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誰もが愛を求めている  作者: 天邪鬼(あまじゃき)
第2章  魔法学校フィラウティア
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第2章6話  不和の1日目


 『権能』


 それは、女神が個人に対して直接与えた能力。


 千年前に女神テディアによって『七人の使徒』に与えられ、女神ヘレンによって『七つの厄災』に与えられている。


 「現在判明しているだけで、14の権能があります。そのうち一つは、『七人の使徒』であり、魔法学校フィラウティアの校長でもある『魔導王』が持っています。」


 だったらこっちの方を担当しろよ、ギオーサ教授がそう小さくぼやいたのをイロアスは聞き逃さなかったが、聞き流した。怖かったから。


 「この『権能』というものは、受け継ぐことも可能です。現に『魔導王』は代々その力を受け継いでいます。遠い国では、あなた方留学生の母国であるアナトリカ王国の『灼熱』や、調停機関の『闘神』もまた、その力を受け継いでいます。」


 しかし、その力の詳細は秘匿されているらしく、リアの家系である『灼熱』はその力を後継者にしか話さないようだ。


 「この権能と呼ばれる力は、魔法とは全く異なります。初代が手がけているこの教科書には、『魔導王』の権能について紹介されています。この世界で公開されている『権能』はこれだけです。とても貴重な資料なので、一言一句覚えることを推奨します。」


 イロアスはそのページを読んだ。そこにはこう書かれていた。



 『魔導王』の権能は、公開しても相手が対応する策などないので、ここに記す。


 その権能の名は、『知識の保管』である。


 今までに情報として脳に蓄えたものは、永久に忘れることはなく、その知識を書籍として具現化することができる。


 また、前任者の蓄えた知識は、後任に受け継ぐことができる。つまり、後に継げば継ぐほど、知識の量は膨大になり、その力は大きくなると予想される。


 生命が蓄えることができる知識量には限界があるとされているが、この『権能』はそれを無視する。



 「『魔導王』は代々受け継がれる知識を基に、多種多様な魔法を扱うことができます。故に、この国は900年もの間、厄災の一翼である『戦争』の攻撃を防ぎ切っているのです。」


 『戦争』。イロアスが初めて聞く厄災の一翼の異名。


 「教授、質問があります。」


 リアが質問をするために手を挙げ、声を出した。その声に反応し、ギオーサが発言を許可する。


 「900年もの間戦っているのに、『戦争』の権能はわからないのですか。」


 ギオーサが少し悩んだ後に、その質問に答えることにした。


 それは、あまりに的確な質問であったが、他国の者に身勝手に情報を与えるのはいかがなものかと悩んだ。さらに言えば、この教室にはディコス王朝の貴族が授業を受けている。


 あまり身勝手なことはできないだろう。しかし、ギオーサは質問に答える。


 それは、この学校が、ほとんど独立したものであるからだ。ディコス王朝に怯える必要などない。


 「あなたが『灼熱』の家系であるが故に、この質問に答えましょう。答えは、不明です。」


 「900年もの間、一切『権能』を使ってないのですか。」


 「確認はされていないのです。私たちの見解では、『権能』を使わないのではなく、使えないというものです。今のところ『戦争』はただの魔力が高いだけで、恐らく『七つの厄災』で最も非力です。王朝を覆っている結界に900年阻まれています。」


 使わないのではなく、使えない。その言葉が妙に引っかかる。その同じ疑問を発したリアが再び声を出す。


 「なら、なぜ900年もの間王朝は討伐しないのですか?」


 「それは簡単です。最強と呼ばれる厄災である『原罪』が手を貸しているからです。しかし『原罪』は調停機関が相手取っているため、簡単に死なないように守っているといったところでしょうか。」


 「しかし、『戦争』がそのような状態ならば、攻め込むこともできたのではないですか?」


 「それは早計です、プラグマ。未知数の『厄災』がどう動くのかわからない以上、我々は勝手には動けないのです。」


 他にもいる『厄災』について、イロアスは詳しい事情を知らない。知っているのは、ノートス帝国が『厄災』によって支配されていることくらいであり、他の情報を知らない。


 「さて、これ以上は授業には関係ありませんね。」


 そう言ったギオーサは話を切り上げ、『権能』の説明を一通り終えるまで授業を続けた。


 リアはもう少し情報をもらいたそうだったが、とりあえずは沈黙した。セアも興味津々で聞いていたが、質問したくても認識阻害で姿が見えないため、ぐぬぬという声をあげて座っていた。


 そして、魔法学応用の授業は終わった。




◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆




 16:20。


 「ようこそ、わたちの魔法薬学の授業へ!歓迎ちますよ!」


 よちよち言葉を話すハゲた小さいおじさん。まさか、小人族か・・・!


 「あれはただのハゲた小さいおじさんよ・・・イロアス。」


 この老人は、エピス=ピュロン先生。薬草学のエキスパートで、何十もの論文を手掛け、その業界では知らぬ人はいないらしい。


 「魔法薬学を学んで損ちたなんてことはさせませんよ!」


 その意気込み通り、エピス先生の授業はとても楽しいものだった。


 この魔法薬学の授業は、屋上で行われている。


 屋上には、何種類もの植物がウニョウニョとしており、全てエピス先生が育てているそうだ。その植物から、貴重な薬を作り出すと言う授業。


 しかし、みんなの思っている植物とは違う。


 ウニョウニョしている。これは、当てはまる言葉がこれしかないから言っただけだ。


 「活きが良すぎないかしら・・・?」


 セアがそう言うのも無理はない。あまりにも活発に動きすぎている。


 あ、カンピアが植物のつたに捕まって宙を舞っている。かわいそうに。


 「わたちの植物は元気じゃろ!さぁ、今回作る中級ポーチョンの材料にはその元気な植物の葉っぱが必要じゃ!植物を傷つけないように取るんじゃぞ!もし傷つけたら、わたち、許さんからな?」


 最後の声のトーンが明らかに下がったのを聞いて、みんな慎重になった。ガチで殺される。


 「下級ポーチョンの作り方は教科書に書いてあるからの!君たちレベルには中級から教えるのが良さそうと思ってのう!」


 さっきからポーションのことをポーチョンっていうのをやめてほしい。


 そう言えば、ポーションとは、要は傷薬のことだ。さっきミューズが教えてくれた。いつもありがとう。


 そして、決して傷つけてはいけないという果てしない戦闘を終え、教科書を見ながら中級ポーションを作った。


 カンピアはずっと宙に舞っている。かわいそうに。


 そしてカンピアを先生に任せて、イロアスたちは寮への帰路についた。


 フェウゴは、その後にある軍用訓練という授業に参加するため、帰路を別れた。カンピアもその授業を受ける予定らしいが、宙を舞っているので遅刻するだろうから先に行くみたいだ。


 イロアス、セア、ミューズ、リアの四人は、寮へと着くと、先客がいた。


 「・・・」


 イロアスたちよりも先に、サンが寮の談話室にいたが、すぐに女子寮へと入っていった。先客は挨拶をすることもなく消えていった。


 それを気にする間もなく、イロアスたちは談話室で横になる。


 「楽しいな、ミューズ。」


 「うん、とても楽しい。」


 「・・・」


 疲れてはいるが、1ヶ月間あの『青鬼』エナ=アソオス団長にしごかれたおかげで、まぁまぁの体力がついたようだ。


 リアは全く息切れもせずに、女子寮の扉を見つめていた。お疲れの一言もなしにさっさと姿を消したサンが気に食わないようだ。


 リアが仲良くしたいなんて思っているとは、全く思えないが、心情に変化でもあったのだろうか。


 その後、もう授業がない3人は、男子寮女子寮に分かれて過ごした。


 女子寮では何が起こっているかは知らないが、男子寮では、とある事件が起きてしまった。それは、今日1日の様子を見ても、予想できるものであった。


 予想できるものであったが、考えたくはなかった。


 「今、何といったんだ。アストラ=プロドシア。」


 「あぁ?聞こえなかったのか?そんな大層な獣の耳でも聞こえねぇのか?」


 今まで見たことない形相で、アストラを睨むミューズ。それを嘲笑うかのように煽るアストラ。


 ミューズがこんな顔をするなんて、考えたくもなかったのだ。


 「家柄もない孤児にようやく縋って、プラグマとつるんで良い顔するようになったじゃねぇか。」


 「僕を馬鹿にするのは構わないが、イロアスくんとリア嬢を馬鹿にすることは許さないぞ。」


 「オレァと一緒で、誰も信用していなかった孤高の亜人が、よくそんな言葉が出てくるようになったじゃねぇか。その気味の悪ぃ輪を、俺に強要すんなって言ったのが、本当に聞こえなかったのかよ。」


 発端は、カンピアとフェウゴが寮に戻った21:10。


 その後、同じ授業を受けていたと思われるアストラに、カンピアが次から一緒に授業を受けようと声を掛けた。それをアストラがくだらないと一蹴。


 おこぼれに預かっただけの成金貴族だとカンピアを馬鹿にし、その後今日の廊下での喧嘩の続きをするかのようにミューズに喧嘩を売る。


 そして、何も言えなかったリアとミューズを馬鹿にし、イロアス含め、程度の低い連中だと馬鹿にする。そんな奴と一緒にされたくないと。


 そこに、堪忍袋の緒が切れたミューズが、言い返したという流れだ。流れだけで見れば、アストラが最悪な態度で話を乱していると言えるだろう。


 「そこまでオレァに言えるのに、あの時何も言えなかったのは他国の貴族様に媚び諂うためか?あぁ?」


 「亜人嫌いのリア嬢が、僕を気遣ってくれたのを知ったからだ。僕があそこで騒ぐだけで、ディコス王朝では国際問題になりかねない。それを察したリア嬢が、僕を庇ってくれたんだ。」


 「けっ。名家に庇われてさぞ嬉しいだろうな、亜人風情が。」


 「亜人だからなんだ。君に何か迷惑をかけているのか。」


 「そりゃ大層かけてるに決まってんだろうが。テメェら亜人がどれだけ帝国に流れて、アナトリカを脅かし続けてると思ってやがる。」


 「それをいうなら君もだろう、裏切りの家系のプロドシア。」


 「俺は裏切っちゃいねぇ!あの魔女と一緒にするなぁ!!」


 「僕も裏切ってなどいない!自分のことだけを棚に上げるな!」


 「テメェとは覚悟がちげぇ!裏切り者を殺す覚悟がねぇなら、温室に引っ込んでろ!他人を信用して、どうやって裏切り者を殺す覚悟ができんだぁ!あぁ!」


 「僕は他の亜人を裏切り者とか殺したいとかだなんて思ってない!ただ差別をなくしたいだけだ!」


 「それが夢物語だって気づかねぇのか!?そんな甘ったれた考えで、亜人のテメェに何ができんだよ!」


 イロアスは、前に入団試験でアストラの家系の話を聞いた。アストラの姉が、国を裏切り、帝国についたと。そうか、アストラは、実の姉を殺して汚点を払いたいのだ。


 それに対してミューズは、亜人を世に認めてもらうために、亜人差別をなくすために動いている。


 この2人は、あまりにも目的が違い、一見互いの目的になんら接点はない。だが、亜人差別とノートス帝国は因縁が深い。


 「オレァ、あの魔女を殺すためなら何でもする。国も人も、利用できるものは何でもする。オレァ、他人を信用しない。テメェも、そうだっただろうが。」


 「僕は変わった。確かにこの前まで、僕は人を信用できなかったし、しなくても良いと思っていた。だが、他人を信用できないものに、僕の目的は成し得ないと知った。亜人を人に認めてもらうのに、僕が人を信用しないなど、あまりに大きな矛盾であると悟ったんだ。」


 その睨み合いは終わりを告げ、夜が明ける。


 男子寮の大喧嘩は、アストラとミューズの絶縁で収束した。




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