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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章25話 闇と光は入り交じる




 かつての教え子の成長が見れることは、自身の長い経験でも上位に入る嬉しい話だ。


 目の前の教え子を見て、そう思っている日をここ数日は何度も目にした。


 滅多にこの学校にディコス王朝の役人を呼んだことはなかった校長が、初めて数日間の滞在を許可した。かの御仁にそこまでさせた教え子の成長を見て、ギオーサは感涙しかけたほどに。


 だが、その涙を見ることはもうないのだと、残念に思う。


 目の前の彼女は、自身の望んだ成長とは程遠い黒に染まった。いや、最初から黒だったのだ。


 見抜けなかった自信の怠慢と、道を帰ることのできなかった力不足だけを嘆き、目の前の相手に対する情を捨てた。


 魔法学校副校長として、この学校を守る責務がある。侵入者には、それ相応の教育を。


 「構えなさい、リディア=エフェソス。あなたは私の実力を知らないでしょう。」


 「えぇ、もちろん油断などしてません、あなたの教え通りに。私はあなたを老いた魔女だなんて一度も思ったことありませんから。」


 リディアは剣を構える。だが、目の前の魔女は杖を構えた。

 リディアはその武器を知らない。それは学校で習ったもの、主君から教わった戦闘技術とはかけ離れた道具だからだ。


 通常、武具には魔力を込めることができる。その武器を用いて攻撃をすることが定石だ。故にほとんどが攻撃的な武具を用いる。

 実際、リディアが用いているのは剣であり、主君である『戦争』が用いているものも剣である。


 ディコス王朝最強の騎士である『大将軍』も三叉戟を持っている。


 だが、ギオーサの持つ杖は、とてもじゃないが何ら攻撃できるとは思えない。

 ならば、それは一体ーー


 「警戒しなくとも、これはただの杖ですよ。これが何か攻撃できるという代物ではないですよ。」


 杖を構えた瞬間、杖から魔力弾が発射された。リディアはそれをギリギリで躱わす。だが、頬を掠め、血を流す。


 「勉強の時間です。」


 杖を横に一振りする。その軌道上にいくつもの魔法陣が描かれ、再び魔法弾が発射される。

 リディアはそれを走りながら避け続ける。だが、無尽蔵に、ただ振るだけで描かれる魔法陣によって近づくことを阻まれる。


 杖に何の意味があるのかを思考する。


 それは、一般人の思考だ。


 リディアは遠距離から剣を薙ぎ払う。その斬撃の軌道はギオーサの杖を捉えた。


 「・・・残念。再履修です。」


 杖は、何事もなかったように再び振られ、魔法陣を展開した。先ほどよりも幾重に。


 ()()()()()()()()はずなのに、杖は何事もなく機能を維持している。

 ーーいや、違う。彼女のいう通り、本当に攻撃的な機能などないのだ。


 「本当に、ただの木の棒。だったら、ただの木の棒を振るう魔法使いだと思えばいい。」


 光の弓が数十にも及び、リディアに寄り添うように展開される。


 「光の狩人(シャイン・ハント)


 一つの弓から、何十という光の矢が放たれる。

 だが、それがギオーサに届くことはない。彼女は杖を前にかざす。


 「黒渦(ディープ・ダーク)


 光の矢は、ギオーサが作り出した黒い渦に飲み込まれていく。


 あぁ、そうだ。この人は世界で数人しかいないーー光と闇の属性を両方持つ魔法使いだ。


 光は闇を照らし、闇は光を飲み込む。その大いなる矛盾ゆえに、この二つの属性が同時に与えられることはない。だが、ギオーサ=イリキオメルはその二つの矛盾した属性を持つ稀少な魔法使いだ。


 そして、五大元素の属性を一切持たない、異質な魔法使い。


 杖の謎、闇と光の二者使い、そして何よりも闇の効能を知らないこと。


 「さぁ、再履修です。」


 目の前の魔女の脅威を、かつての先生の力量を、見誤った。

 リディア=エフェソスは、再び剣を強く握った。この魔女が就く副校長の座は、伊達ではないことを再認識した。


 「・・・まずは、杖の謎からいきましょうか。」


 「では私は、あなたの()()という行為について考えましょう。あなたは、何を斬れるんでしょうかね。」


 いじの悪い魔女だ、とうにわかっているくせに。

 だが、それをぼやいても仕方がない。現状、不利なのは私だ。


 再び、ギオーサは光の魔法でリディアを攻撃する。


 それを巧みに避けながら、考察する。

 自身の属性は光。それは闇に呑まれることは明白。だが、光が闇に呑まれるというのならば、彼女の光も呑まれる。つまりーー


 「同時には発動できない。」


 呟く、そして、彼女の顔にわずかな揺らぎを見た。


 「ビンゴですね。」


 「・・・では、次の授業です。光の妖精(アレイ)。」


 ギオーサの杖から、2体の光の化身が出現する。その2体は独立してリディアの背後をとると動く。

 だが、それは叶わない。


 リディアがその2体を一振りで斬る。


 光は物質ではない。故に斬れてもそれは再生する・・・はずだった。


 「・・・やはりですか。」


 上半身と下半身がくっつかずにバタバタと床で暴れる光の妖精(アレイ)を見て、自分の予想が的中していることを理解した。


 「最初剣を振るった時、私ではなく杖に向かって斬撃を飛ばした。それは、杖を警戒しいたとも取れるけど、もっと簡単に杖の効果を調べることができる。それは私自身を狙って杖を使わせること。」


 「・・・」


 「それを知っていてなお、あなたは杖を狙った。それは杖を狙って無効化できるという自負があるから。そして次に光の妖精(アレイ)にはなった斬撃は、本来物理ダメージを無効化するはずなのに現状この有様。ならば、あなたはーー」


 リディアは再び斬撃を放った。それはギオーサに放たれ、わずかにかすっただけだ。だが、斬撃が触れた部位は出血どころか切り傷すらない。


 「戦闘中なのに、よく喋りますね。普段無口なあなたがそこまで饒舌なのは、誰かと情報を共有しているからですか?」


 声が出せない。


 そうか、やはりこの剣ーーいや、そもそも剣が特殊なのではない。


 『権能』だ。革命軍副司令官として『戦争』から与えられたギフト。

 その能力はーー


 ーー事象・概念の切断


 「さて、もう喋れないのなら会話などいらないですよね。だって、一人で話し続けるのは失礼ですもんね。」


 声が出せないことによる弊害は二つ。

 一つは情報の共有ができないこと。現在闇魔法の一種によって教員全員と繋がっている。それの一切の繋がりを断たれた。


 だが深刻なのはもう一つの方だ。

 詠唱ができないこと。それによる魔法の力の低下。


 そして、臨天魔法が封じられたことだ。


 およそ全ての臨天魔法は詠唱を必須とする。それは臨天魔法が臨天魔法たる縛りであるからだ。名付による詠唱の縛りーーそれによる威力の向上。


 それを封じられた。


 だがギオーサはいたって冷静である。再び杖を構える。未だ、この杖の詳細はバレていない。ならば、如何様にも戦いようはある。


 そう、杖だ。

 この杖が何が未だわかっていない。一見どころか、この杖の機能を切ったはずが、ギオーサは普通にその杖を使い続けている。


 この杖自体には意味がない。これは正真正銘のただの杖。

 ならば、警戒する必要などない。いつも通りに戦えばいい。


 詠唱もできない魔女など、とるに足らないのだから。


 ーーーあぁ、油断だ。あれほど戦闘には集中しなさいと教えたのに。

 声を封じた程度で、一体何を勝ち誇ることがあるのか。 


 杖の本領など、一度も見せていないのに。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 光魔法と闇魔法を同時に扱うことはできない。それには少しは疑念を投じる。


 五大元素、それと光に分類できない全ては闇魔法に分類される。

 つまり、ある種の闇魔法と光魔法は共存できる。しかし、光を呑み込むような真に闇系統ならば、確かに光と闇が共存することはできない。

 それが、世界の理であると信じられてきた。


 それは、嘘だ。


 「ギオーサ、君が持つ闇と光の魔法を共存させる人間がいる。」


 今から40年も前の話、『魔導王』によって語られた世界の理を曲げた言葉だ。

 ダスカロイがまだ『魔導王』になる前の話。つまり、先代『魔導王』によって伝えられた言葉。


 「その人間は調停機関メディウムにいる大魔道士だ。彼に会えば、君の光と闇を共存させる研究は飛躍するだろう。」


 齢27歳にして、彼女は自分の魔法に限界を感じていた。まだ人生の三分の一程度しか生きていないにも関わらず、光と闇を同時に発動できない魔法の限界を悟ってしまった。


 彼女の扱う闇魔法の効能は、真なる闇ーー光を呑み込むブラックホールである。すなわち、光魔法は闇魔法に呑まれる。


 この問題の最も難点なのは発動するより前に呑まれるのだ。

 詳細に説明するならば、彼女の魔力回路内ですでに闇魔法が光魔法の魔力を呑み込んでしまうのだ。


 それ故に彼女は、光魔法と闇魔法の同時発動についての研究をしている。

 この自分の限界を、一体どうすればいいのか。もしかしたら、生涯をかけて研究することになるかもしれないと覚悟の上であった。


 だが、それを解決した天才がいると彼は言った。


 「ぜひ、会いたいです。」


 即答であった。先代『魔導王』は優しい笑顔を見せた。




※※※※※※※※※※※




 初めて調停機関の内部に入った。

 騒々しい小人と、荘厳に佇む巨人が守護する大きな扉を抜けた先。


 先代『魔導王』の背についていくだけだったが、とても緊張しているのを実感する。


 「やぁ、君が光と闇の矛盾に悩める子羊かな?ようこそ、メディウムへ!」


 なんとふざけた態度の男なのだろうか。白髪の癖っ毛のある短髪に、金と銀のオッドアイを持つ男。なぜか発言の一つ一つが信じることができない胡散臭さを感じる男。


 門を抜けた先の中庭にその男が待っていたかのように立っていた。


 「ルダス、どうか彼女に。」


 「いいとも、悩める子羊を導くのは太古の昔から私の役目だからね。この何千と世界を見てきた私の知恵を授けよう。」


 胡散臭い、信用できない。


 「私はあらゆる魔法を使えるエリートだからね。君がそれについて悩む千年ほど前にそれを解決してしまってね。まぁ本当は私じゃないのだけどね。」


 さっきから太古の昔だとか千年前だとか、よくわからないことを言う不審な男の話を信用できずに耳だけを適当に傾ける。


 「・・・君、さっきから信じていないね。まぁ百聞は一見にしかずか。では見せてあげよう!」


 ルダスと呼ばれる不審な男はどこから取り出したかわからない自分の身長ほどの杖を取り出した。その杖は7つに枝分かれしている不思議な杖だった。

 そして彼は無詠唱で魔法を発動した。


 杖から発せられた2種の魔法は、それはかくも美しく、白と黒の渦を作り出した。


 「・・・!!どうやって!!」


 ルダスはにこやかにギオーサに笑いかける。


 「ルダス、彼女に力を貸してあげてくれ。」


 「えらく彼女がお気に入りなんだね。」


 「あぁ、よろしく頼むよ。彼女の正義はこれから先必ず必要になる。」


 「・・・なるほどね。悲しいねフィラウティア。」


 「そんなこと言わないでくれルダス。君が『魔導王』のことを代々そう呼ぶのはもしかして皮肉なのかい?」


 「いいや、君たちの物語が()()一色に染まっているからだよ。君の物語など死ぬまでないだろうから君を名前で呼ぶことなどないさ。」


 「そうだね、うん、そうだ。では君がもし、どこかの代の『魔導王』を名前で呼ぶ時が来るのならばーー」


 「来るといいね・・・そのための布石というわけかい?」


 先代『魔導王』はただ、笑った。


 ルダスはその笑みに答えるように、ギオーサの元に歩み寄り、杖の一部を渡した。


 「この杖はただの木から作られたものではない。これは精霊たちが住まう世界樹から作られたものだ。世界樹は水や光の代わりに世界から魔力をもらって成長する。つまり、魔力を通す維管束が内部に備わっている。」


 察しの良い、勉強熱心な彼女ならそれだけで理解できたのだ。


 そう、この杖はーー




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 杖を一度斬り、ただの木だと判断したその自身の権能への過信。


 この権能には明確な弱点が存在する。それは、何かを斬るという漠然な行為はできないという点だ。


 世界樹の機能を斬ったのならば、杖は「魔力を通す」をいう機能を斬れただろう。しかし、リディアはこの杖が世界樹であるということを知らない。


 リディアが斬ったのは、杖としての攻撃的機能だ。だが、杖自体には剣のように攻撃的な機能は備わっていない。故にこそ判断した「ただの木」。


 この木が世界樹の木片であり、魔力を通す機能を備えているということを、先代亡き今ルダス以外知り得ないだろう。


 「魔力を通す」という機能を用いると、彼女の研究は終わりを迎えた。


 杖を構える。声の出せない老体の魔女は、自身の持つ闇と光の共存を成し得た。


 リディアは断定してしまった。光と闇を同時に扱うことなどできないと。優秀な彼女の考察は例外を考えなかったら素晴らしいものだ。

 さすがは自らの教え子だと、そう笑った。


 右手の杖から光が、左手からは闇が、発動される。


 「・・・!」


 絶句。声の出せるはずのリディアが声を出すことができずにただ剣を構えることしかできなかった。


 黒渦(ディープ・ダーク)がリディアの背後で生成された。それに引っ張られるリディアだが、すぐに対応する。確かに驚愕はしたが、自身の権能で黒渦(ディープ・ダーク)が持つ引力という機能を斬ればいい。


 だが、同時に発動された光魔法が、まるで追尾するようにリディアに向かって放たれる。


 追尾ではない、光が闇に呑まれているのか。そう気づいた時にはもう遅かった。元々速さを誇る光魔法が黒渦(ディープ・ダーク)の引力によって加速される。


 捌き斬れずに何発かの加速された光魔法が直撃する。


 そしてそのまま黒渦(ディープ・ダーク)に呑まれる。ギオーサが左手を握ると、その渦は爆発する。


 過信によるミスジャッジ。戦闘中のそれは死に直結すると、そう教えたはずなのにと残念に思う。もう少し、彼女のことをわかってあげられたのならと、爆発した煙を見てそう思うのだ。




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