表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
52/139

第2章31話 女同士




 青い炎が図書館中を燃やす。たった一人の標的を追いかけながら、奥で眩く光ったものに気をとらわれた少しの間、その隙をつかれた。


 戦いが終わる予感に乗じて、手早く目の前の巨人を仕留めきれなかった自分の落ち度だ。


 吐血しながらも名前を呼び、自分がやるべきことを指し示した『番人』の指示を、どうしてか無視することなどできなかった。


 相対していた別の巨人は、自分が攻撃の手を緩めた瞬間に、図書館の入り口に走り出してしまった。


 普段ならば、追いかけて地下3階にいるはずのヒミア先生とキノニア先生とで挟み撃ちする形で仕留めにかかっただろう。だが、ストラトスはどうしても死にゆく『番人』の言葉を無視できなかった。


 図書館の最奥を指差し、バイスは行けと指示した。その言葉の先に、ダスカロイがなぜ自分を地下にやったのか、その役目がある気がした。


 弱者を痛ぶりつくす巨人を地下3階にいるはずのヒミアとキノニアに任せ、ストラトスはバイスの指差す方向に走った。

 その先で鳴り響く戦闘を、たった一人の生徒に任せて、破られた壁の向こうに広がる螺旋階段に向かった。


 「先生、ここは任せてください。」


 そう言い放った頼もしい生徒の言葉を耳に残し、今なお何もできずにいる自分を恥ながら、ストラトスは地下へと降りる。自分の知らない道を走りながら。




※※※※※※※※※※※




 攻撃の手がなくなった。あの熱すぎる青い炎は最悪だった。恐らく、戦場で相見えてぶつかれば、決して敵うことのない相手だったと断言できる。


 いくら我が炎属性で軽減できているとはいえ、恐らく勝てない。戦場での経験など自分にはないに等しいのだから。


 相手が我よりも優先すべき何かに囚われた際には、好機だと思いすぐに退散した。早くここから抜け出して、弱者をいたぶらなければ発作が治らない。


 あぁ、殺したい。早く早く早く殺したい。


 そんな時、瀕死の巨人が見えた。図書館入り口あたりに膝から崩れ落ちるように座っている瀕死の巨人。

 半身は吹き飛び、どうやら見る影もなく焼けこげている。


 こいつにトドメを刺して、一旦気分を紛らわせようか。


 だが、そうはいかなかった。なぜかこの瀕死の巨人に畏怖してしまった。どうしてなのかわからない。だが、この巨人には触れてはいけない気がした。


 見たこともない同族に、初めて覚えた弱者からの恐怖。


 「気分が悪い・・・」


 早く、本当の弱者をいたぶらなければ・・・そう思い、『虐像』ロドスは地下へと降りていく。そこには、弱者の光景が広がっているはずだから。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 光を放った数十秒後、一閃の紫の雷が走った。


 恐らく、自分たちにとって不利な何かが起きているのは間違いない。だが、自分のやるべきことはそれを追いかけることではなかった。


 目の前の友を、止めることだけであった。


 紫の閃光が通り過ぎるのをその目で確認した後、ようやく、桃色の髪の少女は敵と向き合った。


 「やっと、二人きりね。」


 「すぐに一人になる・・・」


 図書館入り口の方で、まだ魔法がぶつかる音がする。どうやらまだ完全に二人きりというわけではない。だが、ようやく向かい合えた。


 「もう任務に気を割く必要は無くなった・・・リンピア姉様が後は全て片付ける・・・。」


 「・・・どうやら、アタシの気を引きたそうだけどそういうわけにはいかないみたいよ?」


 剣とナイフが重なる。言葉を交わしながら、女二人は斬り合う。

 その二人の間を、縫って走る男が一人。


 その男ーーストラトスに任務とやらを任せて、リアは声高らかに宣言する。


 「先生、ここは任せてください。」


 それは、ストラトスにとってはそっちを任せるという意味合いに聞こえただろうが、リアの込めた意味は違う。


 「邪魔はもうない。本当に二人きりよ。」


 「仲間ごっこはもう終わったの・・・話すことなんてもうない・・・!」


 質量の持った霧が押し寄せる。それは本棚を削りながらリアに向かって射出された。


 熱を帯びたリアの愛刀がそれを両断し、サンに迫る。

 サンは空中に身を交わし、リアの剣戟を受け流す。


 だが、全ては受け流せなかった。熱の波動がサンを襲う。

 その衝撃のまま、図書館の天井にサンは追いやられ、再びリアの二刀流が襲う。


 切り裂かれた天井から、地下一階へと押し出される。


 「ここの方が思いっきり戦えるでしょ?」


 戦いの舞台は再び体育館へと移る。


 ・・・授業を思い出す。実力を隠しながら戦闘訓練に参加し、ある程度の地位を確立させてきた天才。それが目の前の相手だ。

 授業では、何かに夢中になっているイロアスはさておき、アストラとアタシがダントツだった。だが、実際は違う。


 「アタシを殺せたらあんたの勝ちよ。」


 「ゲームをしてるわけじゃない・・・。もちろん殺す・・・それ以外にない・・・。」


 「アタシが勝ったら、いうこと聞いてもらうわよ。」


 「・・・甘い。そこで殺すという選択肢が出ないのが甘い・・・所詮は温室育ち・・・。」


 「まるで人を殺したことがあるようないい草ね。」


 「初めて人を殺したのは、5歳の時だから・・・」


 その言葉の重荷を理解できるのは、一体誰だろうか。同期の中では恐らく、裏切りにして悲劇の一族であるアストラと、フェウゴくらいなものだろう。


 リアは、サンの言った通り所詮は温室育ちである。『使徒』の家系であり、家族にも複雑な事情を抱えてはいるが、戦場に出た経験も浅く、多くを王都内で過ごした。


 一方サンは幼少の頃から多くの血を見て育ってきた。


 生まれた環境、育ってきた環境が違う。その差は戦闘において大きな差となって現れる。

 事実、リアをここまで成長させたのは、入団試験だ。


 エナ=アソオスやミストフォロウという格上の存在と、イロアスという成長し続ける鬼才あってのおかげだ。もちろんそれまでの『灼熱』という祖父との修行も決して無駄ではない。そのおかげで、あの地獄の入団試験を乗り越えたのだ。


 だが、その経験をする歳に大きな差がある。


 リアは入団試験で、サンは齢5の時にはすでに経験をしてしまった。


 人を殺すことに躊躇いがない魔法。それが、サンが同期の中で誰よりも強い理由である。


 だけど、


 「あんた、アタシ相手じゃ躊躇うんだね。」


 その言葉がトリガーとなった。

 漏れ出す殺気に、即座に反応できたのもまた入団試験のおかげだろう。そしてそこに畏怖せず半歩遅れることもなかったのも、格上の格上である『魔王』の存在あってこそだろう。


 暗い、暗い霧が体育館を包む。今までとはうって変わって、あまりに濃い霧が包む。

 質量はない。だが、体をぞくぞくとさせる嫌な魔力が込められている。


 だが、先ほどと同じように爆発させれば済む話だ。そう思い、すぐさま爆発さるが、その爆風すらすぐに霧に飲まれる。


 「なるほどね。さっきとは込められた魔力量が違うってわけね。」


 爆発と同時に、霧を成す水魔法が爆発を防ぎに囲み出すのを感じた。そして最悪なことに、あまりの水分量の多さから、熱源探知(サーモグラフィ)も通さない。

 これではサンの居場所が不明のままだ。


 「・・・だけど、これあんた相当な魔力必要でしょ。」


 確かに、リアの言う通り、この濃い霧は特別強く水魔法を用いている。消費量は先ほどの比ではなく、範囲も実際は限定されてつくっている。

 さらにこの霧の中でも、サンは熱源探知(サーモグラフィ)を警戒し、霧の状態でいる。消費魔力量は大袈裟ではなく半分以下まで減少している。


 つまり、これで本気で仕留めにきているのだ。


 他でもない、半年も同じ部屋で過ごした友と呼べたかもしれない人間を。


 先ほどの言葉で、怒りを露わにしたことを反省する。確かに、そうだったかもしれないと。

 だが、主君の邪魔をするものは全て敵だ。その考えには変わりない。


 だけど・・・殺すほどの相手ではないと、そう思ってしまった。


 そんな自分を、今殺した。


 「サンは、革命軍幹部第6席。『幻霧』と呼ばれ、多くの人を殺したあなたの敵。私とあなたは、分かり合えない・・・」


 銀色の鈍い光が、再びリアを襲う。防ぎようのない攻撃に再びリアは傷を負うが、熱源探知(サーモグラフィ)の常時展開により、多少は避けられる。


 ・・・近づきすぎるのは危険。いつしか寝首を狩られる。


 そう思い、サンはナイフを捨て違う攻撃に切り替える。


 少しの間、攻撃が止んだリアは思考を回転させる。恐らく、走り回ってもこの霧は追跡してくるだろう。サンはこの霧の中をひっきりなしに動いている。だが、霧自体が流れを変えることはない。


 この霧は、術者ではなく、アタシを中心に発動している。


 ならば移動は不必要。この場だけで完結させる。爆発は意味をなさない。自分の体を犠牲にする爆発を繰り返すこともできない。

 だが、相手が短期決戦的に追い込んでくるならば、魔力量勝負といこうか。


 その最中、光が霧の中で発生する。その光を見た瞬間に、視線が吹き飛んだ。


 何が起きたのかはわからないが、攻撃をされた。そして最悪なことに、その光は自らの額に命中した。


 丹花の鎧(たんかのよろい)を頭までつけていなかったら、その命は一瞬で散っていたかもしれない。光は、鎧と強く衝突し額から血を流す羽目となった。


 「いい度胸ね。やってやろうじゃないの!!」


 そう豪語はするものの、次々と光り輝く光線を魔力をさらに集中させた丹花の鎧(たんかのよろい)で防ぐ他なかった。

 恐らく、光源はサンだ。居場所の特定をしようにも、サンの姿は一切確認できない。


 霧化しながら、光魔法を駆使している。


 防戦一方。光魔法の物量に押され、霧で一切感知はできなく、ただ防ぐことをするのみ。

 その全てを防ぐことなど叶わず、何度も光魔法を直撃する。


 「そんな本気で殺しにくるなんてね・・・女の子同士無遠慮になってくれたってわけね。あの寮で過ごした日々が色褪せないうちに、あんたと決着をつけないとね。」


 「すぐに忘れる・・・リアが死ねば何事もなかったかのように忘れていく・・・。」


 「ねぇ、アタシが勝ったらーー」


 「リアはここで死ぬ・・・」


 「あんたともう一度お喋りしたいの。女の子同士、今度の今度こそ、あんたの嘘の笑顔じゃなくて本当の笑顔を見るためにね。」


 「・・・!!もう、そんな話をしないで・・・!!」


 光が、さらに輝きを増し、威力を増し、数も増す。


 「転移。」


 霧でその姿は把握できないが、必ずそこにいる。


 「この濃霧のせいであんたにつけた炎が全然反応してくれなかったわ。でも、ようやく向かい合えたわね。」


 リアがその近距離で放った炎魔法は、霧化しているサンに直撃する。

 本来霧になっているのだから、あらゆる魔法はすり抜けてしまうが、炎魔法とは相性が悪い。蒸発し、姿を捉えられてしまう弱点がある。

 

 「さぁ、逃がさないわよ。」


 「調子に乗らないで・・・!」



 図書館の戦いは、二つの決着を迎えた。

 最後の一つは、舞台を体育館へと移動し、華のある戦闘を繰り広げる。


 『幻霧』サンVS 『朱姫』リア=プラグマ




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ