第2章13話 繰り返される1週間
5日間の授業の後は、2日間の休日があった。だが、その休日は授業で出された課題や、図書館に籠って『英雄』についての書記や亜人について調べていたため、休む事はなかった。
この休日の間にミューズが謹慎から戻ってきた。少しやつれた様子だったが、一緒に課題をやったりした。
俺は何もできなかった。だから、せめて一緒にいる間は、笑顔でいてほしい。
そしていつの日か、俺に力があれば、『英雄』になることができたのなら、亜人差別を何とかできるかもしれない。
その地位と名声で、亜人差別を訴えれば・・・そんなことを考える。
俺は、ミューズの友達で居続ける。
何があっても。
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「今日は詠唱について講義します。」
魔法は世界そのものである。それは古来から考えられてきたものであり、その世界とは創造神の祝福であると考えられてきた。
故に、古来の人は、古来と言っても何千年も前の話だが、世界に言を紡ぐという意味で、魔法の前に詠唱をすることが主流であった。
「しかし、世界への言葉を紡ぐ行為は、戦闘中では時間がかかり隙が多いという理由で使われなくなりました。その代わりに主流になったのが、短文詠唱です。」
短文詠唱は、いわば魔法の名前だけを詠唱するというものである。
「短文詠唱のメリットは、短時間で魔法を扱えることです。逆に長文詠唱のメリットは、魔法の発動に長時間かかりますが、それが時間による縛りによって威力が底上げされます。」
要は簡単な話、速さと威力のどちらを取るかだ。
「さらに、無詠唱という技術も存在します。ただ、魔法の名前すら言わないで魔法を発動させるので、威力が低下します。しかし、どんな魔法を使うのか相手がわからないというメリットも存在します。」
魔法学基礎の授業で、ギオーサが淡々と説明する。
しかし、そもそも魔法の詠唱というのは、どうやって知り得るのか。それは、いわゆる名付けという行為で魔法の詠唱を確定させる。
「魔法は本来、自由なものです。己の発想で次々と新たな魔法が誕生しています。自分で作った魔法に名前をつけることが、魔法使いが最初にやる行為です。そして、優れた魔法使いはこの時点で長文詠唱も考えます。」
自分で産んだ赤子に、名前をつけない親はいないだろう。
その魔法の名前こそが、短文詠唱と呼ばれるものである。
「魔法の長文詠唱を知らない魔法使いは大勢います。それは、名付けの時点で与えなかったか、もしくは覚えなかったか。しかし、教師としては長文詠唱は覚えておくべきだと思います。そのメリットとしてーー」
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「なるほど。水の属性も臨天魔法に加えたいと。」
「何かヒントとなる臨天魔法を知らないですか?ストラトス教授。」
「・・・一人だけ、心当たりがあるが、何度も言うように他者の臨天魔法は極秘事項だ。だが、ヒントは与えよう。まずーー」
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「千年前には精霊という種族がいました。それはーー」
「今回の実技訓練は我輩が相手になるぞ!!『戦車』と呼ばれる所以を見せてくれるわ!!かかってこい!!」
「うん・・・イロアスはすごいね・・・。波紋に関してはもう十分すぎるくらいだよ・・・。」
「アナトリカ王国にある永久凍土スクピディアには、モナクシアの名を冠する魔獣がいるのじゃ。こちらの地方では、ディコス王朝の遙か北の森にはアロスティアの名を冠する魔獣がーー」
「魔法を使うためには魔力が必要ですが、魔法の複雑さ、効能の重ね合わせ、縛りによって必要最低限の魔力量は変化します。例えばーー」
「イロアス、今日も図書館行くの?」
「あぁ、まだまだ勉強不足だからね。リアも行くか?ミューズは課題やるって言ってるぞ。」
「ほう、炎の効能の重ね合わせか。だがその効能を水に重ね合わせると蒸発するぞ。」
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魔法学校フィラウティアへの留学。その期間は半年である。
現在、4ヶ月が経過した。
「はやいなぁ。」
「あぁ、ミューズが事件起こしてからもう4ヶ月か。」
「・・・イロアスくん。シビアなとこもいじってくるんだね。」
ごめんごめんと謝ったが、実際放っておくとミューズはいつもみたいな歯を光らせるような笑顔から、考え込んだ真面目な顔をしてしまう。
少しいじって、そんなこともあったなくらいにとどめて欲しい。
「イロアス、行くわよ!」
リアがイロアスを急かす。
「ロア、今日もついていくわね。」
セアとは、仲直りした。仲直りなのか、果たしてそれはわからないが、俺とセアの歪みは時間が解決してくれた。問題自体は解決しきったかと言われるとわからない。
セアには多くの秘密がある。
それをイロアスは容認することにした。セアは確かにこう言った。
「答えられない。」
要は、言わないのではなく、言えないのだ。イロアスは、この言葉を信じることにした。
仲直りを自然とした頃、セアは歴史学の授業には必ずついてくるようになった。精霊は何かと世間知らずらしい。
そして眠そうな顔でサンがついてくる。歴史に一切の興味を示さないのに、なぜこの授業をとっているんだろうか。
13:00。歴史学。
この授業は、4ヶ月かけて千年前から現代までの大きな事件や戦争を歴史的に解説してくれる。
教授の名前はキノニア=ディマル。ニア先生と呼ばれている。
その教授の特徴は、茶髪の長い巻き髪に、茶色の瞳。丸眼鏡をかけた身長の高い大男だ。さらにおかまである。
そう、決してこんな水色の腰まで届く長い髪に、七色の瞳を持つような教授じゃない。
「ヤァ!みんな大好き『魔導王』ダスカロイだ〜よ。今日はニア先生にはお休みいただいてるの〜さ。」
初日以来の『魔導王』、いや、魔法学校校長ダスカロイ先生の授業だ。
「なんで毎回予告なしなんだろうね。」
「自分のことしか考えてないからよ。」
「間違いないわね。」
「そこ!あまりぼっくの悪口は言わないのだ!」
なんて地獄耳なのか。
「さて、本題に入ろうか。本来ならばもう少し早めに行きたかったのだが、少しゴタゴタしてしまってね。」
みんな首を傾げている。一体何を企んでいるのやら。
「さて、ディコス王朝に行こうか〜。野外実習だ〜よ。」
「・・・はい?」




