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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章22話 玄関ホールの戦い




 天上から降ってくる黒装束は、風魔法で悠々と舞い降りる。


 数人の戦場の嗅覚を発達させた生徒は、遠距離魔法を放つ。


 それを粛々と防ぎ切る先頭の3人は別格であると各々が判断する最中、黒装束の誰もが不意を突かれる。


 自分の上空から、攻撃されることなど想定はできまい。


 「わたちの庭をよくも荒らしたな。」


 屋上にある庭園は『翠老』エピス=ピュロンの自室であり、宝物である。その木々に傷をつけるものに、一切の容赦はない。


 緑の太いつるが何人もの黒装束を締め付け、骨が軋む音が響く。


 あらゆる植物を操る彼の魔法は秘匿されている。誰もその原理を知らない。

 故に屋上に植物が目に見えていたとしても、それが動くなど誰に予想ができようか。


 「原理秘匿の『翠老』の植物魔法か。しかし所詮は植物じゃ、雷に怯えてヘソでも隠せ。」


 先頭をいく3人のうちの一人が雷を打ちおろし、その全てを炎焼させる。


 「『墓守』か。いつもみたいに大事そうに廃村でも守ってればよかったのにのう。」


 「砂漠の緑を奪い続ける下郎が。貴様だけはワシ自らの手で殺したくてのう。」


 『墓守』と呼ばれる老人の手腕により、他全ての黒装束が学校に足をつける。


 「ディマル先生とタブー先生、生徒の守護をお願いします。アンドラガシマ先生と私とピュロン先生で敵を殲滅します。」


 ギオーサ=イリキオメル教授の指示に、瞬時に生徒を風魔法で強制的に誘導するキノニア=ディマル先生と、戦火を被らないように結界を張るヒミア=タブー先生。


 その誘導に外れるイロアス、リア、ミューズ、アストラ、そしてセイレン=スニオン。


 黒装束の前に立ち塞がるギオーサ=イリキオメル先生とエピス=ピュロン先生。

 未だホールで暴れる獣を抑えるギュムズ=ナシオン先生。

 そして獣をギュムズに任せてこちらに戻ってきたストラトス=アンドラガシマ先生。


 それらの戦意あるものに対する宣誓の言葉は、相手側に委ねられる。


 黒装束と教師陣の間の床に、突如として入る亀裂。

 そこから闇を纏った『厄災』が躍り出る。


 「これより始まるのは『戦争』である。誰も彼もが、戦場では平等なたった一つの命。『戦争』こそ、最も平等な世界である。」


 同時に床から現れる装束を纏わない敵が二人。


 「どこにいるのかと思ったら・・・」


 リアの悲しい声に、遅れてイロアスが気づく。


 「サン・・・それにリディアさんも・・・!!」


 代わりに、教師陣の背後から、彼らを支えるように一人の男が現れる。


 「侵入者には、容赦するな。生徒を守れ、脅威を排除しろ。ここは魔術の頂点が巣食う大砦ーー魔法学校フィラウティアだ〜よ。」


 七色の瞳が、『戦争』を真っ直ぐ見つめる。


 「「行くぞ。」」


 合図は、鳴った。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 合図と同時に駆け出すのは、黒装束に身を纏ってはいるが、その巨躯がはみ出している大男。


 「逃げた生徒を嬲り殺す!」


 身長は優に300を超えているだろう。人間に似つかぬその巨体に、覚えがある。


 「巨人族・・・!調停機関以外にもいるのかよ。」


 「いいえ、すべての小人族と巨人族は調停機関の管理下にあるはず。彼はさしずめ、管理下に収まらなかったあぶれものね。」


 巨体が走る。その速度は人間で言うならばそこまで早くないだろう。だが、その巨体ならば話は別だ。


 「ストラトス!やつを行かせるな!」


 ダスカロイの言葉に瞬時に反応し、炎魔法の網を作るストラトス教授。

 だがそれを悠々と突破する巨人族。


 「我、止める術あらず!」


 「・・・チッ。」


 「ストラトス、地下を一任す〜るよ。こちらは任せたまえ。」


 「・・・あぁ、無茶だけはしてくれるなよ。」


 ストラトス教授の返事にイロアスは多少の違和感を感じた。

 それはストラトスが呼び捨てにしたこともそうだが、一瞬の返事の間とダスカロイの様子だ。


 『戦争』は弱い。イロアスはそう聞いていた。

 それに比べ、『魔導王』は強い。それは、『魔王』と実際に対峙したイロアスがその目で見て、確信したことだ。


 だが、今はまるで立場が逆転している。


 目の前に優雅に立つ『戦争』は強い。

 そして、隣に息を荒くして立つ『魔導王』は、弱々しく感じた。


 「息が荒いぞ、『魔導王』。」


 「そう見えるかな?これはブラフと言うやつだ〜よ。」


 「いいや、お前は間違いなく弱っている。だがそれもそうだ。周りには言い難かろう、俺から伝えてやる。」


 「・・・」


 「この学校と王朝に張られた結界はすべて消えた。不可侵と認識阻害、これが消えたことによって我々は瞬時にこの学校を襲えた。そして、もう一つ消えた魔法がある。」


 ダスカロイの息が荒くなり、汗をかき始める。

 その様子が、味方に伝わる。


 「浮遊魔法だ。知らぬものもいるだろう、この学校は、上空を浮遊しているのだ。」


 その魔法が消えてもなお、この学校が落下する様子を見せていない。それが、ダスカロイが疲れ弱っている理由を明らかにした。


 ダスカロイが今、常に浮遊させているのだ、この学校を。


 「教えてやる、の学校がどこを浮遊しているのか。」


 ダスカロイが必死になって浮かせていることから、それも予想できた。


 「ディコス王朝の王都の真上だ。わかるか、この学校が墜落することの意味が。」


 これによって、この戦場の有利さの違いが段違いになった。


 革命軍の勝利条件は、ダスカロイの抹殺だ。それによってこの学校は墜落し、ディコス王朝に落ちる。


 今、その話を聞いたイロアスたちは、守るべきものの優先順位を変えてしまった。

 生徒から、『魔導王』へと。


 そして動きを変える教師陣を見て、ダスカロイは一喝する。


 「目の前の敵を見なさい。それでも君たちは教師ですか。生徒を守らずしてボックを守ろうだなんて、職務怠慢です。恥を知りなさい。」


 「・・・見事だ。だが、今のお前では俺には勝てぬ。長年俺を仕留め損なった貴様ら『魔導王』の怠慢だ。」


 「その通りだ、だが、ボックはもうスッキリしていてね。今更この程度の重荷で、弱音を上げるほど弱くない〜よ。」


 ダスカロイは魔力を練る。それは最小限の魔力量で、最大限の威力を持たせる。


 ダスカロイ=フィラウティアは、歴代の『魔導王』の中でも稀代の天才と呼ばれる。

 その所以は、魔法においての才能がずば抜けているからだ。


 魔法は才能で強さが決まるものではない。しかし、才能がその影響を与えないかと言えばそうではない。


 魔力量、出力は秀でているとして、彼の才能はそこに収まらない。


 女神なき時代に生まれることはないとまで言われた、全属性の使い手である。


 七色の光が、黒装束を照らす。


 「穿て、七魔天廟(しちまてんびょう)。」


 「伏魔殿(ふくまでん)。」


 『戦争』から伸びた影がその光を飲み込む。だがその光は一つ一つが弾け、爆発する。色によって特性の違う爆発を見せる。


 影の動きが止まる。予想外の爆発、それに加えて全ての属性に対応しなければならない負荷。


 「さて、ミスター・イロアス。手を貸してくれるかな?」


 「俺をうまく使ってください。勝ちに行きます!」




 玄関ホール中央


 『戦争』マギアVS『魔導王』ダスカロイ&アナトリカ王国騎士団イロアス


 


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「リンピア姉様・・・主君からの任務・・・」


 玄関ホールまで出てきたサンは、それに相対するように向かい合うリアの視線を無視して、黒装束を纏った一人の女性に話しかける。


 「わかっとるよ〜、サンが案内役やね?ほんなら頼むわぁ。」


 アナトリカ王国ではついぞ見せることはなかった笑顔を、自分の知らないサンを目の当たりにする。


 同じ部屋で半年間も寝泊まりした。話しかけるようにもなってきた。

 それら全てが、今日のために仕組んだことなのか。


 しかし、その怒りすら飲み込む感情がある。


 ただひたすらに、悲しみが覆う。


 以前ならば感じることはなかっただろう。

 ただ粛々と裏切り者を殺しにかかっていただろう。


 リア=プラグマは知ってしまった。共鳴してしまった。

 イロアスという少年に。


 「サン!!」


 すでに玄関ホールは魔法が放たれ、爆発音が響いている戦場と化している。

 だが、彼女の声は確かに響く。


 振り向いた少女の目は、もう友を見る目ではない。


 「あんたを止めるわ。」


 まっすぐと、その真紅の瞳は薄紅の瞳に届く。


 言葉を交わすことなく、サンはすぐにリンピアと呼ぶ紫の髪色を持つ女性と共に地下に足をはこぶ。


 「手伝いますよ、『朱姫』リア=プラグマ。」


 「・・・えぇ、相手は二人ですものね。手を貸してくれるかしら、『天姫』セイレン=スニオン。」


 二人はサンを追いかける。




 それを黙って見過ごす女性が一人。そして、彼女らに任せる女性が一人。


 黙って見過ごすのは、それを脅威と思わないからだ。そして反対に、任せるのは一種の賭けである。


 彼女らの成績は素晴らしい。その様子を、サボりがちな校長に変わって見続けた。


 『灼熱』リオジラ=プラグマの孫娘と『大将軍』エナリオス=スニオンの一人娘。それだけで賭ける価値がある。彼女らはその責任に肩を潰されてなどいない。


 今はただ信じるしかない。


 そして何よりも、目の前の女から目を離すわけにはいかなかった。


 リディア=エフェソス。見事不信を貫く『魔導王』から不確かな信頼を勝ち取った女。

 そして、その実力も未知数だ。


 革命軍は、その実態を謎に包んだままにしている。


 構成員の総数も、具体的なアジトの場所すら不明。


 だが幹部にはある程度の目星がつく。

 統率の問題だろう。革命軍には6人の幹部がいる。


 そのどれもが黒装束に身を包んでいるが、圧倒的な実力を持っている。


 900年、幹部は変わる変わる人相を変えていったが、6席という数は変わらなかった。

 現在、その第6席のみ正体不明である。


 その正体はおそらく今いた少女サンであろうと予測する。


 そしてもう一つ、900年もの間正体不明の座席がある。

 それは副司令官の存在である。これは何百年か前に捕まえた捕虜が口を滑らせ、明らかになった存在。


 「900年、なぜ正体がつかめなかったか理解できたわ。」


 「さすが聡明なるギオーサ先生ですね。以前はお世話になりました。」


 「優秀な教え子でしたが、そうですか。確かエフェソス家は900年前に成り上がった貴族でしたね。道理で誰もその存在を知らないわけです。」


 「さて、では死んでくださいまし。」




 玄関ホール右手


 革命軍副司令官リディア=エフェソスVS魔法学校副校長ギオーサ=イリキオメル




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