第2章2話 裏の意図
1か月仕事をするとしよう。
あなたは休みをいくら欲しいだろうか。
週休2日欲しいというのは、労働者の当然の権利だと思う。だが、仕事が好きなら、休めないほどの仕事量を抱えているのならば、せめて1週間に1回は休みが欲しいところだろう。
・・・団長、1か月、休みなかったんですけど、全身が悲鳴をあげているんですけど。
そんな、最悪なコンディションで、イロアスは王都の正門に集合させられていた。
「だ、大丈夫ですか?」
疲労困憊のイロアス、ミューズ、リアを見て、気の毒そうにフェウゴ=ヴァサニスが話しかけてくれた。
「余計な心配であるぞ、我が親友よ。我らも相当しごかれたのだ。このくらいで悲鳴を上げるなどもってのほかである。」
その心配を余計だと言うカンピア=ミルメクスが声を荒げる。
「で、でも・・・第2師団って、地獄って言われてるんだよ。ボ、ボクたちの先輩が言ってた。」
どうりでキツイはずだ。あの団長、手加減とか知らないもんな。
フェウゴとカンピアは第3師団に所属していた。そして、アストラとサンは第1師団に所属している。
聞けば、それぞれの師団には特色があるらしい。
第1師団は、シロギ=アスティーノが団長を務める部隊。文武両道を掲げる部隊で、バランスメイカーとも呼ばれる部隊。
第3師団は、フレスビューテ=マイムーが団長を務める部隊。ここは貴族出身が多く在籍するが、フレスビューテがうまく気を回し部隊として成立させている。そこでは爵位など関係ないらしい。
なぜならば、他ならぬフレスビューテこそ、アナトリカ王国十大貴族が一つであるためだ。他の貴族も、十大貴族には逆らえないらしい。
そして、我らがエナ=アソオスが団長を務める第2師団。ここは、特攻隊とも呼べる王国内で最高の攻撃力を誇る部隊である。
・・・だからこんなにキツかったのか、鍛錬。
久しぶりの再会に、会話が弾む同期7人中5人。サンとアストラは会話に混ざるつもりはないらしい。
そして約束の時刻になった時、2人の男女が現れた。
「時間だ。静粛にせよ。」
その言葉に、態度の悪いアストラと、無愛想なサンがしっかりと姿勢を正した。
なるほど、そこも地獄だったのね。この人が怖かったのか。
その厳粛な声を発したのは、第1師団団長シロギ=アスティーノであった。
確かに、この話し方からして、かなり厳しい人なんだろうと思った。
そう思っていたが、どうにも2人の様子が変だ。何か違うものにビビっているような。
「今回は国を跨ぐため、法を司る俺の家系アスティーノが入国までの引率を行う。何か問題が起きたら国際問題であることを自覚し、厳粛にせよ。以上だ、付いてこい。」
端的に話す人だが、そこまで怖いわけではない。
・・・この人はね。
「・・・返事は?」
「「はい。」」
後ろの女性が返事を誘導させた瞬間、アストラとサンの二人は即座に返事をした。
「・・・他の新団員は、高貴なるシロギ団長の言葉に返事をしないのかしら。」
「「「「「はい!」」」」」
「よろしい。」
この人か、恐怖の対象は。思わず5人全員が一切の躊躇いもなく返事をした。リアでさえ。
「ソラクト、他の団員をあんまり虐めてあげるな。俺の団員が厳粛にしていれば良い。他所は他所のルールがある。」
「はい、了解致しました。」
ベージュの髪を一本にまとめ上げているこの女性、ソラクト=ナウスマクラーは、女の怖さをひしひしと感じる。
背筋が凍るよ。リアより怖い。
「よっと、間に合ったわ!」
背筋に悪寒を感じていた俺の肩に小さな女の子が空から落ちてふわっと着地する。
精霊セアが、遅れて登場してきた。
「どこ行ってたんだ?セア。」
「なんだかんだ言って、王都にも1か月半くらいしかいなかったから、最後にちょっと色々見てきたのよ。」
確かに、王都にいた期間はあまりに短い。
1か月半しかここには滞在していない。なんて短い期間だろうか。だけど、もう新しい『使徒』に出会えて、学びたかった魔法について、最高の環境で学べる。
良いこと尽くしだ、そう思える。
そんな楽しそうなイロアスの顔を見て、セアは少し、表情を落とした。
※※※※※※※※※※※
彼女は先ほどまで、王都を見て回っていたのではない。
王都に聳え立つ純白の城の中で、王女様と話していたのだ。
「・・・本当に、行かせるのですか。」
その言葉は、イロアスが何者かを知っているからこそ、発せられる言葉であった。
王城の玉座の間にて、『聖女』セレフィア=ロス=アナトリカ、『灼熱』リオジラ=プラグマ、精霊セアが語り合う。
イロアスが予言にある『光の子』であることが精霊セアの言葉で発覚した今、意見が割れていた。
イロアスをアナトリカで保護するか、否かを。
「『厄災』の動きは日に日に活発になっている。故にあの生意気な坊主も中央に呼び出されて戻ってこん。」
「その通りです。特に『原罪』、『渇望』、『戦争』の3人は、その力を振るい人類を脅かしている。対抗している『使徒』とは力が拮抗している。特に危険なのは『原罪』。『魔王』と手を組み、他の『厄災』とのパイプもある。」
「ひょろっと戦場に出て、殺されでもしたら世界の終わりですぞ。予言が叶わなくなる。」
「逆なのです、全てが。」
セアの謎の一言で、二人は静かになってしまった。
「逆とは?」
『聖女』と『灼熱』の言うことは最もであった。2人はイロアスを国外に出すことには反対している。
確かに、『光の子』イロアスは強くなっている。
特に『聖女』は7年前を知っている。彼が強くなり、スクピディアで『魔王』を足止めしたのも、賞賛するほどに、彼が日に日に強くなっているのは認めている。
しかし、『厄災』は別格だ。相手が『光の子』ならば、必ず捕らえに来る。
それなのに、精霊セアは、逆に国外に出すべきだと考えている。
「千年もの間、力は拮抗していた。それが、今動き出している。これはなぜか。」
2人は沈黙した。
「それは、『光の子』の出現によるものです。慎重を喫していた彼らが、今になって活発に動き出した。これは逆にチャンスなのです。」
「・・・隙ができると言いたいのですか。」
「千年もの間、彼らの狙いは虚だった。人類を滅ぼすのか、はたまた女神ヘレンを復活させたいのか。それとも個人の目的があるのか。しかし、目的は別々でも、彼らは絶対に『光の子』を無視できない。」
「つまり、彼を『厄災』の囮にすると?」
「彼ではありません。永久凍土スクピディアの一件で、我々は勘違いをさせることに成功しています。」
そうだ、正確には違う。
まだ『厄災』は、『光の子』の存在に気づいていない。気づいている存在は、
「私です。」
精霊セア。女神テディアの眷属であり、唯一『光の子』の手掛かりとなる者。
「今回の留学、私もついていきます。」
再び沈黙が玉座の間を覆う。
『使徒』として、何をするべきなのかを、考える。最優先にすべき事項は何か、ただそれだけを思考する。
「毎年恒例の魔法学校の留学。魔法学校があるとされるディコス王朝には、900年もの間、国を脅かし続ける『厄災』がいます。」
「恐らく、動くでしょうなぁ。」
まず初めに落とす『厄災』は、
「『厄災』の中で最も力のない者ーー『戦争』を陥します。」
この留学に隠された王国の意図。それは望み通りに、彼を苦しめる。
『光の子』としての宿命を知らぬイロアスは、この留学で、『厄災』を知ることになる。
彼らが一体何者なのかを知るだろう。
予言は語る。
『6つの厄災はその光を求める』と。




