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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章9話  史実の3日目




 朝は、ミューズの声で起きた。


 いつもは喧しい精霊が起こしてくれるのだが、今日はそれは叶わなかった。


 結局、昨日は無属性についてはあれ以上の記述が見られず、膨大な本を漁ったが、全てを読むことは叶わなかった。


 その最中で、セアとの間に生まれた不信が、関係に歪みを生じてしまった。


 嫌いではない。離れていって欲しいとも思わない。

 ただ、不信が生じてしまった。


 だからこそ、朝はセアではなく、ミューズが起こしてくれた。


 今日は1限からあり、1週間の中で最も忙しい日だ。魔法学に歴史学、そして実技。後半の二つの授業は、2時間続きであり、今日は一日中授業があると言っても過言ではない。


 朝7:00に、一階にある食堂でみんなで朝食を食べ、準備をし、9:00に、1日目と同じ教室で、魔法学の授業を受ける。


 魔法学基礎は、7人全員がとっている授業であり、みんなと距離を置いているアストラも参加している。


 だが、授業にちょろちょろとついてきていた精霊の姿はそこにはなかった。


 1回目は『魔導王』が教鞭をとったが、今日はギオーサが教鞭をとる。


 今日の授業もとても面白い内容である。


 その内容の濃さから、精霊のことは一旦忘れることができた。


 「今日は、効能と縛りについてやります。教科書を開いてください。」


 昨日の属性適応学で触れた効能と縛り。


 臨天魔法に結界の効果を付与することが出来るかという話で出た。


 「まずは属性が持つ効能について話しましょうか。ではその最たるものとして結界術が挙げられます。」


 結界とは、土魔法で作られる(とばり)のことである。その帳は、人の出入りを制限する効果をもつ。


 では一体なぜ、結界術は人の出入りを制限することが出来るのか。


 それには土属性の効能によるものである。


 「土属性は、大地そのものが持つ効能が反映されます。その効能の応用が結界術です。」


 曰く、大地とは、幾億の生命が住む外側と、核という内部を分断する効能を持つ。それを応用すれば、内と外を分断する結界術の完成である。


 他にも土属性の効能はあり、同じように炎・水・風・雷・光・闇にも効能が存在する。


 魔法使いは、その効能を利用して、魔法を開発し、独自の方法で戦う。


 そして、魔法の効果を高める方法は、効能だけではない。


 「魔法使いの多くは、縛りという技法を用いて戦うこともあります。それも結界術を参考にして説明しましょう。」


 結界術に備わっている効能は、属性によって異なるというのが効能だ。それが土属性であれば、一般的な出入りを拒む結界術が使える。


 では、その結界術を破ることが出来る猛者がいるとしよう。


 「そうですね、例えば、世界最強と呼ばれる『闘神』を閉じ込めるに値する通常の結界を出すことは不可能とされています。その強大さゆえに、結界が破られてしまうからです。では、どうしたらいいでしょうか。」


 そう、その解決方法こそ、縛りである。


 自ら何かの負荷を背負うことで、何かしらの恩恵を受け取る。


 具体例を挙げておこう。


 例によって、『闘神』を閉じ込めるとしよう。この世界で最強と呼ばれるに値する男を結界内に閉じ込める。


 通常の結界術では、それは叶わないとする。


 その場合、結界に縛りを付与し、結界内に閉じ込める。


 縛りの内容としては、


 「おそらくですが、世界最強を閉じ込めるには、『他の誰もが出入り可能』という縛りを設ける必要があるでしょうね。どんな縛りを設ければ実行可能なのかはやってみないとわかりません。完全に経験則でしか測れないでしょう。」


 本来の結界の意味とはかけ離れた、『闘神』以外の誰もが出入り可能とする縛り。


 『他の誰もが出入り可能』という負荷を背負うことによって、『闘神』を結界内に閉じ込めることを可能とする。


 「戦場では、属性の効能と、縛りによる強化を行なって魔法を使います。敵と相見えた際には、それらを考察して戦う必要があります。戦場では、頭の使えない未熟者から脱落していきます。まぁそれは、実技でさらに細かく指摘されるでしょう。」


 相手がどんな効能を用いているのか、縛りの内容は何かを看破できれば、戦闘は有利に働く。


 それからさらに具体例をもとにして、属性の効能と縛りについて90分学び尽くした。


 授業が終わると、2限が空いているので、早めのご飯を食べた。

 食堂で、リアとミューズと臨天魔法に縛りと効能をどう組み込むかという話で盛り上がった。




※※※※※※※※※※※※




 13:00、3階の一室。歴史学の授業である。


 イロアスはこの世界のことをあまりに知らない阿呆なので、歴史学の授業を取ることにしたのだ。イロアスも世界のことを知らないといけないと思ったので、孤児院の時とは違い、寝ないようにしようと意識している。


 この授業を受けるのは、正直イロアスくらいだろうと思った。


 ミューズもリアもカンピアもフェウゴも、十大貴族であり、幼少の頃から歴史については学んでいる。

 サンは歴史になど興味なさそうだし、アストラも貴族の出であるので必要はない。


 イロアスの初めての一人授業であると思ったのだが、


 「歴史学楽しみね。アタシ、歴史好きなのよね。」


 「・・・なんでいんの?」


 なぜか、アナトリカ王国でもトップの貴族が歴史学を学ぼうとしている。


 「いたらダメなの?」


 「そんなことありません。一緒に受けましょう。」


 リアの鋭い目つきに、思わず早口で全肯定する。否定したら怒りの雷が飛んでくる。そんな気がした。


 そして、無言を貫きながらこちらを見る女の子がもう一人。


 「サンって歴史に興味あるんだね。」


 「別に興味ない・・・」


 じゃあなぜ取ったんだ。


 話の途中から、教授と思われる大男が教室に入ってきた。


 「歴史学の授業を始めますわよ!あぁ、まずは自己紹介ですわね。私はキノニア=ディマル、気軽にニア教授、ニア先生とでも呼んでくれます?私は歴史学と属性適応学の風を担当していますわよ、よろしくあそばせ。」


 イロアスとリアは少しだけ思う。

 今日で学校に来て3日目だが、ここの教師陣は本当に個性が強い。忘れられない思い出になりそうだ。


 まさか、おかまとは。


 「さて、自己紹介も済んだので授業を始めますわよ。歴史学を取る生徒は少ないのですから、何人かいて私とても嬉しいわよ!」


 周囲を見渡すと、確かに生徒の数が少ない。なんなら、10人に満たないだろう。


 それは、この学校が完全招待制の、ディコス王朝の貴族優先の学校だからだろう。貴族には歴史学の授業は退屈すぎるし、持ち前の英才教育ですでに学んでいるのだろうから。


 さらに言えば、魔法を学びに来ているのだから、歴史学など取らないだろう。リアが言うには、ここにいるのは貴族の中でも爵位が下のものらしい。


 そしてさらにいうと、あんたのせいかもしれないな。


 「ではまず、この世界の誕生から始めましょうか。」


 そこから、まるで詩人のように、御伽噺を聞かせる母親のように、この世界の始まりを語ってくれた。




 遥か昔、それは万の時を遡る。


 この世界はたった2人の、気高く美しい女神によって創られた。


 1人は『豊穣の女神』ヘレン。女神ヘレンはこの世界に豊かな大地と数多の生命を創った。


 もう1人は『愛の女神』テディア。女神テディアはこの世界に秩序と感情と、そして魔法を与えた。


 この世界の生命は各々の進化を遂げ、やがて『人類』が知能を発達させ、進化し適応し、文明を築き支配していった。


 2人の女神は人類に興味を持ち、姿を変えて人類と共に暮らすことにした。




 「女神ヘレンは、何かを創造するのに長けていました。一方女神テディアは、理を与えるのに長けていました。この偉大な二人の女神によって、この世界は創られたのですわよ。」


 そして、ニア教授は続きを話し始める。


 「それから、二人の女神は何百年という間、姿を変え、人間と共に歩ました。しかし、その歩みは大きく異なりました。」




 女神ヘレンは、人類が大地を汚し、他の生命の尊厳を無意味に奪い、己の欲を満たすためだけに生きる獣に見えてしまった。

 そしてそれは、全ての大地と生命の母である女神ヘレンに対する冒涜であると、そう感じたのです。


 故に女神ヘレンは人類を滅ぼし、世界のリセットを計ろうとしました。


 逆に女神テディアは人類が愛を育み、信念を持ち、誰かのために自らをも犠牲にできる尊い生命だと知りました。


 故にテディアは人類と共に、これから先を生きていくことにしました。




 「2人の女神が対立するのは当然ですが、同じ世界を見ていながら、正反対の結果を導いてしまった。」


 同じ価値観を持つ人間などいない。


 少なくとも、みんなそれを理解して生きている。きっと、同じ世界でも、見てきたものがあまりに違ったのだ。


 「アタシはこの話が嫌いなのよ。だってそうでしょう?どっちも間違っていないのだから。少なくともアタシはそう思うのよ。だから、世界を滅ぼそうとする女神ヘレンを、厄災を生み出した女神ヘレンを、恨めないのよ。」


 イロアスは、その言葉に驚いた。『七人の使徒』の家系である彼女が、その価値観を持っていることに。


 そして他ならぬイロアス自身も、初めてこの話を聞いた時から女神ヘレンを不憫に思っていた。


 この話の続きはあまりにも有名だ。


 時代にして今から千年前、『魔獣大陸マギサ』と『聖界メディウム』による神話に刻まれるほどの世界大戦の勃発。

 そしてこの大戦の結末は、女神ヘレンの敗北だ。


 なんと不憫な話だろうか。


 産み落とした子に、刃を向けられ挙句封印されるなんて。


 きっと、女神ヘレンも・・・


 「その後、『預言者』サンドラは千年後に厄災の箱を開く『鍵』と、新たなる『英雄』が現れると予言しました。そしてこの現在、『七人の使徒』と『七つの厄災』が世界の均衡を保ちながら、その時を待っている・・・これが、現代にまで伝わる世界大戦のお話ですわよ。」


 考え事をしていると、ニア教授のお伽話の時間は終わっていた。


 「さて、この『七人の使徒』と『七つの厄災』について具体的に掘り下げていきましょうか。」


 『七人の使徒』とは、聖界メディウムに集った七人の強者であり、女神テディアから権能を授かった者たちの総称である。


 東の大国アナトリカ王国に『聖女』、『灼熱』

 西の大国ディコス王朝に『魔導王』

 北東の王権領域ガスパールに『賢王』

 中央の世界調停機関メディウムに『正義』、『闘神』、『観測者』


 現在、『正義』の指揮の元、『七つの厄災』と戦っている。



 『七つの厄災』とは、女神ヘレンが残した『厄災』に魅入られた七人の生命の総称である。


 南の大国ノートス帝国を統べる『渇望』

 西の大国ディコス王朝に迫る『戦争』

 北の大国魔宗教国ヴォリオスに座す『原罪』

 冥界に居るとされる『運命』


 そして、現在に至るまで居場所が不明な『疫病』、『災害』、『孤独』


 「居場所がわかってない?」


 「えぇ。『疫病』は千年前から、『災害』と『孤独』は800年前にアナトリカ王国を襲ってから一切姿を現さないのよ。」


 「じゃあ実質今は7対4で均衡を保ってるのか?」


 「いいえ、6対4よ。王権領域ガスパールの『賢王』は一切を見過ごし静観を決めこんでいるわ。」


 「なんでだよ!!」


 驚きで大きな声を出してしまい、「あら、元気がいいわね」とニア教授に恐ろしく笑顔で言われた。ごめんなさい。


 「なんでなんだ、リア。」


 再び懲りずに小さな声で話を続ける。リアは少しため息をこぼしながら応答してくれている。


 「さぁ、そこまではわからないわ。」


 「それを抜いたとして、6対4で優勢を取れているわけじゃない今の状況はまずくないか?」


 「そうでもないわ。ほら、今その説明が入るわよ。」


 ニア教授もリアと同じ説明をし、イロアスと同じ疑問を抱いた。


 「現状、『使徒』側が6、『厄災』側が4で力が拮抗していると思うでしょう。ここに所在不明の『疫病』、『災害』、『孤独』が加われば、均衡は間違いなくくずれるでしょうか?」


 崩れる。そう答えるのは、世界を知らないものの答えだと言わんばかりの問いかけであった。


 「答えは、否ですわよ!現状、ノートス帝国とアナトリカ王国、魔宗教国ヴォリオスと世界調停機関メディウムが、それぞれ『使徒』側が余力を持って戦っています。それは、いつどこから現れるかわからない『厄災』を警戒しての行動です。特に『運命』は神出鬼没です、警戒は最大限にしているのですわよ。そして、ディコス王朝は、『戦争』を制御し切っていると言っても過言ではありません。現状はこちらが優勢と言えるのですわよ!」


 そうすれば、単純な疑問だ。もっと攻め込んでもいいのではないかと思ってしまう。いくら警戒しなくてはいけないとしても、戦いに勝ってしまえば、その後でも十分警戒すればいい。


 現に800年以上もの間姿を隠しているのならば、今現れる確率は少ないのではないか?


 そう考えるのが普通だ。


 ニア教授はその考えも見通していた。とても嬉しそうに自弁を語っている。


 「しかし!!それでも攻め込めばいいと考える人もいるでしょう。確かに、勝てばそれは最高の状態を作り出せます。しかし、こちらも攻め手に欠けるのです。『厄災』の陣営にいる『魔王』があまりにも厄介なのです。」


 その名は、何度も聞いたことがある。


 すでに2度、逢瀬を繰り返した。

 だが、2度会っても、姿は記憶に残らず、その紺碧の眼しか覚えていない。


 「全ての魔獣の王、『魔王』。その存在は千年前から確認され、その姿は紺碧の眼しか記憶に残さない。しかしその名は云われ伝わっている。曰く、『魔王』サタナ=クシファと。」


 「サタナ=クシファ・・・」


 イロアスは思わずその名を口にした。


 幾度となくイロアスを苦しめた、記憶にも残らぬ姿を持つ獣。


 今日、ようやくその名を知ることができた。たとえ知ることができたのは名だけでも、イロアスにとっては大きな成長だった。


 「ですが、こちらにも大きすぎる戦力があります。ディコス王朝の『大将軍』エナリオスや、アナトリカ王国の『冠冷』エルドーラは『使徒』に匹敵する力を持っています。」


 『大将軍』は知らないが、『冠冷』エルドーラは騎士団の副団長だ。『魔導王』曰く、最強の名をもらってもおかしくはないというほどの実力者。


 「そして、これが最も大切なことです。よく聞いてください。」


 ニア教授の顔つきが変わり、教室に緊張感が走る。


 「現在、サンドラの予言した千年後に当たります。アナトリカ王国に降ってきた『光』然り、必ず遠くないうちに大きく世界は動くでしょう。その時、あなたたちの力が必要なのですわよ。」


 その言葉が、火付になった人もいるだろう。


 しかし、すでにそれを予感しているものも居るということを、忘れてはならない。




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