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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章11話 亜人の3日目




 カンピア=ミルメクスは、その実力を人に見せたことはない。


 親友であるフェウゴ=ヴァサニスですら、まともに戦っているところは見たことがない。


 なぜなら彼の家系ミルメクス家は、商人の家系だからである。

 アナトリカ王国中の商売は、ミルメクス家が管理する。故に、この家系がまず覚えさせるのは魔法ではなく、会計・勘定・経済である。


 魔法など二の次。それが、カンピアの生まれた家系のルールであった。


 故に、代々この家系は貴族からの推薦で騎士の座を勝ち取り、ゆくゆくは戦場に出るのではなく、騎士団の財の管理を任される地位に立つことが慣わしであった。


 もちろん、カンピア自身もそう思っていた。


 だが、入団試験で彼は思い知った。


 自分は何と無力なのだろうかと。


 それがたまらなく悔しかったのだ。だからこそ、彼はここに来るまでの1ヶ月、第3師団で懸命に修行に励んだ。誰よりも実力はないが、誰よりも真剣に臨んだ。


 現在、実技試験において、彼はその力を遺憾なく発揮した。風と土の魔法を使い、相手に全力をぶつけた。


 「勝負あり!!」


 その合図だけが、笑いをかき消した。


 「勝者はディコス王朝!!」


 ディコス王朝の貴族は、あまりにも弱いカンピアを笑い者にした。カンピアの地に沈むあまりに情けない姿を嘲笑した。


 「何がおかしいんだテメェら!!」


 イロアスが叫ぶが、それは彼らの耳には聞こえていない。聞こえているわけがない。彼らディコス王朝の貴族は、弱者を嘲笑うことで、その地位を守っているのだから。


 「無駄よイロアス。ここはそういう国だもの。だけど、それを良しと思っていない貴族もいるということを覚えておきなさい。」


 リアはそう言って、先ほどの対戦相手を見た。


 青髪のセイレン=スニオンは、何も笑っていなかった。しかしあれはまるで


 「興味がないだけだよ、リア。」


 「笑うよりもマシよ。彼女の家系を考慮すれば、アタシはあの子に対して何もいえないわ。そして、アタシがカンピアにかける言葉もないわ。」


 ギュムズが立ち上がれないカンピアをこちらに運んでくれた。イロアスはリアとの弁論を耳に残して、真っ先にカンピアの元へ駆け寄ろうとした。


 しかし、イロアスよりも先に、フェウゴが駆け寄った。


 「カ、カンピア、だ、大丈夫?」


 「おぉ、我が親友よ。すまない、貴族でありながら無様を晒してしまったのである。」


 「そ、そんなことないよ。か、かっこよかったよ。」


 「我が親友ならそういうと思ったのである。だが、すみませんリア嬢。無様を晒してしまったのである。」


 カンピアは、リアを見た。イロアスにはその誇りは理解できないだろうが、自らの身分を少しだけ、考えてしまった。


 貴族には貴族の矜持がある。そして、成り上がりの家系であるミルメクス家こそがそれを最も大切にしている。


 「悔しかったら、恥じているのなら、強くなりなさい。それ以外にこの無様を挽回する方法などないのだから。」


 その言葉は、慈悲のないようで、慈愛に満ちていた。リアは少なくとも、カンピアを笑うことはなかったのだから。


 「かける言葉はなかったんじゃないのか?」


 「・・・うるさい。」


 ディコス王朝の貴族の笑い声も聞こえなくなった頃、ギュムズが5回戦の準備を整えていた。


 「イロアスくん、行ってくるよ。」


 カンピアの試合中、一切口を開かなかったミューズが、語りかけてきた。


 ミューズとは、入団試験以来ずっと一緒にいる。大体は筋肉筋肉と言ってうるさい。いつもにこやかで、そばにいると温かい優しいいいやつ。


 そんなミューズが、黙りこくり、顔を顰める。


 嫌な予感がする。だが、イロアスは何もいうことができなかった。


 「それでは!!第5回戦を開始する!!」


 「俺様の相手は、亜人かぁ。」


 「・・・」


 ミューズの相手は、よりにもよって、廊下で喧嘩をふっかけてきたディコス王朝の貴族カケ=ドューレであった。




※※※※※※※※※※※※




 ディコス王朝の起源は、ここで語るべき話ではない。しかし、ここの国はその起源から亜人を差別している。その理由も起源に深く関わるが、それも今語るべき話ではない。


 いずれ、語るべき人から語られるだろう。


 そして、その起源も、差別される理由も、現代には伝わっていない。


 伝わってしまったのは、ただ亜人は差別されるべきであるという意思だけである。

 理由もなく、差別し続ける止まってしまった国。それがディコス王朝。


 故にこそ、この国の人間と関わることは、ミューズにとっては全てが苦痛である。


 亜人差別を世界から根絶する。ただそれだけのために亜人ミューズは全てを賭けている。そんなミューズにとって、この国は、この学校は、何とも居心地の悪い場所だろうか。


 「亜人、お前はアナトリカで生まれてよかったなぁ!」


 「・・・どういう意味だい。」


 「この国では、亜人は奴隷だ!!」


 ミューズの瞳が、暗く落ちていく。


 「だからこそ、亜人如きが、この俺様と同じ空気を吸ってることが許せない・・・頭が高いぞ亜人!」


 「僕たちにも、感情があり、意志がある。なぜ君たちは亜人を差別するんだ。」


 「おい、口を慎め亜人。誰に向かって問いを投げかけている?俺様はこの国の宰相の家系であるドューレ家だぞ!!亜人如きが口を聞いていい相手ではないわ!!」


 ミューズは、もはや言葉は不要であると、そう悟った。


 この男は、この国は、腐っている。


 ドス黒い声が、頭に響く。


 君は()()()()の人間だと。


 その声を聞いた瞬間から、配慮はもう考慮しなかった。


 ロダ家相伝の波紋を感じ取る能力は、人体の急所を正確に捉える。その力で狙ったのは、カケ=ドューレの64にも及ぶ目に見えない人体の急所、経穴であった。


 経穴とは、古来の医術に伝わる内力を巡らせるための人体にある無数の穴である。それは視認できるものではなく、深く人体構造を理解していないと探ることすらできない。


 ミューズは、相伝の力でそれを正確につくことができる。経穴を突かれたものは、力が体内を巡ることができずに、最悪命を落とす。


 その経穴を、64も突かれたのだ。


 ギュムズも止めるまで時間がかかってしまった。まさか、経穴をそこまでに正確につくことができるものが存在するとは思わなかったからだ。


 あと一歩、ギュムズが止めるのが遅れていたならば、カケ=ドューレは命を落としていたかもしれない。


 「自分が何をしているのかわかっているのか!!ミューズ=ロダ!!」


 ギュムズの問いに、ミューズは沈黙と睨みで返した。


 「そいを・・・殺せ!!ギュムズ=ナシオン!!」


 血反吐を吐きながら、自らをこんな無様な姿にしてくれた亜人を殺すように、教授に命じた。ディコス王朝において、宰相は王の次に権力を持つ。


 「まずいわね・・・国際問題になるわ。イロアス、これから起こる全てに対して我慢して。お願いだから・・・!」


 ミューズが、殺されてしまう。


 そんな状況で、イロアスが我慢できるはずもなかった。


 「待ってイロアス・・・大丈夫・・・」


 そのイロアスを止めたのは、サンの声ではない。


 その何の根拠もない大丈夫という一言で、イロアスが止まるはずもない。しかし、イロアスは止まった。


 「穏やかじゃな〜いね。ギュムズ先生、その手を離しなさい。」


 体育館の後ろから、音もなく入室した『魔導王』ダスカロイ=フィラウティアによって、騒動は収束に向かう。その言葉だけで、生徒は道を譲り、野次は沈黙に変わった。

 ギュムズもミューズを離したが、一切油断はしてはいない。


 「しかし校長。これは見過ごすことはできまい?」


 重症のカケに寄り添いながら、ヒミアが『魔導王』もとい校長に進言する。それは周囲の誰もがわかっている事態である。


 ミューズの元へ行こうにも結界がそれを阻んで何もできないアナトリカ王国の留学生も、自分たちの国の宰相の息子を深く傷つけられ憤るディコス王朝の貴族も、これが国際問題に発展することを予感している。


 「そいつを殺せ!!『魔導王』!!」


 「断るよ〜、ミスター・ドューレ。」


 「な・・・!貴様・・・俺様が誰かーー」


 「くだらない。君がどこの誰かなんてボックには関係ない。ここは魔法学校フィラウティアだ〜よ。ここにはディコス王朝の法も文化も権力もありはしない。故に君の命令に従う義理はな〜いね。」


 カケは動揺と困惑の表情を見せた。それは、今まで権力で問題をどうにかしていたカケにとって初めての経験であった。


 「さて、君の発言は随分と教育しがいがありそう〜だ。少し身の程をわきまえたまえ〜よ?」


 親の意向も届かない未知の場所で、カケ=ドューレは初めての挫折を味わう。しかしそれは、絶望では終わらず、必ず復讐をするという決意を宿らせてしまった。


 カケは魔法を使おうとしたが、何もすることはできなかった。


 「非常に正確に経穴を突かれているようだ〜ね。それじゃあ魔力を練ることもできないだろうね。」


 そして、


 「さぁ、十大貴族であるロダ家の亜人よ。君がやったことは亜人差別を助長する行為であるということは理解しているのか〜な?」


 他国の貴族に深傷を負わせたことでもなく、ダスカロイが詰めた事は、あまりにもミューズに響いた。


 激情に身を任せた者の末路はいつも一緒だ。


 「君もまた、反省が必要だ。そしてこのことはアナトリカ王国に通達する必要があ〜るのだよ。それは理解してくれたまえ。」


 「・・・はい。」


 先ほどから沈黙を重ねていたミューズの口から、状況を身にしみて理解した旨を伝える返事が発せられた。


 「カケ=ドューレ、ミューズ=ロダ。両名に3日間の外出禁止を言い渡す〜よ。だけど勘違いしないで欲しい。ここは学校だ。間違いを間違いとして認め、それを恥じ、次に活かすことが許される場所だ。君たちの行いは、これから先の人生に大きく関わるほどの過ちであった。よく、反省するといい〜さ。」


 そして、この小さくも、あまりに大きな事件は『魔導王』の介入によって幕を閉ざされた。


 親友の過ちを、見ることしかできなかった。


 イロアスは、亜人問題について、あまりにも無力である。


 ミューズがダスカロイによって連れてかれる。それすらも、黙って見ることしかできなかった。




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