は形を失うだろう。それでも、引くわけにはいかなかった。

 ただ、前へ進むのみであった。


 「雷槍一貫(サンダーランス)!!」


 ギザによって投げ出される重力を槍で突き、爆発が起きる。その爆風を雷馬が駆け抜ける。


 「その程度で!!我輩の疾走を止めれるものか!!」


 再びギザが二つの重力場を生成する。その二つを重ね合わせ、その反発された力を押し出す。


 「重力槍(グラビティ・ランス)。」


 本来ぶつかるはずのない重力場を無理やりぶつけ、反発させ、行き場を失ったエネルギーが槍のようにギュムズに向かって放射される。


 雷の槍と、重力の槍が正面から衝突する。

 逃げるわけにはいかない。その背中には、守るべき生徒がいるのだから。


 「我輩を止めるには、まだ足りぬわ!!」


 互いの槍は壊れ、それでも疾走は止められない。その歯痒さゆえに、ギザは大魔法の発動を準備する。


 「 其は狐狼の民ならず 其は史を圧する狼也 」


 唐突に唱えられるギザの長文詠唱に、ギュムズは再び槍を装填し、唱える。


 「恐れ慄け!!これが我輩の『臨天魔法』!!」


 「 神獣の血よ その万有を寄せる権能をもってして誅せよ 」


 「 背を見よ 我が信念はそこにある 豪雷の如き疾走に 付いてくものにだけ見せる桃源郷 」


 二人の長文詠唱は同時に終わり、魔法の名だけが、唱えられた。


 「巨狼の咆哮(フェンリル・ロア)

 「界雷を渡る戦車(ギュムズ)


 神獣の名を冠する重力の咆哮と、自らの名を冠する雷の戦車が、激突する。


 長文詠唱により、何百倍にも加速された重力が空気も瓦礫も何もかも全てを押し潰しながら進む。通る道には塵一つなく、それはたとえ人間であっても全てを押し潰しながら進むだろう。


 その重力の波を、一閃の雷が進む。自らを雷と化して戦車を型取り、2頭の雷馬がそれを引く。

 一見地味に見えるかもしれないが、臨天魔法である。


 界雷を渡る戦車(ギュムズ)は、ただ全てを塵にして一点集中して止まることなく進む。


 お互いが塵にしながら進み続ける魔法。この矛対矛はどちらが勝つのかを想像できるだろうか。


 もしも、ただ突き進むだけであったのならば、圧倒的にギュムズの勝利で終わったであろう。それは『臨天魔法』という奥義の強力さ故である。


 魔力炉を最大に加速させ、膨大な魔力を生み出し、通常の魔法の数倍の威力で発せられる大魔法。それこそが『臨天魔法』であり、最大加速された魔力炉が動かなくなるという死に直結するデメリットの対価として、必中の効果を付与する。


 残り全ての魔力を放出し、『臨天魔法』を発動させたギュムズの方が、ギザの魔法よりも上位に位置する。

 もちろん、実力差が離れていれば『臨天魔法』とはいえ相手の魔法に打ち勝つことはできない。


 だが、ギュムズ=ナシオンはこの学校で三番目に強く、実践経験も豊富である。ギザとの間にはそこまで大きな実力差はない。


 ゆえに、この矛同士の対決はギュムズの方が有利であった。


 だが、問題はギュムズにはない。

 背後で背を見て待つ生徒がいる。それが、何よりの問題であった。


 本来ならば、ギザの魔法を打ち消す必要はない。自分がその重力の波を抜けれさえすればよかった。だが、背後にいる生徒のために、ギュムズは魔法の全てを打ち消す必要があった。


 「惜しいな。テメェがその小物を捨てさえいれば勝てたぜェ。」


 「ふん!!貴様は我輩がそうしないと踏んで臨天魔法を使わなかった!!だが!!甘く見てもらっては困るわ!!」


 その怒号が飛び交う。

 叫びと共に鳴り響く雷鳴と共に、魔力が燃える。


 ギザは察する。恐らく、全て打ち消されると。それと同時にーー


 雷鳴が止む。ギザの魔法は全てが打ち消され、重力の咆哮は消え失せる。


 「お前の負けだ、『戦車』ギュムズ=ナシオン。」


 ギュムズを覆う雷の装甲は崩れ落ち、『臨天魔法』は効果を失う。最大加速された魔力炉はオーバーヒートによって停止し、残り数秒ほどで儚く消える雷がギュムズと共にある。


 そして無慈悲にも、ギザの魔力が膨れ上がり、唱えられる。


 「重力弾(グラビティ・バレット)


 その弾丸の狙いは、ギュムズではなかった。


 「貴様・・・!!」


 背後の小物に向かって放たれる重力の弾丸はーーー



 「ギュムズ・・・先生・・・」


 ーーー無情にも、生徒を庇ったギュムズ=ナシオンの背中に命中した。


 信念を語る背中は、こうして血に塗られた。


 倒れゆく『戦車』、それに絶望する小物、歩み寄る『暴獣』。


 「じゃあなァ。」


 歯を食いしばりながら、それでも立とうとするギュムズに向かって、容赦無く『暴獣』は魔力を練る。


 そうして、放たれた魔法はーーー


 「・・・あァ?」


 「我慢してくださいね、亜人に守られることに。」


 ーー発動する前に、拳が目の前の視界を覆った。獣人の勘で避けた先の光景に、一人の亜人が立っていた。


 同じ光景を、彼もまた見る。

 地に伏せる自分を、あの時の少年に再び重ねながら。


 「・・・来てくれたのか・・・ミューズくん。」


 そこには、亜人ミューズ=ロダが立っていた。




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