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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章32話 弱者




 ーーー『戦車』ギュムズ=ナシオンは、魔法学校フィラウティアにおいて三番目に強い。


 一番手はもちろん『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアであり、彼は言うまでもなく別格である。


 二番手は『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマである。彼とは何度も戦場を共にしたが、彼の効能である超高熱の青い炎は圧倒的だ。加えて戦場を分析する力も素晴らしい。


 そして、三番手はこの我輩だ。

 雷魔法を使って、戦場を自由に駆け回ることができる。


 革命軍にも、『紫電』とかいう我輩と同じような戦法をとっているものがいるが、あれよりも強いと断言しよう。


 今まで見た敵の中では、バビロンとかいう上空から狙撃する鳥と、この目の前の狼が我輩と熱いバトルを繰り広げられそうであった。


 だが実際はどうだ。


 学校中を戦場にして、『暴獣』ギザを相手どってからどのくらいの時間が経過しただろうか。


 「おい・・・まさかこの程度なんていわねェだろうなァ?」


 もはや学校の2階から屋上までのいくつかの教室は、その原型を留めていない程に崩れ落ちている。もちろんそれがダスカロイの負担になっているのは理解している。

 だが、そんなことを気にして戦えるほど楽な相手ではなかった。


 ギュムズですら、もはや破壊をしながら戦場を駆け回る。その雷を纏った自らの体を相手にぶつけて蹴散らす。


 ーーーはずだった。


 『暴獣』ギザの前には、重力に押しつぶされて身動きを取れずにいるギュムズが横たわっていた。


 「『戦車』ギュムズ=ナシオン・・・リンピアの野郎が同じ属性使いとして警戒していたってェ言ってたが、大したことねェな。」


 言葉すら出ないその重圧に、ギュムズは歯を食いしばることしかできない。


 「戦場でマシだと思った相手なんて『大将軍』と『炎鬼』くれェだなァやっぱ。仕方ねェ・・・地下まで降りるか俺様も。ボスの邪魔したらリディアに怒られるからなァ。」


 自分を見ていない。怒りを含んだ哀愁がギュムズを襲った。


 以前、一人の亜人を地面に打ちつけた。


 それは授業中とはいえ、過ぎた暴行を加えたからだ。その時の彼の顔をギュムズは忘れていない。


 これは彼の名誉の為に言うが、ギュムズ=ナシオンは決して亜人差別をしていない。

 だが、彼は差別をしている人をなんとも思っていない。亜人が差別をされる理由にも筋はあると判断している為である。


 もちろん、差別がどうあれ悪いことなのは承知している。だが、このディコス王朝に関しては、歴史が亜人を差別する理由を正当化するに足るものがある。

 自分が生まれた地を、間違っていると断ずることは彼にはできない。


 だからこそ、ギュムズは静観する。


 だが、体育館の授業にて、亜人である彼を押さえつけた時の彼の目を忘れられない。


 怒りを含んだ魔獣の眼は確かに持っていた。だが、その眼には決して悲観や哀愁はなかった。

 彼は知っている。もはやそんなことに意味はないのだと。


 強い亜人を見た。

 ギュムズは、あの日を少しばかり恥じている。


 そんな彼と、似たような状況に陥っている。

 立場は逆転し、亜人によって押さえつけられている。


 果たして、我輩は哀愁に浸っている場合などあるのだろうか。


 亜人差別をなくしたいと、噂に聞いた。そんな彼は戦い続けることしか知らない。いや、戦うことを選んだのだ。


 ならば、今戦う意義しかない我輩が、どうしてクタれることなどできる。


 「どうして我輩が、この程度の圧力に屈することができようか!!」


 何倍にもされた重力に押し潰されながらも、ギュムズ=ナシオンは立ち上がる。


 「彼が抱える圧力に比べれば、この程度で屈することなど恥ずかしいな!!」


 「あァ?俺様の重力がこの程度だと?」


 「この程度さ。そして君を確実に殺す予定だったが、変更しよう。君は彼に謝らなくてはならないからね。捕まえて牢獄にぶち込み教育といこうじゃないか!!」


 「謝る・・・?俺様が・・・?一体誰に、なんのために、何に対してーー」


 声のトーンが変わる。そして、先ほどとはさらに別格の魔力量をギュムズは感じ取った。

 眠れる獅子ならぬ、眠れる狼を起こしたようだ。


 「俺様は誰にも屈しない。誰にも謝らない。誰にも、俺様という存在を否定させねェ!!」


 本来ならば、世界の中心に向かって引っ張られるはずの重力は、ギザを中心に四方八方にまるで斥力のように発せられた。

 押し出される風を感じて、ギュムズは再び雷を纏い走り出す。


 「これでは先ほどと一緒だな・・・!!」


 相手の重力と魔力量で押し切る戦法も然り、走り続ける自分もまた然り。だが、どうしても近づくことができないでいるのは間違いない。


 ギザの中心に行くほど、重力の影響を存分に受ける。先ほどは懐まで入った瞬間に重力によって足が取られ、誘導されるようにギザの元で地に伏せる羽目となった。


 自分の二倍ほどあるように思わせる魔力量。


 「さすがは狼人族だな、これも戦闘民族の証か。魔力勝負は不利だな。」


 ギュムズは、リンピアとは違い加速し続ける必要はない。彼女はその華奢な足で加速し続ける。だがそれは筋肉への負荷が大きすぎる。

 代わりに彼が用意したのは、雷の靴である。消費魔力も少なく、防御性もある。そして何よりも、ギュムズの走りはリンピアとは少し違う。


 彼女は雷の道を自分で引いてその上を走る。だがギュムズは避雷針を立てて走り続ける。避雷針といったが、要はポイントを立ててそのポイントまでを移動する。自らが履く雷の靴がそのポイントまで自動で誘導してくれる。ポイントの設置は道を作るよりはるかに魔力消費量が少なく、全体的にリンピアとは実力の差が発揮される。


 ポイントを何個も作り、その点を移動する。ギザによって重力が発生する場所を避けるように何個も何個もポイントを設置する。


 「消費量は圧倒的にあちらが上。我輩の方が効率がいい。だが、このままだと負けるな。」


 その言葉はその通りであった。


 ギザの戦闘センスはそこらの戦闘民族と比べてもぶっちぎりである。その若さで革命軍幹部No.1の強さを誇るのは自明である。

 その圧倒的なセンスが、すでにギュムズの走行の仕組みを理解しつつあった。


 ギザは怒りながらもその戦闘に関しては冷静であった。常に魔力を感知し、危険を探る癖がある。それは幼い頃の環境が左右しているのだが今は語る時ではない。

 その微細なギュムズのポイントが発する魔力を、感知しつつあった。


 「見つけたぜェ・・・!!」


 ポイントにピンポイントで発生する重力。さらに、ギザの見立てではギュムズから最も近いポイントに誘導される。ならば、最も近いポイントに集中砲火させる。


 「ビンゴ!!」


 ギュムズはその重力場にまっすぐ向かっている。


 ーーーそう、思わせた。


 「・・・なッ!!」


 ギュムズのこの魔法は、最も近いポイントに誘導されるわけではない。ポイントを設置し、その場所に確かに誘導されるが、雷の力が最も強い場所に移動する。

 つまり、ギュムズの調節次第ではどこにだって移動できるのだ。


 「まだまだひよっこだ!!」


 ポイントの存在はバレても構わないし、どうせバレる。ならば、ギザに最も近いポイントに移動すると思わせるように動くまで。


 「洒落せェ!!」


 ギュムズの近くのポイントをしらみつぶしに押しつぶす。教室は原型を留めないほど瓦礫にまみれ、真っ当な足場などない。


 「では我輩が走るのはやめようか!!」


 雷の靴は、形状を変えて生物の形を作る。


 「雷馬疾走(サンダーホース)!!」


 さらに速さが上がる。右手には槍、左手には盾。まるで騎士のように走り出す。


 「止めれるものなら止めてみよ!!加速を止めなければ貴様の負けだ!!」


 走る走る。重力によってもはや階層という区分はなく、大きな空間がそこにはあるだけとなった。空間は瓦礫だらけで、破壊の跡が残る。


 その中を、ひたすら走る続ける。


 やがて捉えられなくなったその走りに、ギザは自らの懐を許す。先ほどとは違う。重力によって足を崩すのは雷で型取られた馬であり、ギュムズの槍はギザに届く。


 まさに激闘。


 それを、遠目に見る影が一つあった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 上空から落ちてくる黒装束の多くは、自在に動く植物によってほとんど締め殺される。だが、地面までたどり着く数人は、命令通りに生徒を殺しにかかる。


 その生徒は、キノニアとヒミアによって誘導され、現在もなお地下3階の倉庫に匿われている。それも、結界術を得意とするヒミアの強固な結界によって守られている。


 黒装束の何人かをあしらいながら雷を纏いながら走る男がいる。肩には深く傷ついた老婆を担ぎ、なるべく揺らさぬように心がけながら最速で走る。


 地下へと続く階段を降りた先で、激闘の後を見る。


 「なんだこりゃ・・・ここまで余波が・・・ってこいつはーー」


 地下の階段下に血を流し横たわる女が一人。


 見過ごせるわけもなく、老婆と共に担ぐ。

 図書館で巻き起こる戦闘を警戒しながら、地下三階へと急ぐ。


 「死なれたら後味悪いから死ぬんじゃねぇぞ。」


 せっかく助けたのに死なれてしまっては困る。

 本来ならば、この男ーーアストラ=プロドシアは人を助けるような男ではない。


 それは、裏切りの家系とまで蔑まれたが故の人間不信からなるものであり、さらには姉を重ねてしまい、女性不信でもある。

 信じられるのは己のみ。その信条を貫いてきた。


 故に彼は、滅多に助けない人間に死なれてしまっては、助けた意味などなくなら困るのだ。

 彼もまた、走る。


 その最中、異常な光景を目にする。


 「なんだこりゃ・・・まさか・・・」


 地下二階から三階への階段に、多くの黒装束が死んでいた。全員血反吐を撒き散らしながら、青白い顔をしていたのだ。


 急いで階段を降りる。こんな芸当ができるやつに心当たりがあったからだ。


 「カンピアの野郎がついていながらこれかよ・・・!!」


 地下三階の倉庫前に到着した時には、異様な光景が広がっていた。


 「・・・ア、アストラ君・・・来てくれたんだね。」


 噂には聞いていたが、これほどとは思わなかった。アストラは瞬時に呼吸を止める。それを吸ってはいけないと知っているから。


 「ごめん・・・すぐに抑えるから・・・」


 目の前の紫の霧の中に佇む少年ーーフェウゴ=ヴァサニスは、何度も謝りながら毒を吸収する。彼もまた特異な人生を歩んできたと、アストラは知っている。


 「君!!担いでいる方を早く!!」


 紫の霧の奥、結界の中からヒミア=タブーが叫ぶ。

 学校の副校長の有り様を見て、彼女はアストラを急かす。


 フェウゴが急いで吸収した霧を抜け、結界内に入る。

 ヒミアは急ぎギオーサの回復に手をかける。同じく意識不明の重体であるセイレンを気にかけながら。


 「アストラ殿!!無事であったか!!」


 結界内にいる多くの生徒の中から、緑と黒の特徴的な髪色の男が寄ってくる。

 アストラは、その男を突如殴った。


 「何を・・・!!」


 「テメェ!!あの野郎だけを戦闘に立たせて結界内で何ぬくぬくとしてんだぁ!!それにあの野郎の毒はーー」


 アストラは言葉を詰まらせる。それは、彼を思ってのことであり、()()()()を周知させるつもりはないからだ。


 アストラ=プロドシアは悲劇的な人に自分を重ねることが多い。それは自分の人生もそうだが、絶対にどうしようもないことで、周りから蔑まれる気持ちをよく知っているからだ。

 彼は、そんな悲劇もない人生を持つ人を逆に嫌う。故に、彼はカンピアを嫌う。


 さらに、彼は立ち向かうことを知らない人を嫌う。それは、絶対にどうしようもないことを理不尽に思うのは一緒だが、泣いてうずくまることの方が単に気に食わないからだ。

 故に、彼は黙って笑うミューズを嫌う。


 もちろん、アストラは人の人生の全てを把握しているわけではない。イロアスが幼少期の頃魔法が使えなかったことも知らないだろうし、リアの家族の事情も知らないだろう。サンに関しては知る由もない。


 だが、彼は見抜く才能を持っている。


 リアが壮絶なほどの努力の末にいることも、サンにはただならぬ過去があることも、イロアスの異常性にも気づいている。


 その見抜く才能と、風の噂程度でアストラはフェウゴの人生を知った。そして、その悲劇の少年にくっつくぬるま湯に浸かるカンピアを嫌った。


 「テメェ、それ以上何もしないであの野郎の側にいるつもりなら、俺がテメェを殺す。俺よりあの野郎のこと知ってるっていうなら、せめて側にいる努力をしろや!!」


 そう言い、殴られて尻餅をつくカンピアに暴言を吐く。

 そのイラつきが、周囲にも届く。


 「テメェらもだ!!この国の異常事態だぞ!!何で他国の俺らが結界の外にいて、お前らは安全区域に居座ってやがる!!」


 「そ、それは違うのである!!我らのような弱者が戦場に出ても、役には立たない!むしろ邪魔なだけである!」


 「あぁ?戦場にも出ないでテメェらは指咥えて敗北を待ってんのか?」


 「みんなを信じているのである!必ず勝つと!!」


 「信じるって言葉は便利だなぁカンピア。お前らのいう信じるってのはただの願望と妄想だ。勝ってほしい、負けるわけがない・・・そんな夢を見てるだけだ!!勝利は、常に戦い続けるやつにしか与えられない!!ただ願って待っているだけの奴らに、勝利は来ない。」


 「アストラ殿・・・」


 「結界内でもできることがないか探したのかテメェは。」


 「それは・・・」


 「結果、何もできなくてもいい。頭を回し続けたのかテメェは!!」


 カンピア=ミルメクスは、ついにはその瞳をアストラから地面に落とす。その視線の動きを見て、アストラは会話をやめた。


 「アストラくん、君の言っていることは概ね正しいのかもしれないよ。でもね、人はみんな君ほど強くない。君はとことん弱者が嫌いな子どもに見えるよ。」


 「・・・そうかもなぁ。それでも、俺は弱者は嫌いだ。戦おうという意識のない奴が、戦うための魔法を学ぶんじゃねぇ。騎士を目指すのならば、自分の国が危険ならば、どんな弱者も戦わねぇといけねぇんだよ。」


 「・・・そうか、君はーー」


 「それ以上言ったら殺すぞ。」


 「そうだね、これは無粋だよね。では、戦場に出れる君にお願いがある。一人、所在不明の生徒がいる。どうかここに連れてきてほしい。」


 「肝の座った奴もいるじゃねぇか。だが、その口ぶりだと弱い奴だな。名前はなんだ?」


 「カケ=ドューレーーこの国の宰相のご子息だ。」


 「どうせ戦場には戻るんだ。ついでに探してきてやらぁ。」


 結界内の弱者たちには目もくれず、アストラは再び結界の外に出る。そして再び一階の戦場に戻ろうとするその時、階段からくる妙な気配に身構える。


 同時に、不穏な気配を察したフェウゴが、怯えながらも戦闘体制に入った。


 降りてくる大きな足音に、二人は完全に戦闘体制に入る。

 そして姿が見えた時、その大きな影の男は高らかに笑った。


 「ようやく見つけたぞ!!弱者ども!!」


 『虐像』ロドスとの、会合であった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 戦場はギュムズとギザに戻る。


 ギュムズの槍は深くギザに刺さったーーかのように思われた。


 「これはたまげたな・・・!!」


 ギュムズの槍は、その先端が消滅していた。刺したのはギザではない。巨大な重力場に持っていかれたのだ。


 「重力球(グラビティ・ボール)


 重力は、世界の中心に向かって引っ張られる力である。その中心を、ギザは自在に操ることができる。そして、その中心に引っ張られる力の範囲すらも、自在に設定できる。


 ギザと槍の間に、その重力の矛先を設定する。その範囲に入ってしまった槍は吸い寄せられ、行き場をなくし消滅する。


 「だが甘い!!放電せよ我が肉体!!」


 ギュムズの体から雷が鳴り響く。その放電の多くは先ほどの重力場に持っていかれるが、わずかにでもギザに雷が届く。


 「クソが・・・!!」


 「はっはっは!!まだまだこれからよ!!」


 痺れるギザに追撃するように、ギュムズは再び雷魔法を展開する。その雷が届く瞬間に、雷ではない何かがギザに直撃する。


 それは土属性の魔法であり、彼らと比べればあまりに小さな魔力で練られた弱小魔法。その魔法を発した張本人が、瓦礫から出て威張る。


 「はっはっは!!俺様の攻撃が当たったぞ!!どうだ!国に逆らう逆賊め!!」


 先ほど、アストラは弱くても戦うべきだと言った。それが正しいかどうかなんて、実際に戦場に出てみないとわからない。

 もしかしたら、その小さな力が勝利に導くこともあれば・・・


 掴めそうな勝利を逃すジョーカーになるかもしれない。




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