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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章7話  進化の2日目




 男子寮での、ミューズとアストラの大喧嘩。その喧嘩で1日目の夜を終え、スタートダッシュはあまりいいものとは言えなかった。


 そして、女子寮でも変化は起きていた。


 「おはよう。」


 「おはよう・・・」


 なんと、リアとサンが一緒にいたのだ。そして、サンがイロアスたちに挨拶をしたのだ。


 これは、いったい何が起きているのだろうか。


 「みんな、今日の属性適応学は、何限なのかしら。」


 「サンは水だから・・・2限・・・」


 さらに、サンが自ら授業を公開してくれたのだ。


 「夢でも見てるのか?ミューズ。」


 「僕とは大違いだね。」


 昨晩、アストラと大喧嘩をし、事実上追い出すことになったミューズとは一転し、愛想の悪かったサンが友好的に話してくれている。


 リア嬢はすごいと、表面上では口に出しても、内心では悔しいだろう。


 イロアスは配慮が足りていなかった言葉を少しだけ、後悔した。


 「私は、風と土を受けるのである!3限と5限であるな。」


 「ボ、ボクは、2限と7限を受けます。」


 「僕は水だから2限だよ。イロアスくんは炎と水だから1限と2限かな?」


 「そう、アタシも1限よ。イロアス、ついてきなさい。」


 一緒に行こうとは言えないのかこの女は。そう思いながら、定刻になる前に二人は移動し始めた。




※※※※※※※※※※※※




 属性適応学は、地下一階にある体育館を使う。しかし、あまりに予想に反した体育館であった。


 「すげぇ・・・」


 思わず、感嘆する。体育館とは名前だけで、実際は天井には空が映り、地面は山岳地帯のそれだった。


 「ここ、地下よね・・・」


 リアですら感嘆する。それほどまでの、大魔法。一体どうやって・・・


 「静粛に。」


 黒いマントを羽織った背が高い男性教師が、ドアを開けて入ってきた。


 「我輩はストラトス=アンドラガシマ。この授業と、昨日の軍用訓練を受け持っている。炎魔法について説明する。席につけ。」


 その言葉と共に、ストラトス教授は土魔法で椅子を作った。


 「炎魔法とは、五大元素最強の攻撃力を誇る魔法。全てを灼き、全てを破壊する。故に君たちは扱えるようにならねばならぬ、その強大な力を。」


 ストラトス教授は、手の上で炎を生み出し、地面から延びている岩石にそれを放つ。そしてその岩石は砕け散り、地面は燃え続ける。


 「属性魔法の云々については魔法学で学びたまえ。では、この授業について説明する。」


 その厳粛な姿勢と、焼き殺すかのような瞳で、その場にいる生徒を黙らせる。


 「この授業、というより他を含む属性適応学はある一つのことを追求する。」


 ある一つのこと。それは何か、イロアスには理解できなかったが、リアはそれを察しているような様子だった。


 「必殺技・・・魔法学においては、『臨天魔法』という。」


 臨天魔法。それは、天に達した魔法という意味である。


 「世界の強者は必ず自分だけの『臨天魔法』を持っている。君たちには半年でその領域に立ってもらえたら良いが、恐らくそれは不可能だ。何故なら君たちは経験も浅く魔力も低い未熟者だ。臨天魔法は一朝一夕のものではない、未熟者が手を出して良いものではない。故に、この授業ではその漠然としたイメージを掴むための授業を行う。」


 世界の強者が必ず持つ臨天魔法。その言葉に、イロアスが魅力を感じないわけがなかった。目を輝かせ、さらに魔法に対しての姿勢が変わる。


 その姿勢を見て、セアはにこやかに笑う。


 7年前の、魔法を恨んでいたあの時のイロアスとは全く違う。そう思うと、セアは感動するのだ。


 大きくなったものだなと。


 「まず臨天魔法について厳粛に説明する。それは、自分だけの、または家系が引き継いできた秘伝の奥義のことだ。その者、その家系の究極魔法、最強の魔法と言い換えてもいいが、これはただの魔法ではない。」


 イロアスは単に超強い魔法として捉えていたが、この臨天魔法は、そんな安いものではない。


 「臨天魔法は、魔法を進化させた魔法とでもいったほうがわかりやすいだろう。魔力炉を最大に加速させ、膨大な魔力を生み出し、通常の魔法の数倍の威力で発せられる大魔法だ。」


 ストラトス教授の説明は、普通は通常通りに動いている魔力炉を無理矢理にでも加速させ、魔力を膨大に生み出し、大魔法を放つというものだ。しかし、それは・・・


 「だが、臨天魔法はその強力さを求めるが故に多大なる魔力を消費し、デメリットとして最大に加速させた魔力炉が数秒機能しなくなる。それはつまり、魔力を数十秒間生み出すことが叶わないということだ。戦場において、その数十秒は命取りになり、死に直結する。しかし、それを覆すほどの最大のメリットが存在する。」


 厳粛に生徒がストラトス教授の話を聞く。そのメリットがなければ、ただの博打にすぎない。


 「臨天魔法は、必ず当たる。必中の魔法である。」


 イロアスは、急に原理がわからなくなった。一体どういうことなのか、早く説明を求むと言わんばかりの瞳で教授を見つめた。


 「臨天魔法は、大魔法に必中の効果を付けることで完成する。死に直結する程のリスクから生まれる代償として、必中効果を付与することができる。それが『臨天魔法』だ。」


 数十秒の間魔法が使えないことのリスクによる縛り。それによって必中の効果が付与される。


 リスク伴わずして、褒美を得ることは叶わない。


 それが『臨天魔法』。


 「家系によってはすでに臨天魔法のヒントや修行を行っている者もいるだろう。その者はすぐに修行に取り掛かるといい。魔力の乱れ、次のステージに足りないもののヒントは与えよう。」


 何人かの生徒が立ち上がり、各々散って修行に入り始めた。服装から察するに、ディコス王朝の貴族と見ていいだろう。さすがは家系の力だ。


 「またね、イロアス。」


 そういって、リアは立ち上がった。リアも名家プラグマの家系だ。


 つまり、彼女は家系の臨天魔法が存在する。


 そして、イロアスたちのような、家系に受け継いできた臨天魔法がない者もいる。その者たちは、まず魔力総量と魔力出力を上げる修行から始める。


 その修行の最中で、どんな臨天魔法にするのかを想像する。


 だけど、


 「見たことないから想像もつかないなぁ。ただ炎を形にして、馬鹿みたいに魔力込めるのもなんか違う気がする。」


 臨天魔法への想像は止まらないが、どうもしっくりこない。それはただの大きな魔法に過ぎないのではないかと疑問が生じてならない。


 「教授、臨天魔法を見せてくれませんか。」


 ダメ元で頼む。


 「我輩のもそうだが、危機的状況でなければ使わん。奥義を見せろだなんて愚の骨頂だ。」


 奥の手を見せてくださいなんて流石に通じなかった。


 「だが、見なくては想定もつかぬというのには、同情の余地がある。我輩が過去に見てきた臨天魔法の概要だけなら話してやろう。」


 「ありがとうございます!」


 「我輩が見てきたものの多くは、必中効果に加え、何かしらの効果が付与されているものだ。例えば、炎魔法で言えば、空気のみを熱す効果で熱気によって呼吸器官を燃やすもの、地形効果を加え火山を生み出すもの、炎を凝縮・加熱することによる炎の剣を作り出すもの、その効果は様々だが、最も多く付与される効果がある。」


 「それはなんですか。」


 「結界の効果だ。範囲を限定することにより、その威力を増す。」


 「結界って誰にでも使えるんですか?」


 「不可能だ、基本的には土の属性が必要だが、擬似的な結界は作れる。」


 そういうと、ストラトス教授は手を前にし、魔力を込める。


 そして放出された魔力は、炎の編みかけのような見事な結界を作り出した。


 「この結界には、結界術特有の出入りを禁ずる効果はない。だが、」


 ストラトス教授は再び魔力を込めると、その結界内で大爆発を起こした。その爆風だけが周囲の生徒に届く。しかし、その爆炎は結界の内側に留まった。


 「炎属性を吸収する効果を付与できる。このような結界をそれぞれの属性でも作れる。」


 「すげぇ・・・」


 イロアスはただ感嘆した。ストラトス教授も、アナトリカ王国騎士団の師団長に匹敵する力を持っているだろう。それほどの力を感じた。繊細な魔力コントロールに、効果の付与、自分の知らない魔法の世界。


 そのどれもに、イロアスは感動しているのだ。


 「なぜ効果が付与できるのか、そもそも効果とは何か、縛りとは何か、それは魔法学で学ぶといい。この授業では自分だけの、家系だけの臨天魔法の習得に全てを使う。あとは時間まで各々の修行せよ。机間巡視している我輩に質問があるのならば呼び止めよ。以上だ、散りなさい。」


 そして、90分の炎の属性適応学の授業は終わった。


 イロアスはただ魔力を高めるだけに時間を使った。教授にヒントをもらいながら、魔力を練り続けた。


 自分の魔力の底が見えた気がする。この感覚を大事にしたい。


 そして確信する。この学校を卒業する頃には、自分の力はどれほどまでに成長しているのかを。


 「どうかしら、イロアス。何か想像はついた?」


 「なぁ、リアの臨天魔法は家系のだろ?やっぱり秘密?」


 「秘密じゃないわ、恐らく戦場で歴代のプラグマの当主たちが披露しちゃってるもの。だけど、うちの家系の臨天魔法は特殊よ?」


 「特殊かぁ、かっこいいよなぁ。俺も誰にも真似できないくらいのやつにしたいなぁ。」


 「属性を混ぜればいいじゃない。あんた水も使えるんだから。」


 「混ぜる?」


 「2種類の属性を両方使うのよ。そーゆー人、結構いるらしいわよ。その属性を持ってないといけないから、簡単に真似することはできない。」


 なるほど、その手もあるのか。


 「じゃあアタシ行くわね、またねイロアス。」


 そういって手を振り合い、リアは体育館から出ていった。


 それにしても、だいぶ話しかけてくれるようになったな、リアのやつ。


 その後、10:40に水の属性適応学が始まった。場所は同じだったので、授業が終わった後もイロアスは体育館にいた。


 少し魔力を回復させようと横たわっていた。


 「大丈夫かい?イロアスくん。」


 楽しくて仕方がない。魔法を知るということは、こんなにも楽しいことなのか。


 「最高だよ、ミューズ。」


 ミューズも、イロアスの笑みを見て笑う。遅れてサンとフェウゴが到着し、水属性を持つ4人が揃う。


 水の属性適応学の担当は、魔法薬学も担当しているエピス先生だった。


 水魔法とは、風魔法と共に、最も応用が効く魔法である。


 ロダ家相伝の波紋を捉える力がその最たる例である。しかし、ミューズはともかくイロアスはその原理を知らない。


 この時間も同じく臨天魔法のための時間であったが、イロアスはその原理の解明に努めた。


 まずは己を知ることといえば聞こえがいいが、ただ水属性についての知識がなかっただけだ。それを体で確かめる。


 波を感じ取る。それだけに魔力を集中させる。


 何分間も、波長だけに魔力を注ぎ続けた。


 その最中、自分も波を常に発していることを自覚する。それが、水属性の特性であることに気づく。


 人間は、常に波を発生させている。それは人間の体のおよそ60%が水でできているからであり、動作をするたびに波が揺れて波紋が広がる。


 イロアスやミューズは、その波紋をキャッチし、その波源を探ることで、位置を特定することができる。


 それが、入団試験の事件の際、ミストフォロウの瞬間転移に反応できた要因である。


 また、人単体に注目すれば、筋肉の起こす波から、どの動作が繰り広げられるのか、どこに注視しているのかを予測できる。


 それが攻撃を的確に交わす方法であり、ミューズの攻撃が躱しにくかった最たる要因である。


 永久凍土スクピディアでの事件の際には、これを感覚的に行っていたイロアスであったが、今になってその仕組みを知るために、波を捉える修行を始めた。それがやがて、臨天魔法にもつながると信じているのだ。


 リアの言葉をヒントに、水属性の力もなんとかして臨天魔法に組み込みたくなってしまったのだ。


 その修行の最中で、自分も波を発生させていることに気づく。その波を可能な限り小さくする。特に意味はないが、ただそれをやってみたかっただけという些細な理由。


 その些細な理由から生じた数分間で、大きな波を感知する。


 「何してるの・・・」


 その波の正体は、サンだった。だが、サンにしては困惑した、驚きの表情を浮かべていた。


 「いや、ただ波を小さくしてみただけだけど、わかる?」


 「わかる・・・急に感知できなくなってびっくりした・・・だけ・・・」


 「やっぱりこの波はみんな使えてんのかなぁ、俺だけの臨天魔法に使えそうなんだけどなぁ。」


 「みんな使えるとは限らない・・・現にみんな気づいてない・・・」


 周囲を見渡すと、ミューズもフェウゴも気づかずに自分の修行に集中している。他の生徒もその限りであった。


 「みんな波が見えてない・・・?」


 「サンの知り合いの水属性は波なんて見えないって言ってた・・・」


 そうか、同じ属性でもできるできないがあるのか。もう少し属性について理解したい。そう思った。


 「それよりもサン、なんでみんなと話してもいいと思ったんだ?」


 「別にみんなじゃない・・・リアがイロアスならって・・・あなたには家名がないから・・・」


 確かに、イロアスとサン以外には家名が存在する。逆に二人にはそれがない。


 リアはきっと、似たような境遇だから仲良くできるとでも言いたかったんだろう。


 「これからもよろしくな、サン。」


 「・・・」


 サンは無言で、少しだけ笑って返してくれた。




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