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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章18話 あなたは結局




 初代『魔導王』スコレー=フィラウティアによる結界の影響で、亜人は差別を受け続けるようになった。

 革命すら許されず、ディコス王朝に逆らうことすら許されない。

 身分は奴隷に落ち、およそ生きている心地はしないだろう。


 親友ミューズのためにも、自分の『英雄』願望のためにも、その心からも、亜人を必ず救わなければならない。


 亜人を救うためにはどうすればいいのだろうか。

 具体的なプランは思いつかない。しかし、絶対に邪魔なものがある。


 それは、結界だ。


 しかし、2代目『魔導王』アラクシアによってその結界は永久的なものになった。


 だが、それはあまりに人道から外れた方法であった。


 魂を二分することによる二倍の時間の蓄積。その時間のエネルギーによる永久的な結界。


 さらに、その実験対象にされたのは、『七人の厄災』が一翼である『戦争』であったのだ。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「彼らは、実験をするまでは『戦争』ではなかった。この実験の結果、『戦争』に選ばれたんだ。」


 時間のエネルギーを永久にするためには、その魂を二分したまま、片方を眠らせる必要があった。


 いや、眠らせるという言い方は正確ではない。正確には、魂の片方だけが戻ろうとする状況を作り出す必要があった。


 「そのために、この少女が眠りについた後、もう片割れを遠くに捨てる必要があった。」


 「それが今ディコス王朝を襲撃している『戦争』。この少女のもう片方の魂。」


 イロアスの中で全てが繋がった。


 記憶の中の『戦争』に対する違和感。そして、千年前のスコレーの共犯者である魂の研究者トレース=ボラデルカの存在。


 さらに、スコレーの罪悪感。


 自らが進めた魂の研究の「知識」の継承。その上で生み出された『厄災』。

 『七人の使徒』としてのあるまじき結果。


 そして何よりも、イロアスというたった一人の少年に全てを託す無責任さ。


 イロアスの中はもはやグチャグチャであった。


 亜人を救いたいというただそれだけの欲。しかし、実際に亜人を救っているのは『戦争』である。

 その忌むべき『戦争』ですら、国の玩具にされた被害者。


 だが、ディコス王朝は世界からすれば『厄災』と戦う正義の大国。


 何よりも今イロアスが辛いのは、目の前の少女一人すら救えない事実だ。


 この少女の解放は、すなわち結界の崩壊を意味する。ともあれば、ディコス王朝と亜人・『厄災』の抗争は過激を増し、間違いなく世界を揺るがす大事件になる。


 それは多くの生命の死を意味する。



 「クソッタレ・・・」



 八方塞がりもいいところだ。何よりも、スコレーがここに飛ばす瞬間に言った言葉が俺に重荷をかける。



 『君に救えなければ誰にも救えない。』



 「・・・先生、外に連れてってもらえませんか。」


 ダスカロイは、何も言わずにイロアスの肩に手を当て、転移する。

 その転移先から見る、この国が持つ残虐性の結果に、頭をかかえる。


 「・・・先生、リアとミューズを連れてきてくれませんか。」


 その数分後、ダスカロイはイロアスの指示通りに二人を連れてきた。正確には、二人の影に隠れてセアもついてきた。


 しかしそんなことは良かった。この苦悩を、誰かと分かち合いたかったのだ。誰でもいいわけじゃない。


 イロアスが信じている人と、分かち合いたかったのだ。


 「ミスター・イロアス、リディアに話はつけておくよ。3人とも夜ご飯までには帰ってきてくれ。」


 その言葉に、俺は反応しなかった。それはダスカロイに怒りを向けているわけではない。


 今は、何に怒っているかもわからないのだから。


 「すまない。」


 去り際に、そう言われた気がした。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 この残虐な光景は、『魔導王』が守ってきたのか。


 そう思うと、悔しくてたまらなかった。

 俺が目指す『英雄』に値する『使徒』が、こんなことをしているなんて。


 今日起きたことを頭で整理しながら、何度も怒りを表にだしかけ、何度もそれを抑えた。


 ダスカロイは何も口止めをしなかったが、イロアスは自分の意志でそれを自分の中で留めている。

 3人には、今回の件を何一つ言えない。


 だが、この苦しさをどうか、どうかーー。


 「みんなは、世界が正しいと思うか。」


 曖昧に、イロアスは聞く。

 3人とも、何も質問を返すことなく、冷静に考察する。


 「僕はーーー」


 ミューズが、何か話し始める。それは、目の前の光景にしばらく絶句していたからだろうか。


 恐らく、ミューズは知っていた。だが、まさかここまで残虐だとは思わなかったのだろう。だから、今彼は、拳を握り続けるのだ。


 「今目の前の世界を、間違っていると断言する。」


 そうだ。間違っているんだ。でも、


 「でも、今の僕には何もできない。それが、ひどく悔しい。」


 そう、何もできない。全てを知ったイロアスも、今、何もできないのだ。それを、必死になって考えている。みんななら、何か答えを持ってないのかと。


 「そうね、アタシ達だけじゃどうにもならないわね。なら、どうにかできる人に頼りましょうか。」


 「えぇ、この状況を打開できる、打開したいと思っている人が一人いるわよ。」


 リアとセアは、答えをすでに得ていた。


 「アタシたちの王女様ならね。」


 アナトリカ王国王女セレフィア=ロス=アナトリカ。


 彼女の有する国は亜人差別が流行している。しかし、それは決して彼女の策略ではない。


 ノートス帝国に流れ、国に牙を向く亜人達を国民が嫌っての蛮行である。それに彼女の意思はなく、また彼らも、それを彼女の意思と思ってはいない。


 彼女は亜人を救っている。実際、ロダ家に絶大な力を持たせ、その家系の周囲に亜人の住む場所を提供している。


 彼女はこの世界で少数派である、亜人との共生を目指す人である。


 「セレフィア様は幾度となくこの国との対話を出願している。しかし、この国の王がそれを一方的に跳ね返すんだ。自分たちは被害者だと。」


 千年前の世界大戦に怯えた国ディコス。それを盾に彼らは対話を拒む。そして恐らく、その歴史を承知しているセレフィアは強く出れないだろう。


 だが、


 「ロア、あなたが思い悩む理由に、あなたはきっと知ってしまったんでしょ?世界の誰もが知らない秘密に。」


 この秘密をばら撒けば、全てが丸く収まるだろうか。


 そう考えると、イロアスはひどく不安な気持ちになるのだ。ダスカロイが、その前の『魔導王』が、さらにその前の、その前の、その前のーー


 彼らが黙り続けた理由は、そこだろう。


 世界の秘密をばら撒いても、結界を今解いても、起きるのは『戦争』だ。西の大国を世界は見捨てることができるのだろうか。

 『魔導王』を断罪することはできるのだろうか。はたまた、断罪すること自体が正しいのだろうか。


 これは開けてはならない箱だったんじゃないのか。


 「・・・らしくないわね、イロアス。」


 沈黙を続けるイロアスに、冷たくそう放つリアは、その冷たさとは正反対な真紅の瞳で、真っ直ぐ見つめた。


 「あんたは、助けたいと思った人に、迷いなく手を伸ばすんでしょうが。何をうじうじしてるのさ。全部助けるのよ!一人助けて、それでまた困っている人がいたら手を伸ばす。それが、あなたでしょう?」


 リアは、イロアスのことをよくわかっている。きっと、彼はその言葉を待っていたのかもしれない。


 欲しいのは答えではない。


 「ごちゃごちゃ考えない!あんたが今助けたいのは誰!」


 スコレーは言った。


 『ただ一つの取りこぼしも許されない。』


 まるで呪いのような言葉だ。


 救うことを、義務付ける呪い。


 違う。イロアスは、違う。


 「俺はーー」


 イロアスは、義務ではない。


 「俺はミューズを助けたい。」


 義務ではない。当然なのだ。

 目の前にいるから、当然に手を伸ばす。ただ、それだけ。


 しかし、それだけをできる人間が、この世にどれだけいるだろうか。


 助けられる方すら、驚愕しているのだから。


 「僕を・・・僕なのかい・・・」


 いや、そうではない。わかっている。亜人全員を救うつもりなのだ。わかっている。


 だが、彼はーー


 ミューズは、久しく流れなかったものに再び驚く。


 「泣くなよ、ミューズ。」


 「だって、こんなに嬉しいことはないだろう。」


 初めて、ミューズ=ロダは、人間の親友を得た。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 「そろそろ、肌が冷えますよ。」


 その感動に水を刺さないように、彼女は黙って涙が止まるのを待っていた。


 「ありがとうございます。もう十分ですよ、リディアさん。」


 満足したように、イロアスはそう答えた。


 「君は、そこから見て何を思いましたか。その非人道とも言える蛮行を見て、一体何をするのですか。」


 それは、とてもディコス王朝の壁内の人物の言葉とは思えない、発言だった。


 「その『魔導王』の張った人と獣を分つ境界を、どう撤廃するのかは決まりましたか?」


 ミューズとセアは、彼女とは初対面だから、あまり何も思わなかっただろう。


 しかし、一度彼女と会っているリアは、そのような発言をする人だとは想像もしていなかったことだろう。しかし、イロアスはそれに対して、真正面からこう答えた。


 「俺は、この結界をぶち壊します。」


 満面の笑みで、イロアスはそう答えた。3人の誰の了承も得ていない。しかし、得る必要なんてない。

 彼らは、何も責めないのだから。


 そして、もう一人、満面の笑みを見せた。


 「そう、あなたみたいな子が来てくれて嬉しいわ。じゃあ、行きましょうか。」


 そして四人は、帰路に着く。

 魔法陣の上にのり、リディアに見送られながら学校に帰ってくる。


 その魔法陣の前で、一人の男は座して待っていた。


 七色の瞳がこちらに問う。どうするのか決まったのかと。


 「『魔導王』。俺はこの結界をぶち壊しますよ。そして無くしましょう、人と亜人を分つ境界なんて。あなたも見たいでしょう、みんなで輪になって踊る夜を。」


 


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