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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章21話 戦場はフィラウティア




 アナトリカ王国騎士団第1師団所属、サン。家名はない。


 適正属性は水のみであり、授業においても目立った成績はなし。

 属性適応学においても、臨天魔法には至れず、その感覚を掴むのみである。


 授業数は少なく、授業のない日のほとんどを寮で過ごした。


 人見知りの傾向か、それとも人が好きではないのか。


 彼女は人を信じていないように見える。


 「ボックたちの目を欺かれたな。」


 『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアは目の前の異常を自身の失態と捉える。


 結界の核である結晶の前に、明らかな殺意を持って魔力を練る彼女は敵だ。


 この場所はルートを知らなければ絶対に辿り着けないように作られている。ここに人がいるということは、イロアスのように初代に飛ばされる以外にはあり得ない。


 それは、独自にこの場所を発見する他ない。


 偶然なんてものはあり得ない。

 サンは、自分の力でここを発見したのだ。


 「参考までに、どうやってここに?」


 「・・・秘密。」


 言葉と共に僅かに振り上げられた腕をダスカロイは見逃さなかった。


 即座に張った結界が功を奏す。

 バチンという音と共に結界によって何かが弾かれる。


 「・・・まるで水の鉛玉だね。」


 僅かな予備動作で、結界に衝撃を与えるほどの水魔法。認めざるを得ない。


 「君は、同期の中で最も強いのだろうね。そして間違いなく、ボックの敵だ。それはすなわちーー」


 「『戦争』の手下。革命軍の一員。」


 ダスカロイの言葉を代弁したのはサンではなかった。

 背後からする気配には気づいていた。しかし、あまりに僅かな気配であり、違和感くらいにしか思えなかった。


 念の為にと警戒した方から足音もなく歩いてくる誰か。しかし、その正体はすぐに明らかになる。


 「リディア=エフェソス・・・今日は許可を出していないのだが。」


 ディコス王朝で唯一境界を嫌悪する女性。


 確かに、100%彼女を信用することはなかった。

 だが、貴族の中では900年の歴史を持つ、王朝でも最高位に位置する貴族エフェソス家だ。


 それが、ここにきて裏切る。


 その疑問にダスカロイは思考を巡らせる。


 もう少しで結界はダスカロイの手で破壊される。しかし、彼女たちはなぜか今すぐに破壊を求める。


 「君たちは間違いなく『戦争』の一派だ。そうか・・・『冠冷』の存在か。」


 「そう。彼の存在は最も邪魔なのよ。彼への対抗策が()()できなくてね。」


 それだけ話し、これ以上は対話をする必要はないという態度を見せるリディアとサン。


 未だ深い状況は掴めない。しかし、やることは単純だ。


 結界の破壊の阻止。


 背後のリディアを無視し、核に最も近いサンを排除しにかかる。風魔法によってスピードをあげるが、サンと自分の距離が一向に縮まらない。


 「いつ辿り着けるかしら。」


 その言葉でリディアの仕業と判断する。それと同時に、圧倒的な違和感。


 魔法の頂点に位置する『魔導王』。その名を冠する最大の理由は、千年間に及ぶ知識の伝達だ。

 圧倒的な魔法の知識。それを適宜に使いこなし、彼らはその地位を確立した。


 脳裏にある知識の文庫を漁る。


 しかし、()()()()()()()


 距離が縮まらないことは、つまるところ、空間の拡張だ。


 一体どうやった。


 リディアを瞬時に排除する方にプランを変更する。

 雷の遠距離魔法を使いながら彼女に近づく。


 魔法は彼女に届くが、そのどれもが彼女の持つ剣に斬られる。


 そしてリディアは剣の間合いに入っていないダスカロイに向けて剣を振るう。ダスカロイは反射的に結界を張る。


 しかし、斬撃は結界をすり抜けた。

 斬られたと錯覚する。


 だが血一粒すら流していない。それどころか、痛みすらない。


 そして気づく。今のは攻撃ではないと。


 ダスカロイの背後で、何かが崩れる音がする。それは最悪の始まり。


 「任務完了・・・」


 崩れ落ちた結晶の核。その少女を抱き抱えるサンの姿がそこにあった。


 同時に起こる惨劇を、ダスカロイは想像した。


 「これで結界は破壊されたわ。さぁ、始まるわ。」


 その直後、学校の壁が破壊される音が響き渡る。


 この結界の核を保管している場所は地下だ。それも図書館の何層も下だ。

 太陽に光すら通さない地下。


 それなのに、悲観するダスカロイを包むように、太陽に光はここに届く。


 その光を後光とし、一人の男が破壊された壁穴のそばに立っている。


 「お前は・・・」


 彼とは何度か対峙した。代々、彼とは対峙し続けた。

 900年に及ぶ、因縁。


 「『戦争』マギアだ。」




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 ダスカロイは油断していた。


 結界の破壊は今日ではあったが、約束の時間までは1時間ほど余裕があった。


 定められたゴールがあるからこそ油断したのだ。


 その時間まで、決して、結界を破られないという保証などないのだから。


 その油断は伝染し、その衝撃までも伝染する。


 学校中に響く破壊音。

 天井には映し出された星空と、その夜空には見えるはずのない太陽。


 「なんで・・・何が起こっている・・・」


 誰しもが、破られた学校の結界に驚愕し、天を見上げる。


 「ガハハハッ!!俺様の晴れ舞台だッ!!全員刮目して死んでいけやッ!!」


 大声の獣が空から舞い降り、ホールの中心に堂々と、それでいて荒々しく着地する。

 その獣が放つ咆哮に、学校中のガラスが割れ、壁にはヒビが走る。


 敵だ。


 そう認識するのが早かったのは、『戦車』ギュムズ=ナシオンと、『炎鬼』ストラトス=アンドラガシマ。

 戦場に長くいた二人の的確で瞬時な判断が、戦いの火蓋を切って落とした。


 その姿を追うように、イロアスとリア、そしてアストラが体に喝を入れる。


 警戒するべきは、天上。


 その警戒は、正解であった。敵陣に堂々と立った一人で攻め込むわけがない。必ず味方がいる。その戦場の当たり前の嗅覚を、どれだけ正確に、冷静に使えるか。


 現状、教師を除いてその嗅覚をまともに発揮させたのはこの3人であり、やや遅れてミューズ、そしてディコス王朝貴族のセイレン=スニオンが反応する。


 その僅かな生徒と、残りの教師全員が見つめる天から、3人の黒装束を筆頭に、何十人もの黒装束が降りてくる。


 「さて、教師も生徒も皆殺しよ。」


 紫の短髪の女が、宣戦布告をする。


 ホールでは、ギュムズ・ストラトスと降りてきた獣の戦いの波動が伝わる。


 学校戦争の、始まりである。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 上の衝撃はその地下にも伝わる。


 「・・・ギザか。まぁ今回は好きに暴れていいだろう。」


 『戦争』マギアは物静かに話す。だがその表情は、なんとも嬉しそうなのか。


 「サン。アルテミアをここに。」


 サンは静かにマギアの元へ、自身が抱き抱えている少女を丁寧に護送する。


 マギアはそのアルテミアと呼ぶ少女の頭を優しく撫で、にこやかに笑う。


 「ようやく会えた。900年、よく耐えた。」


 少女にはとにかく優しく、その笑顔はただの青年に見えた。


 900年、ディコス王朝に抗争を仕掛けている『厄災』には見えなかった。

 しかしそれは束の間だ。


 こちらを見る目つきが変わる。


 だが、ダスカロイはまだ平然を装っていた。

 なぜならば、彼とは何度も対峙してきたからだ。その力量はすでに把握している。


 その結果、ダスカロイは負ける未来など見えなかった。


 だが、目の前にいる『戦争』は、明らかに異常だ。



 いや、たった今異常になった。



 「何が起きたんだ〜よ。」


 「その道化のような話し方に焦りが見えるぞ、『魔導王』?」


 魔力を意気揚々と解放してみせる『戦争』マギア。その魔力量はーー


 「参ったね〜。()()ボック以上とはね。」


 「900年もの間、誤解させて悪かったな。これが本来だ。」


 闇が形をなし、剣を形どる。それは両手に与えられ、やがて無数に製造され、マギアの側を舞い始める。

 無数の剣が、ダスカロイに向かって放たれる。


 闇に対抗する属性は光だ。

 本来光属性というのは希少種であり、扱えるものは世界の中でも一握りである。


 だが、異常に陥った『戦争』にもスポットライトを当てたいが、目の前の相手もまた、世界に七人しかいない女神テディアの「権能」を与えられた『使徒』である。


 その中でも、魔法において彼の才能は抜きん出ている。


 『魔導王』ダスカロイは、光の幕を張る。それは結界のように何かを閉じ込める役割などない。


 ただ、闇を浄化する。

 闇を纏った剣の全てを浄化し、ダスカロイは一時撤退を選択する。

 サン、リディア、マギアの3人をいっぺんに相手取ることは不可能だ。


 背後に風魔法の助力も込めてダッシュする。そこにある扉に入る。


 マギアもすぐに追いかけるが、そこはただの一室であった。


 「・・・ここ、校長室です・・・」


 所在不明の校長室の場所はここであったのかと、ふと納得する。通りで滅多に来客を遣さないわけだ。


 「リディア、お前は上に上がり教師と生徒を掃討しろ。そしてリンピアにはすぐに動くように命じるんだ。サン、お前はリンピアに依頼の場所まで案内しろ。アルテミアは俺の影に落とす。」


 「主君・・・まだ詳細な場所は掴めてない・・・」


 「大丈夫だ。近くまでいけばあとは力技で見つける。よくやったサン。」


 褒められて頭を撫でられるサンは、アナトリカ王国では見ることのないとびきりの笑顔を見せる。


 「時間がない。行くぞ。」






 戦場は魔法学校フィラウティア。


 千年間もの間動かなかった西の大国の情勢が、急激に変化する。


 『戦争』か、それとも『魔導王』か。


 この戦いの勝者によって、世界は闇へ落ちるのか、平和を掴むのか、その一切を委ねられるだろう。




 「始まってしまったね、少年。君は、誰をも救うのだろう?救って見せたまえ、逆転したこの西の大国を。」


 禁忌の塔で、この戦いを予感していた魔女は、ただ本を読みながら、そう語った。




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