第2章23話 それぞれの戦場
植物・薬草学の体現者といえば誰か。
世界中の研究者が声を揃えて言うだろう。
エピス=ピュロンを置いて他にはいないと。
彼は長年この魔法学校に従事している。研究をさせてもらう代わりに授業を受け持ち、『戦争』の被害拡大を防ぐために砂漠にわずかに生まれてくる緑の成長を止めている。
その砂漠化の進行により、革命軍は十分な食料を自給自足で賄うことを困難にさせている。
しかし、北に城を構える『原罪』の後ろ盾により、その砂漠化の進行はあまり意味がないものにはなっている。
だがそれでも、革命軍からすれば十分に怒れる事態であり、その恨みは積年のものである。
『翠老』という名は革命軍がつけたものであり、「翠を奪い続ける老害」という皮肉を込めて付けられた二つ名である。
その名をつけた男は、まさにその『翠老』に相当な恨みがあるのだろう。故に彼は誰にもこの戦いの邪魔をしてほしくはなかった。
『墓守』ハリカル=マウソロスは、革命軍の幹部であり、第4席に座すものである。その席は代々マウソロス家に受け継がれている。
その特異性は、彼らマウソロス家が革命軍の拠点の管理人であるからだ。
故に、『墓守』。
その拠点から緑を奪い続けるこの老害を、なんとしても討つ。その意気で、この戦場にはたった二人の老人しかいない。
他全ての黒装束を纏った革命軍が、欲していた緑に呑まれたのだ。
学校屋上
『墓守』ハリカル=マウソロスVS『翠老』エピス=ピュロン
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学校中から、破壊音が聞こえる。
床が、壁が、天井が、メキメキと音を立てて崩れ落ちる。
触れずして、全てを破壊し尽くす。
それがこの獣が『暴獣』と呼ばれる所以である。
ただ一人、黒装束を身に纏わず、黒いボロボロの服を身につけているこの獣。
「んなもんかよッッ!!『戦車』ギュムズ=ナシオンッ!!」
先ほどから防戦一方であり、逃げることしかできずにいるギュムズ。それはまずは分析という、荒々しくも冷静沈着な手段をとっているからだ。
相手は触れずして、拳が空を切るだけで、その先にあるものを破壊する。
風は起きていない。炎も雷も水も土も関係ない。
闇属性だ。
五大元素で説明のつかないほとんどが闇属性に分類される。
闇属性の相手をするときは、まずはそれがどんな効能で魔法を使っているのかを把握する必要がある。
だが、そんな段階はとうに過ぎていた。
「俺様の重力の前で、テメェは近づくことすらできねぇんだろッ!」
効能の開示。それは一種の縛りに相当する。
特に闇属性は効能が数百、数千にまで及ぶ。それによって、闇属性の効能の開示は縛りによる能力向上が見込まれる。
だが重力といっても、一括りにはできない。
何が対象で、どこまでの範囲なのかを正確に見抜く必要がある。
「テメェ、逃げてばっかりでつまらねぇなぁッ。」
「はっはっは、さすがは狼人族。好戦的で結構だが、戦いはこれからだぞ?我輩と戦場で何度か相見えているのならば、我輩の恐ろしさも知っていよう。」
「あぁ、『戦車』と呼ばれるほどの進軍って聞いてらぁッ・・・だが、今見せられているのはなんだ?ただの逃走車じゃねぇかッ。」
「失礼したな。我輩は常に戦況を見極めている。これからさ、目を離すなよ犬っころ!我輩が行くぞ!!」
「犬っころじゃねぇッ!革命軍第1席、『暴獣』ギザ様だッ!!」
学校2階〜屋上まで
『暴獣』ギザVS『戦車』ギュムズ=ナシオン
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その巨躯は燃えている。
炎炎と燃え上がる肉体が、アドレナリンを沸々と彷彿させる。
やつを知っている。最もディコス王朝の騎士を嬲り殺している卑劣な巨人。
『炎鬼』として、『戦車』ギュムズ=ナシオンと共に戦場に降りた時も、奴は弱った兵から順に殺してまわっていた。
今も、この突然事態に怯える生徒を狙っている。腕の細い女教授ヒミア=タブーが守る彼ら弱者を狙って走っている。
その暴走を、ストラトスは止めあぐねいていた。
同じ属性を持つ巨人に、彼の熱ではダメージにならない。
半端にこの学校の損傷を気にしているストラトスでは、この『虐像』ロドスを止めるダメージを負わせることが出来ない。
すでに想定外の連続、それにストラトスがこの学校を攻撃できない理由はある。
この学校の結界が破壊されているのならば、この学校の浮遊の魔法もすでに維持はされていない。ならば今浮いているこの学校は、ダスカロイが浮かせている。
学校を破壊し続ければ、ダスカロイにかかる負担がでかくなることを最も理解している。
「これ以上地下に降りられるのはまずいな。」
それを口に出すことはないが、ストラトスに焦りが見える。
生徒の避難場所は、もしもの想定のために決まっている。
その場所は地下3階であり、普段は倉庫となっている場所だ。
この場所は900年間ずっと倉庫であり続け、望ものは手に入ると言わんばかりの歴史の宝庫となっている。そのため、地下3階には厳重に三重の扉があり、それら全てを抜けた先にある。
現在、ストラトスが追い込もうと想定していた地下一階の体育館を突破され、地下二階に差し掛かる階段付近。
それは突如として現れる。
ロドスが走って数分、一度も止まることのなかったこの巨体が止まる。
いや、その巨躯は地面に足をつけることもできずに、ストラトスの背後に飛ばされた。
「バイス・・・!」
「『炎鬼』・・・ダスカロイの元まで戻れ。嫌な予感がする。」
「それは出来かねる。我輩はダスカロイに任されてここにいるのだ。」
「・・・」
「言いたいことはわかっている。だが、考えあって我輩をここに寄越したのだ、抜け抜けと戻るわけにはいかん。」
「おい。我をロドスとしっての愚行か?このロドスの疾走を止める権利が誰にある。」
吹き飛ばされたはずの巨人は、安易と立ち上がり鬼気迫る咆哮を唸らせる。
それに一歩たりとも引かずに、二つの足で真正面から立つ男が二人。
地下2階図書館前
『虐像』ロドスVS『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマ&『番人』バイオラカス
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背中を追いかける。
それだけで察する。
こいつは、実力をひたすらに隠していた。
ある程度の実力者であることは把握していた。しかし、これほどとは思わなかった。
新団員の中では間違いなくトップだ。イロアスもアストラでもなく、アタシでもない。
サンこそが最も強い。
「あんた・・・何者なのよ!」
サンの背中を追いかけるリア。誰が想像できるか。
あの『灼熱』の孫娘が一切触れることが出来ない。
すでにリアは「丹花の鎧」を纏っており、戦闘準備は万全である。しかし、先ほどから見える背中に触れることすらできない。
「落ち着きなさい、リア=プラグマ。」
冷静沈着。それはディコス王朝を支える『大将軍』の娘としての器であるからか、彼女に焦りはなかった。
リアと違い、セイレンは何度も戦場を目にしてきた。本来戦場において安全な場所などない。しかしこの王朝は結界によって安全に戦場を俯瞰できた。
その結果、セイレンは戦場を誰よりも多く見てきた生徒だ。
「あなた、『幻霧』ね。名前も顔も把握できていない革命軍幹部第6席につけられた異名。」
『幻霧』ーーそれは、戦場でふとしか瞬間に現れる謎の霧の中に佇んでいた影からつけられた異名。
革命軍が撤退する時、その霧は必ず現れる。
「目の前の背中に追いつけないのは、霧によって距離感にバグが生じているから。視覚を騙しているのよ。」
水属性を持つセイレンだからこそ瞬時に把握できる。しかし、霧によって幻覚を見せるほどの魔力操作はセイレンにはできない。
水蒸気の些細な揺れでその幻術は完成する。全くもって厄介極まりない敵。
セイレンも、相手がただの同い年の女子だとはもう思っていない。
「あんた、何者なのよ。」
リアは永遠に見える幻覚の背中に語る。
しかし、その背中から、声が返ってくることはない。
「・・・そう、なら、答えてくれるまであんたを追いかけるわ。」
リアの炎が、よく燃え盛る。
足に魔力を集中させ、爆発的な推進力を見せる。それは、一見制御不可能に思わせて、その一切をコントロールしてみせた。
リアは、一家相伝の臨天魔法の習得のために、炎魔法の効能を全て会得する必要があった。その中で、彼女が会得したものは、爆発だ。
霧が霧散する。そして同時に、彼女はセイレンを突き放し、すでに幻覚の背中を超えていた。
「やっと、顔見れた。」
霧の中、二つの影が顔をだす。その一人の正面に、リアは堂々と立った。
先回りされるはずがない、そう思い込んだ少女は、驚嘆の顔を見せる。
何度も戦場に足を運んだのは、セイレンだけではない。
革命軍の幹部として、その力を遺憾なく発揮させてきた。
自身の霧魔法が、何枚も上手だと確信していた。
リアは爆発力で得た推進力で、サンとの間合いを瞬時に詰める。そして横っ腹に思いっきり蹴りを入れた。
吹き飛ばされるサンは背中でどこかの扉を開ける。その扉の先は体育館であった。
「ここなら安心して戦えるわ。ねぇ、サン。」
予想だにしていない力。
自身の認識不足であった、そう反省する。
この学校で、ここまで魔法の核心に迫っていたのかと、そこまで成長していたのかと、そう賞賛する。
「邪魔なんやけど?」
リアの背後から鬼気として迫る女。だが、彼女も誤解する。
水で押し出され、リンピアは体育館の中央まで流される。
この国には、『大将軍』しか注視するものはいない。900年の戦いを経た主君の言葉だ。
「まぁ、あの方が注意するほどの男の娘やもんね。そのくらいしてもらわないかんけど、今じゃないんやわ。時間がないっていうのになぁ。」
向かい合う4人の女。
体育館という広大な空間を埋め尽くす魔力の衝突。
学校地下一階
『紫電』リンピア=ゼス&『幻霧』サンVS『朱姫』リア=プラグマ&『天姫』セイレン=スニオン




